こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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「All's Well That Ends Well(終わりよければ全てよし)」シェイクスピア 戯曲表題より抜粋



えせ救世主物語6 ミュリエル「思い通りになったような気はしますが、どうも腑に落ちません」

異世界召喚生活17日目

 

 

side 六条クリス

 

私こと白鳥由梨は、どこにでもいそうな健全なオタクである。適度に男女の恋愛を愛し、適度に男同士の友情を慈しみ、適度に女同士のキマシタワーを祝福する。そしてオタクの嗜みとして、ifとか大好きである。正確にはだったであるが。美人薄命なんてことは言わないが前世の最期は運が悪かったとしかいいようがない。

 

さて、ひょんなことからとあるエロゲーの世界に生まれ落ちたわけだが、自分の立場の生存確率がすこぶる悪い場合、どうすればいいのだろうか。自分でいうのもなんであるが、本質的に行動の人ではない。どちらかといえば、出来事の経過と結果に対してニマニマしたいタイプの人間だ。私達の仲間内ではノイ先生が近いだろう。レインはちょっと違って少しずつ自分の領域を増やしていくことに満足するタイプだ。変な男に引っかからない限り、公私共に充実する未来が望める。問題は変な男に引っかかっているところなのだが。真は…まあ何というかアクティブな小娘だ。電脳症の軛から解放されたおそらくこの世界軸で一番強くなる可能性を秘めている少女。門倉甲? あの幾人かの乙女の涙を地面に吸わせたリア充は、夫婦揃って警察に入るのかもしれない。とまあ色々面倒な私達だが一つだけ共通点がある。かつて諦観していたのだ。未来に光が見えないという点では私達はよく似ていて、同じ存在によって救われた。

 

「神様は信じないけど、奇跡は存在する。奇跡を起こすのがダメ人間でもこの際構わない。可能性が0じゃないなら運命を引き寄せる、私達が知る佐藤君はそんな存在」

 

恋人には向かないと思っているのだが、世の中には物好きが割と居るのだ。幸いなことに養父は彼と仲良くしてさえくれればいいと言ってくれているというか、養父の方が彼と仲がいい。まあレインの父親にも同じことが言えるが、精神年齢が割と近いからだろう。加えるなら肉体的にはともかく精神的には私もあっちに近い。

 

「猫被らずに好き勝手やれるという意味では魅力的なんだけど、そこまでする熱がねえ」

 

2年近くありのままの自分をさらし続けた結果、白鳥(わたし)佐藤(かれ)は恋愛感情抜きの友人という位置で落ち着いた。養父に実子いるから結婚しなくてもいい。いや容姿は良いからモテるのだが、如何せん、感覚が付いていけないというか。一応お嬢様だから貞操は固くないと困るという問題もある。

 

「私はそんなことを考える余裕もなかった。生きていくのが精一杯で、運が悪く死んだと思ったら、運命の悪戯か私はここにいる」

 

シスル・リード。もしダウニー・リードが主人公の物語なら、オープニングか回想シーンで物語に深みをもたらすため散った悲劇の少女扱いされるだろうか。もっともDUEL SAVIORの主人公は当麻大河であるのでそんなことは敵対者に対する悪意の緩和にしかならないし、今が現実ならば悲喜交々は常なので意味が無い。但し、アウトローというか悪党気味の私や佐藤君からしてみれば、「別に救われてもいいんじゃないの? 現在進行形で死んだ人は運が悪かったということで」という興が乗ったから助ける的な理論で現在に至るわけである。

 

「私達の来訪は完全なイレギュラー、デウス・エキス・マキナじゃないけど、トランプの中にドロー4が入るみたいなものなのよ。故に私達は、物事の本筋に直接的な介入をする力が弱い反面、絡み手では強い。倒す力は無いけど、倒す理由を消滅させる力は強い。あなたを蘇らせてダウニー・リードの行いに介入するというのは数万の命と比べれば安い。これは同情じゃなくて立派なビジネスよ。多分私達は結末を見ないで自分達の世界へ帰るわ」

 

これだけ双方に恩を売った以上は帰らせてもらいたい。これは個人的な見解だが記憶処理は事前にお願いしているとはいえ、肉体は体の動かし方を覚えている。全世界のアマチュアシュミクラムユーザーの為にも実戦を積んで更に強力になった水無月真ver.救世主もどきをこれ以上強くしてはならない(戒め)。尤も、私も専門家でないので詳しくないが、ブラックボックスである脳内チップは、精神とは別の部分で記録しているのでどこまでが有効なのか些か疑問である。もっともジルベール・ジルベルトの力ならそんなものは容易なのかもしれないが。

 

「死ぬなら、自分の行為の愚かさによって死にたい。だけど私達の死に場所は縁も所縁もないここではない。後は勝手にやって欲しいってのが本音なのよ。というかここまでお膳立てしてあげたんだから後は何とかなるでしょう?」

 

政治のせの字も知らないような村娘に何を言うのかと自分でも思うのだが、それでも彼女は知らなければならない。ここに至るまでにどれだけの血が流れたのか。そして生贄となる彼らも知るだろう。領主の悪行の因果は世襲である以上、その血で贖われなければならないということを。

 

 

side ミュリエル

 

 

「おー豪快に頭からボリボリと。やっぱり栄養行き渡っている貴族の方が美味しいんですかね」

 

彼は残虐な性質ではない。二重人格で無いのはノイさんから聞き取り済みだし、死ぬならさっさと死ねと言い放つ性格だそうだ。

 

「まあ、それでも理由も無く犬同士を争わせるように人間同士で殺し合いをさせた畜生よりはマシでしょうけど」

 

しかし、技術として人を恫喝できる才能を持っているのが恐ろしい。向こうには『目には目を、歯には歯をという』という諺があるそうだ。

 

「この戦いに生き残れば恩赦されるのに運が悪い」

 

ジルベール・ジルベルトは、敵前逃亡をすれば人質に残った家族の尊厳は保障できないと捕らえられた貴族の男子達に親切そうな笑顔で告げた。世の中には死んだ方がマシな状態というのが多々ある。姓奴隷に落とされるくらいならいい。精神系の魔術や技術を使えば精神的陵辱をくり返して生きた屍にすることだってできる。

 

「将来の義理の父がそういうことに詳しくてですね。1日しか記憶が持たない状態にする技術や、精神を退行させる技術とか、まあ肉体の解剖とかも戸籍があるだけでも結構、自分で造ったのはどれだけなのか把握仕切れてないんで」

 

私も理論を聞いてしまえば可能だと思うし、隣のマッド気味の錬金術師に聞けば、「その手があったか」と納得している。彼女も精神を操作する系統は強くないが知識としては知っている。魔法と科学の違いはあれど、人間の構造そのものは基本的に同じということだろう。

 

例え話だが、もし彼が破滅の将として来ていたら救世主達がどれだけ強くても負ける。どれだけ才能を秘めていようが、どれだけ召喚器が強力であっても、召喚されるのは多感な年頃の少女達だ。アルストロメリアのように生まれが王族で、政治ができる人間、最低でも戦争ができる軍人が居ないと対応ができない。政治などで面倒なことは基本的にアルストロメリアが全て請け負ってくれて、私とルビナスは何も考えずに敵を倒せばいいと考えてた当時の私は、おそらく歴代の救世主達の中でもかなりマシだったのだ。だから生き残っている。その貯えが残っているからこそ子ども達を切り捨てるかどうかの選択肢を使うだけの余裕があった。

 

ダウニー先生、いやダウニー・リードが人間の負の部分を突いてくるとしても、おそらく限界がある。嫌な話だが、人間はいくらでも学べると言っても基礎段階での遅れは致命的なのだ。というよりああいう生まれの状況から、結果的に救世主クラスの担任を任せられるだけの努力をしたのが奇跡と評していい。それでもせいぜい絶妙なタイミングで裏切るのが彼の限界だろう

 

「アイスバーグ女史。我々は建前であっても民主主義の世界で暮らして居ます。無論、権力を握れる人間なんて10人中9人は決まっていますが、一つだけ救われる面があります。個人的な恨みはともかく、制度的に被害者の恨みは加害者の家族へ向けられないのです。それでも悲劇は起こりますが、納得させるだけの教育があるというのは強みです。この戦いが終わったらそういうこともしなければなりませんね学園長」

 

クリスさんもそうだが、彼は社会システムを分析して効率良くパワーをリソースできる。特別な教育をされたのかと聞けばそうではないらしい。

 

「私の場合は一応出がお嬢様だからそれなりに仕込まれたけど、ジルベルト君は本人の性質かしら。多分何やらしても一流にはなると思うけど、超一流にはなれない。むしろその引き出しの多さとそれを使う発想こそが彼の才能なのよ。縁の下の力持ちではないけど、アドバイザーに抱えとくと何かと役に立つタイプね」

 

もし彼が破滅側に与したらどのような手段を取るかクリスさんに尋ねた時の返答は我々を唖然とさせた。

 

「私も同じ手段を取ると思うけど、こっちの兵力が大きいのであれば包囲しつつ兵糧攻めで人間は生かしておく、まあ理想は傷病させて放置だけど、負担が大きくなるから。次は情報操作で不信を煽る。意図的に食糧を独占して他領に高い金で売っているというデマを流す。その時点で指導者層と民衆の結束はなくなるから。以降は各個撃破かなあ。モンスター相手にそんな緻密なことできるかって? 神経流れているならできるわよ。神経流れていないのは魔法生物だから召喚者ないし創造者がコントロールできるだろうし。私はできないけど佐藤君、いやジルベルト君ならお手の物よ」

 

この話を聞いたとき、私は神には感謝しないが、運命には感謝した。おそらく大抵の救世主は天災に対しての対処が主だったろう。モンスターなんてものはコントロールできれば戦争だが、コントロールできなければ災害の一種だと割り切れる。そもそもアヴァターが千年紀に入る時、文明は成熟していて戦争に特化した人物が登場しているか未知数だ。ジルベール・ジルベルトは人間対天災を人間対人間に落とし込む。今回はたまたま、気が向いたからその逆をやり、人間対天災にしたに過ぎない。

 

「今回はイレギュラーな出来事が起きて割とキレキレだけど、普段は身内に手を出さない限りは安全よ。何だかんだ言って親身になってくれるし」

 

喫茶店で親しげに語る彼と、全てを見透かしたようにスケジュールを語る彼のどちらが本質なのか。願わくは前者であってほしい。

 

千年後はそれをどうにかするシステムも考えなければと思った矢先、映像から最後の一人が死んだことを告げる断末魔が響いた。

 

「残った家族は記憶の改竄をして適当な世界に送り込みましょう。陥れるのは仕方無いとはいえ、約束は守らなければなりません。ダウニー卿もそれでよろしいでしょうか?」

 

予定されたスケジュールを履行するように口にするが、そこに苦悶も歓喜もない。彼にしてみればどうでもいいことなのだ。

 

「あなたには貸しがある。それを踏まえた上でこれ以上を望むのは酷でしょう。地獄があるのなら私も墜ちるに決まっている。これが終わった後、死んでも構わない。それだけのことをしてきたのですから」

 

「遅かれ早かれ訪れる破滅の原因を個人に帰するというのは、無理だと思うんですが。もうどうにでもなーれと思われる事は多々あるし。ぶっちゃけ運が悪かったで納得しましょう」

 

運の善し悪しに神が携わっているのか私にはわからない。正義かどうかも疑わしい。それでもやらなければならないことはある。そう約束は守らなければならない。

 

「大勢は決した以上、俺の要求は受け入れてもらえますよね?」

 

「アーグの地下にある転移装置の使用は許可しよう。しかし、私個人としては君にもう少し居て欲しいというのは我が儘なのだろうか」

 

この政治的決着の立役者であり、立場的に中立、ひいき目に見ても若干ダウニー寄りの彼の存在は大きい。クレシーダ殿下の考えはもっともな話だが、基本的に彼を含めた異邦人達は、自分達の問題は自分で解決しろというスタンスであり、私としても至極もっともである。何より世界の命運はともかく、国家の運営は彼女が自分の責任で行わなければならない。アヴァター王家の血を鍵として稼働する古代文明の機械が多すぎるためアヴァターの統治システムは最終的に王が責任を持つ。彼女も努力しているのだが、それを伝えきれずに前王が崩御してしまったのは、運が悪かっただろう。

 

「そういうのは正義感の強い善人か損得勘定で動ける実務家に頼んでください。俺は自分とその周辺を守るだけで精一杯なんです」

 

正直に言えば彼は劇薬か特効薬のどちらかにしかなれない。そして一度使うと常習性が出てくるという意味では本当に危険である。何というか楽なのだ。そしてそれが無くなった時に酷く狼狽するのが目に見えている。予定は狂うものだが、前提が狂うのとは意味が違う。多分だが、あの時、私が自分の世界に戻らなければ千年後の今は変わっていただろう。アルストロメリアは国政を担うのが役割で、学園の管理まではできなかったはずだ。今は私が居る、今度こそ私が居る。根本的な解決にはならないかもしれないが、この場を凌ぎさえすれば考える時間は千年もある。

 

「三度目はないと信じたいな」

 

ドクターノイの発言にジルベルト君とクリスさんが同意するように苦笑する。苦笑する程度で済まされるぐらいのタフさがある人間は救世主候補の資質に合わない。そういうことなのだろう。そして私達は千年掛けてそういう人材が育つ環境を創り出さなければならないのだ。

 

「時間はオルタラとイムニティに調整させてあの本を拾った時点にしてください。システム的な方はこっちで弄りますので、アイスバーグ女史には真ちゃんとレインの記憶処理をお願いします。後、当麻兄妹にはこちらに残るのか、帰るのかを確認した上で充分な保障をしてくださればなんちゃって同郷としては満足です。神については対策の一つとしてこれ預けておきます。千年後辺りに使ってください。クリス先輩が言うには数千年単位で使えるはずとのことなので」

 

渡された小瓶の中に入った液体の中身についてたずねるとちょっとした毒だという。

 

「アセンブラというナノマシンです。ちょっと改良して神様の力に反応して侵食するようになっていますので、一般人には支障がありませんし、神なら再生するので永劫の時の中を無為に過ごすと思いますが、召喚器を持っている救世主候補やら書の精霊やらが触れると容赦なく分解されますので扱いには気を付けてください。いや本当に大丈夫ですよ。コマンダーが用途を書き換えない限りそれ以外何もできませんから。いやほら、学園長だって一昨日食べたじゃないですか」

 

この子何を言ってるの。アセンブラ、ナノマシン、ナノカレー……ナノ?

 

「ジルベルト君…まさか」

 

「いやアレは、スパイスを再現するのと熟成に使っただけで、昨日の朝には悪玉菌を破壊して出ているはずですよ」

 

クレシーダ陛下を見ると、少し死んだ目で私を見て頷く。ああやっぱり彼女も食べたのか。確かにおいしかったし、言うように朝の通じも良かったが。

 

何はともあれ、歴代の王族並びに学園長が抱え込まなければならない秘密がまた増えた。その思いは彼女も同じだろう。出身も育ち方も年代すらも離れている私達だが共通の認識を持った仲間であることを実感する。やっぱり彼は魔王やら災厄と呼ばれる類なのだと。

 

 




全ての人が幸せになれる世界を構想する人は過去数多の創作で登場しますが大抵失敗します。だから救える範囲で幸せに暮らすってのがベターな訳ですが、全力を尽くさないことに怒りを覚えるタイプがたまに居るわけです。

というわけで明日で完結します。

新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)

  • 白鳥さんから見た本編
  • 蛇足の蛇足(結婚式)
  • 蛇足の蛇足(失恋慰め回)
  • 蛇足(水面下の争奪戦)
  • ところで真ルートは?
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