ようこそ知らない世界の教室へ   作:マサオ

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37.

 本日2度目のCクラスキャンプ跡地への訪問中。

 

 初回とは目的が異なる。

 1度目は物資回収のためだったけど、今回は海水浴だ。

 

 きっかけとなったのは、『Cクラスのキャンプから見た海が綺麗だった』という池の一言。

 

 これに篠原が興味を示して、他の女子達が同調。やるじゃないか、池。

 結果、なんだかんだで集まった希望者15名の引率として再度ここへ来ることに。

 内訳は男子5、女子が10。

 

 話が出てきた段階では平田を引率担当にして、軽井沢との海岸デートでも楽しんでもらおうと勝手に考えていた。

 だって、堀北は間違いなく居残り組だから。

 

 ただ、肝心の軽井沢が興味を示さなかったので、平田も留守番決定。

 

 だからと言って俺が出掛ける必要はないと思っていたんだけど、平田から直々に『浅村君、お願いできるかな』と言われてしまった。

 なるべく集団で行動するように提案したのが俺である以上、断る選択肢はなかったのだ。

 

 ちなみに、俺が同伴すると聞いた池はすごく嫌そうな顔をしていた。素直なのは良いことだと思う。

 

 俺が離れている間にキャンプ側がCクラスから襲撃を受けないかという懸念もあったけど、そのリスクはかなり小さい。

 平田や三宅、綾小路あたりは居残り組だし、そもそも男子の数はキャンプ側が3倍。

 

 つまり、どちらかと言えば危険なのは海水浴組。

 俺が同伴するのは理にかなっているのだ。

 

 そういった事情で仕方なく、海辺に来ている。

 ただ、泳いではいない。

 

 なにをしているかというと、釣り。

 岩場で釣り。

 海水浴を楽しんでいるクラスメイトを視界に収めつつ、ひたすら釣り。

 

 食料調達が懸念事項になったのだから、この時間を活用しない手はないだろう。

 そう言ったら、俺が海水浴へ参加しないことに不満を示していた面子は引き下がったし、池はとても嬉しそうな顔をしていた。素直なのは良いことだと思う。

 

 

 そんな感じで誘いを断った以上、『成果を上げられませんでした』なんて泣き言は許されない。

 

 前回とは釣り場が違うから少し心配だったけど、今回も入れ食い状態は変わらず。

 

 ひたすら釣っては締めて、釣っては締めてを繰り返していたら、持参した袋のうち6つが一杯になって残るは2つ。

 

 それなりの量は確保できたから、これで夕食に関しての心配はなくなった。

 とはいえ高校生、特に男子なんてのはいくら食べても腹が減る生き物。

 

 可能な限り、食糧は確保しておくべきだろう。

 

 ただ、魚ばっかりというのも芸がない。海の幸は他にもあるのだから。

 例えば、貝とか。

 

 そう思って試しに潜ってみると、目に付くのはサザエサザエアワビサザエ。

 貝毒の危険性が低い巻き貝達が、そこかしこに散らばっている。

 

 夕食の献立に貝の焼き物が追加された瞬間だった。

 

 

 

 

 

 堀北の苦手な食べ物に貝が含まれていないことを祈りつつ、携えた袋にサザエやアワビを入れまくった。

 袋が一杯になったところで海から上がると、数人のクラスメイトが辺りを歩き回っている。

 

 ‥‥‥少しばかり夢中になりすぎていたかもしれない。

 あれはたぶん、何も言わずにいなくなった俺を探し回っているのだろう。

 

 

 

「えっと、ごめんなさい」

 

 謝りながらみんなの元へ戻ると、真っ先に気付いたのは池だった。

 

「いたぁ!浅村いたぁ!」

 

 なんだか釈然としない掛け声を聞きながら、歩みを進める。

 

「お前さぁ。泳ぐなら誰かに言えよな」

 

 池から投げられた、反論しようのない一声。

 これではどっちが引率かわかったものじゃない。

 

「ほんとごめん。こいつら見つけたから、つい」

 

 そう口にしながら、素潜りの成果を袋から取り出して見せる。

 

「‥‥‥それ、もしかして」

 

 篠原が食いついた。

 

「アワビとサザエ。浜焼きみたいなやり方でイケるんじゃないかな」

「よっしゃ!金網とか探してくるわ!どうせCの野郎ども使ってたろ」

「早い早い早い」

 

 浜の方へ駆け足で戻っていく須藤。

 あの様子だと、池のツッコミは届いていないだろう。

 

「しっかしすげぇなここ。魚はめちゃくちゃ釣れるわ、アワビまでいるわ」

「Cクラスも拠点選びのセンスはあったみたいだね。ところで、池ってこいつらの調理とかやったことある?」

 

 そう言いながらアワビを見せつけると、池がなんだか変な顔でこちらを見てくる。

 姿勢も妙だ。

 こう、前屈みというか。

 

「どうかした?もしかして貝苦手?」

「イヤ、スキダヨ?タダ、イマハミナクテモイイカナ?」

 

 そう言いながら体育座りで海の方を眺め始める池。

 声を掛けても『ダイジョウブ』としか言わなくなってしまった。

 

 どうやら時間を置けば解決するらしいので、放置して再び潜る準備をしていたら、かすかな足音を拾い上げた。

 

 内陸、森の中から近づいてくる複数人のものを。

 

 念のために早足で浜の方へ戻って、その集団を待ち構えると。

 

 

 

「やっほ〜浅村君。久しぶりだね」

 

 現れたのはBクラスの生徒達。

 その先頭に立っている一之瀬が、こちらに手を振っている。

 後に男女が続いて、計6人。

 

「久しぶり。そっちも偵察に来たのかな?」

「声が聞こえてきたから、誰かいるのか気になって」

 

 Bクラスの拠点は、ここからそれなりに離れた場所にある。

 その上わざわざ一之瀬が出てきているのだから、行き当たりばったりのはずがない。

 

「‥‥‥『そっちも』てことは、Dクラスも偵察に来たってことか?」

 

 一之瀬の後ろから出てきた男子、柴田が声を掛けてきた。

 

 平田と同じくサッカー部所属で、足の速さはかなりのものだと聞いている。

 つまり有罪候補。

 

「もちろん。それ以外にここへ来る理由はないし」

「‥‥‥あれ、どう見ても遊んでないか?」

 

 そう言って柴田が指差した先では、クラスメイト達がバチャバチャしたりキャッキャウフフしたり。

 柴田の言葉通り、とても楽しそうに遊んでいる。

 

「うちのクラスの遊んでるフリ、様になってるでしょ?」

「え?全力で遊んでるっぽいけど、フリなの?」

 

 素直に疑問を投げてくる柴田。

 池とは違った感じだけど、なかなか話しやすいタイプではある。

 さすが有罪候補。

 

「浅村、何してんだ?」

 

 Cクラスの残した物資から金網を引っ張り出した須藤が、こちらへ気付いて寄ってきた。

 

「久しぶり、須藤君」

「あ?あぁ‥‥‥えぇーっと」

 

 一之瀬から声を掛けられて、言い淀む須藤。

 

「‥‥‥イチノセ」

「一之瀬じゃねぇか。中間の時はマジで助かったわ」

 

 他の人には聞こえない音量でヘルプを入れた途端、須藤の口が回り始めた。

 案の定、名前を忘れていたらしい。

 綾小路と一之瀬が2人でいる場面を見かけた時も忘れていたから、これで2回目だ。

 

 お礼を言えるようになったことを評価するべきか、恩人の名前をまだ覚えてなかったことを嘆くべきか。

 

「にゃはは、どういたしまして。須藤君も浅村君も律儀だねっ」

「あ、こいつら、例の中間試験の」

 

 柴田からムズムズする言葉が飛び出してきた。

 さんざんネタにされてきたけど、未だに慣れない。多分これから先も慣れない。

 

 だってそうだろう。

 俺にとっては黒歴史を暴かれてるのに等しいのだから。

 人目が無かったら、間違いなくうめき声を上げながら転がり回っている。

 

「おい浅村!俺らも有名になったな!」

 

 須藤が笑いながら、バシバシと背中を叩いてきた。

 このメンタルの強さは見習っていきたい。

 

 それはそれとして。

 

「ちなみに、話が広まった理由はBクラスの担任だって話を聞いたんだけど?」

 

 問い詰めるように視線を送ると、一之瀬は苦笑いして、柴田は顔を逸らした。

 管理者にあるまじき態度だ。

 危険物を取り扱っているという自覚が全く足りていないように見える。

 

「ほらほら、苦情は本人に言ってもらうとして。そんなことよりさ」

 

 無責任な一言の後に、柴田が近づいてくる。

 マジマジと須藤と俺の体を見つめながら、再び口を開いた。

 

「2人ともえっげつない身体してんなぁ」

 

 遠慮のない視線が柴田から、そして他のBクラス生徒から注がれる。

 

「ったりめぇだ。Dクラスのトップ2だからな」

「いや、高円寺も結構なものだよ」

「あーなんだっけ。その名前も聞き覚えある」

 

 むしろ高円寺の方こそ、俺達よりも名前が知られていて然るべきだろう。

 キャラの強烈さに関しては、俺なんかと比べ物にならない。おれがアッサリ鶏ガラで、あいつは濃厚豚骨。最低でもそれくらいの差がある。

 

「水泳ですごいタイムを記録した人、だったかな?」

「それ!浅村と同着だって、星乃宮先生が言ってたやつ」

 

 一之瀬と柴田の間で、余計な情報のやり取りが行われている。

 星乃宮先生は俺に何か恨みでもあるのだろうか。

 

 ‥‥‥きっかけは俺が高円寺の名前を出したことだから、墓穴を掘ってしまったと言えなくもないけど。

 

「で、その高円寺ってやつは今いるのか?泳いでたりする?」

 

 柴田が海岸へ、再び視線を送る。

 

「いねぇよ。試験始まった途端にリタイアしやがったからな。使えねぇどころの話じゃねぇぞ、あいつ」

「‥‥‥Dクラス、1人リタイアしてたんだ」

 

 一之瀬の反応を見て、口を滑らせたことを自覚した須藤が『やべっ』と言ってそうな表情でこちらを見てきた。

 これがミスだと言うのなら、高円寺の名前を出した俺こそが責任を負うべきだろう。あるいは高円寺本人が。

 

「他のクラスには内緒でよろしく。お世話になったBクラスは特別ってことで」

 

 隠すほどではないものの、念のためにフォロー。

 一之瀬達が相手なら、そこらへんの内情は教えても問題ないだろうけど。

 

「なんか、Dクラスも色々と大変なんだな」

 

 諸々を察してくれたのか、憐れむような目でこちらを見てくる柴田。

 

 同情するのなら、星乃宮をなんとかしてほしい。

 あとは高円寺を更生させて、龍園をおとなしくさせて、監視者の正体を暴き出してほしい。

 

「そうだね。内に外にと、ほんと勘弁してほしいよ」

 

 つい愚痴をこぼしたら、一之瀬が意味ありげにこちらを見てくる。

 

 そのまま考え込む素振りをしたブロンドの少女は、Bクラスの面々へ振り返って口を開いた。

 

「ね、みんな。せっかく海の方に来たんだし、少し自由行動にしよっか」

「お、まじ?よっしゃー!」

 

 一之瀬が言い終えた途端に柴田が服を脱ぎ出す。

 中に着込んでいたらしい水着だけになって海の方へ駆け出し、残りの男子も後に続いた。

 

「帆波ちゃん、中に着てきた?」

 

 Bクラスの女子、白波からの問いかけに首を振る一之瀬。

 

「そんなつもりじゃなかったからね〜」

「なら、岩場の方とか行ってみる?」

「ごめんね。私、浅村君と話しておきたいことがあるんだ」

「ん?俺?」

 

 一之瀬から指名された瞬間、白波の視線が突き刺さった。

 なんだか棘のあるような、そんな視線が。

 

 白波とは話したことすらないし、気に障るようなことをやらかした覚えもない。

 

 ‥‥‥流れ的に一之瀬絡みの可能性が高いけど、本気で覚えがない。

 

「浅村君、ちょっとだけいいかな?」

 

 そう言って、こちらの返事を待たずに一之瀬が歩き始める。

 白波が気にかかるとはいえ、すぐにどうこうできるものでもない。

 あちらからアクションがあったら、その時に考えよう。

 

 そんなわけで、背中にチクチクと視線を感じながら一之瀬の後に続いた。

 

 

 

 

 

 

「無理矢理ごめんね。少し相談したいことがあって」

 

 他の生徒達からほどほどに離れたあたりで、足を止めた一之瀬が口を開いた。

 

「うちのリーダーを教えろ、とかじゃなければ喜んで」

「ありがとっ。でも、どこから話そうかなぁ」

 

 拳に顎を乗せて『うーん』と唸る姿をしばし見守る。

 

 数秒経って考えがまとまった様子の一之瀬は、砂浜で競走し始めた須藤と柴田へ視線を送りながら話し始めた。

 

「単刀直入に言うとね、DクラスとBクラスで同盟みたいなものを組めないかって内容なんだけど」

 

 タイムリーな申し出だ。

 タイミング的に、一之瀬もAとCの関係を察知したのだろうか。

 どう返答するにせよ、まずは提案の背景を明らかにする必要がある。

 

「個人的にはいい考えだと思う」

「ほんと?よかった。反対だって言われたら、どうしようもなかったから」

「ただ、うちのクラスへどんなことを期待しているのかっていうのは気になるかな」

「別にそこまで大袈裟なものじゃないよ。お互いに無理のない範囲で協力して、競うべき時は正々堂々と競う。私がイメージしてるのは、そういう関係」

「協力っていうのは、例えば情報交換とか?」

「そうそう」

 

 一之瀬が口にしたのは、束縛の少ない緩やかな関係。

 言ってしまえば、今とそう変わらない。

 

 わざわざ相談を持ちかけてきた以上、それ以外の何かがあると見るべきだ。

 

「特に問題があるようには思えないけど、何か気にしてたりする?」

「まずはDクラスの反応。1学期の終わりに堀北さんと話した時は、乗り気かどうかわからなくて」

「一昨日も綾小路と一緒に、そっちのキャンプへお邪魔したって聞いたよ。その時は何か話した?」

「おしゃべりはしたけど、こういうことは話せなかった」

 

 なんとなく含みを感じる。

 『まずは』と言っていたのも、そのあたりと関係しているのかもしれない。

 

 それはそれとして、堀北はBクラスの男や綾小路とどんな話をしていたのか、距離感はどれくらいでどのように対応していたのかをもっと詳しく話してほしかった。

 これ以上話の腰を折るわけにはいかないから、自重するけど。

 

「俺から見た限りでは、Bクラスに悪い印象を持ってる人はいない」

 

 堀北は一之瀬あたりを警戒してる向きもあるけど、おそらくは大丈夫だろう。

 1人でBクラスへ赴いたり、不可侵条約を提案してきたりしているのだから。

 

 ‥‥‥別の意味で大丈夫じゃない。

 やっぱり一度、神崎あたりとは顔合わせをしておくべきだ。クラスとかそこら辺の事情抜きで。

 

「なら、あとはこっちの問題」

「Bクラスの?」

「その、悪い意味で捉えないでね。なんていうか、うちのクラスの何人かがDクラスを気にしてるような感じがするんだ。私が思うに、その理由は浅村君なんじゃないかなって」

「‥‥‥俺かぁ」

 

 悪目立ちが過ぎた自覚はある。

 

 それにしても、そこまで警戒されるほどだろうか。風聞を広めた星乃宮先生にこそ、真の責任があるのではないだろうか。間違いなくある。過失割合で言えば、100:0だ。

 

 ただ、これで白波の妙な視線にも合点がいった。

 一之瀬の言う『何人か』には、きっと白波も含まれているのだろう。

 

「で、その数人の反対に困ってるとか?」

「困ってるのとは違うかな。反対されてるってわけでもないし」

「なら、問題はないように思えるけど」

「実際はその通りかも。私のこだわりというか、単なるわががまなんだよね。できるだけみんなに納得してほしいって思っちゃうんだ」

 

 一之瀬がBクラスの生徒達から慕われている理由の1つは、間違いなくこの性格だ。

 欠点のように言っているけど、美徳とすら言える。

 

 一方で、こうもあっさりと内情を曝け出してくるところには危ういものを感じなくもない。

 

 距離感とかにも幼さを残しているし、色々と心配だ。

 悪い男に引っかかりそうだとか、女慣れしてない男子を勘違いさせそうだとか、そこらへんで。

 

 ただ、今はそんなお節介よりも、一之瀬の要望の方が大事なわけで。

 

「反対派を説き伏せるならともかく、腹の底から納得させるのは難しいんじゃないかな」

「簡単じゃないとは思ってるよ。ただ、試してみたいことがあるんだよね」

 

 そう言って、一之瀬は両手を合わせてこちらを拝んできた。

 

「1回だけ、みんなと会ってみてくれないかな?」

「みんなって言うのは」

「うちのクラスのみんな」

「‥‥‥実際に会っただけでどうにかなるかな?」

「断言はできないけど、浅村君の人となりが分かれば余計な心配はしなくなるかも」

 

 本当に解決するのかはかなり疑問だけど、一之瀬からの頼みであれば無下にはできない。

 加えて、Bクラスとの面通しが叶うのはこちらにとっても好都合。

 

 それにこの流れで行けば、堀北ではなく俺がBクラスとの窓口になり得る。

 ひいては、堀北とBクラス男子の接触を減らせるのだ。

 まさに、渡りに船の提案。

 

 

 ただ1つだけ、どうしても気になってしまうことがあった。

 

「場所は?」

「こっちのキャンプでいいかな?」

 

 当然の返事だ。

 となれば、星乃宮と出くわす可能性もある。というか、出くわさないわけがない。

 

 

 

 

 しばし、目を瞑って考えてみる。

 

 

 一之瀬への義理、星乃宮への畏れ。

 自分にとって優先順位が高いのはどちらだろうか。

 

 

 それぞれを天秤の両端に乗せた瞬間、星乃宮の乗った方がガクッと沈み込む。

 あまりの勢いに、一之瀬への義理は彼方へ吹き飛んでしまったほどだ。

 

 では。

 空いた方に、堀北に関する諸々の事情を乗せてみる。

 

 

 天秤はギシリと軋みながら、堀北側へと傾いた。

 

 

 

 

 

 

 

 ────答えは得た。

 

 大丈夫だよ堀北。俺も、これから頑張っていくから。

 

 

 

 

 目を開けて、こちらの様子を窺っていた一之瀬へ視線を向けた。

 

「うん、かまわないよ」

「‥‥‥ほんとに平気?無理してほしくはないし、気まずいなら」

「大丈夫、俺にもメリットはあるから」

 

 食い気味に返事をして、一之瀬の懸念を吹き飛ばす。

 

 ここで話は済ませておくべきだ。

 決心が揺るいでしまう前に。

 

「で、いつにしようか。そっちにも準備があるだろうけど、早めがいいと思う」

「じゃあ、明日のお昼あたりでどうかな?」

「了解」

 

 これで退路は絶った。

 後悔が津波の如く押し寄せているけど、まぁどうにかなるだろう。

 

 ‥‥‥どうにかならなかったら、堀北のことを考えて乗り切ればいい。つまりはどうにでもできる。

 

 さて。

 

 

「一之瀬さんの相談事は、これで大丈夫そう?」

「うん。私ばかり相談しちゃったけど、浅村君は?」

「‥‥‥じゃあ、星乃宮先生のことをお願いできるかな?」

 

 言うべきか少し迷ったけど、独力では対応できない俺に選択肢なんてなかった。

 対応を誤れば、アレはさらなる被害を生み出すだろう。どうにかなるわけがない。

 

「‥‥‥もしかして、ほんとに苦手だったりする?」

 

 真面目な顔で問いかけてくる一之瀬。

 

「距離感というか絡み方というか、そこらへんがどうも。そっちのキャンプにお邪魔する間だけでも、なんとかしてもらえないかな?」

「‥‥‥わかった。私のお願いで来てもらうわけだし、責任があるよね」

「そこまで重く考えなくても」

「大丈夫。浅村君がこっちへ来る時間に、適当な口実でキャンプから離れてもらうだけだから」

「なら14時にお邪魔しようかな」

「了解。タイミングが大事だねっ」

「上手くいくことを祈ってるよ。ところで、そろそろ戻った方がいいんじゃないかな?」

 

 言いながら背後をチラリと振り返るとBクラス女子、というか白波が視界に入る。

 一之瀬と話している間もひたすらガン見されていたので、気になって仕方がない。

 

「そうだね。みんなのこと待たせてるし」

 

 そう言って一之瀬が歩き始める。

 

 待たせていると言ってもそれは女子だけの話だ。

 柴田達Bクラス男子は、波打ち際で須藤とプロレス染みたことをしている。

 

「‥‥‥失敗したなぁ。私も水着持ってくればよかった」

 

 男子達の乱闘を見て、一之瀬が楽しそうに呟いた。

 

 アレを目の当たりにしてそんな言葉が出てくる女子は、なかなかいないだろう。

 

 

 

 

 その後は、コミュニケーション能力を発揮した柴田がDクラス女子と打ち解け始めたあたりで解散になった。

 

 

 篠原や櫛田と楽しそうに会話をする柴田。

 それを、体育座りでひたすら眺めている池。

 

 

 そんな光景がとても心に刺さったので、そろそろキャンプへ戻ろうと俺が声をかけたのだ。 

 

 

 

 

 

 

 キャンプへの帰り道、池が何か言いたそうにこちらを見ていた。

 

 結局は何も言ってこなかったけど、内容には察しがつく。

 

 柴田を退散させたことに、感謝の意を示したかったのだろう。

 

 

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