僕と魔女と夕焼けと!   作:空色夏色

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6話 僕と前言撤回と

 

 さて、ホムラからありがた迷惑な呪いをかけられた僕は川で水浴びをしていた。汗を流したかった以上に、汚れと血を落としたかったからだ。冷たい水が心地よい。

 

「ぷはっ。生き返る~…」

 

 喉も乾いていたからちょうどいい。身体が潤っていくのが自分でもわかる。

 

 

 

 それにしても、冷静になって考えてみても、この状況はまずい。

 

 ルーナ教で禁忌とされている魔女に助けられただけならまだ良かった。しかし、僕はホムラに協力する約束をしてしまい、あろうことか呪い(ホムラ曰く加護)までもかけられてしまった。

 もし、協力をしたことがバレれば、ある程度不可抗力とは言え、全く何もお咎めなしとは思えない。

 

 流石に打ち首にはならないとは思うけど、ルーナ教の魔女に対する忌避感から考えると、最悪の場合、国外追放くらいはあり得るかもしれない。本当に最悪の場合だが。

 

 

 せめて、兄さん達には迷惑がかからないことを願うばかりだ。

 

 

 

 ───兄さん達(特にアンジュ)に知られたら、なんて言われるだろう

 

 つい、ため息をついてしまう。

 

 

 魔女という存在は国教であるルーナ教と真正面から対立する。

 そして、国教と対立すると言うことは、「国」と対立するということ。当然、王国騎士団も出張ってくる。

 

 だから、ホムラはアンジュとゼックスに繋がりを持つ僕を消そうとしたのだろう。

 ルーナ教と騎士団に情報が流れるのを怖れて。

 

 

「でも…そんな悪い人には見えないんだよなぁ……」

 

 

 誰もいないと、つい独り言が多くなってしまう。

 

 

 

 しかし、僕が聞いていた話とだいぶ違うのは事実だ。

 

 特に聖書において、魔女は悪逆非道の権化とされている。

 曰く、見た目は醜悪で、人の命を刈り取ることを厭わない悪魔のような存在らしい……が、どうもホムラと繋がっているところが少ない。

 

 見た目は美人だし、僕を殺そうとはしたものの結局は助けてくれた。

 殺そうとしたのも、ホムラの立場を考えれば……まぁ、わからなくもない。当事者としては複雑だけど。

 

 

「本当に魔女なのかな…?」

 

 

 重要なのはそこだ。正直、ホムラが本当に魔女なのか怪しいと感じている。

 むしろ、ホムラが魔女と偽っている可能性の方が高いと思っているくらいだ。偽っている理由はわからないけど。

 

 

 

 

 

 

 そのうえ─────

 

 

(テンペストウルフと戦った傷が癒えている……。ホムラの魔法を真正面から受けたけど、火傷の痕も見当たらない)

 

 

 おそらく、僕が寝ている間にホムラが治してくれたのだろう。火属性は回復系統が苦手だから、もしかしたら貴重なポーションを使ってくれたのかもしれない。

 

 

「恩返し……しなくちゃいけないよね」

 

 

 そう、いくら考えても結論はそこに行き着くのだ。

 ホムラが裏で何か企んでいるかもしれない。僕を助けたのも打算あってのことだろう。

 

 でも、僕の命を助けてくれたことは事実なのだ。

 

 だから、ルーナ教では魔女の存在が絶対悪とはいえ、僕にホムラと戦うor逃げるという選択肢はない。

 

 僕自身、ルーナ教を信仰していない訳ではないけど、命の恩人に仇を為せるほど信心深くもない。

 

 アンジュもルーナ教の教えを守ることより大事なことがあるって言ってくれたことがある。

 

 

 

 

 

 

『いいですか、テオ。ルーナ教の教えや戒律を守ることも大切ですが、思考を停止して表面上だけ従うことに意味はありません。

 ルーナ教の教えは素晴らしいものがたくさんありますが、縛られ過ぎないように気をつけてくださいね。絶対的に正しい教えなんてこの世にはないのです。それを忘れてはいけませんよ?』

 

『それ……アンジュが言って大丈夫なの? 司教だよね?』

 

『大丈夫に決まってます。聞かれるのはダメですが』

 

 

 それは大丈夫とは言わない気がする。

 

 

『絶対的に正しい教えってないの?』

 

『限りなく正しい教えはありますが、絶対的……となるとないでしょうね』

 

『人に優しくしよう……みたいな教えであっても?』

 

『人に優しくすることが正しいことばかりではありませんよ? 月並みな言葉ですが、時には厳しく接することも大事です。それに、全ての人に優しくするなんて不可能ですから』

 

 

 不可能なのかな? アンジュは全ての人に優しくしてるイメージだけど……。

 

 

『そもそも、宗教とは人々の幸せのためにあり、教えや戒律はそのための道しるべなのです。

 それにも関わらず、教えや戒律を悪意を持って利用し、裏で私腹を肥やしている連中には地獄に落ちろ……と、ぶっちゃけ思っています』

 

『いきなりぶっちゃけ過ぎだよ! それ……もしかしてアンジュより偉い人の話?』

 

『ファブリ枢機卿なんて屑中の屑ですね』

 

『ルーナ教のほぼトップじゃんか! やめて! 誰かに聞かれたら異端審問にかけられちゃう!』

 

 

 ファブリ枢機卿、何したんだろう……。私腹肥やしてそうな体型だけどさ。

 

 

『こほん…少し話が脱線しましたが、大切なのは教えや戒律の裏側の想いを理解することです。そもそも、教えや戒律は所詮人が作ったもので完璧ではありません。

 もし、テオの信じる道が、教えや戒律に反することであったとしても、テオは胸を張って進めば良いのです』

 

『……もし、僕が間違ってた道に進んでしまったら?』

 

『うふふふふふふふふふふふふ、聞きたいですか?』

 

『あ、いえ…………大丈夫です』

 

 

 おそらく僕が間違った道に進むことは無さそうだ。

 

 

 

 

 

 だから、安心して僕は僕が信じた道を進もう。

 

 ホムラが本当に魔女なのか魔女じゃないのか、悪い人なのか善い人なのか、まずは見定めるところから始めよう。

 見定めて、ホムラが悪い人なら改心させる。超悪い人ならやっつける。やっつけれなかったら逃亡する。それでいいじゃないか。

 

 別にハゲたくないからホムラに付き従うという訳ではない。断じて違うのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 水浴びから戻ると、ホムラは焚火を起こしてた。ある程度、匂いから予想はしていたけど、魚を何匹か木の枝に刺して焼いていた。

 

 やばい。お腹が空いているから匂いだけでクラクラする……。

 

 

「ありゃ、よく戻ってきたじゃないか。逃げる可能性も考えてたんだけどねぇ」

 

「……別に、まだ恩返ししてないから」

 

 

 ニヤニヤとホムラに話しかけられた僕は素っ気なく返事をしてしまう。

 

 そして、僕とホムラの距離は不自然なくらい開いていた。

 

 真偽は定かではないものの、自分のことを魔女だと言ったのだ。

 

 恩返ししたい気持ちよりも、どうしても警戒心が出てきてしまう。

 

 

「ふふ、ずいぶん警戒されちまったねぇ。心配しなくても、取って食べやしないさ」

 

「……」

 

 

 そんな言葉が警戒心を解くきっかけになる訳もなく、僕は返す言葉が出てこなかった。

 

 特に相手は禁忌とされる存在。

 

 目の前にいるのはキレイな女の人の皮を被った化け物でした……という可能性も0ではないのだ。

 

 お互い居心地はあまり良くないかもしれないが、不必要に仲良くする理由もない。これはこれでアリだ。

 

 僕はそう結論付けた。

 

 警戒の眼差しでホムラを見る。

 

 

「ふふ、だんまりかい。ま、何はともあれ、お腹空いてるんだろう? 魚焼いたけど食べるかい?」

 

「わーい!! たべるーーー!!!」

 

 

 ホムラから魚を受け取り、むしゃむしゃと魚を食べる。

 

 ふぁぁぁ、おいひい。塩が効いてて涙が出そう。

 

 

「干し芋もあるさね」

 

「いふぁふぁひまふ!!」

 

 

 ホムラから干し芋を受け取り、モグモグと干し芋も食べる。干し芋って焼くとこれまた美味しいよね。

 

 

「水飲むかい?」

 

「のふぃふぁふ!」

 

 

 ゴクゴクと水を飲む。ぷはあ! 完全復活!!

 

 

 前言撤回! 旅は道連れ世は情けって言うし、どうせなら仲良くしよう!

 

 これから一緒に旅をするんだから、ずっと警戒してても疲れるだけだよね!

 

 

「ご馳走様! ありがとホムラ!」

 

「……あたしの手料理は安くないから、ちゃんと働くんだよ?」

 

「うん! なんでも言ってよ! これからよろしくね、ホムラ!」

 

 

 そう言いながら、ホムラに向けて手を差し伸ばす。

 

 

「……流石に警戒解くの早すぎないかい? ま、面倒臭くなくていいけどね」

 

 ホムラは、僕が差し伸べた手を複雑そうに手に取った。

 

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