無意識だ。私には自意識というものが無い。
無意識だ。私はこの世で唯一の、心が無い生き物だ。
私が生きているかは、知らないけれど。どうでもいいや、そんな事。
私の目に映る物は綺麗なんだ。どうして、一々物事を考える必要があるだろう?なすがままに、行きたいままに。思考でも心でもなく、ただただ私が行きたい所へ。
地下だ。湿っている。明かりがなくて、暗い。誰かいる。
「あら、知らない人」
近づいてきた。何をするつもりだろう。まず挨拶する。
「初めまして」
「うん、初めまして。挨拶は大事ね」
良かった、ちゃんと挨拶を返してくれた。
「うふふ、なんだかメフィストとファウストが出会ったみたいね」
「そうだね」
何を言ってるのか解らなかったけど、嬉しそうにしてたから同意した。知らない人はクスクスと笑い続けている。
「私がメフィスト、貴女がファウスト。うふふ、素敵」
いったい何がそんなに面白いのか解らなかったけど、つられて私も笑った。なんとなくそうしておいた方がいい気がした。
「貴女はだぁれ?」
「こいし」
「そう」
それだけ返された。知らない人の名前は教えてくれなかった。
それから、気づいたら地下にいることが多くなった。つまり、知らない人と逢うことが多くなった。知らない人はいつも怖いけど、別に何もしてこなかった。ただ笑顔を浮かべているだけだった。
色んなことを話してくれた。知らない人は、私には理解できないような難解な話ばかりした。
でも、私は解っている振りをしていた。そうしておかないと、怖かった。
「さて、ちょっと外に出ようかな」
ある日、知らない人はそんな事を言った。私はいつも知らない人の言葉には同意してた。だから、その言葉にも私はきっと同意するだろうと思っていたのだけど。
「それは、駄目」
私は、知らない人の言葉を否定していた。
「…何で?」
知らない人が、私を見た。笑っていなかった。解らない。なんで、私はあんな事を言ったの?
知らない人が、近づいてくる。止めて。何するつもりなの。止めて。私はいつの間にか駆けだしていた。
振り返る。追って来てない。良かった。
「きゃっ」
何かにぶつかって、尻もちついちゃった。よく見ると、透明な壁がある。何これ。
「それ、魔法障壁っていうの。便利でしょう?」
後ろから、声が聴こえた。振り返るけど、誰もいない。でも、ひたひた、っていう足音が聴こえる。
壁を叩く。壊れて。壊れて。
「うふふ、無理よ。私が創った壁だもの」
足音が止んだ。肩に、冷たい感触がある。白い手が、肩に乗せられている。
「教えてくれる、こいし。どうして私は外に出ちゃダメなの?」
「あっ…あ…」
壊される。やだやだやだ、死にたくない。許して。助けて。
「なんで教えてくれないの?」
知らない人が私の首をぎゅっ、と握った。そのまま、力が強くなっていく。
「ごめんなさい…」
自然と、声が漏れ出た。
でも、弱まる事はなかった。じわじわと、少しずつ締めあげる力が強くなっていく。
なんだか、頭がぼーっとしてきた。頭がじんわり温かくなっていって、なにもかもが紅くなっていく。
コヒュー、コヒューという耳障りな音がする。何だろうと思ったら、私の喉から鳴っていた。
「うふふ。こいし、もうすぐ死んじゃうわね」
シンジャウ?ああ、死んじゃう、か。私は死んじゃうのか。
もういいや。何も考えなくて。考えるのは、もう嫌だから。
「ごめんなさい」
最後に、多分私はそんな事を言った。