パトリックの野望 外伝・設定倉庫   作:UMA大佐

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全力で警告します。
これはギャグ回です。
適当な知識、適当な考え、適当なノリで書いた物だし、本編にはまるで関わりません。
それでもいいと言う方だけがこれを見てください。








警告はしましたからね?


番外編6「M・L・フラガは殺されたのか?」

2月18日。宇宙拠点『セフィロト』にて。

 

ガシャァァァァァァン!

 

『彼』の手から、ビールが注がれていたグラスがこぼれ落ち、床に激突する。

当然の帰結としてグラスは落下の衝撃で砕け散り、床に黄金色の水たまりを生み出した。

 

「ぐあ、あ、う゛ぇえええええ……」

 

言い表しづらい表情を浮かべ、床に倒れ伏す男。

『その男』がそうなる光景を、この場にいる誰もが想像することは出来なかった。頼りになる大人の男、歴戦の勇士。そんな彼が無様に倒れ伏す姿を、誰が想像出来ようか。

 

「そんな、嘘でしょ!?いったい何が……」

 

キラは倒れ伏した『男』を抱きかかえ、現状を否定する言葉を吐き出す。

この男と出会ってそう長くはないが、それでもこんなところで退場していい男であるはすがない。

だって、この男は───!

 

 

 

 

 

「何があったんですか、フラガ大尉───!?」

 

 

 

 

 

ムウ・ラ・フラガ(不可能を可能にする男)、『セフィロト』にて死す!?

 

 

 

 

 

「激励会?」

 

時は遡り、2月17日の『セフィロト』、キラ『達』に与えられた4人部屋で、キラはマイケル達が言ったことを反復した。

キラはその時、ノートパソコンで入隊試験の予習を行なっていた。

いくら特別扱いとは言っても、最低限の能力・知識を持っていなければ軍は入隊を認めない。

もっとも、キラ本人を始めとして心配している者は少なかった。体の方はすこぶる健康であったし、知識に至っては大学で密かにMSのOS開発を手伝わせるほどのものだ。

加えて、既にMSに乗って戦闘を経験していることもあり、99%の確率で試験は合格すると見込まれている。

よってこれは、万が一の事態に備えた予習でもあり、試験当日までの暇つぶしでもあった。ちなみに試験の予習に使われている資料は普通に基地の総合受付でもらえた。

 

「おう!サイやトールも連合に入隊することが決まっただろ?キラだけなら皆でプレゼントでも用意しようかって話だったんだけど、3人も入隊するならパーティでも開いた方がいいんじゃないかなって話になってさ!」

 

「まぁ、会議室を一つ借りて簡単に、というレベルなんですけどね」

 

マイケルが事の子細、ベントがパーティの規模を説明する。

そう、なんとキラだけでなく、サイとトールの2人も連合に入隊することを決めたのだ。

もちろんキラは止めたが、サイはセシルとの会話やその後のラクスとのコミュニケーションから思うところがあり、戦争を止めたいと考えるようになったため。

トールは純粋にキラやサイを心配したために入隊を決意した。

カズイやミリアリアも入隊しようとしたが、カズイはサイやトールから「どうしようもなく怖いものと無理に付き合う必要はない」と、ミリアリアは交際しているトールから「オーブで帰りを待っていてくれ」と説得されたために既に『セフィロト』から去っている。

 

「だけど、お料理とかは別だよ!普段みたいに合成食や軍用のレーションとかじゃなくて、天然の食材を使ったちゃんとした料理なんだから!」

 

「え、天然ものですか!すごい……けどいいんですか?」

 

「いいのいいの!こういう時くらいぱーっとやらないと!それに、費用はムラマツ中佐含め色んな人が自腹切ってくれるって!あたしも出すんだから」

 

ヒルデガルダがエッヘンと胸を張る。胸を張ったことで強調された部分についてキラは意識しないことを決めた。キラは至極真っ当かつ善良な青少年(紳士(笑))である故に。

話は戻るが、この世界では現在、天然の食材が軒並み高価格化している。原因は言わずもがな、戦争によって各国の産業に被害が生まれたからだ。

戦火によって畑は焼かれ、家畜は食べ物が少なくなって餓死していき、食品を加工する工場は破壊される。

とどめと言わんばかりに『エイプリルフール・クライシス』で電力もシャットアウトされている有様。

以上の理由から、C.Eの食料事情は悲惨の一言なのだ。効率よく栄養を摂取出来る合成食材はどこか味気ない。

にも関わらず天然物を用意してくれるとは。キラは感謝の念が耐えなかった。

 

「そうそう!キラ達は英気を養う、俺達はご相伴にあずかる、(ヒルダ達以外の)懐は痛まない!皆ハッピーになれるんだ、楽しまないと損だぜ?」

 

「マイケル、あんたには天然物のドッグフードを用意しとくわ。天然だから嬉しいでしょ」

 

「なんでだよぉ!?」

 

「あんたはあからさまなのよ!」

 

「また始まってしまったか……」

 

3人集まって会話をしていると、3人中2人が高確率で口喧嘩を始める。で、最終的に3人で喧嘩する。

これも、彼らと接する中で理解したことだ。今ではキラもクスリと笑いをこぼせるくらいには理解している。これが彼らのコミュニケーションなのだ。

 

「なんか、いいですね。こういう気の置けない仲ってやつ」

 

「はぁ!?こんな暴れん坊がいいのかキラ!?」

 

「うっさいわね内面貧弱男!」

 

「ほら見ろ!まったく、こいつに少しでもカシンさんを見習う思考があればなぁ。穏やかだし優しいし、しかもMS操縦の教え方も丁寧だし!」

 

「あーら、下心満載ですこと。諦めなさい、あんた程度の男にカシンさんは振り向かないわ」

 

「んだとぉ!」

 

「なによ!」

 

「2人とも、いい加減にだな……」

 

『黙ってろムッツリスケベ!』

 

「その侮辱は聞き逃せない!」

 

結局3人で喧嘩を始めてしまった。手が出てない単なる口喧嘩だが、この後のお決まりのパターンは決まっている。電子ゲームなりカードゲームなりの遊びで決着を付けるのだ。

 

(やっぱり、仲が良いんだなぁ)

 

そう結論づけたキラは、こっそり部屋を抜け出した。仲が良いのは構わないが、うるさいのは勘弁なのである。

 

「パーティかぁ……。うん、こんな時だからこそ、楽しんでおかないと」

 

ワクワクしながら歩みを進めるキラ。

───彼はこの時予感すらしなかった。このパーティが、参加者全員に衝撃を与えることになるなど。

誰が想像出来るというのだ。あのような結果に終わるなど。

 

 

 

 

 

そして、2月18日。

 

「では、キラ・ヤマト君、サイ・アーガイル君、トール・ケーニヒ君の入隊を祝して……乾杯!」

 

『乾杯!』

 

ハイスクールの教室程度の大きさの会議室で、大小様々なグラスやコップが軽い音を響かせる。乾杯の音頭を取ったユージが飲んでいるのがジュースだというのが締らないが、概ね良い雰囲気でのスタートを切れたと言えるだろう。

ここは新兵歓迎パーティ会場。3日後からの厳しい訓練生活に備えて

簡単に飾り付けられた部屋の中にはいくつかのテーブルが置かれており、ビールサーバーやワインの入ったボトル、かなり多めに作られた色々な料理がその上に鎮座していた。

 

「すげぇ!あれ天然の魚だよ!キラ、つまんでみようぜ!」

 

「もう、落ち着きなよトール。パーティは始まったばかりなんだからさ」

 

「ははっ、いいんじゃないか今日くらい。ほら、キラもこれ食べてみろよ」

 

「サイまで……」

 

諫めるようなことを言いつつ、キラ自身も笑顔を浮かべている。なんだかんだ彼も誰かとはしゃぐのは嫌いじゃないのだった。

会場の至る所で、それぞれの談話が展開される。

 

 

 

 

 

「ふふぅ、偶にはこういうのもいいですねぇ」

 

「前回もそんなこと言ってたよね」

 

「セシルはもう少し、こうやって人のいるところに来る機会を増やした方がいいと思うけどなぁ……。カシンはどう思う?」

 

「結構、頑張ってるつもりなんですけどねぇ」

 

 

 

 

 

「これは……いいですね。あまり食事には興味がありませんでしたが、素晴らしい味だと思います」

 

「でしょう?……ふふ、意外と貴方も、そういうところがあったのね」

 

「あ、その、……今までは、余裕が持てませんでしたから。その、いささか攻撃的になったことについては」

 

「いいのよ、わかるわ。正式に”アークエンジェル”のクルーになることが決まったわけだし、これからはもっとお互い素直にいきましょう、ナタル」

 

「ええ、よろしくお願いします」

 

 

 

 

 

「あーっはっはっは!おいしいわねぇこのじゅーす!ねえ、まいけるもそうおもうでしょ!?」

 

「誰だこいつに酒飲ませたのは!バリバリ絡み酒じゃねぇか!」

 

「いや、これは……なるほど、このラベルではいささか酒だとわかりづらいな。注意書きをしておこう」

 

「助けろよベントぉ!髪、か、かみ引っ張るないでででででっ!」

 

「な~にくっちゃべってるのよぶぁ~か」

 

「すまんなマイケル。諦めて贄となれ」

 

 

 

 

 

そうして、楽しい時間が過ぎていき……。

 

「ふう、結構キツいな……」

 

キラは会場に設置されたベンチに腰かけて休んでいた。

用意された料理はどれも美味なものであり、キラはついつい食べ過ぎてしまったのだった。

 

「大食いはほどほどにね、キラ君」

 

「すいません、アイクさん……」

 

アイザックは氷水をキラに差し出した。この気遣い、やはり出来る男である。

ちなみにカシンとセシルはユージを呼びに行っている。あの男、最初に乾杯の音頭を取った後は「オフィスに戻って残った仕事を片付ける」と去ってしまったのだ。

彼は付き合いが悪い人間ではないのだが、如何せん長らく『セフィロト』を留守にしていたために片付けなければならない書類が貯まっており、1人さみしく残業しているのである。

しかし最初だけ参加というのはさみしいだろうということで、カシンとセシルが呼びに行った。

 

「はあ、すっきりした」

 

「それは良かった。……キラ君、楽しいかい?」

 

「はい、とても」

 

パーティの様子を見ながら、キラは心の底からそう思う。

この光景こそが、アイザック達の守りたい物。そして、キラ達も守りたいと願った物。

 

「早く、平和になるといいですね」

 

「するんだ、僕たちが」

 

キラがうなずいた時、ガラスの割れる音が響いた。

何事かと思って目を向けた先。そこには、信じがたい光景が広がっていた。

 

「あれは……!?」

 

「そんな、嘘でしょ!?いったい何が……」

 

そこには、1人の男が倒れ伏していた。明らかに、ただ転んだだけではない。

小刻みに震えてさえいるその男は。

 

「何があったんですか、フラガ大尉───!?」

 

そして、冒頭の場面に至るのである。

 

 

 

 

 

「全員、落ち着いてください!フラガ大尉……ダメだ、気を失っている」

 

咄嗟に呼びかけた後、アイザックはムウに近づいて容態を確認する。

素人目では断言出来ないが、嘔吐などの症状は見られない。どうやら重症ではないようだ。

息も正常。となると疑問が生まれる。

 

「気を失っているだけ……毒物などではない?いや、可能性としてはなくはない。誰か、フラガ大尉を医務室まで運んでくれないか?僕はここで調査したい」

 

担架に乗せられたムウが部屋から出て行くのを見送り、改めて現場を見渡す。

床には割れたグラスの破片と、こぼれたビールだけが広がっている。注意深く見ても、他には───?

 

「これは……?」

 

床にはもう一つ落ちている物があった。

それは、赤い粘性の何かが付着したスプーンだった。ここにいる人間の中で、床に落ちたスプーンをそのままにしておくような人間はいない。

スプーンを拾い、テーブルに置く。

 

「ここに、()()が落ちていました。誰か覚えは?」

 

周りを見渡すが、誰も覚えはないようだ。となればムウの落とした物と見てもいいだろう。

 

「じゃあ、このスプーンに付着したものは……?」

 

スプーンに付着しているということは、おそらく食べ物。それも固形ではなく、掬うような料理。

そんなものが、あっただろうか?

 

「───はっ!?」

 

アイザックは気付いてしまった。というより、この状況には覚えがある。

食事中。赤い粘性の食べ物。卒倒したムウ。

 

「まさか!?……あった」

 

テーブルの上を見渡せば、予想していた通りの料理が見つかった。脇に半球形の蓋が置かれていることから、あれで隠されていたらしい。

なんということだ、あのような劇物を放置していたとは!

 

「……皆さん、よく聞いてください。フラガ大尉が倒れた原因がわかりました」

 

ざわめきが広がる。いったい、アイザックは何を理解したというのか?

 

「原因は……そこの()()です」

 

「料理……この赤い料理にですか?まさか、毒!?」

 

「いえ、違いますよラミアス大尉。これには毒なんて入っていません。それは保証します」

 

「アイクさん、これはいったい……?」

 

「これは……

 

 

 

 

 

『麻婆豆腐』という料理です。フラガ大尉は、この料理の()()()()()にショックを受けて卒倒したんです」

 

 

 

 

 

「……いやいやいや、流石にそれは、ねぇ?」

 

トールが信じられないといった表情で言葉を吐き出す。そしてそれは、”マウス隊”以外のメンバー全員に共通することだった。

”マウス隊”のメンバーは例外なく、あの変態4人組でさえも震え出す。魂に恐怖を植え付けられたかのようだ。

たかが料理の辛さで、人が卒倒するものか?

 

「さすがに大げさですよ。ほら、むぐ」

 

「あ、バカ───」

 

アイザックが止めようとするも、トールは自分で使っていたスプーンを使い、口に()()を含んでしまった。その直後。

 

バタン!!!!!ガタガタガタガタガタガタ!

 

両膝を曲げたままで仰向けに倒れるという異常な体勢で床に沈むトール。トールの体からは汗が噴き出し小刻みな震えが止まらない。

 

「「トール!?」」

 

キラとサイが駆け寄って抱え起こすが、その目には光がなく、今にも気を失う寸前といった様相をしていた。

 

「トール、しっかり!」

 

「おい、なにやってんだよトール!?ミリアリアにどう言うつもりだ!」

 

「……へ、へへ。キラ、サイ。ミリイには、ごめんって、言っ、て───」

 

ガクリ、と少年の体から力が抜ける。

トール・ケーニヒ、撃沈。

 

『トォォォォォォォォォォォォォルゥゥゥゥゥゥゥゥぅぅぅぅぅ!!!』

 

キラとサイが悲痛な声を挙げる。

いったい何故だ!ただの、どこにでもいるようなやさしい少年だったトールが何故こんなことに!───いやまあ、気を失っただけなので大げさなのだが。

 

「アイクさん、説明してください!あれはいったいなんなんですか!?」

 

ムウと同じように運ばれていくトールを見ながら、キラは問う。

あれはなんなのか。『麻婆豆腐(赤き魔物)』とは、いったいなんなのだ、と。

 

「……麻婆豆腐は東アジア共和国、チャイナエリア発祥の食べ物だ。キラ君は、食べたことは無いかい?」

 

「3年くらい前まで月の『コペルニクス』で過ごしていましたけど、こういう食べ物はちょっと記憶に無いです」

 

キラは今でこそオーブ国民だが、少し前までは月の中立都市『コペルニクス』にて過ごしていた。

そこは主な出資者が大西洋連邦だったこともあり、基本的な食事の内容も大西洋連邦に似たものであり、麻婆豆腐などという料理は聞いたことが無かった。

 

「チャイナエリアの料理と言えば一昔前には、『WA()』『YOU()』『TYUU()』の3大ジャンルの内1つに数えられる程の物だったと聞きます。それがどうして、このような劇物になるのです?」

 

ナタルの疑問に対して応えたのは、東アジア共和国で生まれたアキラだった。

 

「中華料理と言っても、色々と種類があってな。簡単に分けるだけでも四種類に分けられる」

 

淡泊な味付けで、魚介類を用いた料理の多い上海料理。

シュウマイやワンタン麺、海鮮チャーハンといった料理に加え、飲茶(ヤムチャ)という文化を持つ広東料理。

宮廷料理としての一面も持ち、北京ダックに代表される華やかな見た目の料理が多い北京料理。

そして───。

 

「高温多湿の盆地で健康を保つために香辛料を多めに用い発汗作用を促す、いわゆる激辛料理が多い四川料理。麻婆豆腐は、四川料理の中でもメジャーな料理だ」

 

更なる戦慄が部屋の中に吹き荒れる。

こんなものを日常的に食する人々がいるというのか!?魔境か、チャイナエリア!

 

「いや、普通はここまで辛くはない。そもそも世に広まっている麻婆豆腐のほとんどは広く普及させるためにピリ辛と評されるレベルの辛さであることが一般的だ」

 

「じゃあ、この麻婆豆腐はいったい?」

 

「”マウス隊”以外は気付かない、か。意外と答えは近くに転がってるもんだぜ」

 

「え?」

 

「……カシンよ」

 

”マウス隊”技術部のリーダーを務めるマヤが答えを明かす。

他の人々と同じように、彼女も冷や汗をかいている。

 

「カシンは元々、士官交換制度によって東アジア共和国から大西洋連邦にやってきた。そして彼女の出身地は、チャイナエリアの四川省」

 

「しかも彼女の実家は四川でも名の知れた料亭。そこで彼女は、いわゆる本物の四川料理を教えられて育った。結果、彼女の主な料理レパートリーは四川由来の激辛料理が多めなんだ」

 

「あの時は大変でしたね……」

 

アイザックが遠い目をしながら、過去の事件について話始める。

 

「”マウス隊”が正式に戦闘を任務に含むようになった時も、こうしてパーティを開いた。そして、彼女は良かれと思って麻婆豆腐を作り、振る舞った」

 

「あの時は、C.Eにもなって怪奇現象遭遇か!?とすら思いましたね……。『切り裂きエド』『月下の狂犬』『乱れ桜』が次々と、料理を一口食べただけで卒倒していくんですから。すわ連合の誇るエースパイロットが麻婆で再起不能か?と恐怖したものです」

 

両腕で体を抱くアリア。恐ろしいのは、これで終わらないことだ。

 

「なんで、そんなことになったのにカシンさんはまた麻婆豆腐を出してきたんですか!?その場を、カシンさんも見てたんでしょ!?味付けを変えるくらいは……」

 

「いや、それがたまたまカシンが席を外していた時に起こった出来事だったんだ。しかも……」

 

「しかも?」

 

サイの問いかけに、アイザックは力なく返す。

 

「出来ない……あんなキラキラと楽しげにしているカシンに、『お前の料理、劇物だったぞ』なんて言えないんだよ!」

 

「そんな……」

 

「マーボーの海にドロッポアウトした奴らは哀れちょっとログにないですしてやはり経験値を獲得出来ず哀れ今日も平和にプレイしてるんだが?」

(しかも麻婆を食べて気を失った奴は前後の記憶を失うからな……強く言える奴がいなくなったわけだ)

 

床に拳を打ち付けるアイザックと、いつも通りわかりづらい言葉で表現するブローム。

そこでキラはあることを疑問に思った。

 

「あの、その時はどうやって事態を収めたんですか?」

 

「その時は───」

 

「あれ?皆さん、どうしたんですか?」

 

部屋の中に入ってきた人物の声を聞き、固まる一同。

麻婆豆腐で連合軍を窮地に追いやりかけた女、『機人婦好』ことカシン・リーの帰還である。その後ろにはセシルと、2人に呼ばれて仕事を切り上げてきたユージの姿があった。

セシルは部屋の中に入った時、

 

『あっ(察し)』

 

みたいな顔をすると存在感を消してそそくさと部屋の隅に移動した。

間違いない、前回の記憶がある。

 

「あの、カシンさん。その、えっと、これはですね」

 

「あ、それ私が作ったんだ!こっそり作って後からサプライズしようと思ってたんだけど、見つかっちゃうよね。どうだった?香辛料が色々入っていて、栄養豊富なんですよ」

 

栄養を摂取する前に心臓が停止するのでは?キラは訝かしんだ。

キラが答えに困っていると、カシンはさらに続ける。

 

「キラ君達が健康でいられるように、とっておきの香辛料を使ったんだ。……口に合わなかった?」

 

そんな悲しそうな顔をしないでください、いたたまれなさがユニウス・セブンしてしまいます。

なるほど、これではアイザック達が何も言えないのもうなずける話だ。こんな目を向けられては、何も言えない……!

ふと周りを見渡すと、会場内の人々はキラから距離を取っていた。

いったい何故だろう、そう考えた時、キラの脳裏に先ほどのカシンの言葉がよぎった。

 

(『キラ君達が健康でいられるように』……まさか!?)

 

その時、会場内の『キラ以外の』人間の心は一つだった。

 

(ターゲットは『キラ達』!押しつける!)

 

ためらいなく仲間を見捨てるその決断力、イエスだね。見捨てられたキラは焦りと怒りがフュージョンしているが。

一縷の望みに賭けて、サイの方を見る。実はこっそりキラから距離を取っていたサイだが、共に過ごし、戦ってきた自分達の中には堅い絆がある!

 

(サイ、一緒に───)

 

必死の思いを込めたアイコンタクト。それに対しサイは。

 

(お前の犠牲は無駄にしない!)

 

友情とはかくも儚き物。麻婆豆腐の前には無力なんだなぁ。

キラはついに、自分が追い詰められたことを理解した。

どうもこの人(カシン)には言い逃れ出来る気がしない。カシンに、食べたところを見せなければ……!

 

「えっと、カシンさん……」

 

「なぁに?」

 

「……いただきます」

 

覚 悟 完 了 !

スプーンを豆腐に差し込み、持ち上げる。

あとはそれを口に含むだけ。だけ、なのだが……。

 

(生身で”ジン”と戦う方がマシなんて思ってしまった……)

 

ムウとトールのあの姿を見ると、どうしてもためらいが生まれてしまう。が……。

 

「(わくわく)」

 

「……」

 

ええい、ままよ。キラは一息に麻婆豆腐を口に含んだ。

 

 

 

 

 

瞬間、キラの視界に『宇宙』が広がった。

(なんだこれ)

(とろみがすご)

辛辛

(あ、肉おいしいなぁ)

辛辛辛

(あ、するっと喉に入って───)

辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛辛

 

それは、余りにも圧倒的な『辛さ』の奔流。超善性攻波動。命の源(香辛料)が用いられているのに命を削るという、奥羽山脈のごとくそびえ立った『矛盾』という名の狂気山脈。

キラの頭の中で、何かが弾ける。それはかつてアスランとの戦いで経験したような『生き残りたい』というものとは違い、あえて言うなら『新たなる世界の扉が開いた』ような感覚。

急激に暗くなっていく視界を認識しながら、キラは最後に、こう思った。

 

(辛い、けど……美味しい)

 

 

 

 

 

「き、キラ君!?」

 

バタンっ、と倒れ込むキラを見てカシンは慌て出す。それと対照的に、他の人々は一斉に安堵の息を吐き出す。───やった、生き残った!

ともあれ、これでカシンも自分の料理が一般人にとって劇物であることを理解するだろう。それで、一安心だ!

 

「ふむ……あむっ」

 

その時、衝撃が走る。”マウス隊”隊長、ユージ・ムラマツが、あろうことか自ら麻婆豆腐を食したのだ。

数回咀嚼した後、嚥下。

”マウス隊”以外のメンバーは戦慄した。なんということだ!この男は、自ら冥府への道を歩き出すほどに追い込まれていたのか!?

 

「……カシン。流石に未成年かつ中華初心者に出すには辛みが強いな。だが……流石の腕前と言っておこう」

 

『なにぃ!?』

 

何人もの男を葬った劇物を口にしてなお倒れないユージ。汗を流しこそすれ、ユージは動じない。

 

「た、隊長!ほんとですか!?美味しくないからキラ君が倒れたわけではないんですよね!?」

 

「ああ。ほら見ろ、キラ君もこんなに幸せそうな顔をしているじゃないか。美味しかったんだよ、ただ、まだ受け止める土壌が整っていなかっただけさ」

 

「ほ、ほんとだ。……よかったぁ」

 

「ああ。これからも、精進を重ねるんだぞ?」

 

「はいっ!もっと色んな香辛料を増やします!」

 

いや、これ以上辛くされても困るんだが?一同、意思の統一に成功。

人類補完計画の真理は麻婆豆腐だった?

 

 

 

 

 

この後、30分ほど経ってから医務室でキラ達は目を覚ました。

やはり皆等しく前後の記憶を失っており、ムウはそれを酒の飲み過ぎであったと判断した。

しかし、(足りなかったものの)辛さに対して警戒していたキラとトールは話が違った。

トールは「マーボー」と聞く度に原因不明の震えが起きるようになり、キラは甘い物が好きだったはずなのに、時々無性に辛い物が食べたくなるのだった。

なお、会場に残された麻婆豆腐はユージが完食した。余談だが、人知れず”マウス隊”隊長の評価が上がったとか。




うるせぇ!俺にだってギャグが書きたいことがあるんだよ!()

今回は全面ギャグ(のつもり)で書きました。
特に見ておくべき設定などはありませんが、一応捕捉をば。

○カシン
実家が高名な四川料理店。そこで料理を仕込まれたため、作る料理はほとんど激辛。だけどたしかな旨みを感じさせる。
中華料理に関する知識についてはウィキなどから得たにわか知識なので、深く突っ込まないでいただきたい。

○キラ
激辛に目覚めた。
このネタには元ネタがあり、「たねキャラ劇場」第4話で激辛料理を食べて種割れしたのがそれ。

○ユージ
大抵の転生者は元日本人。にも関わらず大西洋連邦のアメリカエリアに生まれた彼にとって、ダイナミックな味の連続は拷問に近かった。そう、『雑』だったのである。
結果、長期休暇の度に様々な地域にグルメを求めて旅をする1人の男を生み出すこととなった。
鍛えられた味覚、それは激辛という壁を越える。
でも虫食は勘弁な(何処までいったんだ?)

真面目な話をすると、C.Eだけでなく戦争状態になったら食糧が制限されているんだからある程度、平均的に味覚が衰えているのでは?という疑問。
そして、「そんな味覚の人間に激辛麻婆出せば、面白いことになるかな?」と思ったのが今回の話の発端です。
いや、カシンは料理上手いんですよ?ただ、常人には耐えられないだけで。
以下、常人が食べてしまった例。

エド「うわらばっ!?」
レナ「くっ、殺せ……(レイプ目)」
モーガン「麻婆なんか怖くねぇ!野郎、食らいつくしてやらぁぁぁぁぁぁ!」

次回からは、本格的に第2章です。
そこで考えたのですが、以前行なった「オリジナル機体・武装アンケート」の第2回を開こうと思うのです。
第一回で募集した案もまだほとんど消化していないのに開いて良いのか?と思ったのですが、『条件付き』でまた募集しようと思います!
もちろん、第一回でのリクエストもこれから消化していこうと考えていますので、「採用されなかった」と落ち込む必要はないですよ!

では、またいずれ!「アンケート」の詳細情報は、また後々に。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。
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