死なない少女の英雄志願【if・敵ルート】   作:緑茶わいん

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12.略奪者と落第継承者

 速い!

 

 私はデクくんの勢いに驚愕した。

 更なる隠し玉。

 強力な装備が実はリミッターだった、って設定は割とあるけど、膨大なお金をつぎ込んだ近未来パワードスーツが筋肉に負けるのは正直どうなんだろう。

 

 まあ、それはともかく。

 

 温存していた『認識阻害』の“個性”を起動。

 私の気配を抹消し、周りの人間に存在を認識されなくする。石ころぼうし、と言えばわかりやすいだろうか。

 ただし欠点もあって、機械などの無生物には効かない。

 パワードスーツにもレーダーやカメラが搭載されていたはずなので、このタイミングまで待った。

 

 デクくんは瞳に映る私の姿に気づけなくなる。

 

 ──それでも、少年の右拳は真っすぐ突き出された。

 

 手のひらで受け止めれば、デクくんは拘ることなく即座に反転。私から距離を取る。

 

「『追跡』の“個性”だね」

「ああ。指定した一人の位置を追い続けられる」

 

 効果自体は『サーチ』の劣化版だ。

 でも、それなら認識阻害状態でも戦える。“個性”が示す位置に迷わず攻撃を叩きこめばいい。部位狙いはできないけど、身体のどこかには当たる。

 最後まで戦えないこと、私に逃げられることだけは避けようとちゃんと用意してきたらしい。

 でも。

 

「それで?」

 

 私は淡々と尋ねる。

 

「さっきの一撃でわかったんじゃない? デクくんの攻撃じゃ、私には届かない」

 

 『超耐久力』『衝撃反転』『ショック吸収』『筋繊維強化』『骨格強化』『エアークッション』エトセトラ──持てる個性をたっぷりつぎ込んだ結果、私の防御力は非常識なレベルに達している。

 ぶっちゃけ、OFA(ワン・フォー・オール)の100%程度じゃ痛くも痒くもない。

 これには、デクくんも頷いて、

 

「ああ、良くわかった。だから、これを使う」

 

 彼は()()()()()()()()アンプルのようなものを首筋に突き刺し、注入を開始。

 中身は、おそらく人工個性。

 パワードスーツに収納されていたものを、パージの前に回収していたんだろう。

 

 人体に宿っていない個性は『サーチ』できない。

 私の認識をズラすための、策。

 

「ぐ、ああああああぁぁぁぁっ!!」

 

 絶叫。

 狂気としか言いようのない叫びを上げたデクくんは、直後、きっ、と、動物的な殺意を込めた視線を私に向け──音速に近い速度で迫ってきた。

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「『夜』!」

 

 スタジアム全域を覆うように闇が降りる。

 私を『追跡』で追っているデクくんだけど、周りの状況や足場の状態は視覚で把握している。だから動きが一瞬、鈍る。

 本当に一瞬だけど、それで十分。

 

 ──『跳躍力強化』『浮遊』『剛翼』。

 

 地面を蹴った私は空へ急上昇。

 少年も迷いなく跳躍して追いかけてくる。

 

 ──『武具作成』。

 

 未知の物質でできた薄いプロテクターで身体を覆い、

 

「『黒鞭』!」

 

 エネルギーでできた触手を無数に生み出した。

 触手達はデクくんに殺到。

 端から()()()()()()()()押し負け、引きちぎられていく。

 

「おおおおおおぉぉぉっ!!」

 

 さすがにこれだけじゃ止められない、か。

 

「でも、想定内!」

 

 渾身の左ストレートを、同じく左ストレートで迎撃。

 

 ぐしゃ、と。

 

 瞬時に砕け散る左腕はデクくんのもの。

 でも、少年は一瞬たりとも執着しなかった。

 むしろ、胴体に衝撃が伝わらないよう巧みに身体を捻り、勢いを右手に乗せると、握っていたその拳を()()()

 ()()()()()()()()

 

 単に殴りつけるのが目的じゃない。

 何か裏があるに決まっている。

 分かっていてなお、私は右手で単に受け止めた。

 

「え?」

 

 呆然とした声。

 ぽかんと、間の抜けた表情で、デクくんがお互いの右手を見つめる。

 

 『崩壊』。

 

 触れたものを問答無用で破壊する“個性”が効果を及ぼさないことが不思議らしい。

 最後の切り札がこれ、か。

 あれは比較的早い段階で手に入れたから、ドクターが診察の際に無断採取でもしてたんだろう。それをどこかの研究者が複製、改造して、触れた部分から連鎖的に崩壊するように仕上げた。

 

 確かに『崩壊』は怖い。

 最初は持ってなくて、途中で獲得する作戦も良かった。拳で来ると思わせてからの掌底も意表をついていた。普通の相手なら通用したと思う。

 

 でも、甘い。

 

 新しく獲得した“個性”も『サーチ』すればいいだけの話。

 実際、私はそうした。

 なんなら心を読んだって良かった。そこまではしなかったけど。

 というか、

 

OFA(ワン・フォー・オール)に眠ってる“個性”。全部は知らなかったんだ?」

 

 私の右手には“個性”が効かない。

 知らなかったらしい、第九代目継承者は、目を見開いて、

 

「先代達の“個性”だと……!?」

「うん。()()()()()。ちゃんと本人達から許可を得て、ね」

「な、え、あ。ああ、あああ……っ!?」

 

 萎えちゃった、か。

 愕然とする少年を見て、私は息を吐いた。

 

「遊びはもういいよね」

 

 『抹消』をオン。

 デクくんの“個性”を全て無効化したうえ、左手で彼に触れて『巻き戻し』を起動。彼の肉体年齢を二か月前に戻した。

 死に物狂いで鍛えた二か月はこれで、消えた。

 もともと、頼るべきじゃない力だったんだ。

 

「──ぁ」

 

 落ちていく。

 デクくんは落ちて、落ちて、どさっ、と、受け身も取らずに地面に到達した。

 

「なんで、だよ」

 

 悲痛な声が空気を震わせる。

 

「なんで、お前みたいなのがヒーローより強いんだよっ!!」

「ヒーローの強さは“個性”でも腕力でもない。最後まで諦めない強さ。それがヒーローの一番の強さだよ」

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 日本中が。

 世界中が、その戦いを見ていた。

 

 永遠は一度も口にしなかったが──彼らの戦いは最初の激突の直後から全て中継されていた。“個性”によって作り出した不可視の使い魔に一部始終を監視させ、その情景を電波として流した。()()()()()()()()()()。今や十万を超える“個性”を持つ永遠にはそのくらい造作もない。

 普段は砂嵐しか流れないchであったが故に最初は気づかない者も多かったが、気づいた者がネットに流し、やがて大手テレビ局も気づいて「他chの放送内容をそのまま中継する」という前代未聞の行動に出た。

 

 だから、彼らは全てを見ていた。

 

 デクが永遠を不意打ちするところを。

 三万、否、十万以上の犠牲が出ることを厭わず「永遠を殺す」と言い切ったところを。

 気絶したホークスを無視して戦闘を続行したところを。

 永遠を殺すために毒物を使用したところを。

 倒れた永遠を踏みつけにしたところを。

 

 永遠がヒーローの在り方を説いたところを。

 街の被害を避けて移動したところを。

 毒物による死を避けて、間接的に人々を守ったところを。

 自身を殺そうとする少年を殺さずに止めたところを。

 

 ──地面に落ち、ボロボロになったデクがもう一度立ち上がり、パワードスーツの残骸から新しいアンプルを取り出すのを。

 

 元の身体では人工個性に耐えきれないのを承知で注入、最後の一撃に打って出るのを。

 

 瞬間。

 世界には少年を非難する『声』が満ちた。

 

『ふざけんなよこのガキ、何やってんだ』

『オールマイトは女王の仕業じゃないって結論出ただろ』

『殺すじゃねえよお前が死ねこのアホ』

『女王、もういいからこいつ殺せよ』

『え、この子雄英の生徒なの? マジ信じらんないんだけど』

『引っ込め』

『要らない』

 

 無数の声は実体となって現れ、濁流と化して少年を飲み込んだ。

 

 B組所属、吹出漫我の『コミック』に類似する“個性”の効果。

 威力は出久を罵る声の量に比例する。

 つまり、出久が受けているのは傍観者──『何の罪もない一般人』の本音だ。

 

「お前らは、お前らはいいよな! そうやって好き勝手なことを言いながら『守られてれば』いいんだから!」

 

 『崩壊』で、あるいは強化された筋力で声を蹴散らしながら、出久が叫ぶ。

 しかし、当然、人々がそれを素直に受け止めるはずがない。

 彼らにとって出久は叩いてもいい対象──敵に等しい存在である。法的にも仮免の範囲を超えている以上、実際に敵であると言っていい。

 

 今、世界においては既に出久こそが悪なのだ。

 

「ふざ、けるな……っ!」

 

 なおも叫びながら、出久は力を使い果たして倒れ伏す。

 倒れた少年を『声』はなおも打ち続けた。

 

「これじゃ、オールマイトは、何のために死んだんだよ……っ!?」

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

「オールマイトの死に意味なんてないよ」

 

 私は、デクくんの傍に降り立って告げた。

 『声』はもう消してある。

 少年は腕一本さえ動かす気力もない──どころか、骨が無事かどうかさえ怪しい状態でなお、私を睨みつけてくる。

 

「なん、だよそれ……っ!?」

「無駄死にだって言ってるの。彼は自分の生き方を変えられなかった。意地になって『使命』にしがみついただけ。……というかそもそも、人の死に意味を与えるのは『残された者』だと思う」

 

 意味があるから動くんじゃない。

 残された者の動いた結果が、人の死に意味を与える。

 

「AFOを滅ぼすのがOFA継承者の役目。なら、()()()()A()F()O()()()()()()、もう一度考えてみない?」

 

 人の“個性”を奪ったからか。

 悪人に“個性”を与えたからか。

 世に混乱を齎したからか。

 あらゆる行為の先に、ただ個人的な欲望が在ったからか。

 

「……考えたって結論は変わらない。お前は、悪だ」

「そうだね」

 

 私だって「世界から“個性”を消したい」っていう個人的な願いで動いている。

 自分のために世を騒がせているんだから、やっていることはオール・フォー・ワンと大差ない。

 でも。

 

「少なくとも、AFOとOFAの戦いは私が終わらせる」

「──っ」

「それだけじゃない。“個性”が世界を脅かす可能性は全部私が潰す。そうすれば、“個性”が世の中を混乱させることだけは絶対になくなる」

 

 “個性”が無くなっても争いはなくならない。

 “個性”がナイフや銃、拳に取って代わるだけなのはわかってる。

 

 でも、武器は誰でも手に入れられる。

 才能の差こそあれ、身体を鍛えることは誰にでもできる。

 費用対効果も確実に下がる。

 今だって、核を打たれればあらゆるヒーローが死ぬ。

 なら。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()どっちが怖い?」

「詭弁、だ」

 

 デクくんはそれでも否定する。

 

「人はそんなに弱くない。“個性”を悪用する敵がいれば、必ずヒーローがやっつける」

「現状で、私を誰も止められてないのに?」

「っ」

「“個性”の暴走で死ぬ人がいるのに? 殺される人がいるのに? ヒーローがやっつける? どうやって? 私は、()()()()()()()()()()()がいたのを知ってるよ?」

「でも、お前だってオールマイトを殺した!」

「殺してない」

 

 私は『取り寄せ(アポート)』の“個性”を使って適当な新聞を手にする。

 

『オールマイトの殺害、米国が関与していた』

 

 一面にはショッキングな見出しが躍っている。

 

「アメリカを背負ったような最高のヒーローが日本にいる、っていうのがずっと許せなかったみたい。こっそり敵を扇動して殺させたんだって」

「嘘、だ」

「デクくんが『結果的に私が殺したようなもの』って言いたいのはわかってるよ。でも私は、私達は本当に直接手を下してなんかいない。それだけはわかって欲しい」

「………」

 

 きっと、彼にはこのことは知らされていなかっただろう。

 意図的に伏せたまま実験や訓練に参加させられていたっぽいのは、『巻き戻し』と一緒に施した『寄生』で記憶から読み取れる。

 

 ちなみに米国の関与を突き止めたのは私達だけど──言っても自慢になるだけだから言わない。

 もし、オールマイトが殺されず、私に辿りついていたら、その時は殺していたかもしれないけど、そのことも言わない。

 

「それでも、憎しみは消えない?」

「消えるわけ、ないだろ」

「……そうだね。私はあなたから奪った。“個性”を。あなたがヒーローになる希望を」

 

 持たざる者だった彼は最高のヒーローから力を受け継いだ。

 どん底にいた者は夢を見て、またどん底に落ちた。

 恨まれるのは仕方ない。

 

「OFAを先に回収したのは邪魔だったから。それも否定しない。でも、早いか遅いかの違いだよ。世界から全部の“個性”を消すんだから」

「でも、そうしたら、僕は一生ヒーローになれない」

「人を救いたいなら警察になればいいじゃない。どうして、ヒーローじゃないといけないの?」

 

 デクくんは一瞬、黙ってから答えた。

 

「僕は、まだ何もできていない!」

「………」

「なにもしていない! オールマイトから受け継いだのに、何もできなかった! 本当は、僕がやらなきゃいけなかった! 戦いに行くオールマイトを止めれば良かった! 僕も連れてってください、って、言えばよかった!」

「………」

「お茶子さんに、あんなことするべきじゃなかったんだ!」

 

 お茶子ちゃんは地下施設で治療中らしい。

 全治二か月。

 酷い洗脳を受けた末にデクくんと「殺しあった」ことを私はデクくんの記憶から知った。

 

「研究施設は私が潰す」

「っ。どう、やって?」

「『箱の中の猫(シュレディンガー)』」

 

 周囲の「ありえるかもしれないという認識」を「現実」に変える力。

 無数の“個性”を持っている私は、多くの人にとって「どこまでできるのかわからない存在」。なので、それを利用して()()()()()()()()()()()

 

「思い出の中の風景の座標情報を知る“個性”。まあ、大した力じゃないよね」

 

 これで『ワープゲート』で転移できる。

 

「研究成果はともかく、研究者達の所業は全部公開する。二度とこんなことが繰り返されないように」

「永遠、さん。君は」

「デクくんは、どうする?」

 

 お姉ちゃんには「殺す」と宣言した。

 私の邪魔をした以上、殺すべきなのもわかっている。

 それでも。

 元クラスメートを、主人公を殺すのを躊躇ってしまう。

 少年は、ほんの一瞬だけ迷ってから答えた。

 

「殺してくれ」

「わかった」

 

 私は右手を差し伸べてデクくんの頭を掴み──『巻き戻し』を起動、彼の肉体年齢を雄英入学前、中三の一学期頃まで戻した。

 

「面倒臭いから、死ぬなら勝手に死んで」

「っ!」

 

 飛びかかってきたデクくんを適当な“個性”で眠らせて、私は溜め息をついた。

 

「今更人殺しを躊躇うとか、なんなんだろうね、私」

 

 そこに。

 一つの足音がゆっくりと、私に向けて近づいてきた。

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