路地裏に建てられている小さな社に魔導火を翳す。
すると黒い靄のように溜まった陰我が溢れ出した。
「これで最後か。」
迅が喋りながら魔戒剣を抜きそれを切り裂いた。
靄は消滅し社は元の神聖な場所へと戻った。
「随分簡単な指令だったなあ。」
「何を言っているんだ、七つもあったぞ。場所も近くないから移動も考えたら重労働だ。動かないお前とは違う。」
「まあまあ、ホラーと戦闘するよりよっぽどマシだろ?」
図星のため迅はため息をついて黙る。
ゲルバはニヤニヤと笑っている。
剣をコートの下へ隠し帰路へ就く。
日も落ち時刻は夜六時を回ろうとしていた。
そんな時に見覚えのある人間を見つける。
茶髪のショートカット、黒いハイネックのトップスを着て下はベージュのパンツスタイルの女性だ。
アーモンド目に筋の通った鼻、ぷっくりとした唇にナチュラルなメイクが映える顔。
(先日会った雑誌記者、確か名前は笹山優里亜だったか。)
そう、先日助けゲルバが勝手な約束をした笹山優里亜が対角線の歩道を逆側に歩いていた。
「どうした迅?おーこの前の女か。」
ゲルバも彼女に気付いたようだ。
笹山は紙束を持ちキョロキョロと周囲を見渡している。
少しの間周囲と紙束とを睨めっこしていると動き出した。
「どこへ向かうんだろうな?」
「わからないが俺様たちには関係ないだろう。」
ゲルバの言っていることは当たり前の事だった。
彼女が襲われていなければこちらから干渉する必要はない。
だが迅は彼女が向かった方向へ足を向けた。
「おいおい迅、そっちは家じゃないぜ?」
「何か、少しだけ気になってな。」
「なんだお前、惚れたのか?」
「違うそういうことじゃない!オカルト雑誌の記者が何かを探しているのであればそれ相応の噂があるはずだ。もしかしたらホラーが出現する可能性がある。」
「なるほどなるほど。まあそういうことにしておこう。」
迅はゲルバを睨む。
ゲルバは笑って彼を見ている。
何かを諦めたように前を向き歩みを進めた。
彼女は何度か足を止めつつ目的地へ向かっていた。
一時間ほど歩くと人気が無くなり公園が見えてきた。
その入り口付近で彼女が止まった。
迅は十数メートルほど後方で同じく止める。
「こんな時間に公園か。随分と変な奴だな。」
「都市伝説ならこういうところじゃないか?陰我が溜まる遊具があってもおかしくはない。」
二人が話していると笹山は公園内へ入った。
「行くか。」
迅が呟き入り口まで歩き内部を覗き見る。
そこには笹山とは別に一人の男が荷物を広げて何かをしているようだ。
「こんな場所であんな大荷物、何をしているんだ?」
「俺様が思うに二人は逢引きか。」
「冗談はやめろ、だったら荷物を広げる意味はない。そのまま持って彼女と消えればいいだけだ。それに先日の事を考えれば今消える必要はない。」
「それは確かに。」
様子を窺っていると男が何かを言い始めた。
この距離ではあまり声が聞こえないが手に棒を持ちそれを周囲に見せている。
笹山以外居ないその場でまるで観客が居るかのように立ち回る。
すると棒に手を翳すとそこから花が咲いた。
「あれはマジックか。」
「そうみたいだなあ。種も仕掛けも無いってのが決まり文句か。長年生きていればあれより不思議なものはもっと見てるから俺様は楽しめそうにないな。」
ゲルバは興味なさそうに話す。
他にも硬貨と煙草を取り出し、穴の開いていない硬貨に煙草を通してそれを元に戻す。
次は何も無い空間からトランプを取り出してそこから一枚取り出し自分以外に見せ戻し同じ一枚を取り出す。
そういったマジックを繰り返している。
すると笹山が男に近づいていった。
「夜に人気のない公園で練習か。たまたま人が居たらそれに付き合ってもらうと。」
「俺たちが鍛錬するのと変わらん。なんでも日々鍛錬だ。」
「それはそうとあの男何か臭いぞ。」
「ホラーか!?」
二人の方向を見るとマジックを見せているのには変わらない。
そう思った瞬間に男が笹山の口を手で塞いだ。
その刹那、迅は走り出していた。