昼下がりの狼紅邸にて、迅は過去に現れたホラーの資料を読んでいる。
開いていた頁は特殊なホラーが記載されているところだ。
「おいおい、熱心に何を見てるんだ?」
台座に置かれたゲルバが声をかける。
暇だと言わんばかりに欠伸をしている。
「ああ、今後どういったホラーが出てきても対応できるように勉強中だ。」
本から目を離すことなく質問に答える。
ホラーは様々存在し憑依した先によって姿を変え名前も変わる。
素体のままならば容易に討伐できるがそれが力をつけるもしくは憑依先によって変化した場合、熟練の騎士でも不覚を取る可能性がある。
そのため日々の鍛錬と対象の知識が必要となるのだ。
「俺様が居るんだからその都度聞けばいいんだがな?」
「それはそうだがお前に頼れない場面が出てくるかもしれない。その時に無知では目も当てられないだろ?それに騎士の矜持みたいなもんだ。」
迅は少し笑った。
今になっては確認することも出来ないのだが、先代が認めたのはこういうところがあったからかもしれない。
それを見てゲルバも笑っているように見える。
すると迅がとある項目に目を止めた。
「このホラーは俺たちの天敵かもしれないな。ホラー・グロングス、ソウルメタルに憑依するらしい。こいつについてお前は何か知識あるのか?」
聞くとゲルバが口を噤む。
返答が無いため不思議に感じた迅がゲルバを見る。
「黙るとはおしゃべりのお前らしくないな。お前の知らないホラーなのか?」
そう問われたゲルバは数分間の沈黙の後口を開いた。
「先代狼紅を殺したのはそいつだ。弟子も妻子もそいつに喰われた。」
その言葉に迅の表情が凍る。
先ほどの軽口は消え眉間に皺が寄る。
先ほどよりも長い静寂が狼紅邸に広がった。
それを最初に破ったのは迅だった。
「そんなことがあったなんて、知らなかったとはいえすまないかった。」
謝罪の言葉を述べる。
盟友の死を話題に挙げてしまったために申し訳なくなる、人として当たり前の感情が溢れた。
そんな迅に対してゲルバはいつもの軽口を叩く。
「そんな気にするな、俺様からすれば何代も前から狼紅を継承した人間を見てきた。そいつらの最期も幾度となく見てきたからな、その中にも喰われた者も仲間に裏切られた者も居たさ。今更突かれたところで痛くも無いぜ。」
「お前たちはそうかもしれないが俺たち人間からすればそれだけの別れを繰り返しているのは辛いものだ。強がらなくていい。」
「優しいなお前、ホラーにつけこまれるかもしれないから気を付けるんだぜ?」
「ああ、気を付ける。気遣い感謝するよ、ゲルバ。」
ゲルバと迅は笑った。
二人の友情のような信頼のようなものが深まった気がした。
そこへ鈴の音が響いた。
音の方向を見ると仮面の少女が手紙を持っている。
「指令書か。いつもありがとう、お疲れ様。」
迅は少女から手紙を受け取る。
仮面で顔は分からないが労われて嬉しいようで仮面を少し掻いて消えていった。
指令書を魔導火で燃やし文字を出す。
「今日は陰我溜まったオブジェを断ち切れだそうだ。」
「楽そうな話で助かるぜ、それじゃあ桜華を呼ぶか。」
「いや、今日は布道法師のところに行っているから居ない。今日は二人で行くぞ。」
「わかったぜ。」
衣紋掛けにある魔法衣を着込み、ゲルバを嵌めて狼紅邸の結界が張られていることを確認し街へ歩き出した。