こんな分岐は嫌だ ~ BALDR SKY短編集~   作:水城悠理

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スーパージルベルトワールド3-3

「真ちゃんの友達棄権しちゃったな」

 

 先ほどの試合を見ていたのだが、赤いシュミクラムユーザーの負傷が大きすぎて棄権を選択したのだろう。

 

 同じ大会に参加している敵対関係な間柄ではあるものの、もう少し彼らを見ていたかったというのはある種のファン心理なのだろうかと思うと、つい苦笑してしまう。そう思えるほど短期間における彼らの技量の伸びはすさまじかったのだ。

 

「さて、本戦も残り8チーム。いや彼らのチームが棄権したから7チームになるのかな?」

 

 結果から言うと敗退したチームが復活して8チームとなったのだが、上位チームに渡される商品は渡されるようだ。

 

 ちなみに決勝は3連戦で、先に勝ち上がったチームは相手チームが決まるまで休憩を取れる仕組みなので、スピードも計算しなければならない。

 

「どうあれ、ようやく決勝だ。適当に頑張るとしようか」

 

 

 side ノイ

 

「おや、こんな児戯に顔を出すとは珍しいこともあるものだな、橘社長」

 

 モニター越しではあるが、私の前に現れたよく知る人物。電子体であるのに血色の良さそうではなく、ある種の無機質さを感じさせる。

 

「姪っ子の作った機体に興味があったのよ。あと、あなたの作った機体もだけど」

 

 アーク・インダストリー社長橘聖良。今世紀に於けるサイバーネットにおけるオーソリティにして、ノインツェーンの弟子。間接的な遺産の継承者。

 

「姪というと、君の秘蔵っ子の西野亜季君か」

 

 自分との接点と言うとA・F・Aのつながりくらいなのだが、もみ消されてはいるものの、あのバルドルに仕掛けた人物だと聞いている。

 

「それにしても、彼すごいわね」

 

 彼とはジルベルト君のことだろう。今も余裕をもって相手の攻撃を捌きながら反撃してチマチマ削っている。派手さはなく確実な手段なのだが、ルールを考えればもう少し手早くやった方がいいとは思う。

 

「シュミクラムの腕としては真君の方が遙かに上だと私は思うが」

 

「確かに戦闘の適正という意味では、真さんは群を抜いているわ。今の甲さんでは無理でしょうね」

 

「甲? ああ、あの青いシュミクラムのパイロットは門倉永二の息子だったのか。道理で素人ながらセンスがあるわけだ」

 

 門倉永二とは、年に一回会えるかのレベルだが、定期的に近況を報告しあう程度の知り合いではある。彼の部下であるジゼルとは知らない仲でもないが、そう言えばしばらく彼女とも遊んでいないな。

 

「でも専門家の私が気になるところは別よ。彼、周囲が気づかないレベルで、自分の都合の良いように構造体のパラメーターを弄っているわ」

 

 専門家どころか、権威である彼女の発言の意図に気づくのに数瞬を要した。アークがスポンサーの大会のステージとなる構造体は、当然アークが構築している。構造体は火力によって壊される可能性はあるが、意図的にパラメーターを弄るとなると、話はまた別だ。

 

「性格が特殊なのは私も認めるところではあるが、そっち方面のに関しては普通の人間だぞ」

 

「範囲は仮想半径10mといったところかしら。妨害をするというより自分が行動しやすいようにロジックをねじ曲げている? それとも……」

 

 私の言葉に反応せずに独白を続ける悪い癖が出ているようだ。アーク社の社員は彼女と日常的にコミュニケーションを取れるのだと思うと感心するところである。

 

 と思った矢先、橘社長がモニターの向こうへと手をかざすと、それは消失すると共に、私の前に人型の何かが出現する。

 

「せっかくだからこっちで見た方が早いわね」

 

 アーク社の中枢からここまで文字通り移動したのだろう。構造体では出ることは自由だが、事故の可能性を考慮して入るポイントは大抵決まっている。だが、それはルール的な意味であり、知っているならさしたる問題ではない。もっとも知っているという大前提がそもそもおかしく、それもほぼ一瞬でということになると電脳における彼女の実力がよく分かる。

「私からしてみれば、あなたの方が異常なのだが」

 

「仮想内では、ロジックを熟知して手間さえ惜しまなければ何でもできるわ。それにアーク内ほどではなくてもここも庭のようなものだし」

 

 手間を惜しんだように見えない橘社長の言に唖然とするなか、複数のモニターが現れ作業を開始し始めた。本社で彼女が同時に展開する数に比べれば少ないが、それでも常人の比では決してない。

 

「ロジックを熟知していれば文字通り何でもできる。でも、彼にはおそらくその知識はなく、無意識の領域でそれを成している。多分、彼自身も気づいていないと思うけど、今擬似的に位相をずらしているわね」

 

「すまん、私は専門家でないので、私の分かる内容で説明して欲しい」

 

「つまり擬似的に当たらない状況を作っているとでも言うのかしら。あの青いシュミクラムがジャマーを展開しているから、そう言う物だと納得してしまうのよね。ロジックをねじ曲げているか、相手に幻を見せているか、AIを誤認させているか」

 

「つまり、それが彼の特質かね?」

 

「彼が意識してそれができるのであれば、現状のセキュリティ関係は意味をなさないでしょう。電脳症患者の症例に近いものもあるけど、医者から見て全くそういう傾向はないんでしょ?」

 

「真君の声は聞こえるようだが、彼女の場合はチューナーが会えば聞こえてしまう。そもそも普通のデザイナーズチャイルドで電脳症になった例はほとんど聞いたことがない」

 

「つまり特別な存在ね。電子体やプログラムに干渉できるあなたの能力に近いと言えば近いけど」

 

「私に近いか」

 

 ノイという存在は特別である。まず出自という点では他の追随を許さないだろう。翻ってジルベール・ジルベルトはというと、デザイナーズチャイルドとしては普通の存在だ。思想的にはAIでも反AIでもなく、思考的にはどちらかというと私や橘社長側の人間。他人にモラルを説く割には自分のことはどうでもいいように扱う享楽的な行動。

 

「別に彼には世界征服を企むようなタイプではないし、放っておいても害はないよ」

 

「そうね。それに私もこんなつまらない事で『友人』を失うのは良くないことだし、私の全能をもってしても突破できない一般コミュニティもあるのだから不思議ではないわ」

 

「いや、待ちたまえ。どう考えてもそれはどこかおかしい」

 

 あの橘聖良ができないといえるような一般コミュニティがあってたまるかと思うのだが、今の私に彼女の心境など分かるはずもない。分かるのはそれが彼女にとって愉快なのだろうということだけだった。

 

 

 

 side ──

 

『ニュービーズインパクトも残るチームはあと2つ! 残る2チームはどちらも圧勝を続けてきました! 勝利の女神は一体どちらに微笑むのか!?』

 

 最終戦は遮蔽物のあるステージだった。相手は超近接型と援護の機体に、トラップを多用してくるチームだ。おそらく勝ち残ってくると思っていた俺たちは、それ対策用の準備を入念に施してきた。

 

「あのトリッキーな動きをする奴さえ押さえ切れれば勝ったも同然だ」

 

 チームの要であろう白い機体を押さえ切れれば、後は俺たちの火力で押し切れる。故に全員がスタンスモッグを装備していた。

 

「あの白い機体には飛び道具がない。そんな風に考えていた時期が俺にもあったのさ」

 

 白い機体から放たれる複数のマテリアル。その無駄の無いフォルムは決して飾りではなく、破壊のために存在することを如実に示していた。無慈悲に放たれる白い光のカーテンに、俺の意識は苦痛を感じることなく吹き飛んだ。

 

 

 

 あの攻撃を受けたGさんは後に語る。

 

「いや、あれに対抗したいなら瞬間的に跳躍して高々度から射撃または蹴落とすとか、それ以上の火力で対抗するしか無いだろうな。俺だったら戦わないで逃げるよ」

 

『アリーナの白い悪魔』の誕生の瞬間だった。

 

 side out

 

 

 

 〈直接やるのもいいけど、砲撃はやっぱりロマンです〉

 

 ああ真ちゃん、心の声だだ漏れだよ。やっぱり日常生活抑圧されているとぶち切れた時やばいんだなあ。良かった、俺は自分に正直に生きていて。きっと家庭でいい子でいようとするとサディスティックになりそうだし。

 

「今まで手を抜いていたのか!」

 

 接近してきた機体がモニター越しで咆吼する。

 

「自分が少ないカードで勝負できるなら使わないだろ?」

 

 相手の攻撃をいなしながら、俺も構えた。

 

「さて、当然俺もまだ切ってないカードがある。君の中での俺のデータは距離を詰められるのが好みではないと入れているだろう」

 

 佐藤弘光は弱い男なので戦わずに勝つことを是とするが、ジルベール・ジルベルトとしてはやっぱりその生まれ故に運動神経がとてもいい。

 

「実際は彼女同様、本来接近戦が強いとしたら君の前提は崩れる訳だが」

 

 一人が落ちた今、自分まで事前のデータを基に動いて相手の言葉が本当だったら万が一のチャンスも失われるが故に、簡単に動けない。

 

「俺は君だけを受け持っていればいいが、君は俺を倒して2対2に持っていかなければならない。俺は口が上手い臆病者だから自分を守るための嘘かもしれないがな」

 

 彼の思考にまた一つ余計な情報と言う名の毒が入れられた。臆病者という要素は俺の今までの戦いぶりを見ていれば当てはまるが、それならばもっと簡単に勝てる戦術を立てればいいと考えるだろう。

 

 さて、そろそろ時間か。

 

「大会MVPは譲るとしても、男の沽券に関わるので、少しは働くとするか」

 

 力強い踏み込みで間合いを詰めると、用心のためか、目の前の敵は後ろにある通路に後退した。瞬間、相手の機体へと多数の銃弾が放たれ、壁の向こうまで勢いよく吹き飛んだ。

 

 殺さないように威力を落としているし、当然セーフティが掛かっていたので、運がいいのか悪いのかは別として意識があるようだ。

 

「ま、またしても騙されたのか!?」

 

「いや、一撃で倒す方法は準備してあったよ。逃げた場合、準備させていたスナイパーでぶっ放すのは最初から予定通りだったから」

 

「性格の悪い奴め!」

 

 顔は見えないが、おそらく悪態をついているのだろう。だが意識を失った彼にこれ以上構ってやる義務は無い。試合の結果はもう語る必要もないだろう。予想通り最後の一人も浮かされて、ビッドで打ち上げられて、小型ミサイルで爆撃されてレーザーでオーバーキルされた。本気になった今の真ちゃんはディアブロとかそんな感じである。

 

 結果として大会は俺たちが優勝し、大会MVPは紛うことなく覆面の少女こと白雪。

 

 もっとも俺にとって重要なのは、一週間後に行く予定が確定した温泉付き豪華リゾートでの過ごし方であり、当然男一人の時間のつぶし方だった。火打ち石氏もこの間温泉に行ったらしいのでどのように過ごしたのか聞いて参考にさせてもらうとしよう。

 

 そう言えば真ちゃんはノイ先生が責任を持つとして、レインってその辺のこと親御さんにきちんと説明できるのだろうか?




というわけで戦闘シーンはほとんどありませんでした。
重要なのは橘社長、『彼』に気づくといったところでしょうか。
ジルベルトの格闘に関しては戦闘手段というか、歩法的な要素を習得しているだけで、隊長とかリャンに勝てるレベルではとうていありません。近づいてタイミングが合えば一撃必殺技はありますけど、もう戦闘らしい戦闘しないしね。
レインは当初ジャマーを展開して、攪乱した後はポイントで構えていました。
狭い通路で誘導してぶっ放すというのは、敵方が考えていたまこちゃん対策だったわけですが、逆にやられたわけです。

ああ、新キャラ出ましたね。
ギャグキャラとは思いませんが、モブで出してみたい気もする。

最後に原作まこちゃんトリガーハッピーではありません、というか壊れているまこちゃんがデフォなのは私だけな気がする。

あとどうでもいいけど、とうとうジルベルトのレインの呼び方が心情的にも呼び捨てになりました。

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