こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~ 作:水城悠理
one day2.8
勲は犠牲になったのだ
徹夜明けで家に戻って来て、非番ということもあり、遅めの目覚めをしたわけだが、キッチンから調理の音が聞こえてくる。
どうやら娘が何かしているようだ。あの子とはあの事件以降まともに話をしていないが、そろそろそんなことをする年になったのか。
私も年を取るわけだと、今は亡き妻を心に浮かべる。
今思えばあれの死も不可解な点が多かったが、今となってはどうしようもない。
私は間違いなくレインの前で偽りを処分したのだから。
そして、鳴り響く轟音。
轟音!?
思考を軍人のそれに切り替え急いでキッチンに向かうと、色々なものが散乱した状態のキッチンの中で煙に咳き込んでいる娘がいた。
「お、おはようございます、お父様」
「あ、ああ、おはよう。レインさっきすごい物音が聞こえてきたが(料理?)大丈夫なのか?」
「大丈夫です。その、今日お友達の家に料理を持っていくのですが、味見して頂けないでしょうか?」
友達か、いや、この場は敢えて聞かないでやるのが男親と言うものだ。正直、聞くと余計なことを言ってしまいそうになるし。
「ちなみにこれは何だ?」
「ミートパイです」
ミートということは肉のはずなのだが、いや私の知るミートパイはパイ生地であるので茶色のはずなんだが、何故これは形容しがたい色をしているのだろうか?
「そうか、では頂くとしよう」
意を決してそれを口にした。色は悪いが、味はふつ……。
「グハァ!」
肉と一緒に青臭いえぐみが口の中を包み込む。
「お父様?」
「レイン、一つ聞きたいんだが、レシピ通りに作ったんだな?」
「は、はい。でも健康のために野菜のペーストを」
「悪いことは言わない。今日はそちらにあるマフィンだけにしなさい。マフィンはレシピ通りに作ったんだね?」
「だ、大丈夫です」
「ここの片付けは私がしておくから、着替えて早く行ってきなさい」
「でも、お父様、お仕事は?」
「今日は非番だ。私だって料理の片づけぐらいはできる」
わかりました、とレインが着替えを終えて家から出て行ったのを確認して急いで水を飲むが、脂汗が止まらない。
あんなものを出したら多分、友達とは溝が開いてしまうだろう。
「ああ、私だ。申し訳ないのだが車を回してくれないか? ……いや、ちょっと病院を手配してもらいたいのだ。違う、ただの食中りだ」
私は部下が駆けつけるまで意識を保っていたが、部屋の片づけと部署に対する対応を命令して気絶した。
気がつけばよく知る軍病院で目の前には娘がいた。
「あの、お父様」
「レイン、そのお友達とはうまくいったかい?」
「はい、でも……」
「ならいい。今日はもう帰りなさい。それと料理が得意なお友達がいるならその子にきちんと習いなさい。教わることは恥ではない」
時計を確認すれば夕方で、担当医曰く1日の検査入院をした方がいいとのこと。
幸い、現時点では急ぎの仕事がなく、書類ならここでも見られるので了解した。
「しかし、男親というのは難しいものだな」
「母親がいても男親は難しいものですよ、大佐」
聞けば彼にも14歳の娘がいて、そろそろお年頃らしい。
「男女の同権をどれだけ訴えても家事全般ができることはマイナスにはなりませんし、家内にちゃんと仕込むようにします」
環境は違えど苦労は違わずということに親というのは難しいものだと苦笑した。
end
one day3.1
クッキングハザード
side 水無月の料理ができない方
「まこちゃんの料理か、私も付いていけば良かったなあ」
最近、私の愛くるしいまこちゃんこと水無月真は、私達の主治医であるノイ先生の関係で知り合った友達と食事会なるものを開くべく外出中だ。ノイ先生は腕はいいが、性格がアレな医師ではあるものの、尊敬に足る人物には変わりなく。その友達も電脳症であることを知っていても構わないで付き合ってくれる人たちらしいから安心して送り出したわけだが、そうなると暇なのだ。
「甲はまた千夏とデートだし」
門倉甲。最初はまこちゃんとのことで色々あったけど、良いやつだし身近に異性が居なかったということもあって多少は意識している相手だ。別に付き合いたいとかそういうわけではないのだが、夢で私と甲がその……くっついたりしているので、たまに頬が赤くなるがこれは欲求不満とは思いたくない。
「千夏は良いやつだけどね」
渚千夏はシュミクラムの件で甲に誘われたらしいが、あのサバサバしている性格は好感を抱くに足ると思う。むしろ、問題は甲の幼なじみ若草菜ノ葉の方だろう。あれだけラブラブビームを向けられながら反応がないというか、幼なじみとして育ったから女の子として意識されていないような気がする。
二人が甲を間に並ぶと千夏の背後に赤いオーラを纏った狐が、菜ノ葉の後ろに緑のオーラを纏ったたぬきが現れるのだが気のせいだと思いたい。
「余計なことを考えないで何か作るかなあ」
まこちゃんから料理は自分か菜ノ葉が居るときにだけすることを言われてはいるのだが、今日はどちらもいないし、材料だって卵、豆腐、豚肉、二ラくらいだ。
「まあ、パパッと作っちゃいますか」
レシピを検索してダウンロード。
道具を揃えて、調理開始。
「ふふふーん♪」
おう、今日は随分快調に進むものだ。もっとも基本的には豆腐をゆがいて卵と豚肉とニラでとじるだけだから失敗しようがない。味見しても悪く無いのだが、そう、ちょっと物足りないような。
そういえば、ノイ先生から万能調理ナノマシンを作ったから試してみて欲しいと渡されたのを思い出した。ノイ先生曰く「素材が本来持つポテンシャルを最大限に引き出すものだ」ということらしい。一応専門はナノ工学なので、そう極端なハズレは無いだろうと少々かけてみて味見すると……。
「甘い! 砂糖なんか少ししか入れていないのにこの甘さは何!? そうか、これは豚肉とニラが本来持つ甘さね。ふんわりとした卵の感触も前より良くなっている気がする。それらの味が染みこんだ豆腐を食べたときに広がるハーモニーは!」
私だってやればいけるじゃない。
ご飯と一緒に食べた後、これならみんなにも安心して食べられると思ってラップに包んで出しておく。まこちゃんにも自慢できるわね。
side 水無月の胸部がない方
今日は色々な収穫があった。レインさんともそれなりに親しくなれた気がするし、シュミクラムの大会にも出ることになった。ちょっと作りすぎたのはみんなで分配したので、全員に一口分ぐらいは当たるだろう。
ドアを開けるが人気がしない。何かあったのかと慎重に居間に向かうと、そこには仰向けになったみんなの姿が。
甲先輩、亜季先輩、千夏先輩、雅先輩、菜ノ葉ちゃん。
「こうせんぱい……?」
揺さぶってみるが反応がない。
「おねぇちゃ」
ここに居ないおねえちゃんを探してお姉ちゃんの部屋へ向かうと、ベッドにもたれるように倒れるお姉ちゃんがいた。走りなぐった字で「先生、ナノ、料理」と書いてあった。
「おねえちゃーん!」
音の消えた如月寮で私の声だけが響いた。
「いやあ、まさか食べ物に作用するんじゃなくて、食べた人間に作用するとは思いもよらなかった」
情報を最適化した結果、美味しいと判断したのだが、セカンドの場合情報が多すぎて処理しきれずにブラックアウトしたというのが真相だった。幸い2日間だけの入院で済んだが、以後おねえちゃんには料理をさせないというのが如月寮裁判控訴審で可決されている。
「呼吸するだけで美味しいという情報が流れてくるのは、ある意味地獄だったよ」
甲先輩はあの不幸な事件をこのように供述している。
ちなみにこのナノマシンだが、改良を加えて媚薬的なナノマシンとして売りだされたのは別の話だ。
end
anotherシリーズ
これは本編の大筋ではあんまり関係ない話が繰り広げられるシリーズです。使い方としては主にその頃の如月寮の面々は的な話。赤い狐と緑の狸による甲争奪戦が描かれる予定です。まあ、本筋じゃないんでそんなに書くつもりはないんだけど。
ジルベルトワールド本編終わったらどちらを読みたいですか
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番外編→えせ救世主物語(DSクロス)
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DIVEX(バルドスカイ本編再構成2)
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ジルベルト系よりニラ小説書けよ