20年9月28日 VOL1
アンチョビ編
「最後の大会でですか?」
「そうだよ。簡単だろう?」
私の目の前にいる人物は簡単にそう答える。それが当たり前だとでも言うように。大洗女子学園のスカウトだと名乗るこの男。戦車道に男が関わるのは碌でもない奴ばかりで胡散臭いが、話だけは本当のようだ。
「最後の大会で劇的に優勝する。そうして、我が校の廃校問題を白紙に戻すそのために予算、人員は君の言う通りにしょう」
「私も黒森峰やアンツィオ等の高校から推薦の話が来ているので、即答は出来ませんが、前向きに検討しましょう」
この時私は、断ることも出来たはずだが、それをしなかった。だが、結果は変わらなかっただろう。何故なら、
「あぁ、書面が来てたよ。ウチを蹴って無名の高校に進学するとはねぇ」
「えぇ!そんなモノ送ってませんけど」
「君の代わりを入れたよ。新藤鞠選手だ」
「誰よそれ」
そんなこんなで大洗に入学することになった。3年の最後の大会に挑むことになるが、未だに新藤選手が誰か分からない。
ノンナ編
「同志ノンナ。プラウダの栄光に泥を塗った気分はどう」
「カチューシャ様に会わせなさい。同志クラーラ」
「カチューシャ様はお会いしたくないそうです」
薄暗い室内に私とクラーラの声が響く。多分船底に近い物置か何かの部屋だろうという推測が出来ただけだ。手足を縛られ、決勝戦後にあった祝勝会から何も口に入れていない。カチューシャ様に会えれば無実だと分かってもらえるのだ。
「貴女への罰は明日にでもでるでしょう」
では。とクラーラは出ていった。そして、次の日プラウダから遠く戦車道が盛んだった高校に転校とのことだった。告げられてから30分後私はプラウダ高校学園艦から退艦する運びとなり、午後には新天地となる大洗学園艦に到着した。そして、今
「プラウダの先鋒隊を発見」
「叩けるだけ叩いて離脱します」
指示とは裏腹に私の瞳はプラウダの本隊に向いていた。私の思いは、今も変わらない。
ダージリン編
「少し急ぎ過ぎたのかもしれませんわ」
新車両導入計画を推し進めたのは私自身だ。黒森峰に勝つそれを目標にした計画だが、OG会に邪魔され戦車道幹部辞任に追い込まれたのだ。
「私もそう思うわ」
チャーチル会・マチルダ会を歩兵支援会に。クルセイダー会を巡行戦車会に。そして、自走・駆逐会を新設するというOG会の改革案だ。これを実現するため、世界大会の誘致を進めた。まぁ、父親が政治家や官僚の娘がそれを仄めかすくらいだが、それが面白いように進んだ。そして、世界大会の日本代表の主力を我が聖グロの卒業生にという話が勝手に出て来た。
(それは利用できる)
と、思った私はこれを組み込んだカタチに変えて行く。戦車道に父親の力を入れる。そうすれば、OG会の力が弱まるのではないか?と思ったのだ。それが失敗の原因になった。
「でも、私は諦めないわ」
それが聖グロでの最後の会話となった。そして、再開したのは全国大会の抽選会だった。その姿を見た時私はこう思った。
格言癖が抜けてないな、と。