【反乱から72日後】
決戦の時は、唐突にやってきた。
私はいつものように無作為にワープしながら“個性”を回収して回っていた。都内の繁華街で数人から回収し、次の場所へ移動しようかと思った、その時。
横手から猛烈な殺気が発生。
何が起こったのか思考している暇はない。反射的に振り返りながら防御行動を取る。と、正面を向いた直後には
枯れ枝のように折れ、ちぎれ飛ぶ両腕。
激突の衝撃は収まらずに胸を打ち、ろっ骨を何本かへし折りながら私の身体を吹き飛ばした。背後にあったビルに激突、窓ガラスを割ってオフィスの中へ突入し、壁に激突してようやく止まる。
──このご時世にこの威力の攻撃、か。
腕を再生させながら床に降り立った私は、超高速で飛び込んで来た刺客の攻撃を右手で受け止めると、左手を振るって
吹き飛ばされた少年はうまく衝撃を吸収したのか、ビルの外まで飛ばされた後で地面に着地、滑るようにして停止した。
周りの一般人は。
気になって見渡せば、宙を飛び交う羽根が一人残らず回収して安全な場所へと移動させている。
「デクくんにホークスかあ」
呟いて、私は『透明』を解除。
黒い布を作り、マントに変換して纏うと、ビルの外に出た。
「どうして居場所がわかったの?」
「赤外線だよ」
答えたのは少年の方だった。
久しぶりに会うデクくんはだいぶ変わっていた。全身が見るからに筋肉質になり、身長も少し伸びた。そして何より表情が違う。少し間の抜けた穏やかな表情も、使命を宿した真っすぐな表情もそこにはなく、戦いの喜びに燃える狂気と暗い憎悪がある。
身に着けているのはダーク色のインナーに、重厚な装甲と内部の精密機械で構成されたプロテクター──ううん、超高性能かつ軽量型のパワードスーツ。
顔もマスクで覆われていて、私に『透視』の“個性”が無ければ表情までは見えなかった。
「透明になっていても熱を発していないわけじゃない。赤外線カメラで見れば『そこに見えない誰かがいる』ってわかる」
「なるほどね」
後は決め打ちか。
都内で襲われたのは、彼らが都内で待ち構えていたからだ。
近くにある監視カメラ、妙に新しいと思ったら、赤外線機能のある新型だったのだろう。私対策のためだけに設置したのだとしたら物凄いお金の無駄だ。
「それで、ホークスは何の用?」
近くのビルの屋上からこちらを見下ろす青年に声をかける。
「僕は見届け役っスよ。彼はまだ仮免生なもので」
「そっか、プロヒーローが傍についてないとヒーロー活動できないんだ」
ふっ、と、思わず鼻で笑ってしまう。
「ヒーローとしてこの場に立ってもいない癖に」
「君に、何がわかる」
「わかるよ。私だってヒーローだったんだから。今のデクくんは正義のためなんかに動いてない。ここに来た目的は何?」
「決まってる。君を殺してオールマイトの仇を取る」
殺す。
デクくんは迷わずにそう言い切った。
ほら、やっぱり。
「ヒーローはギリギリの一瞬まで『敵を殺さないこと』を考えないといけないんだよ?」
「そんなことはどうでもいい。君は止める。ここで、殺す」
説得は無理そうだ。
まさか、あんなにヒーローに憧れていたデクくんがこんな復讐鬼になってしまうなんて。
当然か。
クラスメートが最凶の敵になった挙句、
じゃあ、
「これでも、戦いを止める気はない?」
ホークスを手元に『転送』し、瞬時に『剛翼』を奪取。軽く首元に手刀を入れて気絶させる。
「これで監督役のヒーローはいなくなったよ。仮免生には活動する資格がないけど……」
「そんなことはどうでもいいと言った」
「そう」
私は『ワープゲート』を起動して、自分とデクくんを別の場所に転送させる。
「じゃあ、せめて場所を変えよっか」
◆ ◆ ◆
移動した先は雄英のスタジアム。
今日は特にイベントも開かれていないので、当然誰もいない。降り立った瞬間に警報が起動したけど、それこそ、そんなことはどうでもいい。
「さ。ここならそこそこ暴れられると──」
「
底冷えする声が響いた直後、デクくんがこちらへ超高速で接近。
地面を蹴った上にスラスターを噴射して急加速したのだ、と、理解するのもつかの間、パワードスーツを纏った剛腕が唸る。
迎撃。
右拳同士が激突。ひしゃげたのは、強度的に劣る私の身体の方だった。
「『衝撃反転』は効かないか」
「このスーツの打撃は全てダブルインパクト構造になってる」
打撃の衝撃を一波と二波に分けることで、一波を反転されても本命の二波が生きるという仕組みだ。
と、会話をしながらも私達の動きは止まっていない。
今度は左腕が激突。『衝撃反転』に加えて『ショック吸収』を起動したことで外的な損傷は発生しなくなったものの──。
「防御を硬くしようと、競り負けていることに変わりはない」
続いて右足の蹴り上げ。
私は全身から冷気を放出してパワードスーツごとデクくんを氷漬けにしようとして、
「馬鹿に──」
「しているのはどっちだ」
凍らない!?
熱か! スーツが発した熱気で冷却に耐性を付けてる! 逆に熱したとしても表面が防燃加工されているうえ、中の冷却機構が熱暴走を抑えるだろう。
やむなく腕でガード。食らい、空中に跳ね上げられる。
スラスターにより姿勢制御されているデクくんはすぐさま私を追いかけ、追い越して、両手を組むとハンマーのように叩きつけてきた。
「ぐううっ!?」
地面に落とされ、衝撃と轟音。
激突に耐えきれなかった地面に罅が入るのを感じながら、私はすぐさま立ち上がった。
迫りくるパワードスーツに向けて左右の腕で『空気を押し出す』。
「無駄だ」
「っあああああぁぁぁぁーーっ!?」
軽く手を振るうだけで空気塊が無効化され、後ろに飛んでもすぐさま追尾され、そのままタックル。
吹き飛ばされた私は観客席の下、壁まで飛ばされて激突した。
痛い。
これだけの痛手を受けたのは久しぶりだ。
「こんなものか、『エターナルクイーン』」
追撃は、来なかった。
代わりに失望したような声。
「こんなものか、OFAは。肉体強化と人工個性。ワンオフのパワードスーツ。その程度で、こうも一方的になるっていうのか!」
怒りの声。
「そうじゃないだろ! OFAは、平和の象徴の“個性”は、そんなに弱くない! 使いこなせないんだとしたら、お前はOFAには相応しくない!」
「そうだね」
私は地面に降りて答える。
「デクくんは正しいよ。本当のOFAはこんなものじゃない。だって私──
「な、に……!?」
「『OFA』『空気を押し出す』以下省略」
私が腕を振るうと同時、暴風が生まれた。
地面の土を削ぎ、巻き上げながら、物凄い質量と勢いをもって殺到する風。それを見たデクくんは地面をしっかり踏みしめると両腕を突き出して、
「オオオオオオォォォッッ!!」
直撃の瞬間、大気を裂いた。
猛烈な腕の振り。それだけのことで裂かれた暴風は散らされ、吹き過ぎ、凪いで、元の静かな空気へと戻っていく。
「『転送』『OFA』」
ほっと息を吐く少年を眼前に呼び寄せ、無造作に腹を蹴りつける。
パワードスーツの腹部分が軋むような音を立て、デクくんが冗談のように吹き飛んでいく。なんというか、ヒロアカじゃなくてサイヤ人同士の戦いみたいだけど。
吹き飛んだデクくんが体勢を立て直すのを待たずに連続して指を弾く。大気の指弾が少年の纏うパワードスーツを殴打。砕くようなことはできないものの体勢を更に崩していく。
「『ヘルフレイム』『蒼炎』──プロミネンスバーン」
本家であるエンデヴァーの二倍近い熱量が直撃。
いくら熱に強いと言っても、一度に受けられる許容量は存在するはず。冷却が追いつかなくなれば精密機器は当然、支障をきたす。
「『剛翼』」
ありったけの羽根を動けないままの少年に叩きつけ、遂に打ち倒した。
どう、と倒れるデクくん。
「ねえ、デクくん。逆に聞くよ。
「───」
「だったら私こそ失望だよ。私にはOFAがあるんだよ? 確かに今のデクくんは強いよ。全盛期のオールマイトと同じか、それ以上だと思う。でも、
デクくんは答えない。
まさか、あの程度で死んでしまったわけがない。
『サーチ』等、複数の“個性”で強化された私の感覚は少年が生きていることを察知している。というか、デクくんはまだ、動くのに支障が出る程のダメージを受けていない。
彼が持っている“個性”は『身体能力全強化』『感覚超強化』『追跡』『痛覚遮断』。どれも短時間しか持たない使い捨てらしい。しかも、複数所持に対応させるのと効果を出来るかぎり上げるために所有者の寿命を大幅に削るようなデメリットまである。
どうせ消えるなら奪う必要もない。
「せっかくチャンスをあげたのに」
傲りとか希望的観測とか全部抜きにして考えてみればいい。
『OFA』『AFO』『不老不死』を持ち、更に無数の“個性”を有する相手にたった一人で、付け焼刃の人工個性なんかで勝てるわけがない。
私がOFAを使っていない間に、不意打ち一発で決められれば、まだ可能性はあっただろうに。
「ねえ、答えてよデクくん。これで終わり?」
「
答えた少年は、ゆっくりと起き上がった。
彼の眼の光は死んでいない。
どころか、何かを狙っているように輝いている。
「
「なにを、言って──っ!?」
悪寒が、走った。
何か良くないものが体内に生まれている。『それ』はみるみるうちに増殖して私の全身を蝕み、身体の機能を狂わせていく。
熱い。寒い。痒い。痛い。苦しい。
手足の感覚が、なくなっていく。
「ぁ」
どさりと倒れる。
「個性、破壊弾?」
「違うさ。そんなつまらないものじゃない。それは、科学の力が作り出した最強の毒。打ち込まれた直後は無害な成分を装いながら爆発的に進化を続け、存在が発覚した時には取り返しのつかない致死性を発揮する。しかも、そうなってなお秒単位で変異を繰り返すため、どんな解毒剤もワクチンも効果がない」
毒?
私に、不老不死に、毒?
今更、そんなもので?
「せっかくのチャンス、か。ああ、ちゃんと生かしたよ。最初の一撃で、それをちゃんと仕込んでおいた。君を確実に殺すために」
「な、ぁ」
デクくんがゆっくりと近づいてきて、倒れた私を踏みつけにする。
「があっ!?」
「安心していいよ。すぐには死なない。君の『不老不死』ならその毒にも耐えるだろう。耐えて耐えて、でも中和しきれなくて──
「あっ、がっ……」
「エネルギーがないと蘇生はできない、だったよね? そして、スペアボディがある以上、本体はそっちに移行する。OFAもAFOも消滅して、二度と戻ってこない」
なんて、悪辣。
息が続かない。私は最後の気力を振り絞って大きく息を吸い込み、
「っ、ははっ、あはははははっ!!」
「何がおかしい!? 死ぬのが怖くなったのか!?」
「ううん」
私は『槍骨』を起動。
右手の爪を細長い槍に変えて伸ばし、パワードスーツの隙間からデクくんに突き刺す。そして、
「『巻き戻し』『効果転送』」
デクくんに及ぼした『巻き戻し』の効果を
身体の時間を分単位で戻して、
「ぁ──!?」
「OFA──100%」
スマッシュ、などと誇示する必要はない。
パワードスーツの足を跳ねのけ、跳び上がるようにして立ち上がると、軽く地を蹴って懐に飛び込む。
咄嗟にクロスされた腕の上から右拳を突き刺し、スタジアムの観客席さえも破壊して、外まで吹き飛ばした。
「『
パージされたパワードスーツが飛来するのを察知、そのままだと自爆するという未来予測に従って風で迎撃。さっきの一撃でガタが来ていたスーツは今度こそぐしゃりと潰れ、用を為さなくなった。
そして。
なおも収まらない粉塵の向こうから猛スピードでこっちに飛び込んできたインナー姿のデクくんを、私は正面から受け止める。
「パワードスーツは補助であり拘束具だ! 身体へのダメージを考えなければ、生身の方が!」
並の敵なら一撃で即死してもおかしくない攻撃のラッシュが、今、ここに開始された。
個性強制発動の時の指ビキビキは『槍骨』の応用、ということにしました。
なので単独でもあのビキビキはできるということで……。