誰かが言った、その男、『人類種最高峰』と。また誰かが言った、その男、『常識外』と。
そして、その男をよく知る一期団の者達は呆れながらも笑みを浮かべ口を揃える。『ただの筋肉バカ』と。
『新大陸古龍調査団』
古龍渡りという現象を解明するべくハンターズギルドにより結成された組織。40年も前から存在しており、所属している者達は天才・変人ばかりである。そもそも、調査する対象が天災が生物の形になった様な常識外の存在、古龍である為生半可な人間では謎を解明する前に死ぬか心が折れる。故に、所属し脱退することもなく単独で調査に動ける者というのは命の危機より知識欲や探究心が勝るそんな連中である。そんな調査団の拠点であるアステラでは今度派遣される5期団を迎え入れる準備が行われているのだが、この男はその準備を放置し『龍結晶の地』を歩いていた。ーー防具の類を一切身に付けずに。
歳を感じさせる白髪の混じりの短く切られた髪、無数の傷が刻まれている身体を隠すことなく歩き、その背には大剣が二本。身体の何処を見ても鍛え上げられた筋肉。身長は2m30cmはあり周囲の小型モンスターに比べてもかなり大きい。彼こそが一期団の『筋肉バカ』とされる男だ。男が調査団に所属している理由はとある古龍に惚れたからというもの。
「む。あの棘は……ネルギガンテか!!」
その巨躯からは想像できない見事な走りで刺を調べ始める男。男も口に出したが、惚れた古龍と云うのはネルギガンテだ。過去に一度だけこの男は旧大陸で、ネルギガンテと遭遇している。その時はまだ、ネルギガンテという名称は与えられていなかったのだが、古龍に対して己の肉体のみで立ち向かうその姿に一目惚れした。まぁ、古龍を食べ終わった後のネルギガンテに襲いかかり見事に返り討ち。全身に棘による傷が刻まれる事になったのだが。
痕跡から手に入れた情報に反応し彼の導蟲が青い光を放ちながら飛んでいく。それを見て興奮する男。ネルギガンテの情報ばかり与えられた導蟲は今更、痕跡に反応するほど甘くない。つまり、今この地に彼が愛するネルギガンテがいるという事。
「そっちにいるんだなネルギガンテぇ!!」
興奮しながら発した言葉だけで空気が震える。導蟲を追いかけていくとネルギガンテはいた。
寝ていた様だが、彼がエリアに一足踏み込むと飛び起きて彼を見る。その反応が物語っていた、奴は彼がこの新大陸に来てからずっと争っているネルギガンテだと。
惚れ込んだ相手を見つけ昂る男の闘志と筋肉。背中の大剣二本をそれぞれ片手で持ちながら構える。本来なら、いくら人外のハンターであろうと両手で持つのがやっとの大剣だが、この男にかかれば片手で軽々と持ち、振るうことが出来る。完全に何かがおかしい奴だ。
「戦おうぜ。ネルギガンテェェェェ!!!!!」
『グルゥァァァ!!!!!』
人類屈指の筋肉とモンスター屈指の筋肉がぶつかり合う。
何なんだこいつは!?!?
ネルギガンテの男に対する感想は正しくこれだった。訳が分からない。ネルギガンテはハンターと呼ばれる存在を認識していない。どうせ放置していても鬱陶しいだけで自分を傷つけてくる事もなく、簡単に吹き飛ぶ矮小なもの。そう思っていた、この男が目の前に現れるまでは。偶に、喰い甲斐のあるものを纏った奴が居る事も、食う気は起きないが他の連中の気配を感じるものを纏ってる奴らもいた。だが、この男からは何も感じない。硬い外皮を持ってるわけでもないのにその身を晒していつも向かってくる。その癖に
「ふぅぅぅぅん!!!!!」
あぁまただ。
手に持つデカイ何かで私の前脚をこいつは防ぐ。他の連中なら即座に反撃に移れないはずの攻撃を防ぎ、残った片方を私の顔目掛けて振るってくる。その癖にこいつは、私の攻撃をものともしないのだ!角で奴の攻撃は受けきる。衝撃が角を伝って脳を揺らしてくる。私も言えたことじゃないが、馬鹿力め!
「やはり貴様のツノは硬いな!!だが、その力こそ全てという姿勢!俺は実に好ましいぞ!!!!!
まだ俺はお前の領域には程遠い様だ!」
ええい、楽しそうに笑みを浮かべるな。
ネルギガンテ自身、古龍を喰らう以外に楽しみを見出しつつあるのをこの時は気づいていない。
波乱の5期団がアステラに到着してから数ヶ月後。
アステラは古龍『ゾラ・マグダラオス』捕獲作戦を開始していた。古龍捕獲というお伽話の様な目標に全員が真剣になり挑んでいる。もしかしたら出来てしまうんじゃないかという空気すら出しているところが彼らは常識外に挑み続ける者達である証だ。
後に導きの青い星と呼ばれる事になるハンターは今、排熱器官を壊していた。
「あっつい……排熱の癖に溶岩噴き出して攻撃してこないでよ…」
クーラードリンクをがぶ飲みして彼女はぼやく。
大剣を振り回しながら三つの排熱器官を壊し歩きながら一息吐く。しかし、ここで休ませてくれるほど自然は優しくない。聞き慣れた相棒の声が聞こえてくる。
「モンスターです!外殻上に……アレは確か見せて貰った資料にあったネルギガンテです!」
それを聞いて上を見る。黒い大きな影がこちらに向かってまっすぐ飛んできている。
「って待って待って!?このままじゃ私が潰される!?」
慌てて走りネルギガンテの着地地点からズレる。
着地と共に吹き荒れる強風を背に受けながら転がり、背中の大剣を引き抜き立ち上がる。目の前の存在から感じる威圧感は彼女が向き合ってきた存在達の中でも強者に位置するものだ。今の自分の装備では逆立ちしても立ち向かう事は出来ない。その事実に冷や汗をかくが、恐れはない。総司令やソードマスターからネルギガンテが来た場合は安心してくれと言われていた。多少は時間を稼ぐ必要はあるだろうが、ネルギガンテが来れば奴も来ると。
「奴って誰なんですか?」
相棒がそう質問すると、総司令とソードマスターは顔合わせ一笑いした後、言葉を揃えて発した。
「「一期団が誇る馬鹿野郎さ」」
いっそ頼もしさすら感じる顔を思い出しながら構える。ネルギガンテが咆哮をあげる。耳を抑え、咆哮を凌ぐ。
突進を避け、右前脚に大剣を叩きつける。が、棘に阻まれ軽く弾かれる。そんな彼女を嘲笑うかの様な視線を向けるネルギガンテ。
「舐めやがって…!」
その視線に込められたものを理解出来るから青筋を浮かべるハンター。転がり、攻撃を避けるが飛来してきた棘に吹き飛ばされる。
防具を身に付けていたから棘が彼女の柔肌に突き刺さる事はなかったが、衝撃でゾラ・マグダラオスの飛び出した岩場に背中を強く打ち付ける。
「ぐっ……あの程度で集中乱すなんて私もまだまだだなぁ」
明確な隙が出来た相手を見逃すほどネルギガンテは優しくない。
ゆっくりと彼女に向かってくる。周りのハンター達が邪魔をするが、その脚が止まる事はない。絶対絶命に思える瞬間、彼女の目にはふらふらと飛ぶ二匹の翼竜が見えた。見るからに防具をつけてない癖にゴツい肉体と二本の大剣。ネルギガンテの頭上で解放され、落ちていく。
「ネェェェルゥゥゥゥギィィィィガァァァァンテェェェェェェ!!!!!」
凄まじく煩い叫び声を上げながら落ちてくる男は大剣を引き抜き、ネルギガンテのツノを一本叩き折り着地した。
「お?お前さん、俺が追いかけてる個体じゃねぇな?あいつがこんなに柔らかい訳がないもんな」
ツノを叩き斬ってから別個体と認識する脳筋。
「ん?無事かい、嬢ちゃん?こいつは俺に任せときな。まっ、俺が愛してるあいつとは別個体みたいだが」
豪快に笑いながらツノの折れたネルギガンテの方を見る。完全に怒りの感情が浮かんでいる眼で男を睨み付けるネルギガンテ。
結果を述べるとこのネルギガンテは、何の目的を果たす事なく逃げ出す事になる。
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