紙に描かれた地図を見て公園までたどり着いた。
周囲はいつの間にか日が落ちていて時刻は六時半を回っていた。
公園内を見ると昨今の情勢もあり遊具はほとんどが撤去されていてあるのはブランコと鉄棒、あとは砂場ぐらいだった。
ベンチが数脚ありその付近で一人の男が大荷物を広げている。
何をしているのか様子を見ながら中へ入った。
どうやら彼はマジシャンのようだ。
そういった道具が遠くからでも見て取れた。
こんな時間に公園で練習とは駆け出しなのか趣味なのかわからないがよくやるなあと思う。
彼は誰も居ないここでマジックを披露し始めた。
「種も仕掛けもございません。」
不思議と目を奪われる。
棒を取り出し前方へ出す。
まるで観客が居るかのように振る舞い始めた。
棒を擦るとそこから棒の半分から花が出現した。
ありきたりなマジックだが何故か興味が湧いてくる。
「種も仕掛けもございません。」
決まり文句を言うと硬貨と煙草を取り出した。
何も仕掛けが無いことを見えない観客たちに見せ、効果に煙草を突き立てた。
すると穴が開いていないはずの硬貨を煙草が貫いた。
そして引き抜くとやはりそこに穴は無い。
「種も仕掛けもございません。」
彼は同じ口上を言い品を変える。
次にトランプを取り出した。
その中の一枚を見えない観客へと見せる。
それはジョーカーだった。
彼はそれを戻しトランプをある程度シャッフルした後、指を鳴らした。
そして一番上を捲るとそれはジョーカーだった。
これもよく見るマジックだ。
でもそれがなぜか目を引く。
「種も仕掛けもございません。」
次々とマジックを披露していく彼に興味が湧いた。
そして声をかけてみた。
「あの、こんな時間になんでマジックの練習を?」
すると彼はこちらを見て笑顔を見せてくれた。
好意的な様子だと思いさらに近づく。
質問の答えが返ってくるものだと思った。
しかし次の瞬間、目の前に彼の顔が現れた。
正確に言えば近づかれたのだが、私は驚きのあまり声が出ない。
彼は手で私の口を覆った。
まるで悲鳴を上げてもいいように音が漏れないように口を塞ぐ。
そして耳元で彼が囁く。
「種も仕掛けもございません。」
先ほどまでの口調と違い冷たく暗く得体のしれない恐怖を感じる声色だった。
彼の顔から眼を背けることが出来ない。
私は恐怖のあまり目を閉じた。
その時、私の身体は後ろに吹き飛んだ。
お尻から地面に落ち少し滑る。
「痛った!」
地面は砂のため手を突いたときに砂利が食い込み大声を出した。
ここ最近似たようなことがあったのを思い出した。
「よくよくホラーに縁がある女だな。」
この前の漆黒の騎士だった。
こちらを見ずにマジシャンの方を見てライターを構え火をつけた。