Fate/The Devote Romance 作:閃く陳宮
とある夜。
ある夢を見た。
どんな夢だったか? よく覚えていない。よく覚えていないけど、良くない夢だった。
悪夢だったか? 悪夢だったかもしれないし、悪夢じゃなかったかもしれない。暗く重い雰囲気ではあったが、悪い気はしなかった。
どんな感情を抱いたか? どうだろうか……。悲しかったかもしれない。辛かったかもしれない。楽しみだったかもしれない。嬉しかったかもしれない。よく覚えていない。いろんな感情が一斉に押し寄せるような夢だった。気もする。
少しでも覚えてることはないか? 少しだけ覚えてるのは、戦争がどうとかというのを覚えてる。なんとも物騒な夢だと思う。
もう朝だ。
顔を洗って、朝食を食べ、歯を磨き、大学に行って、適当に授業を受けて、遅くまで友達と遊んで、電車に乗って、中で少し寝ちゃって、駅に着いたのは00:03頃だった。どうしてか辺りに人の姿はなかった。秋斎(あきせ)という、そこそこ大きな街なのだから、帰りのサラリーマンとかそういうのがいてもおかしくはないけど、誰もいなかった。
「お前、余裕ぶってんな」
後ろから声が聞こえた。男の人の声だ。
「あなたは……?」
見覚えのない男だった。歳は17くらいだろうか? どう見ても歳下の男だった。
「ふん。冥土の土産に俺の名前を持っていくつもりか。悪くは無い土産だろうが、渡してやる義理もない」
何を言っているのかわからなかった。変な人に絡まれちゃったな……。そう思いながら踵を返す。
「やれ。アサシン」
あのくらいの年頃にはよくある事なんだろうと思いながらも帰りを急ぐ。ああいう輩に絡まれるのは慣れてない。
「早速、仕事かね……。私はそんなにやる気では無いのだけれど
どこにいたのか分からないけど、いつの間にか背の高いスーツの上に黒を基調とした薄いロングコートと黒い中折ハットを被った細身の男が居た。
「いいからやるんだ! 俺はこの聖杯戦争を必ず勝たなければならないんだ!」
聖杯戦争……? そういえばどこかで聞いたことがある気がする……。
「サーヴァントとはつくづく嫌な生き物だね。誰かに縛られることを嫌った私が、死後も誰かに縛られるだなんて。全く以て人生とはどうにもならない悲劇によく似ているものだね」
「お前はその哲学者ぶるような口を閉じられはしないのか!」
なんだかよく分からないけど今のうちに逃げよう。なんか嫌な予感がするし、聖杯戦争という言葉がどうにも引っかかる。
「こればかりは性分だから仕方ないね……。ってあれ? いないね」
「目の前から居なくなっても、お前なら追えるだろう。確実にここで一人殺せ」
「まだ聖杯戦争は始まったばかり。様子見するのがいいと思うけどね。私は」
「俺には急がねばならん理由があるんだ。早く行け」
「はいはい。それじゃあ、少しだけ、待っててね」
走る。走る。
誰もいない夜道をただひたすらに。
さっきの変な男たちはもう居ないし、少しだけ休もう。
「「はぁ……疲れた」」
声が被った。
横を見るとさっき、アサシンとか呼ばれていた細身の男が居た。
「こんばんわ。早速だけど、あなたを殺さなければいけないんです。そうだね。方法は……“刺す”かな」
そう言うとアサシンは懐から小さなナイフを取り出す。
「助けて……!!」
咄嗟にそう叫んだ。誰もいない夜の中。その声だけがこだまする。
「ふむ……。あなたが私の
気づくと、目の前には重そうな白を基調とした浴衣に、紫がかった長髪の男がいた。
「マス……?」
「かなり動揺しているご様子ですな」
長髪の男はいつの間にか散らばっていた教科書を見る。今日は中国語の授業しか教科書を使わないから、それしかない。
「ふむ。状況を見る限りはあなたが私の
状況が理解できない。できないけど今はこの人に頼るしかない。ただ縋るような目で目の前の長髪の男を見る。
「おや……これは困ったね……。私、暗殺なら得意なんだけど、戦闘となると、ちょっとね。引き返してもいいけど、君が帰してくれるつもりはなさそうだね」
「無論ですとも。たった今から、かのお方は私の
長髪の男は浴衣の懐から短刀を二つ取り出すと同時に、アサシンに斬りかかった。
その身のこなしは軽く鋭く、舞っているようだった。時折、街頭に照らされて輝く刃は妖艶な姿を演出していた。
アサシンも軽やかに避けていく。それは太刀筋が見えてるかのようだった。
「っと……。いやぁ、これは案外と追い詰められてしまったね」
五歩ほど後ろに退るとアサシンは余裕ぶった口調で言った。それに長髪の男は苛立ちを隠しきれずに答える。
「ふむ。こちらが押していたというより、遊ばれていたという感じで不愉快ですな」
それを聞くとアサシンは揚げ足を取る子供のように、おちゃらけた様子で話す。
「遊んでいたつもりはないけどね。でも、そうだね。遊んでしまうのは私の性分だから、そのつもりがなくてもそうだったのかもしれない」
「あなた、生前は多くの方に嫌われませんでした?」
「そうだね。苦難の多い人生ではあったかな。それでは、そろそろ私は戻るよ」
そう言うとアサシンは背を向け、ゆっくりと歩いて駅へと向かっていった。
完全に姿が消えてから、長髪の男に早口でお礼を言った。
「あ、ありがとうございます! その、なんとお礼を言ったらいいか……」
「礼には及びませぬ。私はサーヴァントとして当然のことをしたまでです故。しかし、あの男を殺せなんだのは口惜しいですな」
「その……サーヴァントとかマスターとかってなんですか……?」
やり合う前に気になっていた言葉を長髪の男に聞いた。何か知ってそうな口ぶりだし、というか完全に当事者だし。
「おや……もしかして聞いたことはありませぬか?」
眉を上げ、驚いた様子で聞いてきた。普通に暮らしていたらそんな言葉を聞くことはゲームや漫画の中でしかない。聞き返されたことに、動揺しながら、答える。
「え……あ、はい」
少し、考えると、長髪の男は指をパチンと鳴らし、こう言ってきた。
「そうですか……。少し話が長くなりますので、家にお邪魔してもよろしいですかな?」
なんでこんな不審者みたいな人を一人暮らしの家に上げなければならないのだろうか……。と思いつつ、命の恩人のため家に上げることにした。