目覚ましが鳴り朝六時を告げている。
私は起きたくない。
昨日も遅くまで記事を纏めていたから睡眠時間は二、三時間だ。
しかし無情にも時計はけたたましく鳴き続ける。
「あーはいはい起きますよ起きますよ・・・。」
自分に言い聞かせるように口に出し目覚ましを止める。
このまま二度寝してしまいたいが編集長にどやされる事が目に見えているため諦めて起きた。
朝のシャワーを浴び、冷蔵庫から牛乳を出して飲む。
寝ぼけ眼の中化粧をする。
毎日のルーチンワークなので慣れたがだからこそ面倒くさい。
全てを終えて二時間、もう八時になっている。
「あーもう出ないと!」
いつもの時間でいつも通りに準備して出かけているのにどうしてこうギリギリになってしまうのかしら。
私の名前は笹山優里亜(ささやまゆりあ)。
三流オカルト雑誌の記者をしている。
本当は政治関係を担当したいのだけどまだまだひよっこだから一番売れ行きの悪い雑誌の担当になっている。
今日も今日とてネタ探しのためにネット掲示板を漁ることに。
「おい笹山!ネットサーフィンでいいネタ見つかったのかあ?」
オカルト雑誌『月刊メー』の編集長、岡山正二(おかやましょうじ)がいつも通り話しかけてくる。
「ありますあります。都市伝説から迷信まで、オカルトの宝庫ですよ6ちゃん掲示板は。」
投げやりに反応する。
毎日同じことをしているのだから変わり映えのしないことしか言えないし返せない。
「だよなあ。でもよお、最近面白い噂を聞くんだわ。知ってるか?深夜に現れる鎧騎士の噂。」
「なんですかそれ?まーた漫画アニメの見過ぎですよー。いい年してオタクしてる場合じゃないですよー。」
意味の分からないことを言う編集長に悪態をつきつつ画面をスクロールしている。
彼がテーブルに手をつく。
なのでそちらを見ると不敵な笑みを浮かべていた。
「それがそうでもねーんだなこれが。」
と言いながらスマホをこちらに見せてきた。
見るとそこには西洋の鎧が怪物と戦っている画像だった。
「コラですか?それともCGですか?こんなものいくらでも作れるじゃないですかー。」
「ちげえのよ。これは俺が直に撮ったんだよ。信じる?信じねえよなあ?」
驚きの顔で編集長を見てもう一度スマホに目を戻す。
そこには黄金に輝く鎧を身に纏い怪物に剣を突き立てている写真だ。
こんな都市伝説が今までネット掲示板でも噂になっていないのが不思議なもんだ。
まあ私も全部見てるわけじゃないけども。
「これどこですか?」
「これはとある港町だな。数年前に人が失踪する事件が多発してたんだがそれを取材へ行った時に撮ったんだよ。このなんだ、ギロチンみたいなのつけてる怪物をこの鎧が倒したんだわ。他にも何人か居たがなんか筆持ったりなんかロボットみたいなのが居たんだぜ?当時俺も記者側だったから編集長とかに見せたら馬鹿にされて嘘だと言われたんだわ。」
確かにこんなもの誰も信じないと思う。
オカルト雑誌でこういうったものを載せないのってどうなんだろう?
やっぱり世間が認めないのだろうか?それとも何か圧力みたいなものがあるのかな?
「あれから個人で探してはいるんだがなかなか見つけられなくてなあ。どうだ、これで連載コラム作ってみないか?俺は編集長になっちまったから仕事があるからもう足で探すのも難しくてよ、行き詰ってるなら写真送ってやるからやってみてくれよ。」
「面白そうですね!今更八尺様とか口裂け女とか出すよりよっぽどやりがいがありますよ。」
そう、現代に徘徊する西洋の鎧。
そしてこっちの怪物も記事としては面白くなりそうだしどっちに出会ってもいい記事書けそう!
久々にやりがい出てきた。
編集長に写真を送ってもらい今日は取材と称して外出することにした。