“個性”喪失数の停止から一週間。
私は再びテレビに出演するため、テレビ局へ向かった。
局は前回と同じところ。
前回の放送が(良くも悪くも)大反響だったので、是非またうちで、と言ってもらえたからだ。
「永遠さん! 今日はよろしくお願いしますっ!」
スタジオに入るとすぐ、顔なじみの女子アナさんが駆け寄ってきてくれた。
目が恋する乙女みたいになっているのに内心若干引きつつ、私も笑顔を作って頭を下げた。
「今日もよろしくお願いします」
「そんな! お忙しい中、時間を作っていただいてるのはこっちなんですから、堂々としていらしてください!」
「ありがとうございます」
精いっぱい女王然とした表情で答えて、彼女から離れた。
「この一週間でどれくらい『信者』増やしたの、永遠ちゃん?」
「やめてよ、もう」
透ちゃん(いつも通り全裸、透明状態)の囁きに苦笑して答える。
……いや、まあ、敵等々から手に入れた『カリスマ』『フェロモン』なんかの“個性”を試しに使ったら本気で崇拝されかけたりしたけど。
慌てて解除したし、それからは使ってないから許してほしい。
「前回に続き、ご足労いただきありがとうございます、永遠さん」
「こちらこそお呼びいただきありがとうございます。よろしくお願いします」
今日の衣装も、デザインこそ違うものの黒いドレスだ。
会話の相手もアナウンサーの男女で変わらない。
違うのは、女性の方が無個性になっている、ということくらいか。自分の“個性”ももらって欲しい、というので有難くもらい受けた。
彼女から聞いた話によると、他にも人を呼ぼうという話もあったらしい。辛口コメンテーターとか、いっそ政治家とかを呼んだ方が公平になるのではというアイデアだったのだが、収拾がつかなくなるのを恐れて取りやめになったのだとか。
「さて、早速ですが、今回は我々から永遠さんへ質問するのではなく、視聴者の皆さんの声に答えていただこうと思っております」
「あらかじめ局に寄せられた電話やFAX、メール等を集計して、多く寄せられた声の中から一部を紹介させていただきます」
私のスタンスについては前回話したので、人々の疑問を潰していこうという狙い。
その時点でだいぶこっち寄りの番組作りになってる気がするけど、まあ、それが成功かどうかは視聴率に現れるだろう。
「では一つ目です。十三歳の男子中学生の方からです。『僕はあなたに個性を奪われました。ヒーローになりたかったのに、これではなれません。個性を返してください』」
「こういう方はきっと多くいらっしゃるかと思いますが──永遠さん、どうお考えですか?」
「そうですね。率直にお答えするなら『できません』」
今回も撮影なので、発言への反響はすぐには出ない。
それでもスタジオ内が多少ざわつくのがわかった。
「それは、何故でしょうか?」
「私は、世界から全ての“個性”を消滅させるのが目的です。一部の方にだけ“個性”を返しては不公平になりますし、私の目的を果たすこともできません」
「不幸になる人が出るのだからいっそ止めるべきでは、という声もありますが──」
「不幸になる、というのが具体的にどういうことなのかわからないので抽象的な答え方になってしまいますが、その方が“個性”を使ってやりたいことというのは、本当に個性でないとできないことなのでしょうか?」
ヒーロー。“個性”アスリート。“個性”医療の専門家。
色んな人がいて、色んなものを目指している。それはわかる。じゃあ、それをしたいのは何故なのか。
悪い奴から人を守りたい。
一番になりたい。
怪我や病気から人を救いたい。
根っこにあるのはそういう気持ちなんじゃないのか。
「運動は無個性だってできます。人を守ったり救いたいなら警察や医者になればいい。それでは駄目なのか、私には疑問に思えます」
「“個性”を用いた方がより大きな成果が得られる、ということはあると思いますが」
「私は“個性”によって救われる命より、奪われる命の方が心配です」
“個性”を容認するということは敵を容認するということ。
自分の目的のために他人が傷つくのを良しとするのは、許されていいことなのか。
正しい人だけに個性を与える?
どうやって? 正しいかどうかは誰が判断するのか。奪ったり与えたりは?
そもそも、正しい目的のために使われた個性が思わぬ災害を齎さない、と誰が保証できるのか。人を癒す力は反転すれば人を傷つける力になる。
「もし、正しい人だけが“個性”を持つ社会を実現できたとしても、産まれてくる子供までそうとは限りません。産まれた瞬間に個性が発動して世界が滅びることがない、と誰が言えるでしょう?」
「“個性”に限界はあるかないか。ないとしたら、個人が世界を終わらせる可能性もあるのではないか──という理論ですね。既に通算数十億人の個性が生まれているわけで、現状でそれほどのインフレが起こっていない以上、杞憂に過ぎないという見解もありますが」
「私の持っている『不老不死』も『
不滅に近い生存性。
“個性”を奪うというインチキ。
どちらも最初期に生まれているというのに、呑気な話だと思う。
「また、私としては『個性特異点』が存在するという説を支持しています」
「“個性”は代ごとに混ざり合って進化し、より複雑で強力なものになっていく、という説ですね。もしかしてですが──永遠さんはそれを体感していらっしゃる、と?」
「はい」
私は答えて『黒鞭』を発動。
複数の黒い触手を数秒だけ出してから、消す。
「今のは
「例の戦いでも使われていた……。あの、OFAとはオールマイトの“個性”なんですよね?」
「はい。オールマイトの“個性”であるOFAは個性を受け継ぐ力。何人もの使い手に受け継がれてきたこの力には複数の個性が宿っています。本来の持ち主が使っていたよりも遥かに強い力で」
「──っ!?」
通常の、親から子への遺伝ではまだ多くて四、五代目。
対してOFAはデクくんで九代目。正統に継承したわけじゃない私を含めるなら十代目だ。
「AFOは各個性を別のスロットに保管するようで、私が奪った個性では特異点は発生していません。でも、十分な証拠ではないでしょうか」
「……では、次の質問に移りたいと思います」
「『個性を奪った結果、死ぬ人がいるとしたらどうしますか?』」
「もちろん奪いますが、私は個性を無くすのが目的であって殺すのが目的じゃありません。手持ちの個性で治療できるならするんじゃないでしょうか」
「『個性を無くすのに個性を使うのは矛盾ではありませんか?』」
「目的を達成するために使えるものを使っているだけです。それが気に入らないというのなら、私が考えられる代案は『個性を破壊する銃弾』を開発することになりますが、あなたが試し打ちに協力してくれますか?」
「『永遠さん自身の不老不死も最終的に消滅させるのですか?』」
「もちろんです。全ての“個性”をなくす必要がある以上、『不老不死』も『AFO』も消し去ります」
「『政治家等の不祥事暴露は永遠さんが行っているんですか?』」
「私『達』が行っています。私は基本、足を使って飛び回るのが仕事なので、集めた情報を広めるのは仲間の役目です」
「『永遠さんに国を治めて欲しいです』」
「面倒くさいから嫌です。国を動かす人はできるだけ、一般の人の目線に立てる人であるべきだと思います」
「『好きな食べ物はなんですか?』」
「たいていなんでも好きですが──強いて言うならハンバーグやビーフシチューでしょうか」
「『踏んでください』」
「踏まれに来てくださるならそのくらいは……って、なんですかこの質問」
「『結婚してください』」
「お友達からでお願いします。って、だからなんですかこの質問!?」
「『もう魔法少女はしないんですか?』」
「ネタがなくなったらそう言ってください。……機会があればしてもいいですけど、少し恥ずかしいですね」
概ね質問に答え終わった後、私は告げた。
「私からもお知らせがあります」
アナウンサー二人にはあらかじめ内容は伝えてある。
知っている二人は「ついに来たか」とでも言いたげに身体を緊張させながら、私の言葉を待っている。
「二週間後の正午──私は世界から“個性”を消滅させる儀式を行います」
この内容は放送と同時に多くの人が知ることになる。
きっと世界にも届くだろう。
「儀式の場所はどちらになるんでしょうか」
「富士山頂とか樹海とか湖の真ん中とかいろいろ考えましたが、日本国内だと問題が出そうなので、海の上に島を一つ作ろうかと思います」
あらかじめお願いしておいたので、映像で大まかな位置が示される。
「島自体は三日前には作る予定です」
「それをあらかじめ告知する目的というのは何なのでしょうか」
「全力で阻止してもらうためです」
再びスタジオがざわつく。
「わざわざ止めてもらう余地を残すのですか?」
「はい。私のやり方が気に食わない方もいるでしょう。“個性”が無くなっては困る方もいるでしょう。であれば、実力行使で私を止めてみせてください。私も、私達も全力で抗います」
「日本中のヒーローを一か所に集める、ということでしょうか?」
「日本だけじゃありませんし、ヒーローだけじゃありません。軍も、
前代未聞の宣言。
「それらすべてを倒す、と?」
「はい。……もちろん、これは真剣勝負です。殺したくない、なんて甘いことを言う余裕はないでしょう。来るなら死ぬ気で来てください」
「敵の存在がある以上、ヒーローが集まるのも難しいと思うのですが」
「儀式が成功すれば世界から“個性”が消えます。それでも黙って見ている敵なんてただの雑魚でしょう?」
敢えて汚い言葉を使って挑発する。
「“個性”を悪用する敵は私にとっても敵です。儀式に際して暴れようとする者、なおも隠れていようとする者は叩きのめします」
「どうやって?」
「私、その気になれば何万でも何十万でも増えられるんですよ?」
「……ですが、『寄生』がある以上、反抗はほぼ封じられているのでは?」
「そうですね。それが何か?」
一瞬、静寂が下りた。
「“個性”とは、“個性”社会とはそういうものだと皆さんにわかって欲しいと思います。ある日突然、穏やかだった暮らしが
これは決して実感のない言葉じゃない。
『綾里永遠』は実際に、温かい未来を奪われている。
「ヒーローだって、決して万能じゃない。一人一人の考え方だってある。しがらみで動かざるをえない時、動けない時だってあるんです。私を殺せば十万人が死ぬとして、
私は淡々と言って、続きを口にする。
「もちろん私も全力で抵抗しますが、巻き添えで死ぬのが嫌なら、私を狙う者達を自分で阻止してください。命がけで。別に珍しいことじゃありません。今となっては記録的にしか認識できませんが、私も最初は敵に襲われたせいでヒーローを志したんですよ?」
「つまり、永遠さんは『自分で何かを為す気がないのなら黙って見ていろ』と、そう仰っているわけでしょうか?」
「はい。そもそも、私は敵です。私を敵にしたのはヒーローではない不特定多数の人達のはずです。自分を九十九回殺した相手をたった一回殺したとして、何の罪がありますか? 私は何もしていない? 逆恨みだ? 知ったことじゃありません。
収録は終わった。
「OK」の声がかかった直後、私は疲労がのしかかってくるのを感じながら息を吐いた。
「永遠さん! お疲れ様でした!」
あらかじめ用意してあったのか、それともタイミングを合わせて用意させたのか、程よく冷えたドリンクを女子アナさんが差し出してくる。
微笑んで受け取って一口飲むと、爽やかな甘さが疲れを和らげると同時に、身体がカロリーに喜ぶのがわかる。
「格好良かったです! すごく!」
「ありがとうございます。……でも、編集とか大変じゃないですか?」
「大丈夫です! できるかぎりそのまま放送するよう掛け合います!」
そこまでしてくれるとは、本当にありがたい。
と。
彼女はふっと不安そうな顔になって、私を見てくる。
「私も死にたくはないんですが、戦わないと駄目でしょうか?」
「そんなことありません。あなたは、報道っていうやり方でできることをしているでしょう? だったら、それがあなたの戦いだと思います」
「っ。はいっ。ありがとうございます、永遠さんっ!」
あれ、なんか目がきらきらするのを通り越してハートマークになってるような気が。
「……永遠ちゃん。どこでそんな人心掌握術覚えたの?」
「え。素だけど、何か問題あった?」
答えると、透ちゃんの溜め息だけが何もない空間から聞こえてきた。