死なない少女の英雄志願【if・敵ルート】   作:緑茶わいん

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20.決戦

 剣を、槍を、盾を、銃を打ち砕く。

 炎を、氷を、電撃を、風を、土塊を払い、あるいは受け止める。

 

 『透明』『認識阻害』の代わりに簡易版といえる『気配遮断』をオンにした私は『剛翼』を羽ばたかせ、羽根を撒き散らしながら戦場を舞う。

 戦法は単純。

 一気に近づいて殴り飛ばし、気絶させるだけ。

 

「九十九」

 

 一人倒したらすぐさま跳躍、あるいは飛翔、時には転移。

 次のターゲットのところへ移動してまた殴る。

 

「百」

 

 倒れているヒーローが結構増えてきたので、爪を『槍骨』で伸ばして彼らに向かわせる。

 

「今だ!」

「そう簡単にいくと思いますか?」

 

 ここぞとばかりに集中砲火を向けられそうになったので、ヒーローの一人を手元に『転送』して盾にした。

 怯み、手が止まった一瞬を利用して爪の槍を突き刺すことに成功。

 『AFO(オール・フォー・ワン)』『ワープゲート』で個性奪取と送還を終えると、あたりがだいぶすっきりした。

 それでも後から後からわらわら湧いてくるのが頭痛いけど。

 

「構うな、撃て!」

「……は?」

 

 声は、私が捕まえているヒーロー()()()()、武器や“個性”を準備していた残存戦力の中から聞こえた。

 

「我々は死ぬ覚悟をしてここに来たはずだ! 女王討伐の礎となって死ねるのなら奴も本望だろう!」

「ちょっ、正気!?」

 

 思わず叫んでしまう私。

 非殺を心がけている程度で善玉を気取る気はないけど、本人以外が言っちゃったらもう悪役じゃない!?

 なんだこいつ……とサーチ系の“個性”をフル動員してそいつを見れば、ああ、なるほど。ヒーロー面した(ヴィラン)が紛れてたのか。

 敵っていっても色々いる。大粒小粒、顔がわかってるのにわかってないの。色んな国の人間がごっちゃになってるこの状況では隣にいるのがヒーローかどうかもわからないわけだ。

 

「あんなこと言ってるけど、いいの?」

「か、構わん……!」

 

 いや、めっちゃ声震えてるじゃないですか、人質の人。

 まあ、本人一応いいって言ってるし死なせてあげても……って、

 

「なるわけないでしょ!」

「う、撃てー!」

「うおおおおおっっ!!」

 

 人質の人は“個性”奪ってお帰り願い、私は代わりに同士討ちをけしかけた敵を盾にした。

 

「はい。撃っていいですよ?」

「ま、待て、撃つな!」

「さっきと言ってること違うんだけど?」

 

 っていうか、もう攻撃来てるし。

 

「あ、あああ、ああああああっ!?」

「うるさい」

 

 “個性”だけ奪って後ろに捨て、OFA(ワン・フォー・オール)全開で腕を薙ぐように振るう。それだけで攻撃の八割がたは力を失い、残った攻撃も私にはちょっと痒いかなー、程度でしかなかった。

 擦りむいた程度の傷口から数匹の蝙蝠が生まれて羽ばたく。

 対して、ヒーロー達はさっきの風圧で転んだり体勢を崩したりしていた。

 

「さて。そこの敵に踊らされて殺人を犯そうとしたヒーローさん達。何か申し開きはありますか?」

 

 ざわり、と、動揺が広がる。

 敵だったのかと驚く者、ただのハッタリだと切って捨てる者、裏切り者がと敵に憎しみを向ける者、と様々な反応があって──。

 

「そのくらいにしておいてやれ」

 

 私の後ろで転がっていた嘘つき敵が氷に閉ざされた。

 見れば、轟君が自分に襲い掛かってきた相手を残らず凍らせてこっちに歩いてきていた。

 

「敵に説教される奴らが可哀そうだろ」

「それもそうだね。……それに、そろそろ」

「ああ」

 

 大気を歪ませながら飛んでくる大柄な男性ヒーローの姿。

 

「どいてろ」

 

 威厳たっぷりにそう宣言した彼は、地面に着地する間さえ惜しむように、私に向けて全身から高熱を放出してきた。

 轟君が目ざとく飛びのき回避する中、私は棒立ちのまま佇み、その身を焼かれた。

 

「やったか!?」

 

 誰かが叫ぶけど、もちろん、この程度でやられるわけがない。

 

「さすがにちょっと熱かったかな」

 

 焼き鳥くらいの焦げ方をしながら苦笑すると、エンデヴァーはちょっと鬱陶しそうに顔をしかめた。

 

「い、今ので足止め程度にしかならないのか!?」

 

 怪獣にでもなった気分で、私は地面を蹴り、ヒーロー達を蹴散らしにかかった。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

 襲い来る氷の壁を跳躍して避ける。

 何度これを繰り返したか。

 人間一人がすっぽり収まるサイズの壁によって立て続けに()()()()狙われたエンデヴァーは、回避の方向を誘導され、気づけば人気のない湖に誘いだされていた。

 

「素直に乗ってくれて助かったぜ」

 

 そうして彼の前に立ったのは、良く知っている少年──否、男の顔。

 

「よう、エンデヴァー。真剣勝負だ。嫌とは言わせねえ」

「焦凍」

「ああ。『轟』を名乗るわけにもいかねえし、ヒーロー名も使えねえ。だから、俺はただの焦凍だ。あいつらと一緒でな」

「……勘当したつもりはないが」

 

 妻の冷ならば「道が分かれてもあなたは私の子よ」とでも言うだろうが、生憎、エンデヴァーはそこまで器用ではない。

 それでも、同じ男である息子には十分に伝わったらしい。

 苦笑を浮かべた焦凍は、すぐに表情を引き締めて言った。

 

「勝負だ、No.1ヒーロー」

「……無論」

 

 直後、互いのプロミネンスバーンが正面からぶつかり合った。

 競り勝ったのはエンデヴァー。

 残りの熱気をモロに受ける形となった焦凍は──。

 

「む……!」

「どうしたエンデヴァー、ぼうっとしてる場合か?」

 

 特段、ダメージを受けた様子もなく駆けてくる。

 スピードを落とさないままに両手が持ち上がり、膨張した空気が熱を帯びて殺到してくる。

 反射的に炎を噴射し、飛び上がる。

 『膨冷熱波』の最も単純な対処法は距離を取ること。広がれば広がるだけ勢いも熱量も落ちるのが道理。

 だが、追い打ちが来るのは予想できる。

 

(なりふり構っている暇はないか)

 

 地上にいる焦凍を見下ろし、プロミネンスバーンを放つ。

 予想通り、再び同じ技が衝突。

 

(結果は同じ、か)

 

 ()()()()()更に必殺技を連射しつつ、彼我の力量差を認識する。

 熱、炎を操る技だけを見ればエンデヴァーにやや分がある。やや、だ。恐ろしい成長速度。同じ年の頃のエンデヴァーならこの時点で既に敗北していただろう。

 だが。

 負けるわけにはいかない。父親として、ヒーローの先達として。情けないところは見せられない。

 

「猿真似ばかりか、焦凍!」

 

 糸状に伸ばした炎を伸ばせば、焦凍はそれを右手で払った。

 彼の身体は左が熱を、右が冷気を操る。

 冷気を纏った右半身なら、エンデヴァーの攻撃をほぼ無力化できる。

 

「派手な技ばかりが能じゃねえってことだ」

 

 更に右手が振るわれると、空気中に無数の氷の針が生まれた。

 

「これは……!」

 

 殺到してくる針から逃れるため、空中で再び熱噴射。

 一気に焦凍から距離を取ると、そのまま湖へと飛び込む。

 

(身体が冷える)

 

 勢いに任せて沈み込み、外から放たれた高熱をやり過ごす。

 水面近くの水が何十リットル分も蒸発したのを感じつつ、十分に冷えた身体で飛び出せば、焦凍は両手に剣を手にして待っていた。

 右手の氷の剣と、左手の炎の剣。

 “個性”を飛び道具にできるエンデヴァー達にとって、わざわざ近接武器を持つのは愚策だが──。

 

「ふっ……!」

 

 案の定だった。

 様子見として拳に乗せた炎──赫灼熱拳を放てば、氷の剣が瞬時に盾へ進化、焦凍を守って消滅する。

 焦凍は氷の剣を再生させると同時に炎の剣を投擲。投げられた剣は炎の網へと変わってエンデヴァーを襲ってくる。

 無論、炎を操るエンデヴァーには効かないが、

 

「長期戦は望むところか」

「ああ。俺が満足するまで付き合ってもらうぜ、エンデヴァー!」

 

 死力を尽くさなければ勝てそうにない、と、No.1ヒーローは理解した。

 

 

 

   ◆   ◆   ◆

 

 

 

「五百二十二」

 

 気づくと、私のいる島の一角はひどい有様になっていた。

 

 地面はあちこちが割れ、へこみ、穴が開いている。

 植物なんて残っておらず、代わりに破壊された武器や装備の残骸が散乱。

 っていうか、再生するのをいいことにばらまきまくった私自身の羽根も「これでもか!」ってくらい見える。

 

「ちょっと酷すぎるかな」

 

 私は適当な個性を使って地割れや陥没、穴を塞ぎ、羽根や装備の残骸を塵にした。

 荒れ地というしかなかったフィールドには草が茂り、花が咲く。

 どうだ。こんな素敵な場所にされたら戦う気も失せるんじゃないだろうか。

 

「馬鹿な、遊んでいやがる……!」

 

 いや、そこで真面目に取られても。

 まあ、ある意味示威行為ではあるんだけど。

 

「時間は……」

 

 一人が空を見上げる。

 気づけば、日はだいぶ高く上っている。正午まではあと一時間といったところ。

 私は時計が無くてもわかるので正確に言うと、あと一時間と三分だ。

 

「急がないといけませんね」

 

 さっきからちょくちょく素に戻ってるので今更必要ない気がしつつも、私は女王様モードを続行。

 

「急ぐのは私ではなく、あなた方ですが」

「くっ……」

「無駄に焦らなくて済むように、こうして差し上げましょうか」

 

 『夜』を展開。

 辺り一帯が闇に包まれ、正真正銘の夜が来る。

 空には星が瞬き、太陽の光はここに届かない。

 デクくんとの一戦を知らない者もいたのか、ヒーロー達は驚き、歯噛みし、どうしたら勝てるのかと視線をさ迷わせ──。

 

「これは好都合」

 

 一人の男が私の正面に立った。

 

「初めてまして女王様。お目にかかれて光栄です」

「どちらさまでしょう?」

 

 一言で言えば「派手な男」だ。

 全身を覆うスーツは自由の女神でも模したような衣風のデザインだけど、よく見ると中身は厚みのあるしっかりしたバトルスーツ。トゲトゲした冠はいかにも邪魔っけで、しかも身に着けたマントには星条旗がプリントされている。

 これで出身国があそこじゃなかったら文句言ってやりたいところだけど、

 

「私は『ユナイテッド・ジェネラル』。栄えあるステイツで一番のプロヒーローさ」

「い、一番?」

「自称です」

「なんだ自称か」

 

 ギャラリーと化した他のヒーローが教えてくれた。

 いや、でも、この人──。

 

「フッ。確かに、君達の国で言うビルボードチャートでは未だトップに輝けていない、未熟な身。しかし、実力では劣っているつもりはない」

「アメリカで一番強いヒーローだ、と?」

「それくらいの気概がなければトップになど立てないだろう?」

 

 確かに。

 日本と比べて圧倒的に広く、圧倒的に自由な国。

 当然、日本とは悪党のスケールも違うはずで、そんな中で一番を取りたいなら生半可な気持ちでは駄目だ。

 ばさっとマントを翻した男──ええと、ジェネラルは不敵に笑い、

 

「さて。手合わせ願おうか、女王」

「あなたも、私の死がお望みですか?」

「違う。私は民の代弁者に過ぎない。君は世界を変えようとしているのだろう。ならば、旧世界からの反発をその身で受け止めるべきだ」

「死ぬかもしれませんよ?」

「構わないさ。手加減する余裕がないほど君を本気にさせられたなら、それだけ私が強かったということだ」

 

 やっぱり。

 ふざけた見た目だけど、彼は強い。

 圧倒的なまでの自信と、その自信を証明する実力。

 そして何より心の強さがある。

 

「さあ、行くぞ。うっかり殺してしまったら申し訳ない!」

 

 彼の、ジェネラルの“個性”は──。

 

「星よ! 我に力を貸したまえ!」

 

 『星の戦士』。

 星々にちなんだ力を振るうことができ、星が見えている時は戦闘力が飛躍的に向上する!

 

「『火星(マーズ)』!」

「っ」

 

 足元から火柱が立ち上り、私の全身を包んだ。

 熱い。

 火力で言えばエンデヴァー並み!

 炎を振り払って一歩前進。ついでに『夜』を消して弱体化を図れば、

 

「『(ムーン)』! 更に『太陽(サン)』!」

「あああっ!?」

 

 疑似的な夜空を自力で作りだし、私に向かって熱光線を放射。

 火柱で焦げた状態の私は更に身体を焼かれ、さすがに悲鳴を上げる。

 

「使える力は星単独だけではありませんよ! 『射手座(サジタリウス)』! 『獅子座(レオ)』! 『蠍座(スコルピオ)』!」

 

 空中に生まれた矢が次々と私を突き刺し、創造された獅子が牙を剥いて肩口に噛みつき、針というか槍のように変貌したジェネラルの腕が振るわれる。

 

「できれば、かのオールマイトと戦ってみたかったところですが、あなたを代わりにさせてもらい──!」

「そっか」

 

 振るわれたジェネラルの腕を私は掴んで止めると、空いている左拳を彼の腹に叩き込んだ。

 

「なら、『OFA』だけで相手になりましょう」

「え、あの、ちょっ!?」

「全盛期のオールマイト伝説なら秒間何百発とか余裕ですからね」

 

 ジェネラルは強敵だった。

 数々の星、星座の力を借りて想像以上に粘ってきたけど、格闘戦が私にとっても得意分野なのをいいことにぼっこぼこにしたら、最後には「ごめんなさい」してくれた。

 ちょっと疲れた。

 ふぅ、と息を吐いて、私は他のヒーロー達に向き直り、

 

 ──銃声。

 

 死角から放たれた銃弾を、私は振り返って叩き落として。

 銃声に隠れて射出された()()()()()()()()()()を身体に受けた。

 

 この、毒は。

 デクくんとの戦いがフラッシュバック。

 

「油断したな、女王」

 

 ギャラリーの一人が淡々と呟くように言った。




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