「ふははははは!」
『ガァァァァァ!』
高笑いと咆哮に混ざり、肉が裂ける音、金属と棘がぶつかり合う音が響き渡る。男は、その身に棘を受けながらも二刀の大剣を振るい、かの古龍、ゼノ=ジーヴァのブレスすらも防いだ棘を砕き、その下の肉を斬り裂いていく。鮮血を浴び、切れ味が落ちていく大剣を目の前の存在の棘に擦り当てて、戻していく変態技術を魅せながら、闘志を迸らせる。
対し、ネルギガンテもゼノ=ジーヴァを喰らった事で手に入れたエネルギーで負けてはいない。既に数本の棘が男の守りを抜け、刺さっているし棘が砕かれているとは言え、よく見れば数本は未だに砕かれず銀色に輝いた特殊な棘に変化している。
「暫く見ねぇうちに一芸、身に付けてんじゃねぇかおい!」
進化しない生物はいない。ましてや弱ければ淘汰されるしかないこの世界で、進化は重要だ。当然、ネルギガンテも進化をする。今まで男と戦い何度も砕かれてきた棘、ゼノ=ジーヴァとの争いで極限まで追い詰められた肉体は溢れるエネルギーを手に入れ、回復するだけではなくネルギガンテを次の段階へと引き上げた。
圧倒的な暴力をもって古の龍すら喰らうその龍は、遍く生物を殲ぼすに等しい力を手に入れた。
即ち
『悉くを殲ぼすネルギガンテ』へと進化した。
『グルァァ!』
その進化した力を古龍でもなんでもない目の前の男へと全力で振るうネルギガンテ。だが、知っている。数々の戦いを経て、目の前のこの男がいずれ進化した自分にすら対応しきると。その事実にネルギガンテは僅かな恐怖とそれを覆い隠して余りある興奮を感じていた。
「ぬん!」
大剣の一振りで悉くを殲ぼすネルギガンテの前脚を弾き飛ばす筋肉。あぁ…あぁ!これだ、これなのだ。ただの力だけで己に迫るこの男。自分より強い者、自分とは違う異能を身につけた者、あの手この手で戦い方を変える者。幾らでも戦い、時には喰らい時には逃げた。だが、真っ直ぐ自分と同じ様にただの力で戦う者はいなかった。
様々な戦い方がある事を否定はしないが、つまらなかった。同じ土俵で競い合うからこその楽しみをこの男より学んだ。
だからこそ、今日ここで貴様を喰らう!
『ガァァ!』
突進をかわし、首に大剣を振り下ろす。僅かに切り裂くが断ち切っていない。鈍い手応えに舌打ちをしながら、追い払う様に放たれた前脚を大剣で受け止めその勢いで距離を取りこちらを見る圧倒的な暴力と対峙する。
「今日こそ決着をつける気って訳かネルギガンテ!」
俺はなにもハンターになってからこの変な戦い方をしていた訳じゃない。ちゃんと防具を着ていたし大剣も一本だった。だが、この古龍にボロボロに負けてから俺はこいつに恋焦がれた。棘を受けて瀕死の重体だったがどうにか一命を取り留めた後、がむしゃらに身体を鍛え鍛えぬいて筋肉が溢れる今の身体になり、憧れから防具を着なくなり軽すぎて振るいづらくなった大剣を二本にした。それでもなお、目の前のネルギガンテには敵として認識されずあしらわれてきた。だが、今日この瞬間は俺を見ている!俺を喰おうとその全てを向けてきている!
「最高だな!!なぁ、お前もそう思うだろう?ネルギガンテぇぇぇぇ!!」
返答はない。
だが、ネルギガンテは俺に向かって突撃してくる。その姿に興奮を感じながら俺も奴へと突撃する。技も技術も関係ないただの筋肉と筋肉のぶつかり合いだ。奴は自慢の二本のツノで俺の大剣を受け止める。負けじと全身に力を込めネルギガンテを押し込む。
「うぉぉぉぉぉぉ!!」 『グルァァァァ!!』
咆哮を上げながら一切引くことのない力比べを行う一人と一匹。人間と古龍、生物としての力関係など比べるまでもないほどに古龍が上だ。しかし、この光景はなんだ。ただの人間が古龍と対等に競っている。溢れ出る闘志が熱に変わり、白い湯気を発生させる。
そしてただ、ひたすらに己を鍛え続けた男の意地はついにネルギガンテを捉える。
「ぬらァァァァァ!」
バキン!という音共にネルギガンテの片方のツノが砕かれ、振り下ろされた大剣が大きくネルギガンテの顔に傷をつける。
『ガァァァ!?』
激痛に怯み、自分が出した鮮血が片目に入り視界が真っ赤に染まるネルギガンテ。たたらを踏みながら後ろにゆっくりと下がっていく。なにが起きたのか理解していなかったネルギガンテは片目で徐々に状況を理解していく。転がっている自身のツノ、鮮血で見えない片目、今なお流れ続ける血。かなりの深傷を負ったと。
「ぬぅ……」
だが、それはこの男も例外ではなかった。確かにネルギガンテのツノをへし折って見せた。しかし、古龍の中で最も純粋な力を得ている悉くを殲ぼすネルギガンテと真っ向からぶつかり合い、そのツノを折る為に全身を酷使し過ぎた。膝をつき、軽く下を向けばぼたぼたと凄まじい勢いで落下する汗。興奮と共に高まった心臓がまるで耳元で鳴ってると錯覚するほどにうるさい。
が、この程度で戦いをやめる二体ではなかった。
悉くを殲ぼすネルギガンテは持ち前の生命力で。男は懐から取り出した元気ドリンコを一気に飲み干し立ち上がる。
短く息を吐いたあと、今度は男からネルギガンテに向かって駆け出していく。これに対し、ネルギガンテは動き出すことをせず男を睨み付ける。
「なにか仕掛けるつもりか…?まぁ、良い。なんでも来い!!」
男と悉くを殲ぼすネルギガンテの距離が残り1mほどになったところで後脚で立ち上がり低い咆哮を上げるネルギガンテ。音というのは耳を持つ生物にとって脅威的な攻撃手段だ。来ると分かっていても防ぐ事はできず、どんな豪傑であろうと爆音には脚を止めてしまう。それはこの男も例外ではない。耳を塞ぎ立ち止まった男が次に見た光景は、凄まじい勢いで自分へと突撃してくるネルギガンテの姿だった。
「師匠!?」
歌の発生源を特定し、大いなる存在を調査する為にこの『淵源の孤島』を訪れた私の目の前に広がる光景は予想していたものとは全然違っていた。まず、孤島に居たのは見慣れたしかし、知っている姿とは大きく異なる姿のネルギガンテが倒れておりそして、そのネルギガンテの先に輝く棘に貫かれている師匠の姿があった。慌てて駆け出し、師匠を抱き抱える。
「ぐっ……ぬぅ、ははっ、流石はネルギガンテ…見事にやり返してきおったわ…」
「喋られないでください!今、助けを」
師匠の右半身にいくつもの棘が刺さっており、どくどくと血を流している。誰がどう見ても瀕死の重体だ。師匠の右手には肢だけになってしまった大剣が握られている。あのネルギガンテは師匠の大剣を砕いてなおこの棘を突き刺したのか……ハンターの持つ武器を砕きながら攻撃してくる存在がいるのかと恐怖する。
「相棒ーー!」
声をかけられてそっちを向けば相棒とおばさまが来ていた。師匠の状態に気がつくと私より鮮やかな捌きで応急処置を行ってくれるおばさま。
「たくっ…この馬鹿は私に任せな。ちゃんと手当をしてやるさ」
「はい。お願いッッ!?」
歌が響き渡り、地面が大きく揺れる。ナニカがこの島を破壊しながら現れようとしていた。此処で現れる存在など大いなる存在以外にはいない。そう確信した私は二人に師匠を頼むと告げて崩壊へと向かっていく。師匠の大剣に胸を貫かれているネルギガンテも崩壊に呑み込まれていく。剥ぎ取りしておけば良かったな。
負けたのか?私は。いや、ならなぜこの様に思考していられる。あの男に敗れたのならこんな暇などないだろう。なら、私が勝ったのか?いいや、それも違う。私の中からあいつの気配を感じない。糧に出来ていない。
ならば答えは一つ。また、邪魔が入った。
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな!!!
上から感じる気配が邪魔をしたのか?ふざけるな、私と奴の戦いに水を刺したのか。あぁ、腹立たしい。それになんだこの岩石は。私を埋めたのか?この程度で死ぬ私ではないぞ。身体を動かし、胸から走る痛みに一瞬動きを止める。視線を下げれば奴の大剣が深々と突き刺さっていた。私を殺し得る攻撃をあの男がしていた事実に興奮する。ツノを砕き、頭蓋へと到達する一撃を加え私の攻撃を防ぎながら大剣を突き刺したあの男。もし、この大剣がほんの少し深ければ私はこうして生きていなかっただろう。
あぁ……やはり、この世界の何よりもあの男は私を退屈させない。
誰よりも私を追い詰めたあの男への賞賛ともに岩石を砕きながら飛翔する。目の前には弱った獲物が一体。体当たりで倒したあと、首に噛みつき、その肉を喰らう。それでもなお、抵抗してくるのが邪魔なので顔面に棘を再生させた前脚を叩き込み、大量のエネルギーを蓄えた心臓を喰らう。
『ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!』
咆哮と共に矮小な存在どもに視線を向ける。そこにあの男はいない。まぁ良い、これだけの邪魔が入るのは好ましくない。奴との決着は一対一でつけたい。まぁ、どうせ私と奴は引かれ合う。
次、会える時を楽しみにしているぞ人間
次回、多分最終回
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