こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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白鳥パッパ編を始めるならこのタイトルになることは想定していた


企業戦士ジルベルト 愛戦士

 金持ちの家というのは一見質素なのである。成金は飾られる調度品に目につくが、代々受け継がれた家というのは高い技術で作られた調度品すら埋没してしまう。

 

 そう一番輝くのは人、家を運営する人とそれに付き従う人なのである。

 

「やっぱり成金とは重みが違う」

 

「そうね、代々勤めを果たす家人とか、封建社会にしか存在しないとかつての私は思っていたわけけど、意外と現代にも存在しているのよね」

 

 レインの家も金持ちだがそんな人はいない。橘の本家はともかく、アークの橘社長の実家はまあ最低限の管理スタッフにより運営されている。その内AI搭載の機械に置き換えられそうだけどな。うちの実家は……まあ普通の成金未満だったので言うこともなし。

 

 とにかく、六条家は格別ということだ。

 

「六条裕斗だ。今日は席を設けてくれてありがとうドクターサトー、いやジルベルト君でいいのかな」

 

「ジルベルトで結構ですよ。サトーの評価が加速度的に肥大化されて、誰だよお前みたいな展開に最近なっていますので」

 

 いやマジ、ゴシップ記事で、『関係者に聞いた謎の天才科学者サトーの実体とは!?』とかあるわけですよ。

 

ちなみにこの世界を救うために地上に降り立ったオーバーロードである説を唱えている●ーが一番真実に近いのが笑える。いや渇いた笑いなのだが。

 

「評価というのはとても恐ろしいものでね。雪玉の雪のようで一度作って転がすと周囲を巻き込んで巨大化するんだ。ドクターサトーの場合は、まだ色がついていないから方針次第で何とでもなるのだが、君はどこまで話を聞いているんだい」

 

「俺の政財界の窓口をしてもらう代わりに、六条さんの相談を聞くというところまでは」

 

 俺の発言を聞き、クリス先輩を見てため息をつく。

 

「クリス、情報公開の取捨選択は任せると言ったが、肝心な話をしていないじゃないか」

 

「以前にもお話しましたが、そういう子なんです」

 

 何か残念な子扱いされてませんか俺。

 

「趣旨的には全く間違っていないのだが、そこに至る経緯が違うというか。ではそこから話そう。ここでは敢えてサトーとするが、サトーは電脳症に関する研究を発表してすでに効果を出している」

 

「そうですね、橘社長経由でそんな話は聞いています」

 

 提案の方向性は間違っていなかったようで、最初の被験者の真ちゃんは元気だし、その研究を元に公開されたパッチを当てることで多くの電脳症患者が、ある日突然壊れるという破局を回避するに至っている。

 

「ここで重要なのはパッチを当てることで治療が成功するというところで、研究特許に関する報酬が発生するね」

 

「あの特許って政府とかアークが保持しているのでは」

 

 何せ出所がノインツェーンである。俺的には閲覧した資料から使えそうなのを見つけ、それを基に人体実験をした結果、成功したという類である。現実的な調整はアークの人間がやっていたのだから俺に特許と言われても困るわけだ。

 

「もちろん政府やアークにも権利があるが、それでも一番多く受け取るべきは君なのだよ。アセンブラだって、久利原博士がメインらしいが、君にも権利がある。現段階でそれだ。君が抱えている本棚はこれからも多くの技術を解き放つであろうが、その度に権利関係の調整を行うというのは大変になるので、今後見据えてどうするのかを予め考えておきたいというのが本来の目的だ」

 

「その技術を解き放たないという選択肢は」

 

 白鳥氏の目が、以前カフェとかやりたいんですよねといった時の大人の目と酷似している。

 

「君の他にノインツェーンの言語体系を完全に理解できる狂人が登場したらお役御免になる可能性もあるが、義娘から君は特別でも特注でもなく、ただの特殊事例だと聞いているので残念ながらないだろうね。だから我々としても君が面倒だとは思っていても、できるだけ快く働いてくれる環境構築を目指さなければならないわけだ」

 

 俺はただ、自分の周りが少しだけ幸せになるお手伝いをしたかっただけなのに。そういうのは正義の味方に投げてくれよ。

 

「結論から言うと起業したまえ」

 

「起業となると会社ですか」

 

「そうだね、君の知的財産を管理する機能と、興味がある研究に投資する機能を持つ会社だ。最初は財団化することも考えたのだが、発足当初の目的からズレ始めると色々と面倒なので、現状は法人として機能するようにした方がいいだろう。株式公開する必要はないが、出資比率だが、君の持ち株が41%、ドクターノイが10%、うちが5%、アークが5%。残りの39%は政府関係だ。うちとアークは、場合によって立場が変わるから、君とドクターノイで必ず51%を確保しておきなさい」

 

「株式公開とかはしなくて大丈夫なんですよね」

 

「資金は正直言って必要ない。錬金術ではないが、高確率で成功する事業に投資する。ある種のマッチポンプだよ。結局のところ、これから作る会社は君の周りの安全を確保するための囮な訳だ。事前にクリスや橘社長から話を聞いて、今日改めて君と話したが、君はある程度の責任は持つがそれは義理から生じるもので、経営者には向いていない。橘社長と似たタイプだ。彼女は基本好きなことしかしたくないのだが、社員の生活があるのも知っているから、経営陣を雇って経営している。君もどうせ興味あるところからしか始めないのだから、資金運用とかは専門家にぶん投げてしまって、適宜監査すればいいのさ。何、君をごまかせる人間何ぞネットワーク社会にはほぼいないのだから」

 

「わかりました、その辺はお任せします」

 

 ここで仕事に関する打合せは終わったとばかりに、六条氏は上着を脱ぐ。

 

「でここからが私の相談なのだが、ジルベルト君は宇宙開発に前向きと聞いていたのだが」

 

「まあ、ネット技術の拡充も重要ですけど、突如地球に隕石が落ちてきたとかとなると、どうしようもできないでしょう。火星にアセンブラ送り込んで人間が暮らしやすい環境とか作ってリスク分散した方がいいと個人的には思います」

 

「君の言うとおりだが、その取っ掛かりがなかったわけなのだよ。だが、アセンブラ研究の発展により流れが多少変わった。宇宙開発のために資源を地球から運ぶのでは意味がない。もちろん最初期はそうなるだろうが、資源惑星から引っ張ってくることが前提になる。単刀直入に言おう、ジルベルト君、ロボットを作らないかい」

 

「ロボットというと人型ですか」

 

「そうだね、マニュピレーターを搭載した作業用ロボットだ。シュミクラムを動かすように脳内チップと連動するロボット開発。以前から軍も研究していたのだが、ネットなら人が脳死するだけだが、リアルだと維持費の問題もあるからあまり積極的ではなかったのだよ。だが自己修復もしてくれる総ナノマシンの機械なら前提条件が変わってくる」

 

 あらゆる環境に応じて進化して、増殖して、修復もしてくれる。それなんてアルティメット。いや発想としてはありと言えばありだし、どうせ外宇宙に放り込むもとい旅立つ予定のノインツェーンが手を付けそうな分野だし悪くはない。

 

「前向きに検討したいと思いますが、ちょっと身内で相談がしたいので」

 

 でもこれ思いっきり軍部マター案件だから、一応レインの親父さんにも話は聞いておきたい。

 

「もちろんだとも。まあ私もそろそろ息子に事業を譲るに当たって一度ぐらいは好きな仕事をしてみたいものさ」

 

 あっこの人、良い意味で悪い大人だと思った俺はある程度実りある話合いができたと六条家を後にしたのだが……。

 

「クリス先輩、その義理のお兄さんの子どもは男の子と伺いましたが、あちらにいるのは義理のお姉さんのお子さんでしょうか」

 

「月菜義姉さんの子どもはこの間生まれたばかりだから、あれは義兄さんの子どもよ」

 

「何でスカート穿いて、潤んだ目で先輩を見ているんですか?」

 

「い、いい子にしていたらご褒美をあげると教えたからかしら」

 

 児童虐待の疑惑は捨てきれないが、この先輩ギリギリのラインで無実勝ち取りそうだから意味ないんだろうな……。

 

 頑張ってくれ甥っ子くんちゃん。早くノーマルに目覚めるのだ。君は容姿が端麗なので君だけではなく同級生の同性にも悪影響を及ぼすぞ。

 

 六条家から出た後、ノイ先生の病院に言って、精神安定を図った俺は間違っていない。




白鳥ぇ……。

甥っ子くんは犠牲になったのは、女装させたら可愛いからしょうがないという古くから続く因縁……。その犠牲にな。

ちなみにノイ印の万能調理ナノはこの後発表されるので、また金が増えるよやったね。

では次回、企業戦士ジルベルト めぐり逢い○○でお会いしましょう

追伸
●ーは滅びぬよ。オカルトとか超文明が大好きな人がいる限り何度でも蘇るのだ。

新規追加エピソード(ジルベルトワールド関連)

  • 白鳥さんから見た本編
  • 蛇足の蛇足(結婚式)
  • 蛇足の蛇足(失恋慰め回)
  • 蛇足(水面下の争奪戦)
  • ところで真ルートは?
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