Fate/The Devote Romance 作:閃く陳宮
唐突に上がり込んできた男はキャスターと呼んで欲しいらしい。何やらほかに名はあるのだがその名前が知られると良くないとか。
そのキャスターと名乗る男から聖杯戦争というものについて教えてもらった。なんでも歴史上の人物等を召喚して戦って勝つと願いが叶うとか。
なんとも突拍子もない話だが、妙にすんと落ちた。
「しかし、今回の聖杯戦争は妙なところがある」
「誰!?」
妙に渋い声がした。キャスターの声ではない。
「……子供?」
「通常、聖杯戦争にはルーラーは一人しか存在しない。というより一人しか存在してはならない上に、誰かに属するなど以ての外だが、そのどちらもが満たされている」
いや、確かに大人……しかもかなり渋い声が聞こえたのにも関わらず目の前にいるのは子供だ……。
「まぁ、なんでも構わんが、マスター」
「はい!」
「俺はルーラーだが、最低限の仕事しかせんから過度な期待はよしてもらおう。ゆめゆめ忘れるなよ」
そう言うとルーラーは奥の部屋へと向かっていった。そこは物置小屋みたいな感じでほぼ使ってないから自由にしてもらっていいけど、我が家同様に歩き回るのはどうなんだろうか?
それと、声だけど、それはそういうことなのだと納得しよう。一日の情報量が多すぎる。
「ふむ。
「そうだね……。寝ようかって言っても布団とか無いけど……」
「いえ、私たちは結構。サーヴァントに休みは必要ありませぬ故」
「そうなんだ。じゃあ寝るね」
サーヴァントというのはよく分からないけど、寝床が必要ないならありがたい。
自分一人だけリビングのソファーで毛布だけを掛けて寝る。一人暮らしの学生のソファーはベッド、これ常識だね。ここに男も女も違いはないと思う。みんなソファーベッド説。
一夜明け、朝を迎えた。キッチンから香ばしい、美味しそうな匂いが漂っていた。キッチンを見るとキャスターが何かを作っている。
昨日のことを思い出すと、現実とは思えないほど、突拍子もないことの連続だったが、どうやら夢とかじゃなかったらしい。
それなら、と気になっていたことを聞くことにした。
「キャスター」
なんかキャスターって呼ぶの恥ずかしいな。
「おはようございます。
キャスターは、なんとも美味しそうなフレンチトーストをテーブルに出す。
それを食べながら気になっていたことを聞いた。
「そういえば昨日の夜から人の姿を全く見てないんだけど、それも聖杯戦争? っていうのに関係あるの?」
キャスターはコツコツと額の横を右人差し指で叩きながら考えて、答えた。
「分かりませぬが、そう考えて間違いはなさそうですな。今回は昨日のルーラー殿が仰っていたように大変イレギュラーな聖杯戦争でございますれば、前例にないこともござりましょう」
「イレギュラーね……」
今回が初めてのそれだから、レギュラーもイレギュラーも分からないけど、とりあえず、今、目の前に起きている事象から解決すべきだ。物事とはそうして成すべきを成せば自ずと良い方向へと働く。
つまり、大学へ行こう。聖杯戦争だのなんだのとよく分からないことで単位は落とせない。
「おや、どこに行かれるので?」
「大学」
「ふむ。いかなる場面でも学ぶことに意欲的とは……喜ばしいことですな」
別に意欲的って訳でもないんだけどね。というか意欲的な人とかいるのかな……。と思いながら、愛想笑いをして外を出る。
外に出ると人はいない。それでも今の時代はなんでもIT化が進んでいるから無人でも改札は抜けられるけど、人がいないというのは少し怖い。
ホームに着いてから10分ほどが経った。
「あれ……? 電車来ない」
いつもは10:24に到着してるのに、おかしい。
「ふむ。夜だからという訳ではありませんな」
後ろからキャスターの声が聞こえた。驚いて振り向くと、そこにはやっぱりキャスターの姿があった。
「なんでいるの?」
「あなたは私の
「はぁ……」
友達に状況を聞こうとスマホを開いて、電話をかける。
「……出ない…………」
ほかの友達にも電話をかけてみる。やはり出ない。
「ふむ。聖杯戦争の影響とみて、間違いはありますまい」
「そんなこと言われてもなあ」
自分以外の人間が急にパタンといなくなるのはどんな理屈を以て説明されても納得できないし理解できない。
いや、そういえば昨日いたけど、一人? 二人? くらい。
「見つけました! あの方ですね? ルーラー!」
「えぇ。そうですね」
もう三人いた。
一人はルーラーと呼ばれていて、明らかに聖杯戦争絡みだ。
「なんのご用ですかな? 潰しに来たのなら返り討ちにさせていただきますが」
キャスターがなんか好戦的なことを言うと、なんかおっとりとした感じの女性が穏やかな笑顔で言う。
「潰しに……なんて、物騒な話ではないわ。私たちと、協力関係になっていただきたいの」
協力関係……? 昨日聞いた限りでは聖杯戦争の勝者は一人だけ……。となると一時的な協力になるけど、まだ始まったばかりって言ってたし、情報量も少ないはずなのに、協力しようだなんて少しおかしい。
それに、これはただの直感だけど、嫌な予感が漂って仕方がない……。いや、直感というよりもっと明確な何か、記憶にも似た何かが脳裏がよぎった。
「どうする?」
ここは聖杯戦争に少しでも詳しいキャスターに話を聞くことにした。
「……ふむ。まぁ、よろしいでしょう」
「やったー! これからよろしくお願いします!」
横の小柄な子がぴょんぴょんという擬音がつきそうなほど喜んでいた。
「それでは、同盟も結べたことですし、今日の夕方の6時頃に、そこのカフェでまたお会いしましょう?」
そこのカフェとは、駅の近くにある近田珈琲店のことだ。いや、場所とかはどうでもよくて、それよりも、何か得体の知れない猜疑心が心から離れない。本当に行ってしまってもいいのだろうか?
「え……? あぁっと……」
言い淀んでいるとキャスターが代わりに答える。
「承りました」
「そう。嬉しいわ」
柔和な笑顔を浮かべる彼女にはどこか強い目をしていた気がする。
「それでは、今日の目標は既に終えたので速やかに戻りましょう。あのアサシンの目に止まれば厄介です」
そして次は、険しい表情をしていた。
「むっ! マスターは私がお守りするので心配には及びませんよ!」
それを察してかどうかは分からないけど、ランサーがその懸念を吹き飛ばすような元気さで言い放った。それに呼応するかのように
「そうね。ランサーがいてくれるのは心強いわ。でも、気を逸ってしまってはだめよ」
「むむむ……それもそうですね……」
彼女は自分たち方に振り返ってまたも柔らかな笑顔を浮かべながら
「では、またね」
と言い、駅を去った。
「では、我々も一度戻りましょう
いくら待っても電車は来ない。その事は日常が非日常に変わったことを明確に示していた。
「そうだね。戻ろう」
キャスターと家に戻る。