僕と魔女と夕焼けと!   作:空色夏色

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小説初投稿です!宜しくお願いします!

あとネーミングがこんなに迷うものとは思いませんでした( ̄▽ ̄;)笑



一章 出会い
1話 僕と牢屋と


 16年間生きてきて、なかなか波乱万丈な人生を歩んできた自負はあるけれど、牢屋に入れられたのは初めてだった。

 

 まるで世界がモノクロになったかのような非現実感が僕を包みこむ。これは夢だと思い込もうとしても、身体中の傷からくる痛みがそれを許さない。

 

 

 「ゲホッ……僕、なんか悪いことしたかなぁ……」

 

 

 仰向けになって、そう呟くも誰も返事はしてくれない。そらそうだ、ここには僕しかいないのだから。

 なるべく人に優しく、正しくあろうと生きてきたつもりだ。それが僕を育ててくれた人たちに対する最低限の礼儀だと思っているから。

 

 もちろん、無意識に悪いことをしていた可能性もないではないが、ここまでの仕打ちを受けるほどのことはしていないと思いたい。

 

 

 「兄さん……」

 

 

 無意識に、そう呟いてしまった。

 

 いけないな……困ったら兄さんに頼るクセが、まだまだ抜け切っていない証拠だ。

 兄さんはいつも僕を支えて、見守ってくれた。ちょっと心配性で過干渉なところはあるけれど、僕にとっての一番の幸せは兄さんが兄さんだったこと。

 

 そして、兄さんは僕の憧れであり、誇りであり、目標でもあった。

 

 

『勝負だよ、兄さん…! 今度こそ兄さんから一本取ってや……え、ちょ、まっ痛あ!』

 

『隙ありだ、テオ。剣を構えたら集中しろ。視野は広く、耳をすまし、心は穏やかに……お前は心に波がありすぎる。感情豊かなのはお前の良いところだが、いざ戦いとなると────』

 

『僕まだ構えて無かったよね!? あと話が長……って危あ!』

 

『話は最後まで聞け』

 

『兄さんがそれ言う!? じゃあ僕の話も最後まで……ぐはあ!』

 

 

 兄さんとの修行の日々も僕にとっては大切な思い出で、一日一日が鮮明に思い出せる。

 弟の僕が言うのもなんだけど、完璧を擬人化したら多分兄さんになるはず。イケメンだし。超強いし。話は最後まで聞かないけど。

 

 

 あーあ、結局一本も取れなかったなあ…。

 

 

 曰く、「兄とは常に背中を見せなければならない」とのことだけど、背中が遠すぎて見失ってしまうくらいに兄さんは強すぎる。

 3mくらいの大岩を木刀で切っているのを見たときは思わず真顔になって勝つのを諦めかけたくらいだ。

 どうやるのか聞いたら「空間ごと切るのがコツ」とのこと。ふざけんな。

 

 兄さんは、修行中は厳しいけれど、修行中以外では超優しい……というより過保護だ。

 僕を絶滅危惧種か何かと勘違いしているんじゃないだろうかと思うくらい。

 

 そう言うと、「いいか、テオ。お前は絶滅危惧種よりも、はるかに大事に決まっているだろう。……俺の一番の宝は、何を差し置いてもお前だよ」と真顔で言ってきたから困ったものだ。

 

 真っ赤になった顔を、不覚にもゼックスたちにからかわれたりもしたけど、3日に1回はこのセリフを思い出してニヤニヤするくらい嬉しかった。

 

 

 ただ、それと同時に、僕は不安にもなってしまった。

 

 

 もしかしたら、僕は兄さんを縛る鎖になってしまっているんじゃないかと。僕がいなければ兄さんはもっと自由に人生を羽ばたき、歴史に名を残すような偉業を成し遂げていたかもしれないと。

 

 

 ……そう考えると、胸が苦しくなった。

 

 

 だから、僕は兄さんの横に立てるくらい強くなろうと思った。僕が弱いままだと兄さんはいつまでも僕の心配ばかりするだろうから。

 それは、まさしく天の星を掴むような願いかもしれないけど、僕は手を伸ばさずにはいられなかった。

 

 なるほど、もしかしたらこの現状は、身に余る願いを追いかけてしまった僕への罰なのかもしれない。

 

 

 

 

 

 ジャラリ…と、両手に嵌められた鎖が音を立てる。

 

 

 

 

 

「はぁ…」

 

 思わずため息が溢れてしまう。

 鉄格子の窓に目を移すと、空は紫がかった赤色に染まっていた。この位置からだと太陽は見えないけど、もうすぐ日が沈む頃だろう。

 

 

「みんな心配してるだろうなぁ…」

 

 

 さっきよりも深いため息とともに、僕のもう一人の兄とも言える (こう言うと何故か兄さんは不機嫌になるのであまり言わない) 幼なじみが頭に浮かび上がってきた。

 

 

『あん? アデルに勝ちたい?』

 

『うん……どうしたらいいかな? ゼックス』

 

 

 ゼックスとは子供のときから仲が良く、ちょうど1年前に(半分押しかけだったけど…)一緒に住み始めた。それがきっかけで、他に仲の良かったアンジュやサキとも一緒に住むことになり、昔と比べて家がとてもにぎやかになっている。

 

 

『あいつは一種のバケモンだからな、正攻法じゃキツいだろ。一服盛るか?』

 

『僕は真正面から勝ちたいの! それに、兄さん毒効かないんだよ。……僕も効かないけどさ』

 

『何なのお前ら? しれっと人間やめないでくんない? 笑っちゃうだろーが』

 

 

 失礼な。僕を兄さんやゼックスと同じ人外にしないでもらいたい。

 ちなみにゼックスは、王都で天下無双と言われているくらいの槍の使い手で、兄さんに100回勝負して1〜2回勝つくらいには人間辞めている。

 

 

『そうだ! 兄さんがシャワーを浴びている隙にゼックスが抱きついて……身動きを封じている間にぼくが一本とるっていうのはどうかな?』

 

『気色悪い作戦立ててんじゃねーよッ! 色々ゲスいわ! 真正面から勝つんじゃなかったのかよ!?』

 

 

 ナイスアイデアだと思ったんだけどなぁ……。

 

 

『……そんな急がなくてもいいんじゃねーの? 正直、16で俺たちに食らいついてる時点で普通じゃないんだ。成長期も終わりきってないのに背伸びしても仕方あんめぇ』

 

『ふんだ! どうせ僕はまだまだ子供だよーだ!』

 

 

 ゼックスの言うとおりかもしれないけど、それでも僕は早く兄さんに勝ちたいのだ。兄さんの足元に及ばないくらい力が離れている以上、背伸びくらいするしかないだろう。

 

 

『そういうつもりで言ったわけではないんだが……。それにしてもテオも16歳か、年が経つのは早いもんだ。よし! 俺が気分転換に花街に連れてってやろうじゃないか! うっしっしっし!』

 

『…………ハナマチ??』

 

 

 ゼックスはたまによく分からない言葉をつかう。そして、その言葉は兄さんやアンジュも知らないのか聞いても教えてくれない。

 

 

『……簡単に言うと、誰もが大人になれる素敵な場所だ』

 

『そ、そんな便利な場所が!?』

 

『ああ……それに、世界の平和は花街によって保たれていると言っても過言じゃない』

 

 

 ハナマチが高次の存在過ぎてヤバい。

 

 

『テオ、お前には足りないのは人生経験だ。考えても答えが見つからない場合は一旦全部忘れて、全く別のものに意識を向けてみな。すると、いつの間にか悩みのタネは芽吹いているものさ』

 

『いや、芽吹いちゃダメでしょ。……でも確かに、ゼックスの言うとおり、かも?』

 

 

 でも確かに、焦りでどこか視野が狭まっていた自覚はあった。兄さんも、「どの経験にも無駄はなく、そして経験に勝る宝はない」って言ってたし。

 自称兄さんのライバルなだけあって、頼りになるときは本当に頼りになる。本人には調子に乗るから絶対に言わないけど、実は兄さんの次くらいに尊敬していたりする。

 

 それにしても大人になれるお店だなんて、もっと早くに教えてくれれば良かったのになぁ。

 

 

『そうと決まればさっそく出発だ! クハハハハッ! 滾ってきたぜーッ! あ、ちなみに、このことは他の皆には内緒だぞ?』

 

『あら、私に隠れて内緒のお話しですか?』

 

『ああ。特にアンジュにバレた日にゃなんて言われるか』

 

『あらあら、じゃあ私にはバレないようにしなくてはいけませんね』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『…………………………ん? おかしいな、教会にいるはずのアンジュの声が聞こえるぞ?』

 

『アンジュならゼックスの後ろにいるよー? おかえり、アンジュ』

 

『ただいまです、テオ。それにしてもずいぶん楽しそうにしていましたね? ゼックスとどんなお話をしていたか教えてくれませんか?』

 

 

 ゼックスが必死の形相でこちらを見ていた。

 こんな風にゼックスは唐突に面白い顔をするのだが、笑っちゃいそうになるからやめて欲しい。

 

 

『今から大人になるためにゼックスとハナマチに行くんだー! アンジュも一緒に行こ?』

 

『ちょっとテオくんッ!?』

 

 

 ゼックスがさっきとは違う、これまた面白い顔をしていた。

 

 

『あはははっ!』

 

『何笑ってんの!? 何言っちゃってんの!? お前わざとじゃないだろうな!?』

 

 

 そっちが面白い顔をする方が悪いだろうに。

 

 

『それにしても今日は早いんだね。教会の仕事は終わったの?』

 

『ええ、今日はお仕事も少なくて、早く帰って来ることができました。……しかし、ふふっ、これも神のお導きですね。うふふふふっ、おかげで何も知らない無垢な子羊を悪魔から守ることができそうです』

 

 

 ちなみに、アンジュは回復魔法のエキスパートで、怪我が絶えない僕もよくお世話になっている。僕にとってはお姉さん的な存在だ。

 

 そして、ゼックスはアンジュのことが好きで、アンジュは兄さんのことが好きで、兄さんは違う人が好きだったりする。リレーのように繋がっているようで、全然繋がっていない。お腹が痛い。

 

 

『誤解だ、アンジュ! これは迷える子羊のためを思った言わば慈善活動で…………って詠唱ストップ!! お前ふざけんなッ!! それ、この前上位魔族を蒸発させてたやつじゃねーか!! 殺す気かッ!!』

 

 

 アンジュが本気で魔法を使うと肌がピリピリする。途方もない魔力が集まらないと起こらない現象らしいけど、この時は特にピリつきが半端なかった。

 

 アンジュは何をそんなに怒っていたのだろう……。

 

 

『てか前から思ってたが、お前らテオに対して過保護すぎるわ!! 今のうちに大人の階段を登らせた方がテオのたギャーーーーーッ!!!』

 

 

 

 ────その日、ゼックスは入院した。

 

 

 

 

 

 

 

 結果として、僕は大人になりそびれてしまった。もし、僕が大人になれていて、冷静な判断が出来ていれば……こんなことにはならなかったのかもしれないというのに。

 くそう、ハナマチに行けなかったのが悔やまれる。

 

 

 さて、僕はどうなるんだろうか。嫌な予感がするけど大丈夫だよね……?

 

 

「くひひひ、良いモルモットが手に入ったわい」と白衣を着たお爺さんが僕を見て喜んでいたけど、大丈夫だと信じよう。

 さっき赤い液体の注射を打たれたけど。そして、さっきからなんか悲鳴聞こえ始めたけど!

 

 やっぱりここって、あれをあれする場所なのかなぁ……。

 

 

 

 

《人体実験》

 

 

 おぞましい言葉ランキングなんてものがあるならば、三位くらいには君臨するだろう言葉が浮かんでくる。

 向こうにその気がなかったとしても、毒が効かない身体ということがバレた瞬間、研究者さん達にバラバラにされそうだ。

 

 

 今日が僕の命日になるなら、最後に夕日くらい見たかったなぁ……。

 

 

 いつの間にか日が暮れ、外もすっかり暗くなってしまった。目を閉じながら、牢屋に入れられるきっかけになったクエストを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 A級クエスト『テンペストウルフの討伐』

 

 

 テンペストウルフとは、言ってしまえば真っ黒い毛並みと赤い目が特徴の狼だ。ただ、普通の狼と違うところは、平均3メートルは超える巨体かつ、強力な風属性の魔法を使うということ。

 一個小隊でも敵わないコイツを単騎討伐ともすれば、冒険者として名を馳せることが出来るくらい強力な魔物だ。

 

 

「サキの言うとおり、やめとけば良かったなぁ……」

 

 

 そう呟きながら、今度は、いつも僕をサポートしてくれる黒髪の少女を思い出す。

 

 

 

 

『ねえ、サキ。クエスト終わったらハナマチに行かない??』

 

『ゴフッ……………ゴホゲホゴホッ!』

 

『わわっ、大丈夫!?』

 

 

 サキが咽せているのを初めて見た瞬間だった。いつも冷静沈着のイメージがあるからびっくりした。

 咽せているサキには悪いけど、この時は四つ葉のクローバーを見つけたような、少し得した気分になった。

 

 

『コホン………………えと、テオ、それ…どんなところか……知ってて言ってる?』

 

『すぐに大人になれる便利なとこでしょ? ゼックスが教えてくれたんだけど、行き方がわかんなくて困ってたんだ。わぁ、このお肉美味しいね』

 

『………………………』

 

 

 サキは僕と同い年にも関わらず、国教であるルーナ教の諜報機関なるところに勤めているらしい。

 諜報機関がなんなのかよく分かんないけど、このことは絶対に秘密だと、テオだから言ったんだからねと、口酸っぱく言われている。

 

 まったく、そんなに心配しなくても口は固い方だというのに。

 

 

『コロス…………ゼックスは、今どこ?』

 

『今は入院してるんだー。少し焦げちゃって…………って今殺すって言わなかった?』

 

『言ってない。入院してるなら……そうだ、お見舞いに行かないと。このナイフ…皮を剥くのにちょうどいい。持っていく』

 

 

 物騒な言葉が聞こえた気がしたけど、気のせいだったみたいだ。

 

 口数が少なくて勘違いされることも多いけど、サキは優しい女の子だ。僕が怪我で入院したときも、毎日お見舞いに来てくれたっけ。

 ただ、お店のナイフを勝手に持って行くのは流石にダメだと思う。

 

 

『お見舞いに行くなら果物の美味しいお店教えてあげるね』

 

『果物はいらない。ナイフだけ持っていく』

 

『普通に怖いよ!? 確認だけどお見舞いに行くんだよね!?』

 

 

 ちなみに、サキは二年前に滅んだ忍びの里の生き残りで、里では神童と言われていたそうで、やっぱり僕よりも強い。くそう。

 

 

『というわけで、私はもう行くけど、このクエストを受けるのはダメだよ? 一人で行くのは危険すぎる』

 

『ええー…』

 

『そ、そんな顔してもダメなものはダメ。特に……今は魔女が現れて魔物が活発化しているなんて噂もある……。リスクが高い』

 

 

 魔女。ルーナ教の教典に出てくる災厄であり世界の穢れ。凶悪な魔物は魔女の穢れによるものがほとんどだと言われている。

 もし、この国で魔女信仰なんてしようものなら、家族もろとも打ち首になってしまう……そんなタブーど真ん中だったりする。

 

 聖書に載っている千年前の天使vs魔女の戦いでは、天使も魔女も全滅し、その余波で人類は一人を残して死んでしまった…とのこと。

 そのあと神様が降りて来て、なんやかんやあって全員生き返らせたらしいけど、その奇跡を目の当たりにした一人がルーナ教の開祖、らしい。

 

 とはいえ、魔女はあくまでも聖書の中のお話で、実際にいるとは思えない。どうしても、おとぎ話の中の登場人物のような、遠い存在に思えてしまう。

 その噂も単なる勘違いか、打ち首を恐れぬ偽物が魔女の名を語っている可能性の方がはるかに高いのだ。心配のしすぎだろう。

 

 

『あと、花街なんて行っちゃダメ。大人になりたいなら……わ、私がなんとか、してあげる……から。だから、絶対ダメだよ?わかった?』

 

 

 僕と同い年のサキに大人にしてあげると言われてもなぁ……。

 

 

 絶対にダメと釘を刺されてしまったけど……やっぱりすごい気になる。ハナマチがどんなところかも気になるし、なんでダメなのかも気になる。

 お酒みたいに18歳未満はダメ、とかかな……? でも、大人になるところなのに、大人にならないと行けないっていうのはおかしい気がする。

 

 とりあえず、生きて帰れたら、今度ダメ元でサキにお願いしてみよう。

 

 

 そして、僕はサキの忠告も聞かず、その翌日にテンペストウルフ討伐(こっちは絶対ダメとは言われていない)に向かったのだった。

 

 テンペストウルフはその噂に違わず…いや、噂以上に強かった。巨体から繰り出される爪の一撃は木々をなぎ倒し、その牙は岩をも砕いた。

 爪と牙をかわして距離を取っても、風の魔法が身体を切り刻み、火の魔法が身を焼き焦がす。

 

 死が、まるで実体を持ったかのように僕の身体を包み込んできた。今思い出しても身震いする。

 

 

 ──── でも、おかしいなぁ……火属性の魔法が使えるとか聞いてなかったんだけど。しかも、なんか普通に喋ってたし。サキから聞いていた情報と色々違う。

 

 

 戦いの後、九死に一生を得た僕は、満身創痍の身体を引きずって助けを求めた。幸運にもすぐにルーナ教お抱えの聖光騎士団の人たちに出会うことができ、その人たちも快く助けに応じてくれた。

 

 しかし、そんな快く助けを引き受けてくれた人たちが、まさかの聖光騎士団に扮した拉致集団だったとは誰が思うだろうか。

 助かったと勘違いして緊張の糸が切れた僕は、眠りこけているうちに連れ去られてしまったのだ。

 

 

 グルグルに縛られて目隠しされた時点でなんかおかしいとは思ったけど、この仕打ちは酷すぎる。

 やっと病院に着いたと思って目を開けたら牢屋の中だったときは、本気でドッキリかと思ってしまった。

 

 それにしても、僕を連れ去った連中はなんなんだろう……。

 

 山賊……にしては身なりが綺麗だったし、纏っている雰囲気も山賊のそれとは違う。言葉にするのは難しいけど、なんというか山賊特有の遊び心や人間臭さみたいなものが全くなかった。

 

 

 一人ひとりの練度も高いように見えたし、むしろ聖光騎士団や王国騎士団のように訓練された────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ふいに、こっちに近づいて来ている足音が聞こえてきた。

 

 いつの間にか……悲鳴は聞こえなくなっている。もしかしたら次は僕の番で、人体実験するために連れに来たのかもしれない。

 

 

 舌を噛んで死を選ぶか、最後まで生きるのを諦めないか………。目をつむりながら3秒くらい考えたけど、どうするかは決めた。

 

 

 

 

 

 生きよう。

 

 

 少しでも長く。

 

 

 生きるよりも、死を選ぶ方が楽かもしれない。

 往生際悪く生きた結果、死ぬよりも辛いことが待っているかもしれない。

 

 でも……それでも生きるのを諦めた瞬間、(テオ)(テオ)でなくなってしまう気がするのだ。兄さんに追いつくと諦めずにもがいてきたくせに、最後の最後に諦めてどうする。

 

 

 どうせ死ぬなら自分らしく生き抜いてやろう。

 

 

 そして死んだとしても、天国で兄さんに会えたら胸を張って言ってやるのだ。僕は最後まで生きるのを諦めなかったと。

 

 

 

 

 

 

 ────足音が近づいてくる

 

 

 

 

 

 よし、そうと決まれば、まずは命乞いから始めよう。土下座して、靴を舐め、そして相手が油断した隙にカプリと噛みついて逃げ出してやるのだ。

 

 痛む身体を無理やり起こし、近づいてきた人物を見上げるために目を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 その瞬間、

 

 

 世界に色が灯った気がした。

 

 

 僕よりも少し背が高いくらいだろうか。髪の長い綺麗な女の人が、牢屋の鉄格子の向こう側から、こちらを覗き込んでいた。

 

 その眼は、炎を吸い込んだかのように赤々としていて、目を合わせるだけでどこか暖かな気持ちになってくる。

 

 

 ───まるで夕日みたいだ。

 

 

 僕は素直にそう思った。

 

 

 

 

 

 このときの僕は少しおかしかったのだろう。言い訳になるかもしれないが、お腹は空いていたし、身体はボロボロだったし、それに、牢屋という冷たい場所で精神も追い詰められていたのだ。

 

 だから、予想外の出来事にどこか神秘を感じてしまった。

 

 だから、僕は思わず────

 

 

 

 

「あら、可愛い坊じゃないか。そんなところでお昼寝かい?」

 

「…………天使様?」

 

 

 

 

 そう呟いたのだった。

 

 

 

 




おぞましい言葉ランキング一位はもちろんゴキ○リ
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