Fate/The Devote Romance   作:閃く陳宮

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 この願いは万人の命ほど、軽くはない。


4話 望み

 疲れてどたんと寝ていたからか、朝は随分と心地よく起きられた。

「そういえば昨日はどいつと同盟を結んだんだ」

 

 物置部屋からルーラーがだらだらと歩きながら聞いてくる。

 

「ほう。ルーラー殿もいよいよ仕事ですか? マスター、今日明日には大洪水ですぞ」

「一応、聞いておくだけだ」

 

 相変わらず仲が悪そうだ。

 

「ランサーの子とだよ」

「そうか……。対面した時、何かを感じたか? なんでもいい」

 

 妙なことを聞いてくる。秋風さんたちに証拠のない確信ある疑いを持っていることを見透かされてるかのようだった。

 

「そうだね……何か変に恐怖心というか何か疑い……みたいな? よく分からないけど」

「そうか。それなら、良かった」

「良かった?」

 

 良かった。というのも普通のニュアンスではなかった。ルーラーには心底からの安心が見られた。いや、見られたというより感じられた。表情や声のトーンは一切変わってないのに何故かそう感じた。

 

「あぁ。変に懐柔されていなくて安心したということだ」

「私がいる限りは懐柔なぞされませぬ」

 

 キャスターはまた何かを作りながら会話に参加してくる。今日の朝ご飯は……回鍋肉らしい。

 え? 朝から?

 

「まぁ、お前のそこらに関しては信頼しているが、マスターが別に危機感を持つのはそれで重要だ」

「ふむ。一理ありますな」

 

 そこでは意見が一致しているらしい。そんなに危機感なさそうですか?

 

「まぁ、なんにせよ一先ずは安心だ。そこでだ。マスター、お前はランサーのマスターを懐柔できるか?」

「自分が……?」

「確かに相手を懐柔できれば素晴らしいですが、それより殺してしまう方が早いのでは?」

 

 キャスターは何かとつけて物騒なのをやめて方がいいと思う。

 

「……どこに利用価値があるかは分からん。最悪の場合、囮として使える。生かしておいて良いだろう」

 

 ルーラーも殺しに関しては反対らしい。良かった!

 でも、囮としては使うかもしれないらしい。見殺しにするならあんまり変わらない気がしてならない。これが平和ボケなのかな……。いや、人の命を駒として見る時点でアウトなんじゃ。まぁ、ともかくそういうことはしたくない。

 

「殺したり囮にしたりっていうのは……」

「……そうだな…………さっきの言葉は忘れろ」

 

 何かを思い出したかのようにルーラーは言葉を返す。そして、また物置部屋にカップ麺を持ちながら帰っていった。

 

「ふむ。あのルーラー殿にも思うところはあるのですかな。さて、それでは行きましょう」

 

 キャスターは、自分が朝には少し重い回鍋肉を食べ終わるのを見るとさっと腰を上げた。

 

「行くってどこに?」

「今はとりあえずアサシン殿は二の次として他のサーヴァントを探しましょう」

「え? あ、ちょっと……待って!」

 

 自分たちの第一の目的はアサシンの撃退だったはずなのに、二の次ってのはどういうことだろう。

 そんなことをぼんやり考えながら外を歩く。

 

「さて、魔術師(マスター)殿。一つ質問がございます」

「質問?」

「私はマスターから魔力を供給して頂き、現界しているのですが、魔力を流しているという実感はございますか?」

「魔力を流す……?」

 

 確かに説明には受けてたけど、いざ実感があるかと聞かれると、正直のところ無い。流しているという感覚も、流れているという感覚も。

 

「ふむ。実感がなければないで結構。マスターにはもう一人、サーヴァントと契約して頂きたく存じます」

「もう一人……?」

「えぇ。そのために、これから二日以内にマスターを一人聖杯戦争から脱落させる。或いは、私が召喚しマスターと契約させまする」

「そんなこと出来るの……?」

「えぇ。ではまずは、そうですな。最優のセイバー、もしくはバーサーカーあたりを目指して頑張りましょうぞ!」

 

 妙に張り切ってキャスターはさっさと歩いてしまう。何が彼をそんなにやる気にさせているのか分からないけど、やる気がないよりいいことだ。

 

「さて……この辺でいいでしょう」

「何が?」

 

 場所は開けた公園だ。公演と言っても遊具はブランコと滑り台くらいで後は原っぱが生い茂ってる、半ば空き地のようなものだ。

 

「陣地を作成致しまする。ここで構えておけばいずれどなたか釣れるでしょう」

「そう上手くいくもの?」

 

 魔力を辿って誰かが釣れるだろうという算段らしいが、上手くいくのだろうか。割とガバガバなのでは?

 

「とは限りませんが、実行せねば始まりますまい」

 

 それは確かにと思いながら、適当にブランコに座っている。ブランコに座っていると何となくそよ風が気持ちいい気分になる。

 そんなことを考えながらぼーっとキャスターを見る。

 地面から青白い光が浮かび、みるみるうちに柵とか、櫓とかができていく。

 

「これは……凄いね……」

「私の生前の時代の野営を思い出して作ってみました。俵物庫や武器庫などございますが、それはまぁ飾りですな。障害物になれば良いくらいの考えで良いでしょう」

「なるほどね」

 

 キャスターってガチガチの軍人だったんだ……。てっきり、文化人とかかと思ってた。

 

「時に魔術師(マスター)殿」

「ん? どうしたの?」

魔術師(マスター)殿の望みとは何なのかと。ふと気になったのですが、教えていただいても?」

「望み……?」

 

 望み。と言われると特に思い浮かばない。食事には困ってないし、お金や住む場所にも。もちろん、お金はもっとあったらそれはそれでいいし、家ももっと広かったらそれはそれでいい。でも、望みにすることの程じゃない。

 世界平和とかを願う器でもない。

 なんというか、平凡だなと感じる。何かを望み始めたら何もかもを望む。何も望まなければ何もかもを望まない。

 文字にするとなんだか難しいけど、人間とはそんなものだと思う。ただ、毎日が同じように続けばいい。ただそれだけの簡単なことだけが望みと言えば望みかもしれない。

 

「えぇ。聖杯に選ばれるということは何かしらの望みがおありでしょう?」

 

 しばらく考えてみると、やっぱり何も無い。

 

「……うーん…………ないかな」

「……そうですか…………ふむ。まぁ、今はそれで良いでしょう。また機を見て聞くとします」

 

 キャスターは何かあるのだろうか? 望みが。

 

「そう言うキャスターは? 何かあるの?」

「えぇ、ございまする」

「どんな?」

「真名に関わる内容なので秘させていただきまする。それよりも、マスター。一人釣れましたぞ」

 

 信用されてないのかなと少しがっかりする。でも、そうか。真名に関わるってことは生前何かしらの無念があったんだな。

 英霊に選ばれるのは色々と違えと基本的には偉業を成した人らしいから、そんな人でも悔いがあると思うと、なんだか、ほっとする。

 しばらくすると、一人の男が歩いてこちらへ向かってくる。その赤黒い鎧の出で立ちからしてサーヴァントだった。

 

「さて。マスターを失いどうしようかと路頭に迷っていた所に魔術師(マスター)がいるとは。某は運がいい」

「マスターを失った?」

 

 まだ、始まって間もないのに、もうマスターを失った……。それほど、聖杯戦争ってのは熾烈なんだな。いや、今までも見てきたし、体感してきた。アサシンに襲われる場面を。自分は運が良かっただけで、もしかしたら既に殺されてしまってたのかもしれないと思うとぞっとする。

 

「あぁ。ライダーの奇襲にやられてしまってな。全く某も耄碌したものよ。そこで折り入って願いがある。某と契約してはくれまいか?」

 

 ポンポンと話が進んでいく。こんなに上手く目的を達成してしまうとは思いもよらなかった。調子が良すぎて逆に怪しくなってくる。

 

「ふむ……。例えバーサーカーであろうと矮小すぎる魔力ですので、マスターを失ったのは間違いなさそうですな」

 

 キャスターは相手がもう脱落したサーヴァントなのは確実だと踏んでいる。

 

「どうする?」

 

 でも、聖杯戦争で勝てるのは一組ではない。一人と一騎。脱落したマスターと再挑戦なら分かるが、まだキャスターがいる。

 

「……真名は告げられますかな?」

 

 そのことはキャスターの頭も悩ませているらしい。キャスターは脱落したサーヴァントではなく、戦闘してからサーヴァントを従わせるつもりだったのだろう。でなければ、こんな割と本格的な陣は張らない。

 

「無論。クラスはセイバー、真名は井伊直政(いいなおまさ)。その証に我が古兵共揃う赤備えでもお見せしようか?」

 

 とっととクラスと真名を明かした。

 井伊直政(いいなおまさ)。と言うらしい。

 いや、誰だ? 聞いたことないぞ。名前的に日本人だな。よし、wikiで調べるか。いや、ネット繋がらないから調べられないのか。

 そんなことを考えながら、井伊直政(いいなおまさ)と契約を進める。

 

井伊直政(いいなおまさ)……。分かった。契約しよう」

 

 と言っても大層なことはせず、魔力を繋げるだけだ。繋げ方が分からないけど、手をかざしたりなんか色々したら井伊直政(いいなおまさ)は元気になったので、多分できてる。

 

「ふむ。存外とっとと終わってしまいましたな。しかも戦闘も無くとは……。せっかくそれなりに凝った陣地と策を用意したのですが」

「そうか。それは面目ないな。元のマスターが健在なら一戦交えたものを」

 

 井伊直政(いいなおまさ)くんももしかして武闘派? 大丈夫? 自分とこのサーヴァント血の気多いの? 鉄分取ろうね。

 

「でも、戦力を温存どころかノーダメージで増やせてよかったよ。キャスターの策は後で見せてよ」

 

 ここは少しでも、無駄に戦う必要は無いアピールをしておく。

 行動方針をちゃんと頭に入れて欲しい。

 

「そうですな。それでは二日後、披露すると致しましょう」

「二日後って言うと……」

 

 ちょうど、秋風さんたちと会う日だ。何をする気なのかは分からないけど、数の上で有利をとっても、ランサーのあの治癒能力を見たら、単純に数で押せる相手では無いのはキャスターも分かってるはずだ。

 

「何をするの? ランサーと手切れするのはまだ早いんじゃない?」

「えぇ、まだ協力関係を続けまする。しかし、既に手駒は揃い、後は機を見るのみでございまする」

「ほう。某が来るとも限らなんだ内に策とは」

 

 敵を知り己を知れば百戦危うからず。自分でも知ってる兵法の基本だ。

 

「なに、誰でもできる簡単な策ですので。いえ、策と言えるほどのものではありますまい」

 

 キャスターの考えは家で聞くことにしよう。

 ということで、とっとと帰って玄関を開ける。

 目の前にはルーラーがいた。そして井伊直政(いいなおまさ)を見ると眉をそっと潜める。

 

「誰だ? うちは広くないぞ。なのにお前、なぜまた男が一人増えてる」

 

 おい。広くないのはルーラーが部屋一つ占領してるからってのもあるんだよ。いや、元から狭いけどね。

 

「ルーラーとお見受けした。某、クラスはセイバー、真名は井伊直政(いいなおまさ)と申す。此度は綾城殿を主と仰ぎ仕える所存。よろしく頼む」

 

 井伊直政(いいなおまさ)は内容を無視して話始める。武士っぽいから固めかと思ってたけど、マイペースなの?

 

「……井伊直政(いいなおまさ)……。こうも上手い話があるのか? と疑いたくもなるが、まぁいいだろう」

「某をお疑いなさるか」

 

 早くもちょっとバチってる。なんでルーラーは初対面喧嘩腰なんですか。

 

「そうともいうな。上手い話には必ず裏がある。そも人間なぞ嘘をついて騙してなんぼの生物だ」

「まぁまぁルーラー。こうして来てくれたわけだし、なんでも疑うってのも……」

 

 家の中の空気がどんどんピリついていく。元々、穏やかじゃないのに。

 

「お前のようなお人好しにはストッパーの役割も必要だろう。なぁ、キャスター」

「そうですな」

 

 お人好しってなんだよと思いながら、キャスターの策とやらを聞いた。

 果たして上手くいくのかは分からないけど、上手くハマれば確かにいい。けど、失敗したら割と痛手を負いそうな内容だった。




クラス:セイバー(?)
真名 :井伊直政(?)
筋力 :B(?)
耐久 :A+(?)
敏捷 :B(?)
魔力 :C-(?)
幸運 :C(?)
宝具 :EX(?)
宝具名:「???」

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