東方汚染星 ~Corruption Of The Last Eden~ 作:影のビツケンヌ
湖
大気圏に突入する過程で、私の乗っていた隕石は複数の破片に砕けたらしく、幻想郷のそこかしこからフェイゾンを感じることができる。汚染の度合いはわからないが、私にはあまり関係ない。
最も手近なフェイゾンは、私のいた建造物――紅魔館の前、霧の湖にあると踏んだ。
「そこのお前!」
湖上を飛行中、何者かに呼び止められた。
「あたいと勝負しろ!」
そういえば、パチュリーはこの湖周辺が馬鹿な氷の妖精の縄張りだと言っていた。つまり、私に声をかけたこの青い少女は件の氷精チルノということになるだろう。声に振り返り、スキャンを開始する。
『異形形態:チルノ 自然の具現である妖精の一種。元々冷気を操る特殊能力を備えていましたが、フェイゾンによる環境汚染の影響で能力が強化されています。現在の戦闘能力はランダスにも相当する模様。フェイゾン病の兆候が見られ、このまま環境汚染が進行すれば発症は確実です。ただし、汚染は必ずしも悪影響を与えている訳ではなく、知能指数が若干上昇しています。』
少々厄介だ。ここは無視して進むことにした。フェイゾンでシールドを張っておけば問題ない。
「あっ、逃げるな!」
チルノが追ってきたが、私のスピードには到底追い付けまい。
湖の対岸に辿り着くと、案の定そこには隕石の破片と、それによって出来たクレーターが異様な存在感を放っていた。破片といっても小さい訳ではなく、長さはおおよそ一メートル弱あるだろう。その割れ目からはどくどくと液状フェイゾンが流れ出、土壌を汚染している。
もしかすると、私が
だが、その考えには疑問もあった。そのような危険分子である私を、何故妖怪の賢者は黙って見過ごし、私の前に姿を見せないのか。私が幻想郷にとっての敵であるならば、私が幻想入りした時点で彼女は間違いなく私を殺しにかかったと思われる。
殺しにかかるといえば、私の存在が幻想郷中に知れ渡った場合も、各地の勢力が私やフェイゾンを消そうと試みるだろう。あるいはその中の、フェイゾンのエネルギー資源としての活路を見出だした者が、私を、そしてフェイゾンを奪取するやも知れぬ。
どのみち平穏に過ごすことは出来なさそうだ。常に睨みを利かされることになろう。
「待てえええええええええ!!」
「…またか」
この声はチルノのものだ。いい加減邪魔なので消し飛ばそうか。
「でかい図体して逃げ回りやがって!あたいのアイシクルフォールを喰ら…ぐうっ?!」
だがチルノは私がアームキャノンを向けるより早く苦しみだした。間違いない。これは汚染の進行がかなり重度な証だ。
「くっ、…うわあああああああぁあぁぁぁああ!!!!」
響く絶叫。次の瞬間、辺り一面が強烈な光に包まれた。
「!」
咄嗟にフェイゾンのフィールドを展開、防御を試みる。しかしその行為は良い意味で無駄となった。爆発現象等の、自身に危害が及ぶものではなかったからだ。
視界が鮮明になるにつれて、チルノの身に何が起きたのかわかってきた。癖のあったショートボブの髪は長く伸び、体躯も強く逞しく発達している。スキャン結果がバイザーに表示された。
『異形形態フェイゾン系:チルノコラプター フェイゾン汚染の影響で氷精が特異なフェイゾン生命体へと変異した模様。現在は環境から完全に独立した存在です。妖精としての異常な自己再生能力はフェイゾンエネルギーにより更なる強化が為されています。現状での戦闘能力は惑星エーテルでのダークサムスに匹敵。』
幻想郷に来て初めて会った同族。胸に不思議な感慨が込み上げてきた。新しい『仲間』に、私は声をかけようとした。が、
「…お母さん?」
しかし、私が思っていたより状況は複雑怪奇だった。