ようこそ知らない世界の教室へ   作:マサオ

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23.

 堀北の可愛さに完全敗北してから数分後、目的地である川辺のスポットが見えてきた。

 既に集合していたクラスメイト達はこちらへ気付いた様子で、その中から抜け出した大柄な人影が小走りで近づいてくる。

 

 ある時は俺を星乃宮先生に売り渡そうとし、ある時は俺を誘わずに探索へ出発した裏切り者。

 須藤健だ。

 

「遅ぇぞ2人共。迷ったのかと思ったぜ」

 

 須藤は腰に手を当てながら、こちらに向かって口を開く。

 

「浅村。お前、探索組だったらしいじゃねえか。行く気だったならそう言えっつーの」

「行かないだなんて言ってないでしょ」

 

 須藤がこんなことを言ってくるってことは、俺が探索には参加しないだろうと判断したために池と山内へ声を掛けた可能性が高い。

 それならば情状酌量の余地がある。

 とりあえず、夏休み問題集プラス2ページについては執行猶予にしておこう。期間は1日くらいで。

 実はほんのちょっとだけ、大人気ない対応だったかもしれないと思っていたのだ。

 

「そうだけどよ‥‥‥おい、それ両方とも持ってきたのか?」

 

 話を中断して、訝しげに訊ねてくる須藤。

 2本の指でこちらを差していて、その先には俺が両肩から下げている鞄がある。

 

「まあね」

「1人で欲張りすぎだろうが。つか、他の男共は何してたんだよ。オラ、片方寄越せ」

 

 そう言うなり、俺の返事を待たずに荷物を取り上げてきた。

 

「うぉっ!?これ結構重ぇな」

 

 須藤はそんなことを言いつつ、クラスメイト達の方へと先に戻っていく。

 

 いつの間にこんなイケメンムーヴを覚えたのだろうか。

 是非他のクラスメイトにもやってあげて欲しい。

 さっきだって何人かの女子からこちらへと、熱い視線が送られていたのだ。

 その人達へ実行すれば、さらに評判が上がるのは容易に想像できる。

 

 これなら執行猶予扱いの夏休み問題集プラス2ページについては、1日の期間経過を待たずに消滅させてもいいかもしれない。

 善行に相応の報いがあるのは世の理だ。

 

 

 

 

 

 

 

「彼、張り切っているわね」

 

 隣にいる堀北が、感心したように須藤の背中を見ていた。

 情状酌量の余地皆無。

 あざとい行動によりプラス12ページの刑に処す。

 

 執行猶予となっていたプラス2ページ、それの消滅も取り消しだ。

 期間内に問題行動を起こしたのだから、もちろん加算することになる。

 悪行に相応の報いがあるのは世の理だ。

 

 せっかくのチャンスをふいにしてしまったな、須藤。

 

 

 

 

 

 さて、全員が有罪を主張している『12人の怒れる男』は脳内で続行するとして、まずは確認事項の消化を優先しよう。

 

 その後は話し合いの続きとここら一帯の整備。

 やることが山積みだ。

 早く終わらせて堀北とお喋りしたい。

 

 1週間頑張れるとは言ったけど、ホリキタイムがいらないとは言っていないのだ。

 

 

****

 

 

 堀北と話した内容について、平田にはある程度共有した。

 リーダー偽装の理由は内通者云々の部分を伏せて、須藤あたりは嘘が上手ではないといった感じで説明。

 

 予想通りではあるけど、俺の単独行動について懸念を示された。

 

 3年生のDクラスは一度もC以上に昇格したことがない事実。

 バカンスでクラスポイントが変動することを事前に察知していた堀北と俺の発言力。

 そこら辺を使って、リスクを負うことも必要だとゴリ押し。

 強引に進めるのは本意じゃないけど、長々と話す時間がない以上仕方なかった。

 

 知名度についても色々言われたけど、それは俺のせいじゃない。

 星乃宮先生が悪いのだ。

 つまりは不可抗力。

 だから、俺のせいじゃない。

 

 

 そんな感じで平田もなんとか説得できたので次のステップへ。

 いくつかの疑問を解消するため、答えを知っている人物がいるだろう場所へ向かっている。

 

 行き先はDクラスのベースキャンプが見える場所にある設営途中の教師用テント。

 

 そこへ近寄ると、テントの陰から2人分の話し声が聞こえてきた。

 

「体調が優れなくてね。リタイアさせてもらうよ、ティーチャー」

 

 1人は高円寺。

 

 リタイアの具体的な基準について質問するつもりだったけど、まさか聞く前に答えを知る機会があるとは。

 そしてそれを実践するのが高円寺であることも幸いだ。

 Dクラスの試験ポイントがマイナスになるとしても、監視者候補がリタイアするのは俺にとって悪い話ではないのだから。

 

 もうあんな介護をしなくて済む、という安堵も少しだけあることは認めよう。

 本当に少しだけだ。

 

「一度リタイアしたら試験には復帰できない。それでも構わないか?」

「もちろん。もうこの島に興味はないからねぇ」

 

 会話はそれで途切れ、テントの向こう側から高円寺が出てくる。

 こちらを一瞥したリタイアターザンは、とてもいい笑顔でウィンクをかましてから砂浜の方角へ足を向けた。

 

 これで試験ポイントマイナス30。

 止める気がない俺が言うのもなんだけど、本当に好き勝手やってくれる。まじで爪食わせるぞ。

 

 とりあえずこっちに来たウィンクは、脳内で打ち返しておいた。

 もちろんフルスイングでのピッチャー返しだ。

 堀北以外からのウィンクは受けつけていない。

 

 そんなことを考えながら高円寺を見送っていると、残っていた気配もこちらへ動く。

 物陰から現れた茶柱先生が俺に気付いたので、会釈をしてからそちらへ歩み寄る。

 

「止めないのだな」

 

 質問するためにここへ来たことを告げようとしたら、その前にあちらから声をかけてきた。

 内容は、今立ち去った問題児について。

 

 

 この担任は以前、わざわざ呼び出してまで俺に発破をかけてきたことがある。

 そんなことをするくらいだから、高円寺にも何かしらのアプローチをするのかもしれない。

 そう思っていた。

 ただ、さっきのやりとりを聞く限りだと俺の予想は外れたのだろう。

 

 

 ‥‥‥よもや、まさか、もしかして、それも俺にやらせようとしているのか?

 

 だとしたら冗談じゃない。

 俺は高円寺の保護者ではないのだ。

 どう考えても教師の領分だろう。

 そもそも人には各々の力量で実現可能なことと不可能なことがあって、俺にとって高円寺の介護は後者に分類される。

 堀北からお願いされた場合を除けば、そもそも挑戦する気すら起きない難題だ。

 

 そんなものを人に押し付けようとしないで、きちんと職責を果たして欲しい。

 

 あの自由人のコントロールが、茶柱先生にとっても容易ではないということは理解できる。

 だけどそんなもの、高円寺の説得を諦めていい理由にはならない。

 無理とは嘘つきの言葉なのだ。

 それを教え子達に理解させるため、一見不可能だと思えることに挑戦する姿勢を見せることは、教育者である茶柱先生の責務だろう。

 

「どうせ無駄骨です。先生こそいいんですか?」

「1度引き止めた。聞こえていただろう?」

 

 あんな事務的に確認しただけの作業を、引き止めたとは認めない。

 最低限の仕事はしてから人に投げろと言ってやりたいところだけど、まあいい。

 そんなことよりも質問だ。

 

「‥‥‥もし俺が、高円寺みたいにリタイアを申し出たらどうなります?」

「あいつと同じだ。船に移動することになり、試験には復帰できない」

「それは、俺がリーダーだったとしても?」

「その場合は、少し話が変わってくる」

 

 ビンゴ。リーダーのリタイアに関しては、他の規定があると睨んだけど正解だったらしい。

 入学時にクラスポイントなどの制度を説明しなかったことといい、この試験をバカンスと偽ったことといい、本当に癖のある教師達だ。

 隠し事や嘘はいけないことだと言ってやりたい。

 

「というと?」

「リーダーがリタイアを申し出た場合、乗船後に必ずメディカルチェックが行われる。その結果を基に、リーダー変更に足る理由があるかどうかの判断を下す」

 

 他クラスから指名されることを回避するために行われる自己申告リタイア、それへの対策だろうか。

 さらに気になることが出てきたから、1つずつ確認するとしよう。

 

「いくつか質問させてください。まず1つ目。その検査、誰が実施するのでしょうか?」

「船で待機している医師だ。星乃宮ではない」

 

 ならばよし!次!

 

「検査の結果、リーダー変更の理由に足ると認められなかった場合はどうなります?」

「そのまま島に戻って試験続行だな」

「つまりリタイアできないと?」

「ああ」

 

 なんらかの理由でリーダーであることが他クラスにバレた場合、リタイア以外に回避する方法が今のところ思いつかない。

 なんとか正当だと認定させたいけど、そのために取れる手段といえば。

 

「その理由、プライベートポイントで買えます?」

「ほう、買収するつもりか?」

「ええ。いけませんか?」

「逆に聞くが、問題がないと思っているのか?」

 

 質問の応酬になった。

 できるともできないとも明言してこない。

 つまりは何かあるってことだ。

 

「俺では判断がつきません。それで、どうなんでしょうか?」

「‥‥‥リタイア時にその旨を申し出れば可能だ」

「なるほど。その場合いくら用意すれば足りますか?」

「現時点では答えられない。リーダーの実際の体調、試験開始からの経過日数、スポットの占領回数などから総合的に判断するだろう」

 

 足元を見てふっかけてくると。

 学生相手になんて大人達だろうか。

 試験を運営している人間を相手にするわけだから、口先でごまかすことも難しい。

 

「ご存知の通り、Dクラスは入学時に頂いた10万ポイント以外で大した収入がありません。現在保有している以上のポイントが請求された場合はどうなりますか?」

「正当な理由がないのだから、試験続行だな」

 

 メディカルチェック後に必要ポイントが確定するのだから、不足した場合は一度乗船した後に船から島へ戻ってくることになる。

 他クラスにそんな場面を見られでもしたら致命傷になりかねない。

 

 堀北とのデート資金がなくなってしまうだけでも業腹だというのに、尚更この策を採用する気が失せた。

 ということは仮に俺がリーダーであると露見した場合、なんとか正当な理由を作るしかないわけだけど。

 

 ‥‥‥どうしよう。

 今のところ、思い切って骨をポキっていく以外に方法が思いつかない。

 堀北のためならば、10本や20本犠牲にする覚悟は完了しているけど、できるだけ痛い思いはしたくないのも本音だ。

 それに、何本捧げればリタイアに足る理由として認定されるかもわからない。

 

 想像してみよう。

 リタイアを認めてもらえるまで、ひたすら茶柱先生や医師の目の前で骨をポキっていく俺を。

 

『これで如何でしょうか?』

『まだ50万といったところだな』

『では追加で2本いきます』

 

 ‥‥‥なかなかに猟奇的な絵面だ。

 堀北には絶対見せたくない。

 

 

 体調や経過日数、占領回数で判断すると言う話からすれば、早めにリタイアすることで手持ちのプライベートポイントのみで届く可能性も高くなるけど、そもそもスポット更新でポイントを増やせなければ本末転倒。

 堀北と離れる時間が長くなるという点でもありえない選択肢だ。

 俺が死んでしまう。

 

 

 以上を考えると、リーダーのリタイアは計算に入れるべきじゃない。

 どうしようもなくなった時に、ダメ元で実行する程度の策だ。

 とりあえずは、他クラスに見抜かれないよう注意するしかない。

 

「最後に1つ。Dクラスのリーダーが誰かを質問された場合、茶柱先生はそれになんと答えますか?」

「試験の根幹をなす部分だからな。質問した人物が誰であれ、私がその問いに答えることはない」

「わかりました。リーダーは俺が受け持つので、キーカードの準備をしてもらえますか?」

「いいだろう。すぐに用意できるから少し待て」

 

 そう言ってテントの中に入ろうとする茶柱先生へ口を開く。

 

「それは後でお願いします。みんなの前で堀北さんへ渡して下さい」

「‥‥‥わかった。都合の良い時に呼べ」

「ありがとうございます」

 

 最後に礼を述べてから、クラスメイト達の方へと戻る。

 

 タスクは1つ消化して残り2つ。

 早く終わらせて堀北とお喋りしたい。

 

 

****

 

 

 Dクラス総出でベースキャンプの足場を整備中。

 話し合いを先にしようかと思ったけど、一度頭を冷やしてもらうために時間を空けた。

 根回ししてから円滑に進めようという話になって、俺は幸村や池と話すことに。

 

 さっきの流れは大体堀北から聞いているけど、どうなることやら。

 

「浅村。少しいいか?」

 

 わざわざ幸村の近くで作業していたら、狙い通りこちらへ話しかけてくる。

 

「うん、どうかした?」

「今回の試験だが、他のクラスとの差を少しでも縮めるために、可能な限りポイントの消費は抑えたい。そう思ってるんだ」

 

 俺は地面の草を毟りながら聞く。

 

 ここら一帯には樹木の生えていない空間があり、俺達のベースキャンプはそこに構えることになった。

 ただ、木が生えてないとは言っても人間が暮らしている環境ではない。

 地面には膝下あたりまでを覆い隠す程に成長した草が茂っている。

 歩く時に邪魔だし、暗くなれば足を取られて転倒する可能性も。

 だから動線確保の一環としてぶちぶち引っこ抜いているわけだ。

 

 堀北が転んで怪我をするかもしれない、そう考えるだけで草を握る手に力が入るというもの。

 時間が許すのなら、この島全域の草を撲滅してやりたい。

 

 ただ、草はまだいい。

 そこに生存しているだけで、堀北に接触してしまうのは草にとっても不可抗力。

 だから、ある程度は生きることを許容してやろうという気にもなる。

 

「池とかも賛同してくれたが、軽井沢あたりの女子達はそうじゃない。あいつらはそもそも節約という概念を知っているのかも疑わしい」

 

 問題は蚊だ。

 奴らは業腹なことに、意思を持って堀北に接近してくる。

 

 ここに到着した時だって、かなりの数が飛んでいた。

 50匹程叩き落としてからはそれなりにマシにはなったものの、島にいる間は定期的に間引くことになるかもしれない。

 

 堀北の血は、一滴たりとも溢す事罷りならない尊い血は、守り切ってみせる。

 

 血を吸うのはメスだけだとか、そんなことは関係ない。

 全ての蚊は射程圏内に入った瞬間、即撃墜だ。

 

「浅村は俺達と同じ考え、そう理解して問題ないか?」

 

 俺を狙ってくれれば対処は楽になるんだけど、何故か周辺の蚊はこちらから距離を取るコースで飛行していた。

 

 小賢しい真似をする。

 その程度で俺から逃げられると思っているのだろうか。

 だとしたら、舐められたものだ。

 手が届かなかったところで、やりようなんて他にいくらでもある。

 

 その内の1つを実践するべく、小指の爪よりも小さい石をつまみあげた。

 それを親指に載せ、20メートルほど離れたところを飛んでいる目標達に向けて飛ばす。

 弾かれた飛翔物は、進路上にいた2匹の蚊を絶命させてから森の中へ消えた。

 

 1ショット2キル。

 いや一石二蚊と言うべきか。

 

 今落とした奴達は堀北がいる方向へ向かっていたので、最優先で排除する必要があった。

 堀北の周辺10メートルは絶対防空圏なのだから。

 

 それにしても愚かな奴らだ。

 哀れみさえ覚えてしまう。

 堀北に近寄りさえしなければ、今しばらくは生き長らえることができたかもしれないのに。

 

「浅村、大切なことなんだ。真面目に聞いてくれ」

 

 幸村が眼鏡をクイってしながら言い放つ。

 眉間に皺が寄っているけど、おこなのだろうか。

 

 幸村はツンデレだから、感情表現が結構豊かだ。

 

 堀北と少しでも早くお喋りしたい一心で複数のタスクを並行して進めている、それだけの俺に対しておこなのもきっとそれが理由。

 

「ごめん、ちゃんと聞いてるよ」

 

 堀北の周囲15メートルに敵影なし。

 会議前の根回しタイムといこう。

 

「で、どうなんだ?」

「余計なポイントの消費は避けたい。その点では同じだね」

「なら」

「ただ、その考え自体はみんな持っていると思う。出費をどこまで許容するか、線を引く場所に違いがあるだけで」

「‥‥‥それで、浅村は線をどこに引いているんだ?」

「追加でテント2つ、仮設トイレ1つ、シャワー1つは欲しい。飲料水や食料も必要に応じて、頼むことになるかもね」

 

 事前に堀北や平田と詰めておいた着地点を幸村へ話す。

 

「軽井沢が要求してきた内容と同じだな」

 

 幸村の眉間の皺が増えた。さらにおこになったということだ。

 

 しかし、幸村はツンデレであると同時にインテリでもある。

 話せばわかってくれるということを俺は知っていた。

 

「今言ったやつは、マニュアルを読んだ時から目をつけてたんだ」

 

 蚊をさらに1匹叩き落としながら言葉を続ける。

 堀北の安全保障上必要な行動であることは、脳内議会において満場一致で認められた。

 

「ここら辺は結構虫が飛んでるし、テント無しで夜を過ごすって選択肢はなかなかハードだと思う。それに試験は1週間もあるから、どこかのタイミングで雨が降るかもしれない」

 

 サバイバルでは、体温の低下が生命の危機に直結しかねない。

 この試験は学校が監督しているからそこまでの事態にはならないと信じているけど、そもそも堀北が野宿する可能性なんて1ミリたりとも残してはならないのだ。

 

「テントは2つ頼んでも20ポイント。8人用らしいけどちょっと頑張れば10人寝れそうだから、それが4つでちょうど40人分」

 

 窮屈なのは正直嫌だけど、そこは我慢するべきだろう。

 

「雨のことを考えれば、シャワーも有用だよ。温水が出せるらしいから。リタイアが1人出る毎に試験ポイントマイナス30されることを考えれば、悪い選択肢じゃないと思う」

 

 既に高円寺のリタイアでマイナスされているけど、それは言わないでおく。

 話し合いの前にわざわざ刺激したくない。

 

「トイレも40人で1つだけだと流石に回せない。そこらへんで用を足して環境汚染だって言われたら、20ポイントマイナスだ」

 

 正直2つでも厳しいものがある。

 みんなには余裕を持って計画的な利用をお願いしておこう。

 

「仮設トイレも同じ20ポイントだから、それなら先に買ってしまおうってことだろう?俺だってそのあたりは考慮した上で言ってるんだ」

「だろうね。一応、こっちの考えも伝えておきたくて」

「結果的に浅村が言った物品にポイントを使うとしても、その経緯が重要なんだ。軽井沢達が欲しがったからと言ってその度にポイントを使われたら、試験が終わった時にどれだけ残せるかわかったもんじゃない」

 

 恐らくはこれが本音。

 軽井沢達に主導権を握らせたくないと。

 感情でそうしているというよりは、ポイントを維持するためにそうするべきだと考えているのだろう。

 

「そこは平田が話していると思う」

 

 少し離れた場所で会話中の軽井沢達と平田。

 あちらも根回しを進めているのが聞こえてくる。

 それを見やりながら述べた俺の言葉に、幸村は納得していない様子だ。

 

「どうだろうな。あの2人、付き合っているんだろう?」

 

 彼女に対しては対応が甘くなるのではないかという疑念を隠さない幸村。

 

 平田はその辺きっちりしてるイメージなんだけど、俺と幸村では違う印象を抱いてるのかもしれない。

 

「なら、後で俺からも話す」

 

 こちらの提案を聞いた幸村は、顎に手を当てて考え込む。

 

 軽井沢達が他にもいろいろ欲しがるというのは、あくまで可能性の話でしかない。

 もしこれ以上の対応を要求してくるのなら、他の説得を優先して外堀を埋める方向へ舵を切ることになる。

 禍根を残しかねないから、あまりやりたくないけど。

 

 蚊を撃墜しながら待っていると、スコアをプラス5したあたりで幸村が口を開いた。

 

「‥‥‥わかった。それなら、浅村が今挙げた物についてはポイントを使っても構わない」

「ありがとう」

 

 俺で話が終わってよかった。

 話が拗れたら堀北が出張って来ることになりかねなかったけど、それは俺にとって楽しい出来事ではない。

 

 その理由はとても複雑。

 

 まず、堀北と幸村の2人には共通点がある。

 学力重視の姿勢、Aクラスを目指すと公言していること。

 

 

 次に、幸村の特徴。

 眼鏡をかけていてツンデレ。

 

 生徒会長を務めているどこかの堀北兄も眼鏡をかけている。

 その性格は俺の予想では幸村と同じくツンデレだ。

 

 

 はい、有罪。

 材料が揃いすぎている。

 俺の脳内法廷では何人も無罪を宣告されるまでは有罪と推定されるけど、幸村は普通に危険分子なので確定有罪。

 覚悟の準備をしておいてもらおう。

 

 ともあれ、幸村への根回しは終わったから次は池だ。

 

 さっさと終わらせて堀北とお喋りしたい。

 

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