やはり俺の青春ラブコメはまちがっている。再編ストーリー 作:Minadukiyuuka
うちの両親は実に薄情である。お見舞いには片手で数えるくらいしか来てくれないし、小町とは散々外食するのに俺とはしてくれないし、とにかく親父が俺を敵視していてうざい。
今日は小町が忙しいらしく、お袋が着替えとかを持って来てくれた。
「そういえば、こっちに来る時に総武校の制服着た可愛い子に会ったけどあんたの知り合い?」
総武校の制服の可愛い子?雪ノ下のことか?
「あぁ、まぁそんな感じ」
ドサッ
ものを落とした音が聞こえて来たので見るとお袋が俺の着替えが入ったバッグを地面に落としていた。
それ俺の俺の!
「・・・あんたに、知り合いなんかいたの?冗談のつもりで聞いたんだけど・・・」
目を丸くしたお袋はその場で固まってそう言った。
「別に・・・俺と事故った車に乗ってた子だよ・・・目が覚めた時に訪ねて来たんだよ」
「・・・そう。あなたは怒ってないの?」
お袋は落としたバッグを拾いながら俺とは目を合わさずに聞いて来た。
「怒ってない・・・って言ったら嘘になるかもしんないが、まぁ事故があっても無くても俺は変われなかっただろうからな。」
「そりゃ、あんたの腐った目がそう簡単に治るわけないだろう?」
・・・おいおい、それが我が子に言う言葉かよ?・・・
「でも、よかった・・・あんたが元気そうで。本当、によかった」
お、お袋・・・
俺はお袋の言葉につい涙が浮かんでしまう。
「それに、あんな可愛い子と知り合いになれるなんて、この先一生かかってもないんだから。」
・・・そ、そそそ、そんなことないだろう!俺だって、本気を出せば・・・無理ですね、はい。女子とか近づくだけで逃げられるんだよ?どうやって話せばいいんだよ。
お袋はやるべきことを終わらせるとそそくさと帰って行った。
「失礼するわ、比企谷くん。」
次の日の昼過ぎに訪れた雪ノ下は変わらない佇まいで、依然として人形のような綺麗な顔立ち。でも、髪の長さが前とは違ってセミロングだった。
「・・・どうしたんだよ、その髪」
「別に・・・ただの気まぐれよ。それより、怪我の具合はどう?まだ痛む?」
・・・なんだ?この違和感は・・・
俺は「何となく」目の前にいる雪ノ下が今までの雪ノ下とは別人のように感じる。
「どうしたの比企谷くん?そんな目で私を見て・・・まさか⁉︎欲情しちゃった?」
雪ノ下は自分の体を抱いて防御の姿勢をとった。
誰も欲情などしていない!そんな慎ましやか・・・あれ?少し、大きい?
「なぁ、雪ノ下」
「なにかしら比企谷くん?」
「・・・胸、つめてるのか?・・・」
「・・・・・・」
俺がそう言うと雪ノ下は無言の笑顔。笑顔なのに、怖い。
「ねぇ、比企谷くん?雪乃ちゃんにもそんな事言ってるの?」
は?『雪乃ちゃん』?こいつの一人称って確か『私』だったよな?
俺は今までの雪ノ下との会話を思い出しながら自問自答した。
コンコン
「失礼します。ごめんなさい比企谷君、遅れてしまって・・・こんなところで何してるのかしら『姉さん』」
入って来たのは、またしても雪ノ下だった。
今来た方はいつもの雪ノ下だった。背中の中ほどまで伸びた綺麗な黒髪、人形細工のような顔立ち、あの慎ましやかな胸
「比企谷君、目が腐った上にいやらしいわよ」
うん、この毒舌っぷりいつもの雪ノ下さんですね
「あはは、バレちゃったか〜私、雪ノ下「陽乃」って言うんだ。それで、どう比企谷くん?私、雪乃ちゃんに見えた?」
陽乃さんはとても砕けた調子で話しかけて来た。それはさながら、何年も前から知り合いだったかのような、そんな演技だった。
「いいえ、全然」
俺はまるで確信していたかのような口調で啖呵を切った。
「・・・ヘェ〜それで、どこらへんが違ったのかな?」
「雪ノ下は、そんな上部だけの外骨格は持ってませんよ」
俺の中ではその言葉が一番しっくりきた。まるでその場に合わせて着せ替えが出来るような、自分の周りを取り囲む心の壁。
「・・・ぷ、あははは・・・キミ、最低だね。初対面の女性にそんなこと言うなんて」
その声はまるで、全てを見透かすような、対面者を凍てつかせるような、そんな声だった。
「姉さん、悪いけど帰ってくれるかしら?」
それは今まで聞いたこのないような、100%敵意を持った雪ノ下雪乃の言葉だった。
「・・・まぁ、今日はいいや。またね雪乃ちゃん、比企谷くん」
そう言って、嵐のように陽乃さんは病室から出て行った。
「・・・ごめんなさい。姉が変なことを言ったみたいで」
二人きりになった病室で雪ノ下は俺に謝った。
「・・・いつもあの人は私から全てを取っていく・・・」
胸とか?
言ったらきっとそれ以上の言葉が雪ノ下からは返ってくるだろう。
俺にはあいつが奪われたものはわからない。他者のことを完璧に把握することなんてできないし、しようとも思わない。
でも俺は、そんな思いをして来た雪ノ下の感情を、知りたい、と思ってしまった。
「姉さんが通った後には何も残らない。でも私は、あぁ、なりたいと思うだけの力が姉さんにはある」
「ならんでいいと思うぞ」
俺は雪ノ下が喋っているのを遮って言い放った。
誰だって、なりたいと思うだけでその人にはなれない。理想は現実にはならない。今まで嫌と言うほど体験した。好きだった相手に『好き』と伝えれば返ってくるのは『お断り』だけだった。・・・不味い不味い、俺の話はいいんだ。今は雪ノ下の話だ。
「俺はあの人に会ったのは初めてだから何とも言えん。もしかしたらお門違いなことを言うかもしれない。でもな雪ノ下、人が誰かになるなんて不可能だ」
俺の声は二人だけの病室によく響いた。そう、感じた。