ようこそ知らない世界の教室へ   作:マサオ

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 到着前に自分で言っていた通り、堀北は離れた場所で一之瀬と話し込んでいる。

 その傍には他の女子も何人かいるけど、男子はいない。大変素晴らしい。

 

 一方の俺は。

 

「初めまして、かな」

「噂は色々と耳にしているが、話すのは初めてだな。神崎だ」

「Dクラスの浅村大地、よろしく」

 

 Bクラス男子の最右翼とサシで対峙中。

 到着して間を置かずにあちらが接触してきて、自己紹介から始めたところだ。

 

「いろいろとデリケートなタイミングだ。申し訳ないが、諸手を挙げて歓迎というわけにもいかない」

 

 歓迎どころか、感じるのはなかなかの警戒ムード。

 方々から視線を注がれているあたり、一之瀬の懸念は的中しているように思える。

 

 その上、今は試験の終わりが見えてきて、色々と張り詰めてくる頃合い。

 

 訪問を請け負ったのは俺だけど、これをどうにかしろってのはなかなかの無茶振りだ。

 

「当然の対応だね。逆の立場だったら、俺もそうしてる」

「理解した上での来訪なら尚更だな。ひとまず、どういった用向きか聞かせてもらえるか?」

 

 だから、俺なりの方法で納得してもらうつもりで来た。

 

「BクラスとDクラスの協力関係構築」

「‥‥‥前回と似たようなものか。こちらの答えは変わらない。そもそも協力自体の是非は別として、こちらに不利なタイミングだとは思わないか?」

「リーダー指名回避のことを言ってる?」

「ああ。積極的にスポットを占拠しているDクラスが負っているリスク、負うべきリスクは俺達よりも大きいだろう」

「Bクラスの占有度合いがどの程度か知らないからコメントしづらいけど、理屈としては理解できるよ。俺の目的はそこじゃないから、不服なら条件から外していいと思ってる」

「それならバランスは取れるかもしれないが、別のところが引っかかる。試験中にわざわざやってきた理由だ」

 

 純粋な協力が目的なら、試験が終わってからゆっくり話せばいいはず、と。

 真っ当な言い分だ。

 

 このタイミングでキャンプを訪ねてくる奴なんて、リーダーを探りに来たか、でなければよっぽどの無神経か。

 俺だったらそのどちらかだと判断するし、神崎もそうしたからこその対応だろう。

 

 とはいえ、俺はどちらでもない。

 

「気になることがあったから、情報提供をしたくて」

「試験に関することか?」

 

 問いかけに頷いてから、補足を投げる。

 

「俺が協力を提案してる動機の1つでもある」

「聞かせてくれ」

「葛城と龍園の間で、何かしらの取引がされているかもしれない。Cクラスの物資がAクラスに流れてた」

「‥‥‥どうやって突き止めた?」

「物資のシリアルナンバーで」

「もう少し詳細を知りたいが、難しいか?」

「他の人に話さないって約束してくれるなら」

「わかった」

 

 悩むそぶりをかけらも見せずに言う神崎。

 素直に守ってくれるかは微妙なところだけど、手口を知られたとしても、あちらの出方がわかるなら安いものだ。

 

「まず確認。物資のシリアルナンバーを先生へ照会すると、自クラスのものかそうでないか教えてもらえるのは知ってる?」

「‥‥‥いや、初耳だな。俺だけじゃなく、Bクラス全員が知らないだろう」

「一応言っておくと、星乃宮先生の説明不足ではないと思う。こっちから質問しなかったら、俺も知らないままだっただろうし」

「ああ、そこは疑っていない。抑えるべきところは抑えるのがあの先生だ」

「え?」

 

 思わぬ一言につい反応。

 さらに余計なことまで言いそうになったけど、喉仏のあたりでグッと抑え込んだ。

 

「‥‥‥どうかしたか?」

「なんでもない、話を戻そう。今説明した照会方法で、Aクラスの拠点にあったシリアルを確認してもらったんだ。うちのテントにいるCクラスの生徒、伊吹さんに」

「なるほど、それなら間違い無いだろうな。しかし、伊吹はよく承諾したものだ」

「そこは色々工夫したよ」

「信用してるのか?」

 

 俺なら遠回しに確かめるような内容でもズバズバ聞いてくる。

 なかなか素直な物言いだ。

 

 とはいえ、こちらが正直に答えるかどうかは別の話。

 

「それはもう、キャンプまで招き入れてるわけだから。そっちも似たような状況だって聞いてるけど、どうなの?」

「‥‥‥無警戒、というわけにはいかないんだがな」

 

 離れた場所で作業している生徒の集団、その中にいる金田へ視線を送りながら神崎がこぼす。

 

 瞬間、蜃気楼のようにおぼろげだった懐柔への道筋が、確かな形を成した。

 

「とりあえず、AとCが取引しているという話は理解した」

 

 そして前言撤回。

 素直な物言いだと思ったけど、そうでもなさそうだ。

 

「あのメガネをかけてる男子、あれが金田だよね?」

 

 神崎と同じく、メガネの男子を見ながら問いかける。

 

「ああ。面識があるのか?」

「ないよ。Cクラスの腕章が無かったら、Bクラスの生徒だって思ったかも。かなり馴染んでるみたいだ」

「積極的に手伝ってくれるからな。こちらもかなり助かっている」

「本気で言ってるようには見えないけど」

「どうしてそう思う?」

「俺と同じだから」

 

 あちらが望んでいるだろう言葉を投げて様子見。

 

 ただ、そのまま待っても探るような視線は変わらなかった。

 なので、もうひと押し。

 

「この中で一番、Cクラスを信用してない」

「随分はっきりと言うんだな」

「そうしないと話が進まなかったでしょ。で、どうなの?」

「否定はしない」

「なら、ちょっと安心した。金田はOKだけど俺はダメ、なんて言われたらどうしようも無かったし」

「到着してからの対応を気にしていたのか?」

「そりゃあね。Cクラスより信用されてない状況だったら、協力なんて望めるわけないから」

「さっきの物言いもそうだが、金田が龍園の手先だと確信しているように聞こえる」

「AとCがやり取りした痕跡。BとDに1人ずつ紛れ込んでるCの生徒。まだ足りない?」

「‥‥‥俺はともかく、一之瀬達は納得しないだろうな」

 

 金田が龍園と繋がっている可能性。

 確かに一之瀬なら、親切や心配りが擬人化したような性格のあの少女なら、それを考慮はしても最優先事項にはしないだろう。

 

「Dクラスはどうなんだ?そこまで掴んだのなら対策を講じても良さそうだが、伊吹を隔離したりはしないのか?」

「少なくとも、平田は納得しないだろうね」

 

 平田の性格も一之瀬同様、親切や心配りの占める割合が100割オーバー。

 そういう状況は可能な限り避けたい、と言われてもいる。

 

「なるほど。そちらは平田と浅村、こちらは一之瀬と俺。似たような立場だと」

「そこらへんでも、個人的な協力とかが出来たりするんじゃないかって思ってる」

「わかった、組もう。ただ、他のクラスメイトについては断言できない。皆の意向次第では、個人的な協力に留まる可能性もある」

「それで構わないよ」

 

 神崎の了承は取り付けた。

 一之瀬への義理も、これで多少は果たせただろう。

 

「とはいえ、こちらの内情くらいは話しておくべきだな。察しはついてるだろうが、俺達はあまり動いていない。ベースキャンプ以外のスポット占有は皆無で、集めた情報もそちらには劣る。色々と教えてもらった後に言うのも申し訳ないが、現状では渡せるような情報がない」

「別にいいさ。一之瀬さんから貰った分があるし」

 

 そう告げると神崎が訝しむような表情をしたので、補足を投げる。

 

「中間試験の範囲変更、一之瀬さんに教えてもらったんだ。担任が告知し忘れてたらしくて」

「‥‥‥茶柱先生はそういったミスとは無縁だと思っていたが」

「目の前で言われたからね、失念していたって」

 

 神崎の漏らした所感は、誰もが抱くものだろう。

 実際のところ、情報を知らせなかったのが意図的であることは確実。

 動機も察しはつくけど、ただただ面倒だから本当にやめてほしい。

 

「ともかく、そこらへんを知らなかった俺達は必死に範囲外を勉強してたってわけ。一之瀬さんの指摘が無かったら、Dクラスは40人じゃなくなってたかも」

「なるほど。やたらと好意的だった理由がようやくわかった」

「本人からは何も聞かされてない?」

「初耳だ。当然のことをした、程度の認識なんだろう。他クラスの生徒を助けたのも、俺が知っているだけで1度や2度ではないからな」

「なるほどね」

「一之瀬だけじゃない。Bクラスはそんな人間ばかりだ」

 

 そう言って、神崎は再び金田へと視線を向ける。 

 

「そしてこの学校では、そこに付け入ろうとする奴が必ず出て来る」

 

 今まで起伏の乏しかった声が、少しだけ揺らぎ始めた。

 

「だいぶ口がほぐれてきたんじゃない?」

「誰のこと、とは言ってない」

「まぁ、気持ちはわかるよ。気のいい奴らがバカを見るのは本当に腹が立つ。うちの平田だって、他クラスの人の手助けをした回数は片手31じゃ足りないだろうし」

「そこは同感だ。一之瀬の2桁を超える親切が裏目に出るような事態は避けたい」

 

 こちらへ向き直った神崎と視線がぶつかり、バチバチと火花を散らす。

 

 別に神崎の言葉を否定する気はない。

 一之瀬が施した親切が、1学期だけでも10や20を超えているだろうってことは俺にだって想像できる。

 

 ただ、平田も1日1善みたいなところがある。

 Dクラスの面倒を見るのに忙しいだけで、本来なら3桁に届いてたはずの逸材だ。だから、実質平田の勝ち。

 

 しかし、神崎が張り合ってくるとは思ってなかった。

 クールなタイプだと思ってたけど、存外に意地っ張りなところがあるらしい。

 

 ただ、クラスメイトの優しさ自慢に関してはもとより結果の見えていた勝負。

 こちらの勝ちは揺るぎようがなかった。

 

 

 堀北は言うまでもなく女神。ここで名前を出したらレギュレーション違反扱いになるであろう最強の存在。約束された勝利の美少女。

 

 平田もさっきまで散々言った通り、Sランク間違いなしの強者。見ていて心配になるレベルで人の良さが漂っている。その体はきっと、無限の優しさで出来ていた。

 

 櫛田だって一之瀬に比肩するレベルで学年全体から慕われている。噂によると、人の悩みを聞くのが上手なんだとか。ストレス溜まりそう。

 

 須藤は派手な見た目でバスケがうまい。

 

 

 ほら、俺の勝ち。

 

 

 ちなみに今上げた面子は、Dクラスの主人公候補トップ4でもある。

 9割方、この中の誰かだ。

 花京院の魂を賭けてもいい。

 

 というか、そうであってくれ。

 高円寺が主役だったりしたら、話の展開が読めなさすぎるし、俺のストレスは果てしなく加速する。

 

 

 

 

「なんか揉めてる?」

 

 しばらく視線だけでの押し合いに興じてたら、柴田が寄ってきた。

 いらぬ心配をかけてしまったらしい。

 

「いや、全く。神崎と親交を深めていただけ」

「決裂寸前、と言ってもいい状況だな」

「神崎?」

「冗談だ」

 

 仕返しのつもりなんだろうけど、なんとも大人気ない。

 素直に敗北を認める勇気も時には必要だろうに。

 

「‥‥‥まぁ、大丈夫そうならいっか」

 

 そう言って離れて行こうとする柴田。

 

 だが、俺は忘れてない。忘れるわけがない。

 

 こいつはBクラス暫定第2位。

 Cクラスキャンプ跡地で、池が大きなダメージを負うことになった元凶だ。

 

 野放しにすれば堀北へ魔の手が及ぶ。

 

「そういえば昨日、須藤と楽しそうに話してたよね」

「ん、俺?」

 

 呼びかけに反応して振り返る柴田。

 

「そう。あれが初対面でしょ?どうやってあそこまで打ち解けたのか気になって」

「別に、変わったことなんてしてないけどな。浅村のことサッカー部に勧誘しようかなって言ったら、『あいつはバスケ部に入るんだ』って返されて、そっから流れでプロレスが始まって」

 

 そんな事実バスケ部に入る予定はない。

 

 よっぽどのことがなければ、これからも帰宅部に所属し続けるつもりでいる。

 

 理由は簡単。

 堀北がなにかしらの部活を始めた時、同時に入部できる状態を維持しておくためだ。

 

「つか、浅村だって神崎とは今日が初めてだろ?普通に話せてるじゃん」

「それはまぁ、頑張ったから」

「あぁ」

 

 どこか納得した様子の柴田が、神崎へと視線を流す。

 

「ちなみに神崎はどうだった?」

「何がだ?」

「先生とか一之瀬が言ってた、話すとだいぶ印象変わるってやつ」

「まぁ、変わったと言えば変わったが」

「‥‥‥柴田の言う先生って」

「星乃宮先生」

 

 不吉な名詞が出てきた。

 今この場にいないことを理解していても、その名はなお禍々しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 待て、近づいてくる気配がある。

 酒をこよなく愛していそうなこの足取り、間違えようがない。

 

 柴田が迂闊にも名前を出したせいで、災厄を呼び寄せてしまった。

 まさに、口は災いの元。

 

「浅村、どうかした?」

「なんでもないよ」

 

 とはいえ、ここで騒いでも醜態を晒すだけ。

 堀北と一緒にこのキャンプを訪れている以上、俺だけが逃げるなんて選択肢は存在しない。

 

 

 

 

 

 

 ‥‥‥そして今、背中に視線が突き刺さったので、視認範囲から逃れるという選択肢も消え去った。

 

 それなりの距離があるのに、捕捉されるまでの時間が短すぎる。

 右腕に付けているDクラスの腕章を隠す暇すらない、それこそ一瞬と言っていい早さだった。

 

 迷いのないこの動き、俺がここにいることをあらかじめ知っていたそれにしか思えない。

 

 

 なんであれ、詰みだ。

 俺に残された手段は、現実から目を逸らして自分に言い聞かせることだけ。

 

 

 そう。

 

 こちらを凝視してたとしても、俺に興味を示しているとは限らない。

 

 真っ直ぐに寄ってきたとしても、俺に興味を示しているとは限らない。

 

 すぐ後ろで足を止めたとしても、俺に興味を示しているとは限らない。

 

 

 

 いや、流石にダメだろう。

 現実を見ないと、取り返しのつかない事態に陥る。それこそ、命に関わりかねないような事態に。

 

 

 というわけで現状の整理。

 

 目の前にいる神崎と柴田は、さっきまでとは違った顔をしている。

 前者は『オイオイオイ』の表情で、後者は『死ぬわアイツ』の表情。

 

 背後には1メートルほどの位置に星乃宮先生の気配。

 

 結論:眼鏡の解説役が不足

 

 

 

 

 ふざけるのはそろそろ控えよう。

 思考停止こそ破滅への最短経路なのだから。

 

 まず重要なのは、あちらの目的。

 これは足音を抑えて近付いてきたことから簡単にわかる。

 間違いなく、俺に対しての不意打ちだ。

 

 となれば、具体的な攻め手の予測も難しくない。

 今の間合いなら肩トントンからの振り返った頬に人差し指ツン。

 さらに距離を詰めてきたら膝カックン。

 この2択であることは確実。花京院の魂を賭けてもいい。

 

 ただ一方で、星乃宮先生相手に読み合いが成立するだろうかという不安もある。

 というか、成立しないだろう。

 だとしてもノープロブレム。

 2択である以上、読みが当たる確率は50%なのだから。

 

 仮にハズレを引いたとしても、不意打ちが成立してない時点でどうということはない。

 

 

 なぜなら、俺は既に『覚悟』しているからだ。

 

 頭脳や肉体ではなく、精神が『覚悟』しているのだ。

 

 悪い出来事を予測することは『絶望』と思うだろうが、逆だ。

 

 明日『死ぬ』とわかっていても『覚悟』があるから幸福なのだ。

 

 『覚悟』は『絶望』を吹き飛ば

 

「だーれだっ」

 

 掛け声と共に塞がれる視界。

 

 瞬間、五感がその機能のほとんどを喪失した。

 

 かすかに感じることができるのは、体の震え、激しい動悸、あふれ出す涙、喉の奥から込み上げてくる何か。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?浅村くーん?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無視するなら」

「すみません。びっくりして反応できませんでした」

 

 なんとか再起動。

 

 汎用人型決戦兵器だってホワイトグリントだってT800だって再起動できたのだから、俺が再起動できても全く不思議ではない。

 

 しかし、今のはなかなか新鮮な体験だった。

 人は未知に恐怖すると言われているけど、それを身をもって知ることができたのだ。だからもう十分。2度と体験したくない。

 

 やはり、この人相手に読み合いなんて概念は通用しない。

 

 思い返せば少し前にも同様の結論に至って、近づかない方針でやって行くと自らに定めた。

 

 なのにそれを守らなかった結果として今がある。

 これはその戒めだ、甘んじて受け入れよう。

 

 

 

 

 はい、受け入れた。

 だから早く解放してくれ、距離が取れない。

 

「にしてもさ、今のは酷いんじゃない?」

「ですから、びっくりしたと。普通に声をかけられたのなら、まともに返してましたよ」

「だってそれじゃつまらないもん」

 

 もん。

 いい年した大人の使う語尾だろうか。

 

「ちょっと失礼なこと考えた?」

「いえ。つまらないと言われて、どうしたものかと困惑してただけです。それより、そろそろ離していただけませんか?」

「ほらほら〜、私ってずっとお仕事してるわけじゃない?この島にいる間、1週間休みなく。やっぱりストレス溜まるから、癒しとかが欲しくなるんだよね〜」

 

 相変わらずの、人の話を聞かないスタイル。

 どう考えてもストレスとは無縁の性格に思える。癒しが欲しいのはこちらの方だ。

 

 

 しかし、これは星乃宮先生からのヒントかもしれない。

 

 獣が獲物を狩るのは、飢えを満たすため。

 逆に言えば飢えを感じなければ、獣は獲物に興味を示さない。

 

 星乃宮先生が口にした、癒しへの渇望。

 これを満たせば見逃してやらんでもない、ということだろう。

 

 

 では、星乃宮先生の癒しとは何か。

 

 これはもう、酒に決まっている。

 

 ここから導きだされる、現状を打破する答え。

 それは試験で発注できる物品リストに載ってたアレだ。

 

 消毒用エタノール、度数は80。


 真っ当な人間が接種していいのかは甚だ疑問だけど、我慢は体に毒という言葉もある。

 

 つまり飲んでも毒、飲まなくても毒。

 だったら飲んだほうが得だ。たぶん。

 

「いつもはどうされてるんですか?お酒ですか?」

「確かにお酒は好きだけど、その言い方はちょっとデリカシーがないよねぇ」

 

 圧力が増したのでこの案は却下。

 

 

 

 どうにか回避したかったけど、ストレス発散に付き合う以外の道はなさそうだ。

 

 まぁ、要する時間なんて高が知れている。

 せいぜいが5分かそこら。

 その程度なら、余裕で乗り切れるだろう。

 

 

 

 

 なぜなら、俺は既に『覚悟』しているからだ。

 

 これから『死ぬ』とわかっていても『覚悟』があるから幸福なのだ。

 

 『覚悟』は『絶望』を吹き飛ばすからだ。

 




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