ようこそ知らない世界の教室へ   作:マサオ

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31.

 これは盗難事件である可能性が高い。

 それならやることは決まっている。

 

 時系列の整理と現場検証だ。

 

 

 まず、物資が最後に確認されたのは無人島試験初日。

 俺が各クラスの拠点を見て回っていた時だ。

 堀北と綾小路が昨日の顔見せ時に目撃した可能性もあるので、そちらについては要確認としておく。

 

 物資が無くなっていることを、俺という善良な一般生徒が偶然にも認識したのが1分前。

 盗まれたと推測される物資は水や食料、その他消耗品の数々で、試験ポイントにして50は超えるほどの量だ。

 それら全てを掻っ攫う強欲さにはほとほと呆れる。

 仲良くお裾分けしようという思考には至らないのだろうか。

 

 

 次にここら一帯の状況。

 最初に目につくのは、そこかしこに放置されたままのレジャー用品。

 Cクラスの生徒達が使っていたものだ。

 盗人はこれらには手をつけなかったらしい。

 

 そして周辺には、多数の足跡が残っている。

 38人が拠点としていた場所なのだから、それ自体は不自然なことではない。

 

 大量の足跡が砂浜の向こう側まで続いているのも、全員でリタイアして船に向かったからだろう。

 念のために後を辿ってみたら、客船へ戻るための舟艇が乗り付けている地点へ到着した。

 予想通りだからこれも問題ない。

 

 というわけで現場に戻って、本命の調査だ。

 

 複数人分の新しい足跡が、1列になって森の中へ続いている。

 明らかに統率された動きだ。

 それが整地された場所ではなくわざわざ森へ入っていくなんて、怪しいことこの上ない。

 もしこれが実行犯の残したものなら、恐らくは計画的犯行。

 Cクラスがリタイアするのを待ち構え、俺よりも早く察知して行動を起こしたということになる。

 なんと恥知らずで欲深い連中だろうか。

 この手掛かりを辿って、是が非でも分かち合うことの尊さを教えてやらねば。

 

 ただ、順当に考えれば足跡が続いている先にあるのは、Bクラスのベースキャンプである可能性が高い。

 もしそうだったら一度撤退して、他の誰かに様子を見てきてもらおう。

 堀北に同伴してもらえるのなら俺でもいいけど、あまり負担はかけたくない。

 そんなことを考えながら追跡を開始した。

 

 

 

 そうして到着したのは、Aクラスが拠点としている洞窟。

 

 正直意外だった。

 葛城達がCクラスの生徒を保護したという話は聞いていない。

 

 ‥‥‥あまり楽しいものではないけど、1つ思い当たった展開がある。

 それを確認する手段も、同時に頭に浮かんだ。

 

 

****

 

 

 足跡を追ってAクラスの洞窟まで辿り着いた俺は、一旦ベースキャンプへと帰還。

 Cクラスの生徒達が消えたこと、残して行った物資を見繕いに行くことを報告後、諸々を済ませてから再び出発した。

 

 それから現場に到着したのが少し前。

 

 今回は単独行動ではなく同行者がいる。

 須藤、池、綾小路、山内、櫛田、佐倉、伊吹だ。

 

 予定より膨れ上がって、結構な人数になってしまった。

 

 この面子の中で、伊吹は必須。

 その付き添いとして綾小路と櫛田へ声を掛けたところ、話を聞きつけた他のメンバー達が参加を表明して今に至る。

 以前似たようなことでやらかした感覚を覚えたけど、気のせいだろう。

 

 とりあえず伊吹以外の同行者には、Cクラスのものと思しき物品全てを1箇所に集めてもらっている。

 そのシリアルナンバーを、俺がひたすらメモ用紙に記載していくという役割分担だ。

 

 

 

 

「パラソルあたりはわかるんだけどよ、こんなゴミとかまで集める必要あんのか?」

 

 そう言いながら寄ってきた須藤は、両腕に空のペットボトルや瓶を抱えていた。

 

「使い道があるかもしれないから、一応よろしく」

 

 シリアルナンバーのメモを取りながら、返事をする。

 

「つっても、何に使うんだ?」

「手紙を入れて海外へ流したりとかはどう?Hello Somebodyって」

「校則違反だろ」

「かもね。冗談抜きで言うと、伊吹さん経由で先生へ確認を取るから全部一括で済ませておきたいってのがあるんだ」

「ま、お前が言うならやるけどよ」

 

 一応は納得してくれたのか作業に戻っていく須藤。

 パラソルやベッドチェアーだけなら数点しかないけど、細かいものまで含めればそこそこの量になる。

 それを面倒に感じたのだろう。

 

 俺だって、誰が口を付けたかもわからない空のペットボトルなんて使う気はない。

 ただ、こちらもメモしておいた方がリスクを減らせるのだ。

 

「‥‥‥正直、ここに来るのも憂鬱なんだけど。暑いのも好きじゃないし」

 

 離れて行く須藤の背中を見やっていたら、呟くような伊吹の声が聞こえてきた。

 日差しが暑いだろうからと木陰にいることを勧めておいたのに、なぜか少し離れた位置に立ったままだ。

 

「無理言ってごめん。同伴してもらった方がトラブルにならないで済むと思って」

「まぁいいけどね。あんたらには世話になってるから。それより」

 

 言葉を途中で区切った伊吹は、こちらへ近寄ってくる。

 そのまましゃがみ込んでいる俺の傍までくると、再び口を開いた。

 

「いつ声を掛けてくるかと思ってたんだけど。何も言わないんだね、あんた」

「‥‥‥いきなりどうしたの?」

「わかってるでしょ。とぼけなくていいから」

「俺を尾け回していた日のことを言っているのかな?」

 

 こちらの問いかけに対して、伊吹は少し間を置いてから頷いてくる。

 

「それならもう終わった話だ。『怖いからやめて欲しい』ってお願いは、聞いてもらえたみたいだし」

「‥‥‥私が言うのもなんだけど、馬鹿だよね。どいつもこいつもお人好しすぎるよ、Dクラスの奴らは」

 

 離れた場所で作業している櫛田や池へ視線を送りながらそう呟く伊吹。

 

「それ、喧嘩になるから他の人には言わないでね。というか、伊吹さんだって似たようなようなもんだと思うけど」

「‥‥‥何が?」

「暴力振るわれて追い出されたのに、先生には言わなかったんでしょ?」

 

 好意的に捉えれば、クラスメイトのために我慢したとも解釈できる。

 試験での禁止事項に記載されているのは他クラスへの暴力だけとはいえ、クラス内暴力が問題にならないとは考えにくい。

 伊吹もそう判断したから訴えていないのかもしれない。

 

 ただ、話したところで学校側は動かないと感じている可能性もある。

 俺の感覚だと、伊吹の件は須藤と龍園達のイザコザよりも深刻だ。

 普通の学校なら、点呼にいない時点で何かしらの手を打つだろう。

 

 しかし、この学校は普通ではない。

 ときどき、それに怒りを覚える。

 

「平田から聞いたけど、この試験が終わるまで1人で乗り切るとか言ってたらしいじゃないか。充分に馬鹿でお人好しだよ」

「‥‥‥うっさい」

 

 伊吹はいつも仏頂面だけど、今のやりとりでそれがさらに強まった気がする。

 気まずさを感じたのか、持参していたペットボトルで喉を潤し始めた。

 

「そうだ、1つだけ言いたいことがあったのを忘れてた」

「‥‥‥‥‥‥なに?」

 

 水を飲んでいた手を止めて、さっきよりも強張った表情でこちらを見る伊吹。

 その顔を見上げながら、躊躇いがちに口を開いた。

 

「その、スカートの時はさ、蹴りは控えた方がいいんじゃないかなって」

「は?」

 

 

 伊吹は呆けた表情でたっぷり10秒ほど硬直してから。

 

 

「‥‥‥‥‥‥っ!」

 

 ペットボトルの水を思いっきりぶっかけてきた。

 

 当然のことながら、避けなければ濡れる。

 

 

 俺の一言が気に食わなかったのだろうけど、今の忠告は善意による部分が大きい。

 それに対してこの仕打ちはどうかと思う。

 次にハイキックをぶちかます時、また下着を晒すハメになっても良かったというのだろうか。

 

 そもそも伊吹が怒っているだろう特別棟の件については、スカートの中を覗こうなんて意図はカケラも無かった。

 監視者がいたから結果的にそうなってしまっただけであって、こちらも被害者なのだ。

 

 なので無実の俺が責められているのも、伊吹がスカートの中を晒してしまったのも、全ては監視者の責任。

 到底許すことはできない。

 

 とはいえ、伊吹の気持ちは理解できる。

 自らの行動に起因するとしても、下着を見られてしまったのは面白くないだろう。

 照れ隠しで暴力を振るうようなキャラと比較すれば、極めて真っ当な反応とさえ言える。

 とりあえず、今回は甘んじて受け入れるつもりだ。

 

 

 

 いや、やっぱりおかしい気がする。

 そもそもスカートを穿いているかどうかに関わらず、日常で蹴り技なんて使っていいはずがない。

 ちょっと距離を詰められたらハイキックを放つなんて、完全に暴力系ヒロインの反応だ。

 

 

 

 ‥‥‥ただ、この考えはアルベルトにも当てはまってしまう。

 あいつも距離を詰めただけで殴ろうとしてきた。

 そして、石崎にも同じことは言えるのだ。

 

 これは、アルベルトと石崎が暴力系ヒロインではないという理屈をこねる必要があるかもしれない。

 

 

 

 

 

 そんなことを考えていたら、伊吹からの攻撃が着弾。

 上半身のジャージは色が変わるくらいに濡れてしまった。

 

 とりあえず一言だけ言わせてもらおう。

 

「飲み水は大事にして欲しいんだけど」

「うっさい、死ね」

 

 そう言って離れていくキレ気味の伊吹。

 遠慮する気がなくなったのか、それとも俺に嫌気が差したのか、今度は遠くの木陰へ向かっていた。

 

「どうした浅村。もしかして口説いて失敗したのかぁ?」

 

 伊吹の最後の一声が聞こえたようで、山内が寄ってくる。

 さっきまで綾小路や佐倉と一緒に離れた場所で作業していたのに。

 

「まさか。少し忠告をしたんだけど、それが気に障ったのかも」

 

 山内へ返事をして、濡れたジャージの上着を脱ぐ。

 天気もいいし、この気温ならすぐに乾くだろう。

 

「どうせ言い方が良くなかったんだろ?伊吹ちゃんはいろいろ大変なんだから、優しくしないと」

「そうだね。これからはもっと気をつけるよ」

「全く。そんなんじゃレディーキラーの名が泣くぜ?」

「‥‥‥‥‥‥山内、ちょっといい?」

 

 声を掛けながら、Tシャツも脱いで上半身裸の状態になる。

 

「あん?」

 

 そのまま困惑した様子の山内へ近寄り、肩へ手を回した。

 逃さないように、しっかりと。

 

「な、なんだよ」

 

 山内の問いかけを聞き流して、目の前の海へ向かって足を進める。

 最初の3歩で靴を脱ぎ、次の3歩で靴下を脱いだ。

 流石にズボンは穿いておく。

 

「おい、この手はなんだ?なんで裸足になってるんだ?なんで海に向かってんだ?」

「ありがたい忠告をもらったから、ついでに親睦を深めようかなって。それには同じ境遇を経験するのが有効だと思わない?」

 

 道連れとしてずぶ濡れにしてやろうとか、そんな意図はない。

 

「そんなんで仲良くなるわけないだろ!?」

「どうだろう。物は試しとも言うからね」

「ふざけんな!このまま海に突っこんだら俺は怒るからな!」

 

 山内が踏ん張り始めたけど、意に介さず海への距離を縮めていく。

 

「分かった、正直に言うよ。俺のことを変な風に呼んだ仕返しだ」

 

 腹いせとして濡れ鼠にしやろうとか、そんな意図はない。

 

「待てって!俺だけじゃない!池とか本堂も呼んでた!」

「なるほど、そっちとも親睦を深める必要がありそうだね」

 

 情報提供はありがたく受け付けながらも、足を動かし続ける。

 

 

 そうして山内の抵抗をものともせずに波打ち際まで来たところで、掴んでいた肩を離した。

 

「‥‥‥あ?」

 

 突然自由になったことで困惑している山内。

 

 仕返しとして山内をビビらせてやろうとか、そんな意図はあったのだ。

 それにしてもこの反応からすると、本気で海水浴させられると思っていたのだろうか。

 

「流石に冗談だよ。変な呼び方をやめて欲しいのは本当だけど」

 

 そもそもみんなに動いてもらっている状況で、俺達だけ遊ぶなんて真似はよろしくない。

 

 

 とりあえず、なんだかんだでこっちを見ていた伊吹に半裸は晒したし、これならイーブンだろう。

 あっちは俺の半裸なんて興味ないだろうけど、俺だって伊吹の下着に興味はない。

 水をぶっかけられたことも考慮すれば、釣り合いは取れるはず。

 

 

 

 そんな感じで山内へのお話を終えたので、脱ぎ捨てた服を回収しながら戻っていたら。

 

「‥‥‥浅村、なんで上だけ脱いでるんだ?」

 

 綾小路がおかしな質問を投げてきた。

 

 下も脱げだなんて、いきなり何を言い出すのだろうか。

 人前で全裸になるのはおかしい事なのに、その常識を備えていないのだろうか。

 

 ‥‥‥綾小路は抜けているところがあるから、有り得るかもしれない。

 

 

****

 

 

 シリアルナンバーを一通り確認し終えたので、Dクラスのキャンプへと帰還。

 

 書き込んだメモ用紙を片手に持った俺は、伊吹を伴って茶柱先生のテントへ向かっている。

 

「ねぇ、私って必要なの?」

「申し訳ないけど、必要なんだ。俺が聞いても、教えてもらえるのはDクラスのものかそうじゃないかだけだから」

 

 教師は全クラスのシリアルナンバーが載っているデータベースにアクセスできる。

 生徒が確認を依頼してきた場合、その生徒が所属するクラスの所有物か否かのみを回答。

 

 それが事前に茶柱先生へ質問して分かったことだ。

 

「あっそ」

 

 俺の返事を聞いた伊吹は相変わらずの仏頂面だけど、目当ての茶柱先生がいるテントはもう目の前。

 あと少しだけ辛抱してもらおう。

 

「茶柱先生、いらっしゃいますか?」

 

 俺の呼びかけから程なくして、テントの中から茶柱先生が現れた。

 

「浅村か、何の用だ?」

「お願いがあります。俺ではなく伊吹さんからですけど」

 

 そう言ってから伊吹へメモを手渡す。

 

「じゃあ伊吹さん、さっき話した通りによろしく」

「はいはい。こちらのシリアルナンバーがCクラスの持ち物かどうかを教えてください、茶柱先生」

 

 一応Cクラス担任の坂上先生に確認するか聞いたけど、それは伊吹が嫌がった。

 まぁ、俺が同じ立場でもそうなるだろう。

 

「ふむ、結構な量だな。少し待て」

 

 伊吹からメモを受け取った茶柱先生は、テントの中へ戻っていく。

 

 そのまま待ち続けること3分。

 茶柱先生が再びテントから出てきた。

 

「確かめたぞ。この紙に記載されているシリアルナンバーは、全てCクラスが申請したものだ」

「だってさ」

「確認ありがとうございます。あと、伊吹さんからCクラスが申請した物品の使用許可をもらったので、それも報告しておきます」

「伊吹、浅村はこう言っているが事実か?」

「はい」

「ならいい。他に話は?」

「いえ、ありません」

「そうか、ではな」

 

 用件が終わったことを確認した茶柱先生はテントへ戻った。

 俺の目的も達成されたし、これで伊吹も解放できる。

 茶柱先生を待っている間は終始黙っていたし、不機嫌ゲージが溜まっていそうだ。

 

「ありがとう。伊吹さんにはいろいろ手間をかけたけど、あとはこっちで勝手にやるから」

「‥‥‥使うものは回収に行くんでしょ?そっちもついて行くよ」

「そう?こっちとしてはありがたいけどいいの?」

「乗り掛かった船だし」

「分かった。その時になったら声をかけさせてもらうから」

「今から取りに行かないの?」

「多分明日になるかな。他にもやることがあるんだ」

 

 実際、そろそろ近隣のスポット更新に出かける時間だ。

 それに、出発前にキーカードを預けた堀北へきちんと説明する必要もある。

 

 

 

 

 

 

 Cクラスの物資がAクラスへ渡っていることが確定した、と。

 

 

 Aクラスの拠点である洞窟、その入り口付近に設置されているシャワーやトイレ。

 遠目でもそのシリアルナンバーは確認できたから、それをメモ用紙のリストに交ぜ込んでおいたのだ。

 

 結果はクロ。

 

 少なくとも試験開始間もない頃には、AとCは通じていたことになる。

 それ自体に文句はない。

 

 

 問題はいつから2クラスが組んでいたのか、だ。

 

 いや、それだってどうでもいい。

 

 

 須藤が特別棟で嵌められかけた件に、葛城が関わってさえいなければ。

 

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