死なない少女の英雄志願【if・敵ルート】   作:緑茶わいん

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23.変わっていく世界

「「お帰りなさいませ、永遠様。透様。皆様」」

 

 日本で拠点にしていたマンションに戻ると、管理人の姉妹が出迎えてくれた。

 恭しく一礼する姿には何の変わりもない。

 世界で大きな変化があったことなど嘘のように二人は変わりなかった。

 

「ご無沙汰しています。何か問題はありませんでしたか?」

「いいえ、何もございません」

「むしろ、ご当主様はお喜びでございます。まさか、自分の代に、戦国の世のごとき大きな変化が起こるとは。それを葉隠の血族が手助けできるとは、と」

「うわあ」

 

 人の感性はそれぞれだけど、葉隠家の当主様はやっぱり変わった人らしい。

 自分達で世界の変化を主導したりはしないけど、大きなことができる人を手助けしたい。一度決めた主に一生仕える生き方を全力で肯定できるんだから、悪い人じゃないんだと思う。

 

「こちらのマンションはご自由にお使いください」

「少なくとも今しばらくは、国内での行動に支障があるでしょうから」

「ありがとうございます」

 

 島で暮らすと宣言した私だけど、必要に応じて使える拠点はとても助かる。

 あの島は防衛と生活に適してるけど、世界の変化を逐一知るにはガラパゴス状態が過ぎる。

 

 

 

 

 

 儀式が実行されてから、あっという間に二週間が過ぎた。

 その間、私達はそれぞれに慌ただしく過ごしていた。

 

 もともと女王派じゃないエンデヴァーは当日の夜には家に帰った。

 轟君へ「一緒にどうか」と誘ってたけど、それは断られた。

 

「さすがに帰れねえだろ。あんたを足止めした張本人だ」

 

 エンデヴァーは「そうだな」と答えた後、小さく付け加えるように呟いた。

 

「……ほとぼりが冷めたら、戻ってこい」

「ああ。それまで、せいぜい身体を鍛えておくさ」

 

 “個性”戦で勝っただけで超えたことになるとは思ってない、と、轟君は言っていた。

 プロヒーローとしてのエンデヴァーの功績がなくなるわけではないし、格闘技だけで戦ったら体格の差が大きく出るだろう、と。

 

「お前は冷に似たからな」

「困りものだな。……大切な人が好きだと言ってくれるから、嫌だとは思ってないが」

「し、焦凍さん」

 

 恥ずかしそうに頬を染めるお姉ちゃんを見て、強面の大男はふっと笑みをこぼした。

 

「戻ってくる時は是非、二人で挨拶に来い」

 

 

 私の後援者の人達──いわゆる『女王派』の多くはもとの居場所に帰った。

 やりたいことをやって満足した人、これからも支援を続けるために戻る必要があった人がだいたい半々くらい。残った人は血気盛んに戦闘に参加した結果、中継に映ってしまった「帰れない組」と、労力という形で今後の支援を希望してくれた人達。

 畑を耕したり物を運んだり、掃除洗濯をしたりするのには人手がいるから、残ってくれる人も大歓迎だ。

 

 頼子さん、宮下さん、白雲君、轟君、お姉ちゃん、トガちゃんに透ちゃんといった初期の面々は島に残った。

 面が割れすぎていて帰るに帰れない、っていうのが大きいとは思うけど、残ってくれたのはやっぱり嬉しかった。気心の知れたメンバーがいてくれれば、どんなところだって楽しくやれる。

 って言っても、頑丈すぎるくらいのお城があって、それぞれ専用の大きな部屋があって、当面は買い出しにも余裕で行けるから食べるもの着るもの、娯楽用品にも困らない。悪環境とは言い難いなんちゃってサバイバルなわけだけど。

 

 

 

 この二週間でまず着手したのは防衛機能の強化および整理だった。

 

 例えば使い魔の作り直し。

 防衛戦の時はインパクト重視で「環境保護? 知らないよそんなの」とばかりに空と海を蹂躙していたので、そのあたりに配慮するためだ。

 島に普通の動物や魚を放すことも考えて、区別がつくように全てわかりやすくデフォルメ型に統一。食べる機能もなくして、生き物というよりはロボットに近い仕様にした。

 海の使い魔は船や潜水艦相手を考慮して大型に。近くの魚が怖がるかもだけど、普段はじっとしているようにインプットしたので、そのうち慣れてくれると思う。

 陸上の使い魔はぬいぐるみ的なもの。クマや馬なんかの比較的大きいのは荷物運びなんかを手伝ってもらい、猫や犬みたいな小さいのは完全にマスコット要因。

 空の使い魔が実は一番多くて、有事には飛行機やミサイルに向かって突っ込んでもらうことになる。定番の蝙蝠からドラゴンまでいろいろ作ったけど、作りすぎて待機してもらう場所が不足気味。島を拡張して魔物専用の山を別に作ろうか考え中。

 

 お姉ちゃん主導で近代兵器の設置も計画中。

 装甲を増設したりして「耐える」方針だとどうしても限界があるので、撃ち落とせる攻撃は撃ち落とそう、という考えだ。

 とはいえ、さすがのお姉ちゃんも作れるのは対人火器レベルが限度なので、どこまでできるかは未知数。レーダーとかそっち系はなんとかなるけど、武器の方は「とりあえずおっきくすればOKでしょ!」とはたぶんいかないだろうし。

 

 物理的な装甲を増やせないなら、と、非物理的なバリアも張った。

 一定速度以上で突っ込んでくる物体だけを防ぐように条件付けして、耐久値が底をついたらぱりーんと割れる仕様。代わりに割れるまでは半永久的に残り続ける。“個性”因子が消えても作製物は消えないのをいいことにやりたい放題だ。

 一つじゃこころもとないので「これでもか!」と何重にも張っておく。

 爆弾を満載した船で体当たりでも敢行しようものなら海上で自爆することになる、という寸法だ。

 

 私が“個性”を使ったあれこれにかかりきりになるので、他のみんなには畑を耕したり、花や野菜の種を撒いたり、足りないものを買い出しに行ってもらったりした。

 トガちゃんは主に『変身』しての買い出しと、料理技能をふるっての食事担当。

 透ちゃんは力仕事を手伝ったり、私の話し相手になってもらったり。

 ワープできる白雲君は乗り物代わりに使われることになったし、轟君は「訓練になるから」と率先して作業を引き受けていた。

 

 そんな中、微妙にストレスを溜めることになった人達がいて、

 

 

 

 

 

「パソコン!」

「インターネット!」

 

 マンションに帰ってきて挨拶を終えるなり、歓声を上げてマシンに飛びついたのは──ファンシーな顔の男性と、見た目女子高生のお姉さん。

 そう、宮下さんと頼子さんだ。

 

「ネットに関してはどうしようもないですもんね……」

「永遠ちゃんに『ちょっと回線維持してて。半日くらい』とか言うわけにもいかないものね」

 

 私自身はちょいちょいと“個性”を使えばネット上の情報もテレビ番組も覗き見られるんだけど、一人だと効率悪いし、何よりみんなの気分転換にならない。

 

「城とこのマンションを繋ぐ装置でも置きますか?」

「私達、個性消すために活動してたんじゃなかったっけ? って感じね。是非お願いします」

「私としても、そうしていただけるとデスクワークが捗るかと」

「わかりました」

 

 やっぱりパソコン触りたいんじゃないですか、と若干引きつつ了解する。

 といっても、“個性”の産物が残りすぎるのも考え物かも。作った装置に自壊条件を設定しようか。私が死んだら? 私の“個性”が消えたら? ああ、“個性”消去の装置に「エネルギー供給が一定期間途絶えたら」自壊する条件を付けて、他の装置も連鎖的に壊れるようにすればいいか。

 

「それで、どうですか?」

 

 馬鹿な話をしながらも高速で手を動かしている二人に尋ねる。

 

「ええ。だいたい永遠ちゃんが確認してくれた通りかしら」

「この二週間で消えた個性の数はおおよそ百四十万。一日十万程度のペースですね」

「数字が大きすぎて何がなんだかわかりませんね……」

 

 一秒につき一つの“個性”が消えるとすると、

 

 60×60×24=86,400

 

 なので、実際の速度はもうちょっと速いことになる。

 うん、ここまでくると私が手動でやるのとは桁が違う。今まで私が奪った数を二日三日で上回るんだから、本当にわけがわからない。

 まあ、ここまでやっても、日本の総人口に到達するまで結構な期間がかかるわけだけど、

 

「既に世界は変わり始めていますよ」

 

 宮下さんの言う通り、変化のきざしはもう表れていた。

 

 

 

 

 

 “個性”を失う人が急増したことで、社会には混乱が生まれた。

 

 (ヴィラン)の数は激減。

 代わりに“個性”を用いない、敵とは呼べない犯罪者は増加傾向。

 ヒーローの多くも“個性”を失ったことで、これまでのような「敵が暴れ、ヒーローが駆けつける」という構図が成り立たなくなり始めた。

 基本的にヒーローは“個性”が無くても戦えるけど、移動に“個性”を用いていたヒーローは多い。そうなると、今まで事務所がカバーしていた範囲をカバーしきれなくなってしまう。銃とか持ち出してくる相手に肉弾戦だけで戦えば怪我も増える。

 まあ、別の世界にいた私からすれば、犯罪抑止のためのパトロールとか武器の密売を阻止するのとか、もともとは警察の仕事でしょ? っていう話だ。

 “個性”が振るわれるより破壊・殺傷の規模は格段に小さくなっているので、そこでバランスは取れてると思う。というか、私が世界にばらまいたぬいぐるみ達はまだまだ健在なので、厳しく言えば「人手不足? 足りないはずないよね?」だ。

 

 あとは単純に“個性”が無くなったことで仕事に不都合をきたす人、精神的に病んでしまう人が出ている。

 

「どんな場所でも蜘蛛糸を使って大工仕事をするのが俺っちの専売特許だったのに!」

「私の自慢のケンタウロスボディがなくなって、ただの二本足になっちゃった!」

 

 みたいな感じだ。

 これに関しては申し訳ないとしか言いようがない。私としては「じ、事前に予告は十分しましたよね……?」と弱気モードで言うのが精いっぱい。

 こうした人達が被った金銭的、あるいは精神的損害をカバーしようと、とある民間の企業がいち早く立ち上がった。

 

「無利子での貸し付け、事業計画の相談、カウンセリングの手配、形態変化に伴うリハビリ等々、請け負います」

 

 この企業のバックにいるのは()()()()()()()だった。

 これによって八百万の名前と知名度、関連企業の株価は一気に上がった。

 事前に準備していたんじゃないかと思える、というか準備していたとしか思えないタイミングに「あの姉妹と裏で繋がってたんじゃないか」という声はもちろんあったけど、ぶっちゃけ、世界に向けて表明した内容からでも十分、予想できたと思う。

 あと、人助けしてる人間を非難するのって物凄いバッシングを受けるので「八百万批判」はあんまり流行っていない。

 

 政治の世界では解散総選挙の実施が決定。

 各種企業でも経営陣の退任や大規模な人事異動が起こっている。それに伴って業績の低下が懸念されてるところも多いけど、これも前もって準備をしてなかったところが損をしている感じだ。

 

 雄英はというと、閉鎖が予定されている二年後までの方針として「大幅なカリキュラムの見直し」を発表。

 主な対象はやっぱりヒーロー科で、“個性”制御や使用方法に関する授業数を段階的に縮小しつつ、英語とか数学とかの一般的な教科のコマ数を増やす予定。危険物取扱やレスキューに関する授業の増加も検討しているらしい。

 普通科はほとんど変化がないものの、経営科もヒーロー事務所の経営を意識した内容から一般企業よりのものに内容を刷新する方向、サポート科に関しては主な開発アイテムを戦闘用のグッズからより広範なものへ変更していくという。

 これによって根津校長に賞賛の声が集まる他、イレイザー・ヘッド──相澤先生には島での戦いで多くのヒーローを守り、救ったとして感謝の声が寄せられている。政府はエンデヴァーなども含め、活躍したヒーローに向けて感謝状の贈呈を検討しているらしい。

 

 ヒーロー事務所は規模を縮小したところも多い。

 ヒーローやサイドキックが辞めたというよりは、裏方のスタッフが減っているところが多い。ただの事務方さん達にとっては「潰れる前に別のところ行きます」というだけの話らしい。

 その一方でプッシーキャッツやラーカーズなど、一部のヒーローは精力的に活動を続けている。

 この辺りはチーム制を取ってたのが逆に良かったという面もありそうだけど「別にヒーロー制度そのものがすぐに無くなるわけじゃないし」と、敵も敵じゃない犯罪者もノリノリでしばき倒している。

 

 

 

 

 

「結構、混乱してるね……」

「それはそうですわ。世界規模での大きな変化ですもの。でも、じきに収まるでしょう」

「そうかな?」

「ええ。人は慣れる生き物ですもの」

 

 そんなお姉ちゃんの言葉は予言だったのか。

 日を追うごとに、世界から“個性”が減っていくごとに、人々の“個性”への執着は薄れ、世界は少しずつ“個性”から離れていく。

 そんなある日。

 私の元に使者がやってきて、とあるお願いを持ち掛けてきた。

 

「今一度、あなたのAFO(オール・フォー・ワン)を世界のために使っていただけないでしょうか?」

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