Fate/The Devote Romance 作:閃く陳宮
月夜から亡霊のようなアサシンが目の前からゆっくりと近づいてくる。その足音が近づく度に緊張感が高まっていく。
「気は乗らないのだがね……。それでもやらないと怒られてしまうから、始めよう。まずはランサー、君を殺す」
「やれるものなら!」
一瞬、アサシンは地を蹴り猛スピードで向かってくる。
戦闘が始まると、キャスターは玉を渡して、「いざとなればこれを相手の顔に投げるように」と耳打ちをしてきた。
速すぎるアサシンだが、ランサーに動揺は見えなかった。
「あなたの速さには慣れました!」
その速さを見越して、ランサーは大盾をアサシンにぶつける。アサシンは身をかわし、大盾に吹き飛ばされることは無かったが、距離を取らざるを得なかった。
ランサーはその好機を見逃さなかった。ただ鬼気を纏った獅子のようにアサシンに対して迫りながらその体に似合わぬ巨体な槍を振るう。
「ランサー、そこまで無理に攻めなくていいわ。今は守りに専念してちょうだい」
「むっ……。分かりました……」
その性分から攻めるのが得意なのか、少し不満げだったが、さっと秋風さんの元へと戻る。
「ランサーが離れてくれればと思ったが、そうもいかないようだね」
「
確かにそうだ。今は二対一。アサシンが不利だ。それを覆す何かを持っているのか? 或いはマスターとは別行動を取っていて、違う目的があるのか。
「どうしてだろう」
「キャスターの疑問は正しいです。現に私たちはあのアサシンに対抗すべく共にいるのですから。そして、それが分からぬマスターとアサシンではないでしょう」
不利を推してでも急がなければならない理由があるのだろうか。
「そうね……。ルーラーの言う通りだわ。何か狙いがあると見て間違いなさそうね」
「狙いなんて、有りはしないよ。君の首以外にね」
アサシンは再度、近づく。とてつもない速さで。
「なんの! このランサー! 絶対にあなたを通しません!」
「二度も突進などしないよ」
アサシンは、テーブルの上に上り、高くジャンプした。空中から秋風を狙うつもりだ。
「キャスター!」
「承知」
キャスターは矢を放つが、一矢はナイフで弾かれてしまう。さらに射掛けるがその矢はナイフから先には届かない。
「もらった」
「
「分かった!」
早速玉を投げつけるが、それもナイフで切られてしまう。そして次の瞬間、煙が辺りに充満した。それは、煙玉だった。
「甘いね」
煙の中からナイフが三本飛んできた。その三本は確実にランサーとキャスターと秋風を貫こうとしていた。
「マスター!」
秋風さんはランサーが槍でナイフを打ち上げたため、無傷だったが、ランサー自身は肩を負傷した。キャスターも自分が後ろにいたため、避けずに血を出しながら握りとっていた。
「アサシン。話が違うだろう」
「おや? マスター。登場にはまだ早い気がするが、いいのかね」
背後からアサシンのマスターが現れた。いつから居たのか全く検討はつかない。キャスターと一緒に後ろを警戒していたはずなのに。
それに話とはなんだろうか。
「…………月……」
「……」
険しい顔をした秋風さんに、無表情の月と呼ばれたアサシンのマスターは妙な雰囲気だった。
「退くぞアサシン」
「いいのかい?」
「そもそも、二対一では厄介だ。それにあの小兵、既に傷が完治している。どういう訳か知らんが、厄介なのに間違いはない」
ランサーの肩の傷は確かに既に塞がっていた。キャスターの掌は未だに血が流れている。
「待ちなさい」
秋風さんの声だった。いつもとは違うハリのある凛とした声で月を呼び止めた。
「待ちなどしない。帰るぞアサシン」
月はとっとと帰っていってしまった。
追撃はしようと思えばできるはずだが、行った先に罠がないとも限らない。
「嵐のよう……でしたな」
「そうですね。英霊としての強さは並程度でしょうが、前触れもなく現れ、前触れもなく去る上に理知的な戦い方をするので面倒です」
まさにその通りだ。時間にしておよそ五分もない。もしかしたら三分も無いかもしれない。そのくらいの速さだった。それほど短い時間だったが確かに死の恐怖を感じた。
「それを退けられたのはランサーのおかげよ」
「ありがとうございます! マスター! しかし、討ち取るには至りませんでした……」
「気を落とす必要は無いわ」
とりあえず一段落はついた。アサシンが急襲してきた時はどうしようかと思ったが、終わってしまえばあっさりだった。
「今日はもう解散しませんか?」
自分がそう提案すると、ルーラーが反論を述べた。
「いえ、ここは一夜だけでも共に行動することを提案します。近くにアサシンがいないとも限りません」
至極真っ当だ。あのアサシンが退いた理由は数だった。ここで個々で動けばどちらかが襲撃される可能性は高い。とても正しい意見なはずなのだが、どうにも拭いきれない不安感が心を襲って仕方がない。
「あのアサシンも……撤退すると言ってたので……今は一時解散でいいかと……」
直感的に言った。論拠はない。いや、あったが論拠になってない。相手が撤退すると言ったからこっちは気を弛めていい。そんな理屈は理屈にならない。
「
キャスターは不服だけど一応はこれに従ってくれるそうだ。
「うーん……。なるべく一緒にいたけれど……」
秋風さんは思案している。重点的に狙われているのは秋風さんだった。なら秋風さんからすれば、自身が狙われる可能性が高い内は一緒に行動したいはずだ。例えどれだけこちらが戦力として不足していても。
「私だけでは不安ですか? マスター」
「そうではないわ、ランサー。あなたがいてくれるのは心強いけれど、それはあなたに戦いを強いていい理由にはならないもの」
「確かにランサーは強いです。あのアサシンと正面からやり合えば、まず勝てるでしょう。しかし、油断してはなりません。それに敵はアサシンだけではありません。セイバーやアーチャーにライダー、バーサーカーとまだまだ多くいます。別行動は絶対に控えるべきです」
ルーラーは理路整然と語る。
「そうね……。でも、由希さんが乗り気じゃないみたいだから、無理強いはできないわ」
「……そうですか。分かりました」
もちろん納得などいってないだろう。それはそうだ。言い分であれば圧倒的にルーラーが正しい。それでもこちらの意見を通せたのは、まだ信頼関係を結べていないからだ。良きにしろ悪しきにしろ、信頼関係を結ぶには相手を受容しなければならない。
今日から三日ほど情報を集め、四日後の昼にアサシンの対策を考えるために集まることを約束してから、近田珈琲店を後にして、各自の自宅へと戻る。
自宅へと戻ると、ルーラーがコーヒーを淹れてくれていた。
喫茶店に行くと言ったというのに、コーヒーをチョイスするなんて……とも思ったが、これは彼なりのねぎらいなのかもしれないと思うと、少しだけ甘く感じた。