「ふんっふふ~ん♪」
俺は銀行で金を降ろす。
バイトだけだからそこまでだけど、高校生にしてはそこそこ稼げたな~。継続は力なりってな。
財布にお金を詰めて、買い物に行こうと体をくるっと回転させた瞬間、大きな音がなり、肩に穴が空いた。そこからは沢山の血が出ている。
「・・・?・・・・!?うわぁぁぁ!!痛い!痛い!なんで!?」
俺はよろめきながら叫ぶ。
「強盗だ!このカバンにさっさと金をつめろ!」
強盗と名乗る男が来たらしい。
女子高生もいるらしい。甲高い悲鳴も聞こえる。だが、そんなことも気にならないほど、俺は慌てふためいていた。
「うるせぇ!黙ってろガキ!」
強盗が俺を撃ったであろう拳銃を女子高生に向け、引き金を引く。
「うわぁ!?」
俺は倒れこみそうになったところで心臓に銃弾を撃ち込まれた。
嫌だなー。ここまで頑張ったのに全部無くなるのはやだなー。
なんかもうどうでもよくなった。
この銀行は警察署にほどよく近いのでパトカーの音が聞こえる。きっと事件は解決するだろう。
それにしてもこの強盗も切羽詰まっていたのかな。それで俺を巻き込まないでほしい。
文句を言いながら俺は息を引き取った。
「ハヤノソウシさん、ハヤノソウシさん。」
誰だ?俺を呼ぶのは。
俺は目を開けるとそこには美しい女性がいた。
「ハヤノソウシさん。ようこそ死後の世界へ。貴方はつい先程、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、貴方は死んだのです。」
そう俺に語りかける姿は、まるで女神のように見えた。
「あの、1つだけ。俺が死んだあとあの騒ぎはどうなりましたか?」
とりあえず気がかりだったことを訊いた。
「貴方が亡くなったあと、警察が駆けつけ、負傷者や死亡者は貴方1人という結果で解決しました。」
「よかったー。」
俺だけならいいや。
「今から貴方には3つの選択肢を与えられます。1つ目は記憶を消し、生まれ変わる。2つ目はこのまま天国に送られる。ですがこの選択肢はおすすめできません。」
えっなんで?つい言葉がもれる。
「天国というのは、女神の私が言うのもなんですが、天国ですが、体が無いのでなにもできません。しいて言うなら日向ぼっこしながら世間話をするくらいです。」
うわぁ。ずっと暇とかまた死んじゃう。
「そこで3つ目の選択肢、異世界に行ってもらいます。」
異世界?なにそのファンタジー。
女神様はこほんと咳払いをした。
「その世界では現在魔王によって平穏をおびやかされています。そこで、貴方には、記憶と異世界に持ち込める、いわゆるチート能力や武器を持って、世界を救って頂きたいのです。」
ほんほん、チートか。本当にあるのね。
「なんでも?」
「なんでもです。」
「・・・それとは別にお金とか貰えない?」
いきなり無一文はすぐ死んじゃう。
「武器代や冒険者になるための手数料の分のお金、降り立つアクセルの地図を貴方には差し上げます。」
なるほどなるほど。前の世界よりも生きやすいかもしれないし、それを願って転生するのもありかな。
「それで、さっき言ってたチートとやらは?」
たくさんの書類を女神は渡してきた。読むのめんどい。
なにかいいのあるかねぇ。ぶっちゃけ一般人にはどれが使えるのかわかりかねる。そこそこオタクだったが現実となると分からん。
ん?魔法製造気?説明は・・・新しい魔法を作り、使えるようにする。か。異世界ってのは魔法があるのか・・・いいね。
「女神様、俺これにします。」
女神に紙を渡す。
「分かりました。では、魔方陣から出ないようにしてください。」
俺は手元に現れたタブレットのような機械を持ち、素直に待つ。
「女神様、1つだけ聞いてもいいですか?」
「どうしましたか?」
俺は少しだけ気になってたことを聞いてみる。
「貴方のお名前ってなんですか?」
あら、と女神は口元に手を当てる。
「自己紹介がまだでしたね。私は幸運の女神、エリスです。」
「エリス様ですか。綺麗なお名前ですね。」
俺はここにきて初めて笑みを浮かべる。
「ふふ、ありがとうございます。」
先程よりすこし声が柔らかくなった気がする。喜んでくれたら嬉しいな。
「ハヤノソウシさん。貴方が見事、魔王を打ち倒す事を期待します。」
はいっ、と返事をした。その声は少し元気だった。
「ハヤノソウシさん。見守っていますよ。ではいってっしゃい!」
俺は女神に盛大に送られた。
「たまにですが、私が見てきた貴方ならきっとできると信じています。頑張って、私だけの魔法使いさん。」
誰もいない、暗い部屋で、少女はつぶやいた。
目を開けると、久々に感じる光がさしこんできた。
「ここが異世界・・・」
とても平和そうな町に、俺は降り立った。
えっとたしか、エリス様が冒険者の手続きがどうのこうのって言ってたし、登録しに行けばいいのかな?
俺がポッケから地図をとりだそうとした瞬間、隣から大きな泣き声が聞こえた。
「ええ!?なになに・・・なにこれ。」
ジャージを着た男と揺さぶっている青い女の人が居た。
「あっ!その服装、もしかして日本人か!助けてくれ!この使えない女神が離れないんだ!」
男は女の人を押しながら助けを求めてきた。関わりたくねー。でも知らんぷりするわけにもいかんしなー、
「えっと、女神様?なんだっけ?まあいいや女神様。どうしたんですか?」
エリス様とは似てもにつかない女神の肩をとんとんと叩く。
「聞いてよ!こいついきなり私を拉致して天界に帰れなくしたのよ!これからどうすればいいのよ!」
拉致て。まあ、だいたい分かった。この男は女神をチートとして連れてきたのか。目的はまあ、あれか。
「ゲスめ。」
ジトーとした目で男を見る。
「なんだよゲスって・・・いやいやいや!もしかして変な事を考えてるのか!?だとしたら全然違うからな!そもそもこの駄女神に興味はない!」
「うわぁー!このヒキニート駄女神って言った!私に言っちゃいけないこと言った!」
めんどくさい。すんごい騒ぎ始めた。
「あー分かった分かった。」
俺はパンパンと手を叩く。
「見たところ貴方たちもこの世界にきたばっかりですよね。それなら一緒に冒険者になりに行きませんか?」
なんだかんだで一緒に行動することになり、地図を頼りに冒険者ギルドにむかう。