人気の少ない道端で一人の奇術師が技を披露している。
その男は棒を持ち、それを擦ると一瞬で花が咲いた。
彼は誰も見ていないというのに笑顔で奇術を披露し続ける。
「種も仕掛けもございません。」
決まった口上を喋りながら次々と披露していく。
すると一人の女が通りかかった。
派手な格好をしている、まるで夜の蝶といった出で立ちだ。
「お兄さんマジシャン?練習?おもしろそー!」
彼を見て興味を持ったようだ。
奇術師は彼女を見て笑顔を作り次々とその技を披露していく。
女はそれを見て手を叩いて喜ぶ。
「すごいすごい!お兄さん天才なんじゃないの?よく見たら顔も良いし、見せてもらったお礼に美味しいもの食べに行かない?」
どうやら女は男の事を気に入ったらしい。
食事に誘いあわよくばそのまま一夜をと考えているようだ。
奇術師は笑顔を崩さず女を見ている。
それはそれは不気味なほどに仮面をつけたように張り付いた笑顔で。
女はそれを見て違和感を覚えた。
「ねえ、笑顔以外は出来ないの?ちょっと怖いんだけど・・・。」
奇術師の笑顔は崩れることなく女の方を向いている。
女は身震いし後退る。
この異常な人間に対して恐怖を覚え始めた。
声をかけたものの異様な雰囲気を感じ逃げようと踵を返す。
女が後ろを振り向いたその瞬間、先ほどまで後ろに居たはずの男が目の前にいる。
「ひっ・・・。」
悲鳴を上げようとすると男に口を塞がれた。
奇術師は手にナイフを持っていた。
「種も仕掛けもございません。」
その口上と共に女の腹が裂かれた。
そこからぬらぬらとした赤い液体が溢れてくる。
円を描くように腹を裂かれ女は声も上げられずに気絶する。
女の意識が無くなろうとも男は行為を続ける。
「種も仕掛けもございません。」
三度口上を繰り返し男は女の腹から内臓を取り出す。
その笑顔に返り血が飛び彼の商売道具にも飛散した。
恍惚の表情で臓物を眺め少しずつ取り出し並べていく。
女は痙攣を繰り返していたが次第に動かなくなる。
そして本当に静止する瞬間に男は笑顔を崩し口を開いた。
「いただきます。」
死の間際に、最高潮に達した魂を男は喰らった。
先ほどの張り付いた笑顔ではなく満面の笑みで全てを喰らい尽くす。
魂を喰い、取り出した内臓を喰い、そして地面に垂らした血液の一滴までをも飲み干した。
返り血を拭き取り、彼はまた道具に手を伸ばす。
「種も仕掛けもございません。」
同じ事を繰り返す。
奇術を無限に繰り返す。
そこにまた別の人間が近付いてくる。
「お、こんなところで手品?面白かったらおひねりあげるぜ兄ちゃん!」
興味を持ったが最後、種も仕掛けも無い、人が跡形も無く消え去る奇術が行われるのだ。