「俺から話そう。」
迅が口を開いた。
「名前は梵迅、魔戒騎士だ。実は出生はよく知らない。生まれてすぐに実の親がホラーに喰われそこに来た騎士に育てられた。そこで騎士として訓練を受け今に至る。先日のギャノン討伐にも参加し黄金騎士や銀牙騎士と共に闘えたのは今でも誇りに思っている。そしてさっき協力して狼紅を継承した。」
「おいおい、もっと他にないのか?」
そこまで言い終えるとゲルバが口を挟んだ。
「他に何を言えばいいんだ?俺の生い立ち、そして最近の出来事、後は一緒に行った継承の儀の話ぐらいで充分じゃないか?」
迅からすれば何を言えばいいのかわからないらしい。
ゲルバがやれやれといった感じにため息をつく。
「普通は好きな女の好みとか好きな食べ物とか、あとは今までの恋愛経験なり友人との面白い話なりあるだろうがよー。面白くねえなあ。」
「俺に普通を求められても困る。」
迅は困ったように言葉を濁らせる。
ゲルバは二度目のため息をつく。
「仕方ねえなあ、次は桜華だー。」
桜華は咳払いをしてから話し出した。
「名前は桜華、魔戒法師だ。生まれは東の管轄で両親も魔戒法師をしている。現在は前線から離れ道具の手入れや後進の育成に重きを置いているわ。私の師は布導レオ法師、閃光騎士狼怒でもあるお人よ。現在も元老院に居るのだけど各地に派遣され騎士達に手を貸しているそうよ。」
「待て待て、ほとんど親と師匠の話じゃないか。もっと自分のことを話さないと意味ないだろう。」
ゲルバの言ってることはもっともであった。
当人を知ることに周囲の人間が上がるのは当然だが今のところ彼女のことは何もわからない。
わかるのは名前と出身と師と両親のことだ。
「言えることと言えば体術が得意ね。あなたの修行の相手にはなれると思うわよ?」
足を開き構える。
迅もそれに応じるように構えた。
「やめろやめろ!ここは町中だぞ?二人とも周囲に怪しまれたらどうするんだ!」
ゲルバの言葉に二人は周りを見た。
話しながら歩いているうちに町に戻ってきたようだ。
太陽が沈みかけて美しい夕日が見えていて仕事の人間が帰宅を急ぐ者やこの後夜の街に行く者達で溢れかえっていた。
今のところ周りの人間はこちらに注視はしていないように思える。
二人は構えを解きまた歩き出した。
「まったくこれだから魔戒騎士と法師は・・・。」
ゲルバは辟易したように言った。
そして咳払いをして
「よーし、ここは俺が自己紹介の手本を見せてやろう!まずは俺の出生から・・・。」
意気揚々と喋りだそうとした時急に口を噤んだ。
眉と思われる部分を顰めるゲルバ。
「どうした?自己紹介の手本を見せるんじゃないのか?」
「そうだぞ。私たちには無い話術を持っているような口調だったがどうなんだ?」
迅と桜華がゲルバに詰め寄る。
それを無視してゲルバはしばらく唸り続けた。
その後二人にだけ聞こえるようにこう言った。
「近くにホラーの気配だ!」
その言葉を聞くや否や二人は走り出した。