Fate/The Devote Romance 作:閃く陳宮
駅から10分ほどして玄関を開ける。あの口ぶりから昨日の男にあの方たちも狙われてるみたいだった。
「キャスター……本当に良かったの?」
それはもちろん、協力すると約束したことだ。未だに確信じみた不安がずっと頭を巡っている。
「確かに怪しくはありますな。情報量が少なく、まだ戦力差もわからない中での協力関係の申し出……。何か裏があると見て間違いはありますまい」
「それなら、危ない橋は渡らない方がいいんじゃ……」
キャスターも同じような懸念を抱えていた。
「それも一理ありますが、先に申したように情報量が少なすぎまする。故に相手の懐に入り込むことも肝要でしょう」
確かに一理ある。情報がないなら足で稼ぐしかない。それでも、やっぱり、何かが自分の思考をマイナスへと引っ張っていく。
「なんだ。もう帰ったのか。朝にせっせと出ていったから何事かと思ったが、一時間もしない内に帰宅とは」
「電車が来なくてね」
「そうか」
と、ルーラーは一息置いて言葉を続けた。
「というか、マスター。ここの電波環境はどうなってる!」
「どうって……?」
ここは割と都心部だし、インターネット環境が悪いってことは無いはずだけど。
「どうも何もインターネットにアクセスできないでは無いではないか!」
「そんなこと言われてもなぁ……」
「ルーラー殿。そのインターネットとやらよりも、ルーラーとしての職務を全うして頂けませぬか?」
「今、俺に仕事をしろと言ったのか?」
さっき会った方のルーラーとは大違いな発言だ……。かたや献策までしてくれて、かたや家でゴロゴロ。平等ってなんだろう。
「えぇ。もちろんですとも」
キャスターとルーラーがバチバチしている。確かに性格的に合わなさそうだな……。
「まぁまぁ! そうだ。ルーラー。この段階で誰かと同盟を結ぶのってアリ?」
ここは少しでも仕事を上げてキャスターとルーラーの仲を取り持とう!
「無しだ。そもそも人間など信用出来ん」
「まだ悩んでおられたのですか。信用出来ぬことは賛成致しますが、しかし、いいですか? 懐に飛び込み虚を突くが、最善かと」
「何を言ってる。それでこちらが痛手を負えば滑稽本のネタにもならんぞ。そもそもマスターは誰かを出し抜けるタイプでもないだろうに」
「そこを支えるのが私でありルーラー殿の役割と存じます」
しばらく言い合いが続く。逆効果だったかなと思いつつ。しばらく黙ってダラダラしていると、いつの間にか時計は5時半を指し、近田珈琲店へと向かい始める時間となった。
「もう時間だね。いってくるね。ルーラー」
「必ずや敵の虚を突き、私が正しかったと言わせてやります」
「そうか。せいぜい死ぬなよ、マスター。俺は今が結構気に入ってるんだ」
ルーラーの言った“今”にはどこかしらの哀愁を感じた気がする。そしてその一言は初日を思い出させた。初めて死を間近に感じたあの時を。それと同時に僅かな覚悟もできた。
「ありがとう」
そう一言だけ言って、ドアを開けた。
程なくして近田珈琲店に到着した。中には店員らしい人がいないせいか妙に静かで張り詰めた雰囲気だ。音といえば、ただ朝の三人の談笑とカップをテーブルを置いた音が聞こえるくらいで、店内は静かだ。
「すみません。待たせてしまいました」
すぐにテーブルまで行き、椅子に腰をかける。
「私たちも今来たところよ」
朝の時のような笑顔が緊張感を和らげる様だった。
「そうだ。飲み物は何がいいかしら?」
「え? えっと……大丈夫です」
そう言うとランサーがふんすと息を鳴らしながらまくし立てる。
「なんともったいない……! ここのココアはすごく美味しいですよ!」
「ふむ。では、後で頂くと致しましょう。今はまだ、あなた方を信用してはおりませぬので」
キャスターがキッパリと断り、ランサーはそれにしゅんとしてしまった。このキャスターはあれだ。世渡りはできないタイプだ。
「それは当然です。信頼されるよう務めましょうランサー」
ランサーは一転変わってぱっとした笑顔を見せた。
「ルーラーの言う通りですね! このランサー! 信頼を勝ち取ってみせます!」
このランサーは扱いやすいタイプなんだろう。
「ありがとう、ランサー」
「信頼関係を築くには名前くらい言わないとね。私は
「
「そう。では、由希さんでいいかしら?」
いきなり下の名前は少し変な感じがするけど、悪くない。
「はい! では、それでよろしくお願いします! 秋風さん」
「薫さんでいいのよ。それで話なのだけれど、目下の目標はアサシンの撃破にしたいの」
アサシンと言うと初日に襲ってきたあの男たちだ。確かにあれを除くのは賛成だ。他のサーヴァントを見てないから戦力の程は分からないけど、あれは見境なく襲ってくるタイプだ、初日にあんなフルスロットルとか考えられない。
そんな訳の分からない横槍に首を取られるのは笑えない。
「そうですね。いいと思います。具体的には……?」
「それに関してだけれど策を練るには情報が少なすぎるの」
確かにそうだ。まだ二日目。何も分からないのが当たり前だ。
「ふむ。そうですな。真名も宝具も分からぬ段階で策を講じるのは無理がありますな」
キャスターも名案は浮かばないようだった。ここで話が詰まるかと思ったらランサーが口を開く。
「やはり正面衝突ですよ! マスター!」
ルーラーがすかさず止める。
「それは愚策です。勝てたとしても、後の戦いに響きます」
「ではどうすれば良いのでしょうか……」
キャスターがメガネを拭きながら立案する。
「とりあえずは、相手を引き付け情報を引きずり出すが上策かと存じまする」
「そうね。……えっと」
「キャスター。とお呼びください」
「キャスターの言う通りだと、私は思うわ。あなたは?」
極めて当たり前だった。リスキーではあるが、この際は仕方ない。
「いいと思います」
「私も同意です。それが無難な判断です。ランサーは異存はありませんか?」
「はい! この不肖ランサー! アサシンを引き付けます!」
ランサーはかなりやる気を出している。ずっとその気合いで最後まで持つのか少し心配でもある。
「それでは━━━━」
ドアが開いた音が鳴る。一斉にドアの方へと視線を向けると、アサシンがいた。
「今晩は。君にさようならを言いに来たよ」
「させません! マスター! ルーラー! 後ろにさがってください!」
「えぇ。おねがい。ランサー」
月夜に照らされたアサシンは顔が良く見えない。ただ、不気味な雰囲気を醸し出しながら、こちらへと不用心に近づいてくる。それは、一歩一歩ゆっくりと。
「
「そうだね……」
アサシンの足音が近づいてくる。妙な緊迫感がこの場を支配する。昨日はあれほどの威圧感を感じなかった。いや。そうではない。威圧感や何か気を発しているのではない。何も無い。気配も気力も、生気も、何も。
目の前のアサシンは、ただ亡霊のように歩んでいる。