ようこそ知らない世界の教室へ   作:マサオ

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ごめんなさい!
ほんとごめんなさい!


32.

 AとCの協調。

 メインシナリオではなかったけど、想定していた流れの1つだ。

 

 その中で最も危険なのは、CクラスがAクラスの手先に成り下がり、リスク度外視の攻撃を仕掛けてくる展開。

 

 Cクラスの集団リタイアは見せかけで、武闘派が島のどこかに潜伏。

 タイミングを見計らってそいつらが襲撃をかけてくる、なんてのは勘弁してほしい。

 

 そんなことが起こるかと言われれば十中八九起こらないだろう。

 けど、そんな状況に陥った時の危険を思うと捨て置く事もできない。

 いわやるテールリスクというやつだ

 

 ただ、これはメタ読みによる部分が大きいから他人には説明しづらい。

 この無人島という環境は学校の敷地内と比べれば監視が緩く、直接的な手段をとるハードルもそれだけ低くなっている。

 

 ただ1つ愚痴らせてほしい。これは本来、学校が責任を負うべき部分だ。仕事しろ。

 

 ひとまず高度の柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応していくしかない。

 

 

 一方で、龍園達から玉砕アタックを喰らう懸念とは別に、AクラスとCクラスが協調していることについての共有と対応は必須。

 堀北がどう受け止めるにせよ、無手というわけにはいかない。

 

 真っ先に浮かび上がる対抗策は、Bクラスとの連携。

 相手が徒党を組んでいるのならこちらも、というのは常套手段ではある。

 

 ただ、それは俺にとって諸刃の剣。

 話の持っていき方については、よくよく考えるべきだろう。

 

 理由は至極単純。

 一連の流れが、Bクラス男子ルートへの分岐点に思えてならないからだ。

 思い返すと兆候というか、伏線のような出来事がいくつかあった。

 

 

 まず挙げられるのが、バカンス前のBクラスへの探り。

 俺はこれを、堀北1人に任せてしまった。

 

 それに加えて、昨日実施された他クラスキャンプへの訪問。

 こちらは堀北1人ではなく、綾小路が同行した。

 堀北の体調などを考慮すれば、2人で出かけたのは仕方のない選択と言える。

 同行者が俺にとっての最上級容疑者であることなんて、瑣末な問題なのだ。

 

 ただ、俺はBクラス男子の浸透圧を過小評価していたらしい。

 訪問後に堀北の口から、別の男子の名前が出てきてしまったのだ。

 

 神崎隆二。

 DクラスとBクラスが相互のリーダーを指名しない、という堀北発案の不可侵条約をつっぱねた生徒だ。

 Bクラス男子の中で無罪判決から最も遠い存在、と言い換えることもできる。

 

 

 噂で聞いた限りの評価は。

 

 整った顔立ちに、落ち着いた佇まい。

 勉強と運動は共に上々。

 

 はい、最上級容疑者。

 ここまで女性ウケを狙ったような特徴を持った人物を怪しむな、というのは無理な話だ。もはや有罪。

 こういうやつに限って、頭の中は女子のことで一杯だったりするのはよくある話。やはり有罪。

 

 堀北の話し方から察するに、『最初はムカついてたけど、あいつって案外良い奴?』パターンだろう。

 人類誕生以来、脈々と受け継がれてきた伝統芸能だ。

 そんな王道展開が発動されてしまえば、俺が介入する間も無く進展してしまう可能性すらある。

 

 それは、俺にとって絶望と破滅でしかない。

 これから先も生存し続けるため、危険な芽は早急に摘むべきだろう。

 

 

 とはいえ、どうしたものか。

 

 Bクラスとの連携は、堀北と最上級容疑が接触する機会の増加に繋がりかねない。

 そんな諸刃の剣は今すぐ投げ捨てたいけど、選択肢から排除するには惜しい効果を有する。

 

 さらに言えば、当面をDの独力で乗り切ったところで、いずれはどこか他のクラスと手を組む可能性は高い。

 

 さらにさらに言えば、卒業まで他クラスと手を組まずに済んだとしても、堀北と他クラス男子の接触を根絶できるわけではないのだ。

 

 

 

 ‥‥‥この手の問題は、これから先も間違いなく発生する。

 根本的な解決には、やはり地球上のY染色体持ちをどうにかするしかないのかもしれない。

 俺にだって、生存権はあるのだから。

 

 

 

 そうして頭を悩ませつつ、ベースキャンプへと戻った。

 

 悩み事ばかりだと、気が滅入ってしまう。

 こんな時こそ癒しが必要だ、と堀北を探してみると。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 いない、見当たらない。

 

 

 また誰かと出かけているのだろうか、という懸念が頭を埋め尽くしかけたけど、おそらくそうではない。

 他クラスのキャンプを訪れた昨日とは違って、今の堀北はキーカードを保持している。

 リーダー情報流失と体調悪化という2つのリスクを抱えた状況で、堀北が外出するだろうか。

 断言するやつがいたら、間違いなくエアプだ。

 

 ただ万が一、何か尋常ならざる理由でキャンプを離れている可能性が無いとも言い切れない。

 念のため、念のために確認するべきだ。

 

 そう考えて、キャンプから離れたところで話し込んでいる平田と軽井沢へと足を向けた。

 

 

 

 

 

「お疲れ様、浅村君。早かったね」

 

 こちらに気付いた平田が俺を労い、それに反応して軽井沢もこちらへと振り向く。

 平田は見慣れた通りの爽やかスマイルを浮かべているけど、軽井沢の雰囲気がいつもと違う。

 張り詰めた、というほどでは無いものの空気が重い。

 

「‥‥‥Cキャンプで用事を済ませてきたから、その説明をしようかと思ったんだけど、後にしたほうがいい?」

「いや、むしろいいタイミングだよ。僕からも話したいことがあったから」

「平田君」

 

 なぜだかおとなしい様子の軽井沢が、何かを訴えるように平田の袖を掴む。

 それに微笑みを返してから、平田はこちらへ口を開いた。

 

「女子が、少しだけ試験ポイントを使いたいらしいんだ」

「ねぇっ」

 

 軽井沢から咎めるような声が上がるものの、平田はそれを平然と受け流す。

 少し間を置いて、軽井沢は諦めたようにそっぽを向いてしまった。

 

 

 

 さて。

 ポイント使用については平田に一任すると、初日の話し合いで合意済み。

 にも関わらず、わざわざ俺へ共有しようとしている。

 それに加えて軽井沢のあの様子。

 

「具体的な使い道、平田は聞いてる?」

「フロアマットと電池式扇風機をそれぞれ複数。全部で8ポイントだったかな」

 

 フロアマットが3ポイント、電池式扇風機が1ポイント。

 組み合わせ的に両方を2個ずつの注文以外はあり得ない。

 

 男子と女子で分け合う気だったのか、それとも2つある女子テントの両方に配備するつもりだったのか。

 ‥‥‥あまり突っ込まない方が良さそうだ。

 

 誰が言い出したのか、にも可能な限り触れない方針で進めていこう。

 

「キャンプの整備はけっこう進んだから、どうにか乗り切れそうだと思ってたけど」

「船の居心地が良すぎたから、落差を感じたりしてるのかもね」

 

 それにしてもタイミングが変だ。

 

 フロアマットで改善されるであろう寝辛さについては、テントの床にビニールで作った簡易マットを敷き始めた。

 どれくらい効果があるかは夜になってみないととわからないけど、クラスメイトの反応は悪くなかった。

 

 ベースキャンプとその周辺には打ち水をしていて、日中でもそれほど暑さを感じずに過ごせる。

 よって、こちらも対策済。

 

 どちらも元々はBクラスで実施されていた工夫で、それを堀北が共有してくれた。

 それに対して、要望を被せてきているようにも見える。

 

「軽井沢さん、少しいい?」

 

 話へ加わる気が無いとアピールするかのように、体全体を横へ向けていた軽井沢へ声を掛けると、視線だけがこちらを向いた。

 

「‥‥‥なに?」

「このリクエストって、どの程度のレベルだと思う?通れば嬉しいくらいの話なのか。それとも絶対に必要なのか」

「‥‥‥なんであたしに聞くの?」

「俺よりも軽井沢さんの方が、女子の気持ちに寄り添えると思って。この試験が大変なのは男女共通だけど、特有の苦労っていうのはどうしてもあるだろうし」

 

 俺の言葉を聞いて警戒を緩めたのか、軽井沢はこちらへ向き直る。

 

「別に、平田君か浅村君がダメって言えば引っ込めるんじゃない?」

「ってことは、必須ではない?」

「たぶんね」

 

 返ってきたのは予想通りの答え。

 

 8ポイント程度なら夜陰に乗じてスポットを巡れば挽回できるとはいえ、リスクは少ない方がいい。

 それに、幸村との約束もあった。

 最初から考えていた通り、ここは諦めてもらう。

 

 問題はその方法。

 試験はまだ折り返し前だ。

 ここで無条件に突っぱねたら、そのしわ寄せはどこへ向かうだろうか。

 

「それならマットと扇風機についてはひとまず見送って、代わりに別の提案はできるかな?」

「どんな?」

「何かしらの、ポイント消費が少ないやり方。例えば、そうだな‥‥‥。女子が担当してる作業を、こっちがいくらか肩代わりするとか」

 

 これは却下されることが前提の条件で、布石として提示しただけ。

 

 ‥‥‥なんだけど、軽井沢の反応がいつもよりも鈍い。

 即座にダメ出しをしてくるかと思っていたのに、それが一向に飛んでこなかった。

 ただ、もどかしげな表情をしているだけだ。

 

 しばらく沈黙が続いて、それを破ったのは軽井沢ではなく平田だった。

 

「特に体力を使いそうなものは男子に、他を女子へ。みんなに仕事をお願いする時、僕はその辺りを意識してたかな」

 

 この提案は女子にとって、ひいては軽井沢にとって大した利益がない。

 言外にそう伝えているのか。

 あるいは、既に女子へ一定の配慮はしている、という意味かもしれない。

 

「女子の担当は火の番や調理あたりがメインだっけ。そこら辺を代わるってのは、イマイチかもしれないね」

「‥‥‥男子でも料理できる人っていなかった?燻製のやり方とか教えてくれたのは池だし、浅村君だって自分でお弁当とか作ってたよね?」

 

 普段の料理スキルと、この試験で食事を用意するスキルは別物だ。

 焚き火で魚を焼くのも、最初は少し手間取った。

 それはともかくとして。

 

「調理するだけなら軽井沢さんの言う通り、俺達でもできる。ただ申し訳ないんだけど、俺から男子にこの提案をするのは難しい」

 

 俺の言葉を聞いて、軽井沢の表情に僅かな影が差す。

 それを見ても、平田は介入してこない。

 

「ちなみにその理由、軽井沢さんはわかる?」

「‥‥‥仕事増えるのが嫌だからじゃないの?」

「はずれ」

「‥‥‥わかんない。他に何かある?」

「あるよ。すごく重要なことが」

 

 そう言って、一旦言葉を区切る。

 関心をできるだけ引きつけ、これから伝える内容を強調するように人差し指を立てながら。

 

 

「これってつまるところ、女子の手料理を男子から取り上げる行為なんだよ。間違いなく、俺が袋叩きにされる」

 

 

 

 しばらく沈黙が続き、唐突に軽井沢が吹き出した。

 横を向いて口元を押さえているけど、それでも笑いが漏れ出している。

 

「ふっ‥‥‥いや、ちょっと──ふふっ。すっごい真顔で、なに、しょーもないこと言ってるの」

「ちなみに、平田から提案してもらうってのはどう?」

「ごめんね、僕も袋叩きはちょっと」

 

 平田へパスを出し、更なる追撃。

 変なツボに入ったのか、軽井沢はさらに体を震わせ始める。

 若干のおふざけが混じっていたのは認めるけど、内容に関して嘘は言っていない。

 

 

 

 この試験で俺がキーパーソンと見なしているDクラス男子は2人。

 

 まず1人は鉄板というか、いつも通りの人物。

 目の前で微笑んでいるイケメン、クラス全体の統括を担当している平田だ。

 

 そして残るもう一方。

 こちらは須藤でも高円寺でも綾小路でも幸村でもない。

 

 この試験が始まってからその存在を大いにアピールしているクラスメイト。

 釣りの仕方、火起こしのコツ、靴ずれの対処法までなんでもござれのサバイバリスト、池寛治だ。

 

 軽井沢に述べた「女子が調理したものを食べるとテンション上がる系男子」には、このサバイバル系男子も含まれている。

 含まれているどころか、その筆頭だ。

 

 理由もまあ、察しはつく。

 

 普段の料理とはいささか趣が異なるものの、なんだかんだで調理を担当しているのは女子の中でも料理が得意であろう面子。

 その調理組には、篠原や櫛田が含まれている。

 

 

 つまりはそういうことなんだろう。

 池の心情は、自分のことのように理解できる。

 俺も、堀北の手料理食べたかったし。

 

 

 池の狙いが誰、もといどちらであれ、それは俺の関知するところではない。

 意中の女子による手料理を楽しんでいるという事実が重要なのだ。

 

 そんな状況で俺が調理を担当するなんて言い出したら、まず間違いなく、それはもうひどいことになるだろう。

 

 

 逆の立場で考えると、とてもわかりやすい。

 

 

 例えば、堀北から手料理を振る舞ってもらう機会があったとしよう。

 それは俺にとって、命と同じくらいには大切なものだ。

 

 その貴重な時間を台無しにする輩が現れたとしたら、そいつへどんな仕打ちをするだろうか。

 自分でも想像がつかない。

 想像がつかないけど、ついつい手が出てしまっても、やり過ぎということはないだろう。

 

 こちらの命に匹敵するほど大切なものを奪おうとしているのならば、逆にあちらの命が奪われることもあり得る。

 その可能性は考慮して然るべきなのだから。

 

 正当防衛の成立要件も満たすし、ボコる程度ならノープロブレム。社会正義の遂行ということで、感謝状の授与すらあり得る。

 

 以上からわかるように、俺が調理担当になるのは悪手。

 本当にやるなら、最低でも池にボコられる覚悟をしなければならない。

 

 

 

 話をまとめると。

 キーパーソンの機嫌を損ねる事態は避けるべし。

 馬に蹴られたくない。

 そろそろ平田と軽井沢以外のDクラスカップルが誕生してもいいタイミングではないだろうか。

 平田と池は優良物件、かつ堀北とのフラグが建っていないキーパーソン。軽井沢や篠原、櫛田との関係をこれからも全身全霊で応援していきたい。

 ということだ。

 

 そんなふうに、女子が調理するべき4つの理由を脳内で再認識していたら、軽井沢がようやく平静を取り戻した。

 

「大丈夫?落ち着いた?」

「‥‥‥『いきなりどうしたの』みたいな雰囲気出してるけどさ、浅村君が原因だからね?」

「そこまで笑うほど?」

「真面目な顔で、そんなくだらないこと言われたら笑うに決まってるじゃん。しかも、平田君と浅村君からそんなの出てくるなんてさ。‥‥‥あぁ、でも」

 

 言葉を切ると少し上を向き、顎に指を添えて何やら考え込む軽井沢。

 数秒経ってからこちらを見た時には、その表情は楽しげなものに変わっていた。

 

「そういえば浅村君、元々はそんな感じだったかもね。入学したばかりの頃は変なこと言ってたし。茶柱先生に向かって、『俺を買ってください』とか」

「よかった、俺の話は理解してもらえたみたいだね。話を戻そう」

 

 平静と一緒に調子も取り戻したのか、軽井沢はからかうような目でこちらを見ているので、それとなく軌道修正をかける。

 建設的なやりとりを優先するためであって、嫌な話題が出てきたからではない。

 とりあえず1つ言わせてもらうと、値段を聞いただけであって売る気なんてさらさら無かった。

 

「星乃宮先生を口説いたって噂も流れてたよねぇ。‥‥‥浅村君って、年上好きなの?」

「それ、入学して3日目とかの話でしょ。本当に口説くなら、もっとじっくりやってるから。‥‥‥違う、俺の流儀はどうでもよくて、今大事なのは女子に納得してもらうための条件。さっき話した通り、作業の肩代わりはイマイチ。代案が必要なんだけど、平田は何かある?」

 

 視線を平田に向けながら、言葉を投げる。

 救援要請だと理解してくれたのか、平田は苦笑しながら口を開いた。

 

「ごめんね、僕も考えてたんだけど‥‥‥。軽井沢さんはどう?」

「ん、あたしも思いつかない」

「‥‥‥放置できる問題じゃないけど、ちょっと後にしようか。時間を置けばアイデアが浮かぶかもしれないし、先にCクラスと物資の話を済ませてもいい?」

「なんか、いきなり真面目モード?」

「もともとそのつもりで声を掛けたんだ。大丈夫、手短にするから」

 

 どことなく不満げな軽井沢を尻目に、報告を始める。

 

「目当ての食料や飲料水は、残念だけど見つからなかった。それ以外で残っていたものがいくらかあったから、念のためにシリアルナンバーはメモしてきた」

 

 そう言ってシリアルナンバーを記載した紙を平田に渡すと、軽井沢も身を寄せて横から覗き込んだ。

 このメモは後から用意したもので、Aクラスの拠点で見つけたシリアルは入っていない。

 

「うわ、ビッシリ‥‥‥。えぇっと空のペットボトル、クーラーボックスにベッドチェアー‥‥‥本当に好き放題してたんだ、Cクラス」

 

 メモを食い入るように見ながら、軽井沢が洩らす。

 これなら行けると感じたので、頷いてから話を続けた。

 

「少なくとも100ポイント前後、おそらくはそれ以上にポイントを消費していると思う。そのリストに載っている物品が、Cクラスから申請されたモノであることは間違いないよ。茶柱先生へ確認して裏はとったから」

「クラスぐるみでリタイアしたんだし、Cクラスの試験ポイントがどれだけ減ったかなんて、気にしなくてもよくない?それよりさ、この残り物ってどうするつもり?」

「どうするつもりもないけど」

 

 そう返すと、軽井沢はこちらへ変な目を向けてくる。

 

「もしかして軽井沢さん、何か欲しいものでもあった?」

「逆にさ、浅村君は食べ物と水以外いらないってこと?」

「そこらへん以外は、あんまり考えてなかった」

「‥‥‥せっかくだからいろいろ使わせてもらった方が良いと思うなぁ」

 

 無料なんだからたくさん使おうというのが軽井沢の言い分。

 それはとても魅力的ではあるものの、返却時に破損や汚れなどでイチャモンをつけられるのでは、という懸念がつきまとう。

 消耗品や食料なら使えば無くなるので、その辺りをかわしやすいという計算だ。

 本当にCクラスが全員リタイアしたのなら、単なる杞憂でしかないんだけど。

 

「借りるとしたら、具体的にはどのあたり?」

「ベッドチェアーとかパラソルとかは、ちょっと欲しいかも」

「レジャー用品だね。そのあたりを揃えたら、他の女子も嬉しいかな?」

「それはまぁ、バカンスっぽさがグッと増すからね。喜ぶと思うけど」

「そっか。それなら」

 

 我ながら周りくどいことをしたと思う。

 ただ、ここまでくれば終わったようなもの。

 

「ベッドチェアーとパラソルは女子に使ってもらって、代わりに扇風機やマットについては見送り。そういう方向へ持って行けるかな?」

 

 こちらの提案を聞いた軽井沢は、平田と俺に視線を向けてから口を開いた。

 

「さっきも言ったじゃん。平田君と浅村君がダメって言うなら、引っ込めると思うって」

「あんまり雑な対応はしたくないんだ。相談してきた女子を無視するみたいで、ちょっとね」

 

 ストレスのたまりやすい環境で、不満を上から押さえつけるのはリスクが大きい。

 この試験中に爆発した場合、矛先についての懸念もある。

 

「あんまりってことは、場合によっては雑な対応してたってこと?」

「代案が思いつかなくて、試験の終わりが近かったら『あともう少しだけ我慢してください』って土下座してただろうね。終盤はもう、気合と根性とガッツだから」

「その3つ、何が違うの?」

 

 笑いながら問いかけてくる軽井沢。

 見え隠れしていた緊張感は、どうやら消え去ったらしい。

 

 

 

 それからしばらくは軽井沢にチャチャを入れられながら、クラスメイト達の様子を少し語った。

 そして、ようやく聞きたかった話題に。

 

「2人とも、堀北さんがどこにいるか知ってる?」

 

 問いかけつつ、平田と軽井沢だけに見えるよう両手の親指と人差し指で長方形を作る。

 

「これ、お願いしてたんだよね」

「さっき見た時は、テントで休んでたよ。あたし、呼んでこよっか?」

 

 堀北は出かけていなかった。予想通りだ。

 欠片も心配なんてしていなかったから、『知ってた』としか言いようがない。

 

「いや、平気。すぐにどうこうってわけじゃないから。スポットを回る時に済ませるよ」

 

 いろいろ話したいことはあるけど、休んでいるのならそちらを優先してもらおう。

 

「その方がいいかもね。堀北さん、体調良くなさそうだし」

 

 軽井沢がしれっと、最大の懸念事項を口にする。

 

 慣れない環境と、朝晩のスポット周回。

 ほとんどプライベートが存在せず、気が休まらないであろう空間。

 

 これらの悪条件は確実に、堀北の体調へ悪影響を与えている。

 軽井沢に察知されている以上、他のクラスメイトに広まるのも時間の問題かもしれない。

 

「それについては、正直打つ手がない。‥‥‥静養してもらうべきなんだろうけど、役割があるとなかなか、ね」

 

 この島に来る前から薄々感じてはいたけど、あの体調不良もなにかしらの伏線な気がする。

 問題は、それがどのような結果をもたらすか。

 試験結果に関わるのものなのか、あるいは。

 

 何にせよ、現状では経過を見守るしかない。

 

「役割がなかったとしてもこんな環境だし、船に戻らないとどうしようもないよね。‥‥‥てか、まだ3日目じゃん。こんな試験、早く終わってほしいのに」

 

 軽井沢はつまらさなそうにつぶやいてから、顔を上げた。

 

「‥‥‥ごめん。みんなのこと待たせてるから、あたしそろそろ戻るね。さっきの話、よろしくっ」

 

 そう言って、軽井沢が離れていく。

 さて。

 

「浅村君。少し話したいことがあるんだけど、いいかな?」

 

 平田が声を掛けてきた。

 少しだけ、そんな気はしていたけど。

 

「なに?男同士で内緒話?」

 

 離れかけていた軽井沢が足を止め、振り返りながら問いかけてくる。

 

「ちょっとした相談事だよ。パラソルやベッドチェアーのことで、男子のみんなにしっかりと納得してもらう必要があるから」

 

 返事をした平田の雰囲気は、いつも通りの温和なものだ。

 

 だけど、そんな軽いものではないだろう。

 

 

 

 

 

 様子のおかしかった軽井沢。

 助け舟をほとんど出さず、何かを推し量ろうとしていたように見えた平田。

 そして、このタイミングでのコンタクト。

 

 これはもう間違いない。

 

 

 

 

 

 

 

 俺は今から、裁判にかけられる。

 

 嫌疑は、『俺の彼女に色目使ってんじゃねぇクソ野郎』だ。

 

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