ギャノン討伐から数か月、梵(そよぎ)家では祝いの準備が進んでいた。
「父上、ここまでしていただくのは申し訳ないと言いますか、その、有難いのですが・・・」
「何を言っているんだ、無名の家から他の系譜とはいえ称号を頂けるのだぞ!これが祝わざるを得ないだろう?母さん迅の好物はちゃんと用意しただろ?」
「はいはい、ちゃんと出来てますよ。」
先の大戦の功績を称えられ失われた系譜の鎧を受け継ぐ資格を与えられた息子のために父母は貧しいながらも精一杯のもてなしを用意していた。
魔戒騎士が生まれてから失われた系譜は多くあれどそれが復活することは今までなかった。
今回は鎧と魔導輪が失われず残っていたため元老院にて保管され適正者を待っていた。
鎧との適正、本人の力量を見て元老院が梵迅(そよぎじん)を見出し今回の討伐によって功績を出したため指令が下ったのだ。
「明日には元老院にて継承の儀をし、その後は狼紅としてこの家を出て東の管轄へ移動となる。今後気軽に会えなくなるのだから今日ぐらいはいいじゃないか。」
「あまり無理をしないようにね。こうして手料理を食べることも出来なくなるわけですし今日は騎士の迅ではなくて一人息子の迅で居ていいのよ。」
父、梵豪(そよぎごう)が迅の肩を叩きながらにこやかな父、その様子を見ながら料理を作っている母、梵菜緒(そよぎなお)。
迅は嬉しいながらも改めて親子というのを意識すると実の親でないことを思いだしつつはにかみながら食卓に着く。
彼の実の親は幼い頃ホラーに喰われその討伐に赴いた梵豪によって救い出された。
梵家には後継ぎが居なかったため彼を育て梵の名を残そうと考えたのだ。
最初はそういったことが目的であったのだが、いつしか父としての自覚が芽生え菜緒も母として接するようになった。
本人の力量もあったのだろう、彼は騎士として頭角を現しこの度の指令が下った。
誰よりも喜んだのは父だった。
何代も騎士を続けていたものの称号も無い無名の騎士として生きてきた梵家が他の系譜とはいえ称号を得て鎧を賜ることになったのだから喜びも一入だったに違いない。
ただ、狼紅の称号を得るためには継承の儀を行い、一人前となった証に親元を離れ新たな狼紅としての系譜を作らねばならないということだった。
現在梵家は南の管轄を任されている一人だったのだが狼紅は過去に東の管轄を任されていたためそちらに単身移動せねばならないという。
先代狼紅の屋敷があるとのことでそちらがあるため住まいは気にしなくていいとのことだった。
今回の些細な宴は送別と継承の祝いを兼ねているのだ。
養子でありながら梵の姓が元老院に認められることに一役買った一人息子を送り出す二人の悲しみと喜びは他人にはわからないことだろう。
食卓に料理が並び母が着席する。
すると迅が口を開いた。
「父上、母上、お二人が居たからこそ他者の系譜とはいえ称号を賜ることが出来たのです。いくら言葉を並べても感謝しきれません。この度は出立のためにここまでしていただき胸がいっぱいです。お二人に育ててもらった御恩は一生忘れることはないでしょう。」
感謝を述べる迅に対し二人は笑い始めた。
「何を今更言っているんだ。育てたのは確かに私たちだが今回のことはお前の実力が認められただけのこと。東の管轄へ行くが何かあれば戻ってくるといい、親子の縁までは管轄では縛れないのだからな。」
父の言葉に母は頷き迅を見て
「そうよ。ここはあなたの家なんだから遊びに来てもいいの。守りし者も人なのだからたまには休息が必要になるわ。いつでもいらっしゃい。」
迅は二人の言葉に心を打たれ涙ぐみ声を出さず肩を震わせ俯く。
その姿を見ながら両親も涙ぐんだ。
彼らは本当の親子よりも固い絆で結ばれている。
共に住む最後の日をこうして過ごし迅は元老院へ赴く。
一人での旅立ちである。