ようこそ知らない世界の教室へ   作:マサオ

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 俺がキーカードをかざし、機械から電子音が鳴り響いた。

 

「‥‥‥ふぅ。これで、近場のスポットは全部占有できたかしら?」

「そうだね、地図に書いてあるやつはこれが最後だよ」

 

 堀北と俺のやり取りを聞いて、周りの10人もその囲いを崩す。

 

「これ、大勢でやるから結構な手間だよね。ポイントが入るのは美味しいんだけど」

「かと言って、堀北さん1人で占有して回るわけにもいかない。ベースキャンプはともかく、他のスポットを1日3回は厳しそうだね」

 

 軽井沢と平田の会話が若干心臓にくる。

 俺がリーダーであることを知っている2人は、むしろそれを隠すためにやってくれているのだろうけど。

 

 

 近場のスポット更新にはかなりの時間がかかった。

 7箇所回っただけでも、その所要時間は1時間を大きく上回っている。

 

 集団での移動はそもそも時間がかかるものだし、いちいち周囲を囲んでもらうのも結構なロスだ。

 俺1人なら10分かからないけど、こればっかりは仕方ない。

 

 ただ堀北が近くにいるこの時間は、俺としては永遠に続いて欲しいくらいに嬉しいもの。

 いっそ、このまま島のスポットを全部回ろう。

 そう言いたい気持ちすらあったけど、堀北の顔にも疲労の色が見える。

 初日から飛ばしたら1週間保たないし、早く休んでもらうとしよう。

 

「じゃあみんな、ベースキャンプに戻ろうか」

 

 平田の掛け声で、移動を始める俺達。

 

 拠点整備の進捗はいかほどだろうか。

 普段クラスをまとめている平田がいない状況で、どの程度進んでいるかが少し心配ではある。

 池に色々言い含めておいたし、櫛田がまとめ役代行として残っているので全く進んでいないということはないはずだけど。

 

 

 そんな若干の懸念と共にみんなの元へ戻ると、出発した時よりもかなり整った拠点が見えてきた。

 

「お、戻ってきたな! どうだ、俺達の努力の成果は!」

 

 池がこちらを見つけるなり、駆け寄りながら声をかけて来た。

 そのテンションはファンファーレでも鳴らしていそうなほど。

 経験があるということで、設営を主導してもらうよう話しておいたのが功を奏したらしい。

 

 いじけ気味だったから最初は聞いてくれなかったけど、とあることを囁いた途端に前を向いてくれたのだ。

 

 『いざという時頼りになる人って、女子ウケがいいと思うんだ。櫛田さんだって、きっと』

 

 俺がそう口にしただけで掌を返したようなこのやる気、見事と言わざるを得ない。

 チョロすぎて少し心配になるほどだ。

 

 櫛田ルートもいいけど、篠原ルートもあるということを池には忘れないでほしい。

 なんでもいいから、さっさとくっついてイチャイチャしろ。

 

 ともあれ、まずは感謝と労いだ。

 

「流石は経験者。頼りになるね」

 

 俺がそう声を掛けると、なぜか池はこちらへ近寄って肩を組んできた。

 どうしたのか、そう尋ねる前にしたり顔で語りかけて来る。

 

「浅村、お前の言った通りだったよ」

「何が?」

 

 仮設トイレを説得する時に出した話だろうか。

 だとしたら、中々に勇猛果敢だ。

 他のクラスメイトが働いてる最中であることを意に介さないとは、池の評価を改める必要があるかもしれない。

 

「言ってただろ? こういう時働くと女子ウケがいいって」

「‥‥‥ああ、なるほどね。ということは、手応えがあったのかな?」

「そりゃあもう、みんなにチヤホヤされたし! 俺がお前や平田側に行く日も近いかもな‥‥‥」

 

 キメ顔でそう言って来る池。

 

 俺や平田側と言っているけど、スポット更新組のことだろうか。

 出発前、明らかにこちらへ参加したそうな顔をしていたのはとても印象的だった。

 

 有能さを示せば示すほど、平田の代わりとして池は重宝される。

 つまりはこっちのチームに参加できなくなるわけだ。

 クラスにとってはありがたいけど、本人にとっては残念な結果と言える。

 とは言え、やる気に水を差したくない。

 申し訳ないけど、黙っておくことに。

 

「とりあえず、池の役に立ったなら何よりだよ」

「おう! お前もわかんないことあったら教えてやるからな!」

 

 そう言うと、作業に戻って行った。

 

 

 その後、俺は簡易トイレで用済みになった袋を廃棄する穴を掘ったり、蚊を叩き落としたり。

 

 その間の池は、ちょこちょこいろんなクラスメイトから質問されていた。

 本人が言った通り、たしかに頼りにされているみたいだ。

 たまに調子に乗りすぎたのか、須藤や山内に締められているのはご愛嬌ってところだろう。

 

 他に選択肢がなかったとは言え、平田も軽井沢も引っ張り出したのは正直やり過ぎかと思った。

 櫛田に大きな負担がかかってしまうだろうと思っていたけど、どうやら杞憂だったらしい。

 

 あれなら、俺は外側に集中できる。

 

 

****

 

 

 ベースキャンプが完成した頃、平田が俺へと声を掛けてきた。

 

「浅村君。申し訳ないんだけど、薪拾いをお願いしてもいいかな?」

 

 リーダーである俺が、島の各所にあるスポットを更新。

 そういう戦略なのだから、この依頼は適切なパスと言える。

 偵察のために抜け出す口実を考えていたところだったし。

 

「わかった。行ってくるよ」

「綾小路君や山内君にもお願いしてあるから、1人でたくさん持ってくる必要はないんだ。無理はしないで」

 

 偵察やスポット更新で時間を要することに配慮した物言い。

 相変わらずのイケメンっぷりだが、表の仕事もそれなりにこなさないと須藤あたりにドヤされそうだ。

 とりあえずは探索とスポット更新を優先して、それから薪集めと行こう。

 近場に乾燥した木材が少なかったから、それについては少し考える予定。

 

「お? 浅村どっか行くのか?」

 

 ベースキャンプを離れようとしたところで、須藤から声をかけられた。

 上半身はジャージ、下半身は水着姿。

 どう見ても遊ぶ気満々だ。

 

「薪拾い。飲み水とか沸騰させるのに、かなり使うだろうから」

「そんなの、春樹達が拾いに行ってたからいいだろ。それより泳ぎに行こうぜ。早くしないと日が暮れちまう」

 

 そう言って須藤が親指で指したのは、荷物置き場にある小さなカバン。

 俺の水着やタオルが入っていて、各生徒に割り当てられたものだ。

 

 泳ぎに行きたいのは山々だけど、残念ながらそうもいかない。

 

 それを説明するため、須藤へ歩み寄り耳打ちする。

 

「実はいろいろ役目があるんだよ。他クラスの偵察とか」

「‥‥‥そういうことな。なんで隠してんだよ?」

「スパイみたいでカッコよくない?」

「バァカ。ま、それなら俺もそっち行くわ」

 

 なんだかんだ付き合いのいいやつだ。

 少し嬉しかったりするけど、今回は断らないといけない。

 

「須藤、どう考えても向いてないでしょ。すごく目立つんだから」

 

 アルベルトが尾行してきた時ほどではないにせよ、それに近いレベルでミスマッチだ。

 

「‥‥‥いやまぁ、そうなんだけどよ」

「俺のことはいいから。キャンプ設営頑張ったんだし、思う存分遊んできなよ」

「そういうことならしゃーねーな」

 

 そう言って俺から離れようとする須藤。

 

「待った。日焼け止め塗った?」

「あ? いらねえよ、んなもの」

「そうはいかない。ちゃんと塗ってから行きな」

「却下。だりぃ」

「面倒なら、俺が塗ってあげようか?」

 

 日焼け止めを塗らないで海水浴すればどうなるか、そんなことは須藤もわかっているだろう。

 お肌真っ黒一直線。

 

 もともと肌が白いというわけではない須藤だけど、もし真っ黒になったりしたらそれはもうすごいことになる。

 赤髪に真っ黒肌という凶悪すぎるコンボ。

 

 山田アルベルトをも超えるであろう逸材(濃いキャラ)の誕生だ。

 NARUTOだったら間違いなく雲隠れの忍びを名乗れる。

 その程度には濃厚な印象を持つだろうことは確実。

 別にそれがダメってわけじゃない。良くもないけど。

 

 俺が日焼け止めにこだわる理由はただ1つ。

 

 

 無料だからだ。

 

 

 使えば使うほどお得なら、顔が真っ白になるほど塗るべき。

 そんなのは今時小学生だってわかる簡単なこと。

 須藤はもう高校生なのだから、その辺りは理解して然りだろう。

 

「わかったわかった。自分でやるからほっとけ」

 

 須藤はそう言って今度こそ、こちらから離れた。

 そのまま海の方へ向かうのかと思いきや、女子のテントへ。

 入り口近くに立つと。

 

「堀北、ちょっといいか?」

 

 あいつ、堀北を海へ誘うつもりだ。

 

 

 

 

 堀北が海への誘いを断ったのを見届けてから、俺はベースキャンプを出発した。

 

 体調の問題もある上、もともと堀北はそういったことに付き合う性分ではない。

 だから心配ないとは思いつつも、少しだけ不安も感じていた。

 

 もし堀北が承諾していたら、俺も水着を着用してから探索に出発するつもりだった。

 そして少し時間を置いてから迷ったフリをして海岸へ。

 

 堀北達が遊んでいるところへ、奇遇にも水着を着ている俺が迷い出る。

 そうなれば一緒に遊ぶのは当然というもの。

 

 

 完璧だ。

 

 

 

 

 

 

 

 完璧に穴だらけの作戦だ。

 

 

 まぁ、結局須藤は池とかの男子を誘って遊びに行ったから問題ない。

 

 そうしてベースキャンプから離れ、視線を感じなくなったところでNARUTO機動に移行。

 

 その後2時間ほどかけて、島を見て回った。

 

 各クラスのベースキャンプの位置。

 高円寺が見つけたスポットの確認。

 新しいスポットの発見。

 

 今回の目的はこの3つ。

 

 

 まず各クラスの拠点について。

 

 Aクラス。

 

 葛城はスポットである洞窟に陣取ったらしい。

 らしい、という言い方をしているのには理由がある。

 Aクラスの拠点と思しき洞窟、その入り口がブルーシートで覆われているのだ。

 

 アレのせいで内情を把握できなかった。

 

 しばらく様子を見ていたけど、入り口周辺では常に見張りが2人以上。

 誰にも気付かれずに突破するのはかなり厳しい。

 

 あんなもの、高校生が敷く警戒体制にしては度が過ぎている。

 まさか葛城も、監視者の存在に気付いているのだろうか。

 

 結局わかったことは、あちらが洞窟を拠点としていること、入り口近くに仮設トイレ2つとシャワー室1つを設置していたことの2点だけだ。

 

 

 Bクラス。

 

 かなり遠い木々の隙間から見たから、こちらもAクラス同様にそこまで詳しくは把握できていない。

 

 一之瀬達は滝壺の近くに陣取り、ハンモック等を用意していた。

 あの辺りは蚊がいないのだろうか。

 だとしたら少し羨ましい。

 Dクラスのベースキャンプに戻れば、俺はまた対空砲もどきをやることになるのだから。

 クラスメイト達に気づかれないよう叩き落とすのは中々に気を使うから、夜にまとめて始末することも考えている。

 

 話を戻す。

 もっと近くで偵察すれば、あちらが要請した物品の詳細から残りの試験ポイントを予測することもできた。

 だけどそれをしなかったのには、もちろん理由がある。

 

 Bクラス担任、星乃宮先生の存在だ。

 

 堀北がいない状況でアレに捕捉されようものなら、せっかく充填したMPがまた枯渇してしまう。

 余計なリスクを冒す必要はない。

 だから接近を控えた、ただそれだけのこと。

 

 大地、危うきに近寄らず。

 

 

 Cクラス。

 

 インパクトでは龍園達がダントツで1位だ。

 あのポイントの使い方はまさしく豪遊っ‥‥‥!

 

 トイレ、シャワー、食料や水などの必需品に近いものはまだいい。

 

 ベッドチェアー、パラソル、そして水上スキーなど娯楽品が勢揃いなのは流石に予想できなかった。

 必需品と比べてポイントが消費ポイントが抑えられ気味とはいえ、アレだけ用意しているせいで60ポイント近い出費になっている。

 

 ‥‥‥水上スキー運転してるやつ、Cクラスの生徒だけど免許とかどうしたんだ?

 16歳から取得できる種類が必要だったはずだけど、早生まれのやつが獲得したとかそんな感じだろうか。

 

 俺も堀北とアレに乗りたい。

 運転してる俺に、後ろからしがみつく堀北。

 水上スキーに乗るわけだから、水着の着用は当然の流れだろう。

 

 ‥‥‥免許、考えておくか。

 

 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥俺まだ15歳だった‥‥‥ちくしょう‥‥‥。

 

 

 

 なんであれ、龍園達はポイントを豪快に使っていた。

 確認できただけでも、150近いポイントを吐き出している。

 まともに試験を過ごすつもりとは思えない。

 このままフェードアウトしてくれるなら願ったりだけど、どうなることやら。

 

 

 

 次に、高円寺が見つけた9箇所のスポット。

 そのうちの1つは、Aクラスが拠点にしている洞窟の中だと思われる。

 だから目視での確認はできていない。

 他の8箇所も葛城達の洞窟が近いということもあり、多くは既にAクラスが占有した旨の表示が。

 

 占有されてなかったスポットについては、人目がないことを確認してからこちらで占有しておいた。

 そろそろ日暮れが迫ってきている時間。

 遠くにちらほら見えたAクラスの生徒達も引き揚げ始めているから、Dクラス占有の文字が誰かに見つかる可能性は高くない。

 仮に見られたところで問題はないし。

 

 

 新しいスポットも2箇所発見。

 

 高円寺との勝負で、どうにかしてこれを見つけておけば引き分けに持ち込めた。

 そう思うと少し悔やまれる。

 

 こちらも占有されていなかったので、Dクラスが頂いた。

 

 

 そんなこんなで初日は結構な数を占拠できたけど、明日以降は葛城や一之瀬も本格的に動いて来るかもしれない。

 

 そこで、俺の真価が問われるというわけだ。

 素早く見つからずに。

 簡単なことではないけど、NARUTO機動の開祖たる俺なら成し遂げられると信じよう。

 

 

 で、偵察を終えたから薪集めをしなければいけないんだけど。

 湿気ってたりするやつばかりで、燃やすのに適した枝が落ちていない。

 市販の着火剤とかを用意できない現状では、品質の悪い薪だと苦労することになる。

 

 

 だから今は、その解決のために移動中。

 島を駆け回っている最中に目を付けておいた、いい感じの倒木があるのでそちらへ向かっている。

 あれからなら火口、焚きつけ、薪まで一気に獲得できるので手間が省けるのだ。

 地面に落ちている樹木は自由に使用できることは、事前に茶柱先生へ確認済みだから問題なし。

 

 そうして倒木の場所へ到着。

 

 わかっていたことだけど、結構大きい。

 直径30センチ、長さは5メートルほど。

 どう考えても一般人が運べる程度を超過している。

 欲張ってもいいことはないし、必要な分だけ頂くとしよう。

 

 

 踏み砕く浅村の脚(アシ・ボルグ)

 

 引き剥がす大地の腕(ウデ・ボルグ)

 

 

 俺の冴え渡る技巧により、両腕に抱えられる量の薪を生成。

 

 明日の薪集めもこれで済ませれば、それなりの時短になる。

 

 少し頭を捻るだけで、必要な手間を大きく減らせるといういい事例だ。

 今後とも、知恵を絞ることは怠らずにやっていこう。

 

 

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