ネルギガンテに惚れた男   作:マスターBT

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ちょっと長めですよ


2体の狩人

 ゾラ・マグダラオスにより生み出された地脈回廊のその先、大地の隙間を超えた場所にある龍結晶の地に大団長に命じられ彼と共に大剣を担いだハンターとその相棒が訪れていた。この地を調査するつもりで訪れた三人なのだが、現在は足を止め眼前の光景を見ていた。

 大団長は同期の馬鹿っぷりに豪快な笑みを浮かべ、五期団のハンターは自らの師の戦いに興奮を隠さずに、自分もあの場に混ざりたそうにしながら、その相棒は前回と違い目の前で起きている戦いを記録しながら。

 

 もはや、改めて紹介する必要もないだろう。

 全てを滅ぼす古龍の攻撃を、二刀の大剣で防ぎ弾きながら、肉薄。強靭な棘を大剣の一振りで砕き、流れる汗は彼自身の体温で蒸発し湯気を放つその男。

 

「ぬはははっ!!俺の前でそう簡単に棘を再生出来ると思うなよ!」

 

 棘を砕かれ僅かに怯む古龍だが、既に慣れた。同種達よりは圧倒的に短い怯み時間から復帰し反撃する。この地で潤沢なエネルギーを蓄えてきたが、この男が訪れる様になってからはそう簡単にエネルギーを得るのが難しくなった。その事実に苛つきながらも、自分に死の可能性を感じさせるこの男との戦いは、実に刺激的だ。あの何度も突っかかってくる王より圧倒的に楽しいと感じ取れる。だからこそ、古龍、滅尽龍ネルギガンテは容赦なく先ほど砕かれた棘を再生させ、振り下ろす。

 

「再生が早過ぎないかお前さん!」

 

『グルァァ!』

 

 馬鹿にするなと言わんばかりに吠える。エネルギーを蓄えれば蓄えるほど、この地から離れ辛くなるがネルギガンテはそれに争い、各地でエネルギーを蓄えた。鬱陶しく煩わしい自分を呼び寄せる声の主を初めは喰うつもりだったが、それより優先すべき存在が現れた。

 

「ふん!」

 

 ネルギガンテの振り下ろしをほんの僅かにズレる事で避けた男は、土煙が晴れるまでの時間で担ぎ上げた大剣を勢いよく振り下ろす。強靭で強固な鱗などを持っていなければ千切れるほどの力を込めた一撃。しかし、それは男の構えを見て即座に棘を黒化させたネルギガンテには通用しない。精々、当たったという衝撃を伝えるだけだ。

 

「っあ、ほんとかてぇなぁ!」

 

 渾身の一撃が防がれたというのに男は楽しげな笑みを浮かべる。ネルギガンテという存在は男の憧れであり、理想の体現者だ。

 かつては食事終わりに片手間で死に体にさせられたが、こうして自分を脅威として見て対処してくる今を楽しいと感じない訳がなかったのだ。例え、一瞬でも何かを間違えれば即死が待っているとしても。

 

「ネルギガンテェェェ!!!!!」  『グルァァァァァァァァァァ!!』

 

 全く同じタイミングで、吠えた二体の筋肉は、二本の大剣と前脚で組み合う。かつていただろうか。

 古龍と真正面から、しかも力に全てを費やした様な存在と力比べをするハンターが。二体の足元の地面が砕け、脚が沈む。男の両腕の筋肉が派手に盛り上がり血管がくっきりと浮かび上がる。流れる汗は、さらに増えますます湯気が濃くなっていく。

 ネルギガンテもそれに呼応する様に力を込めていく。噛みつきに行けば速いが、それをする事はなかった。力で叩き潰してこその相手なのだ。真正面から完膚なきまで自分という力を味合わせてからその命を奪う。そうして初めてずっと邪魔されてきたツケを叩きつけてやる事が出来るのだから。

 

「こいつはちと、厳しいな……仕方ねぇ、ちょっとばかしドーピングさせて貰うか」

 

 男の口からガリッという音が聞こえる。先ほど以上に筋肉が膨れ上がる。男がやった事は単純だ、口の中に予め隠していた怪力の種を噛み砕いたのだ。男としては余り頼りたくない手段だが、目の前の存在はそんな贅沢を言って倒せるほど甘くない。

 膨れ上がった筋力で男はネルギガンテの前脚を弾き飛ばす。そのまま、大剣を突き出しネルギガンテの腹部を突き刺す。強固な肉体を突破し、二本の大剣は刺さるがほんの僅かで止まる。ネルギガンテが力を込めて、筋肉だけで押し留めた様だ。

 

「こんっの野郎!どこでそんな事覚えやがったお前」

 

 大剣を引き抜き、後ろに下がる。ネルギガンテは回転して、飛ばしてやろうと思っていたが男が離れてたのならと大人しく体勢を戻す。

 今度はどちらも勢い任せに突撃をしない。ネルギガンテは相手の力が増している為不用意な行動は、自らの命に直結すると本能が理解したから。男はネルギガンテが警戒している事に気がついている為、反撃を警戒し明確な隙を探す。

 ほんの僅かな静寂が訪れる。どちらも本能に身を任せ、暴れ狂うだけの存在であれば訪れない時間。しかし、男はハンター。

 人という種族が知恵を力を振り絞り、それで漸く勝ちを拾える存在と幾度となく対峙し続けた者。勢いだけでも、慎重なだけでも駄目だと経験が嫌というほど教えてくれた。ネルギガンテも同様だ。古龍であるが故に並大抵の相手であればそうあるだけで、簡単に吹き飛ばし肉塊にし自らの糧にしてきた。しかし、同じ古龍を喰らう時は違った。肉体の再生能力に身を任せ過ぎれば、いつも手痛い怪我を負った。同種の中では返り討ちに遭い、死ぬものもいた。だからこそ、仕留められる時に仕留めるのが正解だと知識が告げていた。その在り方はハンターと似た部分がある。

 

 静寂を破る熱が二体の上から現れた。荒々しく炎の鎧を身に纏う隻眼の王。

 

『ガァァァァァ!!』

 

 ネルギガンテによって奪われた視界。屈辱を味わった王はその憤怒とともにこの瞬間、姿を現した。

 そして、その熱を巻き上げ暴風とし、荒れ狂う天災も王と向き合う様に現れる。

 

『クルァァァ!!』

 

 共闘かたまたま居合わせただけなのか。まさかのタイミングで、テオ・テスカトルとクシャルダオラが姿を現す。

 一体が現れるだけで、甚大な被害を巻き起こす天災が二つ。元々、古龍が訪れやすい場所ではあるが龍結晶の地の環境は凄まじい事になっている。高熱が暴風により巻き上げられ、常人であれば呼吸するだけで肺が焼かれ死に至るだろう。

 観戦していた大団長達も流石の事態に慌てだす。古龍が複数体、同じタイミングで顔を合わす事例などそうそう起きるものじゃない。さらに主戦場から離れているが、彼らの場所も高熱の風が届いている。駆けつけたくてもたどり着く前に死んでしまうだろう。

 

「……あいつを信じるしかないか。一旦、アステラに戻るぞ!」

 

「ですが!」

 

「信じろ。俺の同期は、お前の師匠は死なないさ」

 

 大団長が指し示した先には、古龍達に囲まれながらも笑みを浮かべ空となったクーラードリンクを投げ捨てている筋肉の姿があった。

 この状況で男は逃げる訳でもなく、戦うことを選んだ。大剣を構えながら悠然と歩き、クシャルダオラへと大剣を向ける。

 

「ネルギガンテ。ほんと、お前との戦いは邪魔ばかり入るな」

 

 喉がヒリヒリする感覚を感じながら男は口を開く。当然、ネルギガンテからの返事はない。

 

「敵の敵は味方らしいぞ?まっ、お前さんがやられそうになったら俺がこいつらより先にお前を殺すが」

 

 ネルギガンテに背を向ける男。その言葉を理解したのかネルギガンテは、男をチラリと見た後返事する様に一度だけ、唸りテオ・テスカトルを見る。

 

『ガァァァァァ!』  『クルァァァ!』

 

 天災と対峙するは二体の狩人。

 どちらもただひたすらに鍛え上げた己の肉体のみで天変地異を起こす存在へ立ち向かう。だが、この二体に恐れは無い。目の前の天災を破る事も出来なければ、今背を預けている相手を倒すなど不可能なのだから。

 

「ぜぁぁぁ!」

 

 始動は男からだ。

 暴風の中を全力で走り、飛んでくる石の破片などは持ち前の反射神経で全て避けていく。元々、クシャルダオラという古龍は生息範囲が広く、古龍の中では最も理解が進んでいる存在だ。男も過去に2回ほどクシャルダオラとは遭遇している。故に嵐の中、走るという経験は初めてではなかった。暴風を突破し、クシャルダオラに大剣を振るう。

 

『クルァ!?』

 

 派手な音を響かせ、クシャルダオラの鋼の鱗が散る。即ち、男の一撃がクシャルダオラの装甲を突破したという事だ。

 

「なんだ、お前さん。風の鎧を纏い続ける事は出来ないのか」

 

 クシャルダオラは自らを傷つけた目の前の存在をはっきりと脅威として認識する。しかし、それではワンテンポ遅い。

 古龍故に絶対強者として君臨し続け、不幸な事に強いハンターと出会った事がなかったこのクシャルダオラ。命のやり取りという場において全ての対応が後手に回っている。咆哮をあげようとしたクシャルダオラの顔面に強度のある物体が勢いよく当たり怯む。クシャルダオラの頭部に当たったもの、それはネルギガンテの棘だ。さっきまでネルギガンテと男は派手に戦闘を繰り広げていたのだ。当然、周囲には砕かれたり攻撃によって抜け落ちた棘が刺さっている。その中でも手頃なサイズを選び、男はクシャルダオラの弱点である頭部に投げつけたのだ。

 

「そらぁ!」

 

 怯んだクシャルダオラの胸に大剣二本に寄るX字の傷が刻まれる。自分の身体が刻まれてる事に恐怖したクシャルダオラはなりふり構わず、身体を捻り飛び上がる。同時に、竜巻を起こし、飛び上がる。

 

「ぬおぉっ……危ねぇ……巻き上げられんで良かったわい」

 

 目を守りながら後ろへ下がる。流石に竜巻を突破出来るほど男は人間を辞めていない。

 

『グルァァァ!!!!!』

 

 人間で突破出来ないなら出来る存在に任せれば良い。

 男は横に勢いよく飛び退き、ネルギガンテの突撃を躱すがクシャルダオラはモロに突撃を受け地面に叩きつけられる。どうにか踠き、ネルギガンテが自身に噛み付くのを防いでいるクシャルダオラだが、完全にマウントを取られてる為に脱出は出来ない。

 

『ガ……ガァァァァァ!!』

 

 ネルギガンテによって壁に叩きつけられていたテオ・テスカトルが見たのは憎む敵が自分ではない存在の相手をしている光景。片目を奪われた屈辱を晴らしにきたらその怨敵が自分を見てすらいない。その事実に怒りの咆哮をあげる。

 

「テオはあいつの方が喜ぶからなぁ……まぁ、ネルギガンテの方に行かない程度に戦うか」

 

 怒れる王と筋肉馬鹿が対峙する。

 咆哮と共に散った鱗粉に気を付け、男は大剣を構え近く。先ほどのクシャルダオラの様に慢心は無い。隻眼で睨めつけ、男の出方を見極める。それに気がついた男は意識を切り替える。足止め程度の認識で戦っていたら自分が死ぬと。攻撃の意思を魅せたのは王からだった。翼を動かし、男の方へ鱗粉を飛ばす。爆発しながら迫るソレを避けるが、自分の近くを高温が抜けていった為皮膚にヒリヒリとした感覚が生まれる。

 

「あちち!……お前さんの俺の相性はやっぱり悪いな!」

 

 ハンターが身に付ける防具にはモンスターの攻撃を受けても生きていられる様にする為に開発されているのだが、その防具を一切身につけていない男はテオ・テスカトルの様に特殊な手段を用いて戦う奴との相性は最悪だ。まぁ、そもそも防具無しで戦う馬鹿はこの男ぐらいだと思うが。

 

「俺を殺せなきゃ、ネルギガンテは最も無理だぞテオ」

 

 不利な状況であればあるほど笑みを浮かべるのがこの男。

 炎に身を焼かれながらも、テオに接近。ブレスを吐き対応してくるテオへスライディング。スレスレを通過するブレスに肝を冷やしながら口を真下から大剣でかちあげる。勢いよく口が閉ざされたテオは驚きながらも、なぎ払う様に前足を動かす。それを男は大剣で受け止める。

 

「あちち……汗が止まらん」

 

 テオとの相性は確かに悪いが純粋な力はネルギガンテより弱い。故に男は大剣一本を地面に突き刺す事でテオの前足を受け止め切る。自由となった大剣でネルギガンテによって失った眼を再び刻む。

 

『ガァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』

 

 再び、傷をつけられたテオ・テスカトルは耳を劈く様な咆哮をあげる。男は耳を押さえながら背を向け全力で走り出す。

 同時にクシャルダオラにトドメを刺そうとしていたネルギガンテも翼を広げ上空への逃げる。男とネルギガンテを突き動かしたのは積み重ねた経験に基づく直感だった。あたり一面に鱗粉が撒き散り、近くにいるだけで炭になりそうだ。

 

「ぬぉぉぉぉ!急げぇぇぇぇ!!」

 

 身を焦がす熱を背に感じながら全力疾走する男。そして次の瞬間、その熱が消失した。

 

「ええい!」

 

 強まる直感に身を任せ目の前の崖から飛び降りる男。直後、凄まじい爆発音が響き渡り一瞬の間を置いて強い衝撃と熱が男を襲う。地面を転がりながら立ち上がった男は先ほどまでいた場所を見て絶句した。テオ・テスカトルを中心にクレーターが生まれ、吹き飛んだと思われる地面の断面は高熱によりガラス化している。

 

『………』

 

 この一撃にはかなりのエネルギーを使うのか疲れた様子のテオ・テスカトル。空に逃げたネルギガンテと息を整えている男を睨みつけ、飛び上がり、そのままこの場を離れていく。一息つきながら、男は回復薬グレートをガブ飲みしながら空のネルギガンテを見ると、所々焼け焦げているのが分かる。ゆっくりと再生していくが、その速度は遅い。男との戦闘と後に二体の古龍と戦った為に軽くエネルギー不足になっている様だ。おそらく、クシャルダオラから得たエネルギーだけでは足りないのだろう。

 

「……あぁ、疲れた」

 

 地面に手足を投げ出す男。古龍達が立ち去った空は青く澄み渡り、黒いネルギガンテがよく目立つ。

 しばらく男を見つめていたネルギガンテだか、弱々しく咆哮した後彼方へと飛び去っていった。

 




クシャルダオラくんはきっと溶けたよ。

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