17.
1学期最後の関門である期末試験当日。
試験終了後のホームルームが終えるのとほぼ同時に教室を出た。
目当ての人物がいるであろうBクラスに到着すると、教室の中央にできている人集りが目につく。
その中心にいる生徒へと私は声をかけた。
「図書館で会って以来ね、こんにちは一之瀬さん」
「こんにちは。‥‥‥えっと、堀北さんだったよね、どうしたのかな?」
「突然ごめんなさい。いくつか聞きたいことがあるのだけれど、少しいいかしら?」
闖入者である私を、周囲の生徒が訝しげに注視してくる。
事前の通告無しの訪問なので、場合によっては出直すことも考慮していた。
「うん、大丈夫だよ。場所は変えたほうがいい?」
ただ、一之瀬さんは受け入れてくれるみたいだ。
その上、こちらの状況まで考慮して助け舟まで出してくれている。
「そうね、そうしてもらえると嬉しいわ」
複数の視線に晒されても苦ではないけれど、都合が良いので彼女の提案に従ってBクラスから出る。
2人で話せる場所に到着すると、こちらが口を開く前に一之瀬さんから声をかけてきた。
「それで、聞きたいことって何かな?」
「まずはお礼を言わせて。中間試験の時、試験範囲の違いを指摘してくれて助かったわ。今更かもしれないけれど、ありがとう」
「この前、浅村君にも同じようなこと言われたよ。気にしなくていいのに」
一之瀬さんは朗らかに笑いながら、本当になんでもないことのように、そう口にしてくる。
「それで、本題に入るわね。夏休みのバカンスについて、Bクラスが知っていることを確認させてもらえないかしら?また私達だけ間違った情報を伝えられているかもしれないから」
「あ、なるほどね!えっと、今のところ言われているのは───」
期末試験の結果を発表した翌々日の朝に離島へ向かう豪華客船が埠頭から出発、その昼頃に船が離島へ到着。離島に1週間滞在し、その後さらに船上で1週間過ごす。
一之瀬さんが口にした内容はそんなところで、概ねこちらの情報と一致している。
「───こんなとこだけど、堀北さんの聞いてることと食い違いはある?」
「今聞いた限りでは無いわね。‥‥‥もう1つ、Cクラスについて確認させてほしいのだけれど」
私の言葉を聞いても一之瀬さんは表情を変えない。
応答する前に、自然な仕草で周囲を窺うと私へ視線を戻す。
「うん、何かな?」
「実はDクラスとCクラスの間でトラブルがあったの。Bクラスで似たような話がないか確かめたくて」
浅村君と私は、BクラスとCクラスの間でも何かトラブルがあったと睨んでいる。中間試験後に両クラスともクラスポイントの上げ幅が小さかったこと、それと先日の特別棟での出来事を踏まえてその推論に至った。
「‥‥‥そっか、Dクラスもなんだ」
「ということは、Bクラスも揉めたのね?」
「うん、おかげでクラスポイントにも響いちゃった」
Bクラスが受けたクラスポイントのペナルティは、おそらく1桁ではすまない。中間試験後に本来増加していたはずのポイントはわからないけれど、制裁として削減された数値は100近い可能性もある。
もしかしたらDクラスも同じ目に遭っていたかもしれない。それなのに、特別棟であったトラブルの詳細を私は聞かされないままだ。
「私達とDクラスの両方とトラブルを起こしているんだね、Cクラスは。これって偶然なのかな?」
「なんとも言えないわね」
偶然じゃないというのは浅村君の見解。私がまだ会ったことの無いCクラスの生徒、龍園という人物を彼は警戒している。ここ最近Cクラスからあったという接触を主導していたのがその生徒だと疑っていた。
「確かに何か証拠があるわけじゃないよ?でも」
一之瀬さんが話している途中で、彼女の携帯から着信音が鳴り響く。どうやら時間切れらしい。
「あ、千尋ちゃんからだ。ごめんね堀北さん、そろそろ行かないと」
「いえ、こちらこそ急に押しかけてごめんなさい」
話の続きが気になるところだけれど、最低限知りたかったことは確認できた。
最後に1つだけ話をして、今日のところは終わりにしよう。
「その、差し支えなければ連絡先を教えてもらえないかしら?これから先、情報交換することもあるでしょうし」
「確かにそうだね。お願いしようかな」
個人的な目的も達成できたことに安堵していると、一之瀬さんがさっきまでとは違った視線をこちらに向けてくる。
人を待たせているのに立ち去る様子がない。
「‥‥‥なにかしら?」
「堀北さん、聞いていたよりも話しやすい人なんだね‥‥‥って、もう行かないとだ!それじゃあね!」
再度携帯から着信音が鳴り響いて、一之瀬さんは急ぎ足で去って行く。
彼女の背中が見えなくなったので、浅村君へ連絡を取ってこちらの話が終わったことを伝える。その場で待っていて欲しいと言われて、それから1分もしないうちに彼が現れた。
「早かったわね。近くにいたのかしら?」
「うん、こっちの方が先に終わったみたいだったから。それで、どうだった?」
「星乃宮先生ならいなかったわ。あなたも一緒に来れば良かったのに」
Bクラスの担任である星乃宮先生の名前を口にすると、浅村くんは少しだけ眉根を寄せる。
普段は表情を崩さない彼だけれど、時々こう言った反応をすることに最近気付いた。
その様子をひどく子供っぽく感じることがあって、1人の時にふと思い出して笑ってしまったこともある。
「単に手分けしたかっただけだよ。それに、俺が聞きたいのは一之瀬さんの話」
「ええ、わかっているわ」
さっきまで一之瀬さんと話していた場所で、今度は浅村君との密談が始まる。
「まずはバカンスについて。一之瀬さんが話してくれた内容は、こちらが把握していることと一致したわ」
「俺は葛城に確認したけど、こっちも同じ。今回は俺達だけ重要なことを教えられてないってことはなさそうかな。葛城も一之瀬さんも、調べたらわかるようなことを隠したりはしないだろうし」
Aクラスの友人だと言う葛城君についてはあまり知らないけれど、一之瀬さんをそう評価する理由は理解できる。
以前図書館で会った時やさっきの私への対応を見ると、私と違って彼女は大勢に好かれるタイプに感じた。
「これからも他のクラスが教えられている内容くらい、ちゃんと知らせてもらえるといいんだけどね。ただでさえ大きく遅れをとっているんだから」
「そうね、担任のことまで疑っていたらキリがないもの」
「ただまぁ、今回もこれから先も疑わざるを得ないんだよね‥‥‥。バカンスでのクラスポイント変動は確定したわけじゃないけど、俺達の予想通りなら今回は学年全体が隠し事をされているわけだから。この学校に勤めている大人達、本当にいい性格をしていると思う」
浅村君は最近、学校の職員に対して辛辣な物言いをするようになった。今までの経緯を考えれば当然の反応だけれど。
「あぁごめん、話が逸れたね。それで、葛城にバカンスのことを聞いた時に探りを入れられた。どこまで把握しているのかはわからないけど、この学校が企画した旅行を単なるレクリエーションだとは葛城も思っていないみたいだよ」
「そう、やっぱり私たち以外にも気付いている人がいるのね」
浅村君が3年生からクラスポイントの変遷を入手したように、他の生徒も何かしら情報を入手している可能性は考慮していた。
Aクラスならその豊富なプライベートポイントを活かせば、私達よりも容易に情報を得ることができるはず。
‥‥‥この前少しだけ追求したけれど、浅村君が何を対価に差し出して情報を入手したのかはわからないまま。
先日私が3年生から同じ情報を手に入れようと試みた時は、とんでもない額のプライベートポイントを要求された。
個人では到底賄えないし、Dクラスの私達では複数人からポイントを集めても届くとは思えない。
となると思い当たる節は1つだけ。もし私の予想通りなら彼とはしっかり話し合う必要があるけれど、すぐに確かめるのは難しい。
「一之瀬さんはどうなんだろう。気付いてると思う?」
「わからなかったわ。特に変わった反応はなかったけれど」
気付いていないのか、それともその振りをしていたのか。
彼女の性格が善良だとしても、ちょっとした演技くらいしてきても不思議ではない。それに私は、笑顔を崩さないままこちらへの悪感情を口にすることができるクラスメイトを知っている。
一之瀬さんがそうだとは限らないけれど、人の良さを振り撒いている彼女に対してはどうしても身構えてしまう部分があった。
「AとCにも言えることだけど、大掛かりな準備をしている様子はない。だから、気づいてたとしても核心には至ってないと思うよ。‥‥‥そういえば、Cクラスについては確認できた?」
「予想通りBクラスとCクラスの間でもトラブルがあったみたいね。ただ、詳細は聞かなかったわ。こちらが話せないのに聞くわけにはいかないもの」
その理由である彼を咎めるつもりで視線を向けても、かけらも気にした様子はない。それどころかどこか楽しんでいるように感じてしまう。彼の表情は変わっていないし根拠はないのだけれど。
「‥‥‥それで、Aクラスの方はどうだったの?」
「葛城が知る限りではCクラスと大きなトラブルはないって言ってた。龍園のことは特別棟で揉める前から知っている様子だったけど」
「一之瀬さんからその名前は出なかったわ。ただ、Cクラスについて思うところはある様子だったし、彼女も知っているかもしれないわね」
「どんなトラブルがあったのか気になるけど、大方Cクラスがちょっかいを出したんだろうね」
「それについて、もしかしたらBクラスから協力関係を持ちかけてくるかもしれないわ。Cクラスのことを脅威として捉えている様子だったし、Bクラスからすると他に選択肢がないもの。仮に組むのならBクラスだとこの前言っていたけれど、実際に提案されたらどうするつもりかしら?」
「‥‥‥悩むなぁ」
「意外な反応ね」
私の言葉に対して浅村君は、少し間を置いてから反応する。
「引っかかってることがあって。真っ先に狙うべきAクラスを狙わないで、BやDを狙ったのはなんでだろうね?」
「‥‥‥確かに気になるわね」
「もしかしたらBクラスと俺達Dクラスが接近することが、龍園の狙いなのかなって思ってさ」
「そうだとして、Cクラスにどんなメリットがあるのかしら?」
「俺達とBクラスが組んでAクラスとぶつかる構図にして、漁夫の利を得ようとしているとか。他にも、BとDが組んだことで危機感を抱いたAクラスに接近するとか。パッと思い付いただけの、可能性の話だけどね」
「‥‥‥随分と警戒しているのね、その龍園という人を」
「無策で2つのクラスに喧嘩を売るような奴だとは思えなくて。なにも考えず全方位へ喧嘩を売っているだけのやつなら怖くないんだけどね。それなら放置しても自滅するだろうし、その分AクラスやBクラスに集中できるから気が楽だ」
特別棟での事件以来、彼の関心の大部分がその龍園という生徒に向いている。須藤君が狙われたから過敏になるのは仕方がないと思うけれど。
「正直なところ、厄介さで言えば葛城や一之瀬さんよりも上だと思っているんだ。この前の騒動もこっちの出方を測っていたみたいだし、もし龍園が何か仕掛けてきても1人だけで対処しないでね」
「そんなことしないわよ。この前怪我をした誰かさんにこそ言い聞かせたい言葉ね」
思わずため息をついてしまう。私の皮肉を聞いても、目の前の誰かさんは相変わらずの様子だ。
「もし怪我したら、また治療してもらおうかな。‥‥‥っと、そろそろ平田と約束した時間だ。この前話した通り、バカンスについては俺から伝えておくから」
クラス内で誰と連携するべきか浅村君と話した時、最低でも平田君との協力は必要不可欠ということで意見が一致した。
だから、情報を伝えること自体に異存はないのだけれど。
「ええ、私はいない方がいいのでしょう?」
「ごめんね。蔑ろにするつもりはないんだけど、最初だけは任せて欲しい」
「別に気にしていないわ。私が関わると軽井沢さんの気分を害することになるのかは未だに疑問だけれど」
浅村君が言うには、私と平田君がいきなり関わりを持ち始めると軽井沢さんがいい顔をしないらしい。
「自分の彼氏とクラスメイトの女子、最低限の会話しかしていなかった2人が突然よく話すようになったら、気にすると思うよ。その上クラスメイトの女子がとびっきりの美人だったりしたら、どんな気持ちかな?」
「‥‥‥真顔で冗談を言うのはやめて欲しいものね。とにかく、平田君についてはお願いするわ。櫛田さんと綾小路君については私に任せて」
とは言ったものの、2人へどう伝えるかなんて全く決めていない。
「よろしく。こっちの話が終わったらまた連絡するから」
そう言うと浅村君は教室へと向かった。
事なかれ主義者を自称しているくせに、茶柱先生には関心を寄せられている綾小路君。
私を嫌っていると笑顔で言い放った櫛田さん。
2人はAクラスを目指す上での仲間だと浅村君には説明してしまったけれど、その関係は宙に浮いたまま。
今まで1人で生きてきたつもりの私には、どうすることが正解か全くわからなかった。
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マイルーム with Dクラスが誇るイケメン
須藤以外を部屋に入れるのって初めてだから、なんか新鮮だ。
「大したものがないんだ、呼びつけておきながら申し訳ない」
「うん、お構いなく」
本当は今日のためにお菓子とか用意してたんだけど、昨夜須藤に出してしまった。期末試験最後の追い込みでオーバーヒートしてるのを見たら、手が滑って。ま、平田なら許してくれるでしょ。
座っている平田に麦茶を提供してから、机を挟んだ向かい側に腰を下ろす。
「それで浅村君、相談したいことって何かな?」
「いろいろあるんだけど、何から話したもんかな」
たくさんあるんだよ、話したいこと。
堀北との仲を進展させるにはどうしたらいいのかとか。
堀北が好きなことを須藤に白状したいんだけど、どうやって言えばいいのかとか。
バカンスでクラスポイントが動きそうなこととか。
Cクラスとのゴタゴタとか。
平田が監視者なのかどうかとか。
堀北の話は置いとくとして、他の内容は今日中にある程度済ませる予定。特に監視者か否かの確認はバカンスで協力するための絶対条件だ。
元々平田が監視者の可能性なんてほとんどないし、疑うような真似はしたくない。だけど、確かめないまま堀北に近づけるのは不安すぎる。
イケメンで勉強ができるクラスの人気者って設定だけを見るなら、なにかしら裏の顔を持っていることが当たり前に思えてしまう。メタ読みだから、誰にも説明できない根拠なんだけどさ。
「中間が終わったくらいの時期に、須藤達がCクラスの奴らに絡まれた話って知ってる?」
「うん、本人達から聞いたわけじゃないけどね」
「実は、俺も絡まれてさ」
俺がそう口にした途端に、平田の表情が険しくなる。
「もしかしてこの前の怪我、あれもCクラスに?」
「その時はうまく逃げたから心配しないで。この前の顔の怪我なら、単に俺がやらかしただけだから」
石崎のせいにしない俺は模範的な生徒だと思う。ポイントくれてもいいんだよ?
「あれ以降絡まれてはいないけど、また同じことがないとも限らないし」
「‥‥‥あまり大事にしたくないと思ってたけど、学校に訴えるべきなのかな」
「そうするべきかもしれない。ただ、あの茶柱先生が簡単に話を聞いてくれるとも思えないんだよね。結構前の話だし」
「それでも何もしないよりはマシだよ」
今のところ、平田に怪しい様子はない。クラスメイトのことを気に掛けている、我らが平田大明神のままだ。こんなイケメンを疑ってかかる自分が汚く思えるけど、これも堀北のため。
「俺もそう思う。心配してるのは、当事者だけだとこっちの言い分が通るかわからないからことかな」
「‥‥‥もしかして目撃者がいるのかな?」
ここからが正念場だ。
どんなに小さなぎこちなさも見落とさないよう、平田を直視しながら言葉を続ける。
「うん、放課後に特別棟で俺が絡まれて、それを男子生徒が見たはずなんだけど、声をかけようとしたら逃げられて」
「その人に証言して貰えば有利になるかもしれないね。何か特徴はなかった?」
「ちらっとしか見てないからわからないんだよね。ただ、制服は真新しい感じだったから多分1年生だと思う。体格はちょうど平田くらいかな」
体格についてははったりだけど、1年生の男子なんて平田くらいの体格がほとんどだ。
「‥‥‥それだけだとなんとも言えないね。具体的な日時と場所はわかる?」
「それならメモしてある」
そう言ってアルベルト達に絡まれた場所と時間を記載した手帳を開いて見せる。
これを見せても反応がなければひとまず白だな。チート視力を駆使しても見破れないレベルの演技をされてるとしたら、そもそも俺の手に負える相手では無かったってことだ。
「‥‥‥場所は特別棟3階。日時は‥‥‥ちょうど僕が部活に行ってた時間帯か」
‥‥‥アリバイ調べるの忘れてた。普通に白じゃないか。いや、元々999割の確率で白だと思ってたんだけどさ。
「そっか、もし近くにいたら何か知ってるかもと思ったんだけどさ。残念」
口ではそんなこと言ったけど、実際はすごく安心した。いやマジで。
もし監視者が組織ぐるみなら白だとは言い切れないけど、この世界ってそこまで殺伐としてないんじゃないかなって最近思い始めた。
それに監視者が単独じゃなかったとしたら味方を増やさないといけないし、その点でも平田を信じるのはベターだ。
というか、友達相手に腹の探り合いとかいやだよもう。心が痛い。どうせ他のクラスの生徒か、そうじゃなきゃまだ出てきてない人物が監視者なんだろ?高円寺みたいなチートが他にも何人かはいるかもしれないし。
そもそも平田が堀北兄の暴行を見逃すわけがないだろ。ぼっちだった堀北や俺を気に掛けてくれてたイケメンだぞ。誰だよ疑った奴。
とりあえず警戒モードはやめやめ。一応アリバイの裏は取るけど、それで平田についての確認は終わり!
「ごめん、話が逸れた。目撃者のことはダメ元で聞いただけで、言いたかったのはCクラスには気をつけて欲しいってことなんだ。Cクラスの生徒、Bクラスとの間でもトラブルを起こしてるらしいから」
どうせそっちも龍園の差し金だ。さっき堀北と話した時は言わなかったけど、あいつがDクラスにちょっかいを出してきた理由なんてわかりきってる。
狙いは堀北だ。ああいう手合いが要求してくることなんて古今東西変わらない。
この前の特別棟で須藤が石崎を殴った時、俺じゃなくて堀北が現場に到着してたらと考えるだけでも背筋が寒くなる。
『須藤が石崎を殴ったことを黙ってて欲しいか?それならどうすればいいかわかるよな、鈴音』なんて言いながら龍園が詰め寄る光景がありありと目に浮かぶ。
Bクラスにちょっかいを出したのだって一之瀬あたりのカラダが目当てだろうし。
堀北は当然として、一之瀬も恩人だからな。龍園の魔の手から、俺が守護らねばならぬ。
「そうなんだ‥‥‥。少し前にCクラスに気を付けるよう言ったけど、クラスのみんなには改めて注意喚起するべきかもしれないね」
とりあえず、平田も龍園のヤバさは理解してくれたみたいだ。
彼氏なんだから軽井沢のことはちゃんと守らないとダメだからね?俺も頑張るけどさ。
「うん、改めてよろしく。それで、次はもう少しマシな話題なんだけど───」
確証はないけど、恐らくバカンスでクラスポイントが動くこと。他のクラスで準備をしている様子はないこと。そんなことを平田に伝える。堀北と2人で調べたと言う部分は特に入念に説明しておく。
‥‥‥みんなが楽しみにしてるバカンスが実は試験でした、って話題がいいものかどうかは微妙だけど、Cクラスについて話すよりは気が楽だな。平田の表情も幾分かマシになってるし。
「‥‥‥浅村君にも堀北さんにも、なんて言ったらいいか。勉強会を開催しながら、他のことでも動いてくれてたなんて」
「帰宅部だからね。余ってる時間を有効活用しただけだよ」
だから気にしないでいいんだよ、平田。でもどうしても気にするって言うのなら、さっきまで疑いの目を向けていたことを許して欲しい。
いや、疑ってたわけじゃないけどね。念の為調べただけで、白だと思ってたんだけどね。
いやでも、本当に気が楽になった。予定してたことは話し終えたし、後は学生らしい普通のお喋りでもしよう。
‥‥‥引っ掛かってるクラスメイトが後2人いるんだよな。
他の人に話せるような内容じゃないから、確認する方法から考えないといけないけど。
そいつら相手には、監視者か否か以外にも確かめたいことがある。