ようこそ知らない世界の教室へ   作:マサオ

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29.

 ベースキャンプを出発したのが40分近く前。

 

 偽リーダーの役目を果たすため、私は他クラスの拠点を訪れている。

 既にCクラスの拠点には立ち寄った後で、そこで初めて龍園君と対面した。

 

 絶対に気を許してはいけない。

 浅村君から何度もそう言われたから警戒していたけれど、拍子抜けだったというのが正直な感想。

 

 短いやり取りで抱いた印象は、粗野な刹那主義者でしかなかった。

 

 

 そうしてCクラスへの顔見せを終えて、今訪れているのは一之瀬さん達のベースキャンプ。

 

 情報交換も兼ねて話し始めて、既に10分ほど経過している。

 お互いの現況から始まった話題は、Cクラスの生徒へ移っていた。

 

 

 

 

「そう、あなた達もCクラスの生徒を保護したのね」

 

 一之瀬さんの視線の先にいる生徒、金田君を見やりながそう言い放つ。

 

「うん。試験中だからって、放っておくなんてことはできないからね」

「こちらも昨日、似たような生徒を1人受け入れたわ。伊吹さんという女子なのだけれど」

「‥‥‥金田君だけじゃないんだ」

「ええ、所用で歩き回っていた3人組が見つけたのよ」

 

 そう言って、一緒に来ている綾小路君へ視線を送る。

 

「言い出したのも連れ帰ったのも山内だ」

「謙遜することはないでしょう。その場にいたのだから、あなたの手柄でもあるわ」

 

 そしてそれは、責任についても同じこと。

 受け入れが決まった以上、今更何か言うつもりも無いけれど。

 

「そう思っているなら、その怖い目をやめてくれ」

「失礼なことを言うわね。元々こういう目つきよ」

「にゃはは!でも、Dクラスも同じ対応で少し安心した」

「それはこちらにとっても同じことね。いろいろ参考にさせてもらったし、助かったわ一之瀬さん」

 

 ある程度は事前に聞いていたものの、近くで見聞きできるのならそれに越したことはない。

 対価として、こちらの内情も問題ない程度には教えてある。

 

「なら良かった。ちなみに、AクラスとCクラスのベースキャンプはもう回ったのかな?」

「Cクラスはさっき寄ってきたところよ。あの喧騒だから、見つけるのに苦労はしなかったわ」

「Aクラスは、まだこれから?」

「そのつもりだけれど、一体どこにあるのやら。もし知っていたら、教えてもらえないかしら」

「たぶんあそこだろうなって場所で良ければ。えっとね───」

 

 一之瀬さんはそう言うと地図を開き、Aクラスの拠点がどこにあるかを説明してくれる。

 その情報は、浅村君から聞いていたものと一致していた。

 Bクラスも初日の時点で、それなりに動いていたということになる。

 

「───ただ、うまく隠されてるから、外からだと様子がわからないと思うよ」

「だとしても一度は自分の目で見ておきたいわ。それと、1つ提案があるのだけれど」

「ん?」

「BクラスとDクラスはお互いのリーダーを指名しない、というのはどうかしら?」

 

 今述べた内容は、事前に浅村君や平田君へは話してある。

 Cクラスがまともに試験に取り組まない状況で、Bクラスとも相互不可侵を結ぶことができれば相手はAクラスだけ。

 そう思っていたのだけれど。

 

「俺は賛成できない」

 

 今まで一之瀬さんの隣で黙っていた男子が口を開いた。

 

 名前は神崎隆二。

 一之瀬さんと共にクラスをまとめ上げている生徒と言われている。

 評判を聞く限りではそれなりに優秀な人物だと思えた。

 

「理由を聞かせてほしいわね」

「今朝Dクラスのキャンプへ挨拶に行った時、いくつかのスポットを見かけた。Dクラスが占有しているスポットをな。ただお互いを指名しないと言うだけでは、そちらに有利な取引だろう」

 

 彼がこちらを訪れたのは、早朝のベースキャンプスポット更新が終わった頃。

 場所によっては、昨夜の近隣スポット更新からギリギリ8時間が経過していない時間帯ということになる。

 

「あら、Bクラスはスポットを占有していないのかしら?」

 

 口にしたのはあくまで確認のため。

 浅村君が発見していない以上、Bクラスはベースキャンプ以外のスポットを占有していない可能性が高い。

 占有していたとしても1箇所か2箇所程度のはず。

 

「こちらよりもそちらの方がスポット占有では優位に立っている、というのが俺の認識だ」

「優位と言っても、まだ試験は始まったばかりよ。ただ、その反応からすると合意は難しそうね」

「今すぐは無理かな。ごめんね、堀北さん」

「気にしないで。提案しておいてなんだけれど、お互いのリーダーを見抜けるだなんて思っていないもの」

 

 最優先事項は、Aクラスのリーダーを探し当てること。

 私達が他のリーダーを探るのは、それが終わってからになる。

 Bクラスもそれは変わらないはず。

 少なくとも、当面の間は。

 

 

 

 そうして情報交換も終わり、Bクラスのキャンプを後にした。

 

 

 

 ‥‥‥僅かに、昨日よりも体が重い。

 2日目でこれでは、先が思いやられる。

 浅村君の懸念を押し切ってリーダー代理を引き受けた以上、不様な真似はできないというのに。

 

 ひとまず、ベースキャンプへ戻ったら休むことにしよう。

 

 当初の目的で残っているものは、Aクラスへの接触だけ。

 このまま例の洞窟へ向かえば、それで終わり。

 

 そう思っていた。

 

「堀北、少しいいか?」

 

 綾小路君から話があるまでは。

 

 

****

 

 

 ベースキャンプに戻って池の昼食準備を手伝っていると、堀北と綾小路が戻ってきた。

 

 

 2人で。

 

 

 

 

 偵察に行ったのか?俺以外のやつと‥‥‥?

 

 

 

 

 なんてね。

 

 堀北が自らをアピールすべく歩き回っているのには、少しでも俺の存在を薄めようという意図がある。

 

 だというのに、俺が同行してしまっては本末転倒。

 堀北の努力が無駄になってしまう。

 

 つまり俺が一緒に行けなかったのは仕方ないこと。

 そう、仕方ないことなんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それはそれとして残念だよ、綾小路。

 なんだかんだ友達だと思っていたのに。

 仮に次のテストで赤点取りそうになったとしても、俺の助けは期待しないでもらおう。

 

 ‥‥‥いや、そうなったら助けるけどさ。

 第2の須藤が生まれてしまう予感がするし。

 これ以上ライバルが増えてしまうなんて事態は、絶対に防がないといけない。

 

 既に手遅れである可能性もあるけど、そちらには目をつぶろう。

 

 とりあえずどんな手口で堀北を誘い出したのか、2人がどんな雰囲気だったのかを確かめなければ。

 

 そう考えて声をかける。

 

「お疲れ様。2人で行動してるのってなんだか珍しいね」

 

 あくまで自然に、だ。

 問い詰めたところで正直に答えるわけがないし、堀北もいい顔をしないだろう。

 

 そう思ったんだけど。

 

「オレのことを気が利くやつとか言ったらしいな、浅村」

 

 綾小路が何か言いたげな目で俺を見ながら言い放つ。

 

 なるほど、堀北はこちらの意見を採用してくれたわけだ。

 つまり俺がやらかしただけ、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 信じてたよ、綾小路。(キヨタカ マイフレンド)

 

 堀北から直々の指名を受けたというのに、このクールイケメンは淡白な反応しか示していない。

 俺は今、綾小路にかつてないほど強い絆を感じている。

 女の子を見る目がない気もするけど、そこはご愛嬌だろう。

 

「ああ、確かに言った‥‥‥堀北さん、どうかした?」

 

 綾小路に気を取られて気付くのが遅れてしまったけど、堀北の様子に違和感がある。

 

「‥‥‥色々な人と話して、少し疲れただけよ」

「なら、テントで横になってた方がいい。食欲はある?魚やトウモロコシが受け付けないって言うなら今から果物をとってくるけど」

「‥‥‥少し疲れただけと言ったでしょう、大げさね」

 

 堀北はそう言うけれど、俺は至って当然の確認をしたに過ぎない。

 期末試験の日もそうだったけれど、堀北はあまり弱みを見せたがらないのだ。

 それが自分から言い出したなんて、どう考えても一大事。

 

「予断は禁物だ。今の環境だと、大したことができないし」

「わかっているわ。あなたと話したら休むつもりだから」

 

 そう言って堀北は近くの岩へ腰を下ろす。

 これは付き合うしかなさそうだ。

 

 堀北と話せる喜びと、堀北の体調に対する不安。

 それらが半々といった感じの、なんとも複雑な心持ちで近くの岩へ座る。

 

 綾小路も話に参加するのかと思っていたら、その気がないのかテントへ向かってしまった。

 俺の中で綾小路への評価がさらに上昇した。

 

「ならいいけど、話って?」

「主要な人達と面通しができたから、それについて」

 

 主要な人物、俺の頭に浮かぶ生徒といえば。

 

「‥‥‥葛城や龍園のことを言ってる?」

「ええ。2人とも、あなたの様子を知りたがっていたわ」

 

 葛城はともかく、龍園と俺はご機嫌伺いをするような間柄ではない。

 気色悪いからやめて欲しいものだ。

 

 それよりも。

 

「遠巻きに拠点を見てくるだけだと思ってたんだけど」

 

 アピールとはいえ、そこまでの接触は想定していなかった。

 龍園と対面するとわかっていたら、俺が付き添っていたのに。

 

「そのつもりだったけれど、Cクラスの拠点を見ていたら龍園君から呼びつけられたのよ」

「‥‥‥何もなかったなら、いいんだけどさ」

「特になかったわ。龍園君にはこの試験での努力を笑われて、葛城君からは警告されただけ」

「警告?」

「洞窟の中を見ようとして、それを咎められたのよ」

 

 正面突破とは、堀北らしいやり方だ。

 特になかったで片付けてしまうのがとても可愛い。

 可愛いけど、それはそれとして。

 

「‥‥‥あんまり無茶しないで欲しいな」

「あら、試験のルールには反していないでしょう?むしろあちらの対応に問題があると思うのだけれど」

「そういうことじゃないんだけど‥‥‥今はいいや。それで?」

「AとCはそれだけ。Bクラスについてはいくつか話しておくことがあるわ」

 

 そう言って、堀北はポケットからメモを取り出す。

 

「まず、一番大事なことから。一之瀬さん達もCクラスの男子を保護していたわ。名前は金田悟」

「‥‥‥Aクラスには?」

「葛城君に当たったけれど、そういった話は聞かなかったわね」

「なら、うちとBクラスか」

 

 これでAクラスにまで入り込んでいたら、あからさまに何か仕込んでると言っているようなもの。

 だけど、そうではなかった。

 最優先で狙うべきAに入り込んでいないのなら、伊吹がトラブルで追い出されたという話に少しだけ重みが増す。

 

 とはいえ、断定はできない。

 BとDは手下に任せて、龍園本人がAに何かしらを仕掛けるなんてケースもあり得るのだから。

 

 

 そして、1つ引っかかることがある。

 Cクラスは1学期中にもBとDの双方とトラブルを起こしているのだ。

 

 何か意図があるのか。

 それとも優等生たるAクラスの生徒は、俺の予想以上にトラブルの処理に長けているのか。

 

「ということは、Cクラスは常に2人不在の状況だ。点呼の度に試験ポイントが10マイナスされる。あの浪費を考えれば、残せても20かそこらだね」

「残りの試験期間、追加購入無しで彼らが乗り切れるとは思えないのだけれど」

「案外行けるかもよ?少ししか見えなかったけど、テントの中に結構な量の水や食料が隠してあったから」

 

 前に堀北へ話した、伊吹の口利きで頂く予定の物資のことだ。

 茶柱先生へ確認したところ、伊吹の同意があれば試験の規則には抵触しないらしい。

 窃盗扱いになるとクラス全体が失格になるから危惧していたけれど、その心配はなくなった。

 

 ちなみに、試験ポイントで購入した物品には全てシリアルコードが記載されたラベルが貼られている。

 その情報を基に各教師はどのクラスの所有物か把握しているらしい。

 だから、拾った物品を自分のものだと言い張っても嘘かどうかすぐにバレてしまう。

 

 ペットボトルの一つ一つにまで貼ってあるのは流石だ。

 そのおかげで、他の人と取り違えないで済んでいる。

 

「‥‥‥Cクラスはリタイアをすると言っていなかったかしら?」

「まだわからない。油断を誘っている可能性もなくは無いから」

 

 それも見張っていればわかることだ。

 というかリタイアしないのならともかく、するのならさっさとして欲しい。

 Cクラスが島に残る期間が延びるほど、あの拠点にある俺の物資が目減りしていくのだから。

 

「ただ、こっちのやることは変わらないよ。警戒を怠らずプラスを積み上げるだけだ」

 

 龍園に関しては正直、試験で負けることよりも他の懸念が大きい。

 学園よりも監視が行き届きにくいこの環境は、いかにもあいつ好みに感じてしまう。

 

「そうね。それで次の話だけれど‥‥‥ごめんなさい。一之瀬さん達に取引を断られたわ」

 

 堀北が言う取引とは、BとDでお互いにリーダーを指名しないという提案のことだろう。

 星乃宮先生がいるせいであのベースキャンプに近寄りづらい、そんな情けない俺の事情を察してくれたのかもしれない。

 女神だ。

 

「そこは俺達が上手く隠し通せば問題ない。ちなみに、誰が反対したとかはわかる?」

「神崎君ね。私達がスポットを何箇所か占有していることを理由にしていたわ」

 

 恐らく、Bクラスが占有しているスポットはあちらの拠点の1つだけ。

 出遅れたのか、あるいはスポット占有で稼ぐつもりはないから引き籠るつもりなのか。

 

「ここら一帯の占有がバレるのは織り込み済みだからいいんだけど、思ったよりも反応が過敏だね。俺達Dクラス相手の取引なら乗ってくるかと思ってた」

「競争相手として認識されているということでしょう。下に見られるよりはマシよ」

「‥‥‥俺としてはもう少し、油断とかして欲しいんだけどね」

 

 その点ではAクラスの方が与し易いかもしれない。

 船での接触を考えれば、少なくない生徒が慢心している可能性もある。

 

「無いものねだりをしても仕方ないわ‥‥‥さて、話はこれくらいね。浅村君から何もなければ休ませてもらうけれど」

「それなら、ちょっと待ってて」

 

 俺はそう口にしてから自分のテントへ入り、目当てのものを掴んで堀北の元へ戻る。

 

「それは?」

「お手製枕。吸水ポリマーを水に浸してから袋に詰めてみたんだ」

「あなた、そんなことまでやっていたのね」

「いくつか作ったんだけど、これが一番出来がいい。よかったら使ってみてくれる?」

 

 軽い感じに言ってるけど、結構ドキドキする。

 バレンタインで好きな男子にチョコを渡す女子もこんな気持ちなのかもしれない。

 

 

 堀北は俺が差し出した枕を受け取ると、手触りを確かめてから口を開く。

 

「‥‥‥ありがとう。使わせてもらうわ」

 

 ヨシ!

 

 余った試作品は欲しがる人にあげよう。

 

 ‥‥‥2番目に出来がいいやつは山内用で。

 

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