こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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「平凡な人生こそ真の人生だ。実際、虚飾や実際、特異から遠く離れたところのみ真実があるからだ」フェーデラー


えせ救世主物語end「君が望む日々」

「平凡な人生こそ真の人生だ。実際、虚飾や実際、特異から遠く離れたところのみ真実があるからだ」フェーデラー

 

 

暇人の憂鬱

 

 佐藤:異世界なう

 

 御大将:君が21世紀のカルチャーに強いのは分かるが、流石に異世界はないだろう。勇者として召喚されたとでもいうのかい? 

 

 佐藤:正確にはかなり離れた星系だと思いますけどね

 

 19:御大将、佐藤の言うことは残念ながら正しい。彼の脳内チップから発せられる信号はテラから約1000万光年離れている。私としては太陽系しかカバーしていないネットワークにどのように干渉しているかに興味があるのだが

 

 佐藤:根源世界にルールなんてあってないようなものですよ。それより19、悪いんですけど俺が今居る場所を基準として地球に戻るための座標設定してもらえます? 

 

 19:さすがの私でも3日ほど掛かるが、時間設定はどうすればいいのだ。時間情報と位置情報は連動しなければ意味がないぞ

 

 佐藤:●月▲日で。いや助かった。知識としては知っていても理論的にどうなるのかよく分からないので、こういう時に19が居るととても便利

 

 御大将:19をアゴで使う存在……お偉方が見たら卒倒するだろうね

 

 佐藤:いやだなあ、このチャットは唯才是挙ですよ。使えるものは親でも使わないと。本来ならば俺と皆さんは1000万光年程度離れているのかもしれませんが原理が分からないというのはなんちゃって理系としても困るところです

 

 19:私がデザイナーズ・チャイルドを造ったときに魂についても研究をしたが、電子体を造り出し、人間にフィードバックするという実験は終ぞ成功しなかった。仮想空間はどんなことでも実現可能だとしてもリアルから零れたものだということが良く理解した。だが、この広い宇宙には私の常識など遙かに超越したものがあるらしい。まあ気長にそちらに向かうのも一興か

 

 佐藤:その辺は虚空の旅人たるあなたの自由ですよ19。地球に住まう人類が外宇宙に出た時、せいぜい当時の政府に文句を言うような面白おかしい状況になっていればいいなと思っていますよ。

 

 

 side 六条クリス

 

「何か化け物相手に大冒険をした気がしたのですが気のせいでしょうか」

 

「真さんもですか、実は私も結構頑張っていた記憶が。ただ、その夢では3週間くらい経っているはずですが、今日は皆さんで出かけた日の翌日ですからやっぱり夢なんだと思います。ログを参照してもそういった記録がありませんし」

 

「夢なら夢で構わないのですが、どうもそれ以降調子が良いんですよね。ネット上もそうなんですけど、リアルの肉体が最適化されたというか」

 

 でも胸は大きくならないのよね、と色々と残念な思考を私は放棄する。今回の事件で改めてジルベール・ジルベルトを敵に回すのはやばいと再確認したわけだが、あのトリックスターのやはり発想は常人じゃ無い。逃げるための最終手段としてアヴァターにいる私達を電子体と“仮定”してログアウトするなんて荒技を考えていたと聞いたときには目から鱗だった。無意識に最適解を選び出すという特性の究極が自分の望みを実現する『スーパージルベルトワールド』。当然それは神の所行であり彼はそれを限定された空間でしか行使できない。

 

 だが、何でもできる世界に呼び出されたのならば条件が変わってくる。なんでもできる陸奧圓明流に対して枠を広げるのは自殺行為みたいなもので、交渉できる分ノインツェーンよりやばいのだが、彼の真価が分かるのは多分私ぐらいなものだろう。願わくは彼の人生にこれ以上の波乱が起きないで欲しいと切に祈る。解決はすると思うんだけど、その後の影響を考えると恐ろしい。今回だって真のスペックがもう色々とやばくて、そろそろノインツェーンとやれるんじゃねと思っている。

 

「クリスさんはどうですか」

 

「うーん、特にそんな夢を見た気はしないかな。セカンド特有の情報干渉でも起きたんじゃない」

 

 夢でなくて現実だから嘘は言っていない。

 

「そうなのでしょうか。また私はジルベルトさんが何かしたのではと疑っているのですが」

 

 正確には巻き込まれた状況を佐藤君が思いっきりかき回して安全を確保したというのが正しいが、昔は箱入りお嬢だった癖にだんだん鋭くなってくるな。あれか、未来の分岐が変わってもできる女はできるのかと感心する次第である。

 

「彼が面白い人格の持ち主であることは否定しないけど、別にあなたたちを欺いて悦に浸るタイプではない……と信じたい。ごめん、自分で擁護しようと思っていてあれだけど、悪ノリしたら……ま、まあその夢についてはジルベルト君は多分関係無いわよ」

 

 後々、アークの方舟計画の代わりに行われる救世主候補になって世界を救うVRMMORPG「DUEL SAVIOR Online」を監修する羽目になることをこの時の私は予想していなかった。(企画発案はジルベール・ジルベルト、技術協力19という豪華スタッフ)

 

 

 side 門倉甲

 

 

「そういやさ、渚千夏はいつ門倉になるの?」

 

 男二人、大学から歩いて5分の位置にあるそば屋で〆のそば湯を飲んでいたら、目の前の男が突然予想もしない言葉を紡ぎ危うくそば湯を噴き出しそうになった。

 

「いやいや、ちょっと待ってくれ。何を突然そんな話になったんだよ」

 

「もう付き合いはじめて3年ぐらい経つだろ。何というかそろそろ初々しさがなくて詰まらないとは言わないが、別に在学中に結婚しても良いんじゃないかなと思ってさ」

 

「あのなあ、そりゃお前みたいに単独で生活の基盤ができている男なら明日でも結婚できるだろうが、所詮一学生だからな。今更親父にその辺を頼むと有無を言わずフェンリル入りだろうし」

 

「仕事なら色々斡旋できるぞ。荒事から頭脳労働、人体実験まで何でも御座れだし」

 

 そりゃ、こいつがただのデザイナーズチャイルドじゃなくて、下手したら聖良おばさんより重要だと親父からは聞かされていたが、何というか天才ってやっぱりスケールが違うんだな。亜季ねえが言うには、あいつが一見平穏に見えるのは政財界と軍関係が協力して余計な手出しをしないようにしているからだそうだ。

 

「今更聞くのも何だが、あの中で渚千夏を選んだ理由って何なんだ。ほら、あの幼馴染みの子とかもいただろ? 俺の好みは別として西野亜季も美人だったし」

 

 お前の周りも美人が揃っているじゃないかというツッコミを心の中でしつつ俺はなぜ千夏が好きなのかを考えると、自然とその言葉が浮かんだ。

 

「お前もそうだけど、天才ってのは歩みの遅い人間と歩くためにはこっちが頑張るか、向こうが遅らせるかのどっちかしかない。千夏となら同じ速さで進んでいけるかなと思ったのが理由かな」

 

 彼女の家族を見て、こんな家族を自分達も築けたらなと思う。

 

「何というか遠い世界に来たものだ」

 

「何だそれ」

 

「いや、うちの一個上の六条クリス先輩が知る何かとの違いだよ。想像もしなかった未来を歩んでみたらささやかな幸せが残ったみたいな。まあ最早お前には関係ない話だ。恥ずかしい話を聞いた代わりにここの料金は持ってやろう」

 

 そうしてジルベルトは伝票を持って去っていく。残された俺はというと、今更ながら自分の発言に顔が紅潮し天を仰ぐ。そして心を落ち着かせて外に出ると千夏が立っていた。

 

「あの、その甲」

 

 彼女の狼狽振りに、先ほどの会話が筒抜けだったことを悟る。気まずくなった俺は、目線をあわさず彼女の手を取り大学への道を進む。

 

「将来の設計についてはゆっくりと考えればいい。俺たちはちょっとネットに対する能力が高い平凡な人間なんだからさ」

 

 世の中の一握りの天才が時代を切り拓き、エリートが土台を築き上げた上で、大衆がそれを享受する。ジルベール・ジルベルトは、自分はそれなりのスペックがある凡人と言っているが、普通であることを道楽と勘違いしているような感じがする。変な例えだが、お嬢様がお忍びで話題のカフェに行くような感じだ。彼自身は平凡を望んでいるのかもしれないが、周りから聞く限りそれは無理な願いだろう。面倒だ、面倒だといいつつもあの男は自分の時間を持ちながらそれを邁進する。

 

『人類への貢献度だけを考えるのであれば、20世紀以降最大の人物でしょうね。政治家になれば、軍部と財界の支持を得て40代でトップに立てると思うわ。私としては友人には普通にグダグダと生きてもらいたいけど、残念ながら時代は彼を放置する余裕が無いのよ』

 

 だからこそ俺は、俺たちは彼に多少の感謝とわずかな恩着せがましい態度に辟易しながら歩んでいこう。

 

 sideout

 

 

「そういえば言い忘れていたのだが」

 

 他愛も無い会話をしながら街中を歩いていると、ふと赤ん坊を連れた母親に目を止めたノイ先生が衝撃的な発言をした。

 

「月のものが来ない。計算するとあの世界から帰る前の日辺りにやったのが原因のような気がするのだが」

 

「え? ちょっと、待ってください。時間を、そう3分ほど時間を」

 

 そりゃ男女の仲だからやることはやっていたが、いや転移して周期が狂ったのか。

 

「普段は飄々としている君でも父親になるということは前後不覚に陥るようだな。実に気分がいい」

 

「随分軽く言いますね、まあ責任は取りますよ。秘密を抱えて生活しないとなるとノイ先生か、クリス先輩しか選択肢が無いですし」

 

「愛人は許可してもいいのだが、まあ家ではいい父親でいてくれ。残念なことに君も私も親という一面ではあまり恵まれていないのでな」

 

「面倒だし浮気しませんよ」

 

「愛情と性欲は別物だからな。まあ面倒な世間とのしがらみの話をするなら、私と君の生み出す利益は気まぐれと我が儘で左右されることはあっても特定の分野に集中しないので概ね受け入れられるだろう」

 

 ノインツェーンの管財人である俺の方もそうなのだが、ノイ先生のナノ関連、正確に言えばどんな料理音痴でも何とかなるノイ印の万能調理ナノマークⅣの特許による財産が偉い膨らんできて、そろそろ顧問弁護士やらを付けとかないとまずいレベルになっている。そもそも俺もノイ先生もせいぜい旅行に行ったり、旨いものを食べたいな、あるいは興味本位でアブノーマルな商品の購入程度の消費しかなく、投資に関しても、そもそも俺が技術提供している分野にしているからマッチポンプ的な意味合いに陥ってきたので金の使い道に関してはどうしたものやらと頭を抱えるわけだ。個人的に真ちゃんが軍人ではなくプロの競技者になるならスポンサーやってもいいなと思っている位だろう。

 

「後の問題は後で考えるとして取りあえず、お腹が目立つ前に式挙げましょう。せっかくの晴れ姿は残しておかないと」

 

 AIの存在で信仰が問いただされるとしても結婚は基本的に宗教施設で行われるし、それを祝う習慣は消えなかった。ネットで挙げるなんてのもあるが、基本的に需要そのものは無くなっていないので会場は抑えておかないとならない。

 

「こういうのは惚れた弱みだが君が居てくれて本当に良かった」

 

「あの日、あなたが俺を見つけてくれて本当に良かった」

 

 歪な二人の物語は誰が望んだのか分からないが、四捨五入してしまえば“幸せに暮らしましたとさ”に集約される。もちろんこれからも色々と問題は起こるのだがそれは未来の話である。




arcadia版では後日談の後日談の話が出ますけど、ハーメルン版では人生の墓場編が入るのでそっちは次回以降でお願いします。

一応これにてDS編は完結です。小期間のお付き合いありがとうございました。

あと、水無月真はそろそろやばいですね

新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)

  • 白鳥さんから見た本編
  • 蛇足の蛇足(結婚式)
  • 蛇足の蛇足(失恋慰め回)
  • 蛇足(水面下の争奪戦)
  • ところで真ルートは?
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