パトリックの野望 外伝・設定倉庫   作:UMA大佐

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番外編7「ディオスクレス」後編

ネイアム・ウィルコックスの幼少期は、点数を付けるならたぶん100点満点中の40点くらいだった。

生活に不自由があったわけではない。彼の両親は立派に仕事をこなしていたし、その分給料を貰って、それなりに裕福な暮らしが出来ていた。

学校生活に問題があったわけでもない。幸いというべきか、コーディネイターの子供達の中にあってもそこそこ優秀、中の上と言われるくらいには能力があったし、初対面の人間にも明るく話しかけることの出来る社交性が彼には備わっていた。

彼には妹がいたが、この妹との仲も良かった。家ではよく本を読んでやってたし、出かけた時も迷子にならないように手をつなぎ、楽しく外出を楽しんでいた。

では何故、100点満点中の40点と評することになったのか?

彼の家庭には一つだけ問題があった。───両親の仲が良くなかったのである。

両親は元々それぞれの親、つまりネイアム達にとって祖父母に当たる人物が決めた許嫁であり、そこに二人の意思は介在していなかった。人によってはそこから愛が生まれるということもあるのかもしれないが、望んだわけでもなく引き合わされ、結婚を決められた男女の間に『愛』が生まれる可能性は少ない。

子供のことは嫌いではなかったようで、ネイアム達兄妹のことを愛してはくれたが、家族揃っての食事というものは、余り記憶に無い。

経験が少ないというのと、そういう時は両親はさっさと食事を済ませてそれぞれの部屋に行ってしまうため、形ですら成立し得なかったというのが理由だ。

そんな居心地の悪い家庭が崩壊するのは、当然のことだった。

仕事で地球に出張した母親が現地で男性と恋に落ち、それに気付いた父親が追求したところ、母親が離婚を切り出した、という話。人間社会にありふれた、母親の浮気を原因とする離婚だった。男女間に発生する痴情の(もつ)れは、C.Eでも健在だった。

居間で怒鳴り合う両親の声は兄妹の部屋まで響いてきたし、今でも時折夢に見るほどのトラウマを植え付けていってくれたわけだが、問題はここからだった。

これまたよくある話、子供の親権問題について揉めたのだ。

親権問題で決め手となりうるのは「子供が健全に育つかどうか」なのだが、両親は子供に対しては良き親であろうとしていたし、前述したように生活に不自由は無かった。母親が地球で出会ったという男性も社会的身分に問題は無かったようで、再婚後も十分な養育環境が整えられるだろうという予想がされたことで、双方に手詰まり感が出てきた。

結果、子供の意思に基づいて親権が定められることとなった。

ハッキリ言って、当時10歳にも満たない兄妹に迫る選択ではない。しかし、それ以外に決定打が無い以上、ネイアムと妹は選択するしかなかった。

父も母も、自分達には優しかった。選ばなければいけないが、選ばれなかった方の悲しみを考えると決められない。

しかし、妹は決断した。

 

『わたし、お母さんと一緒にいく』

 

妹が何故そのように決断したのか理由は定かでは無い。

しかし何度目かの会議の際にその言葉を聞いた時、ネイアムは自分が父親に見つめられていることに気付いた。

今ここで、妹に同調することは簡単だ。仲の良い兄妹が一緒になってどちらかに付いていくのにおかしな事など無い。

しかし、ネイアムは父親の視線に耐えられなかった。父親を一人にすることは出来なかった。

そして、決断した。してしまった。

 

『じゃあ、俺は父さんのところに残る』

 

ネイアムは成長してからもこの決断を間違っていないと信じているが、同時に正しくもなかったと思っている。

この決断が仲の良い兄妹を引き裂いたのは、誰が見ても明白だったからだ。

 

良かれと思って父親と共にプラントに残ったネイアムだったが、そこからは以前よりも悲惨な日常が待っていた。

端から見ればネイアムの父親は妻に浮気された挙げ句に娘にまで去られた男であり、能力至上主義蔓延るプラントでは良い笑いものとなったのだ。

しかも、ネイアムの母親が恋に落ちたという男が、能力に劣ると見なされているナチュラルであったという点が決定的だった。

能力で劣る、つまり『自分より下の男に妻を寝取られた男』というレッテルが、ネイアムの父をどれだけ苦悩させたことか。それは、考えるまでもないことだ。

子供には優しかったはずの父親は、瞬く間に乱暴で酒浸りの、これまた典型的な愚者と成り下がった。

ネイアムは父親から怒鳴られ、暴力を奮われる度にかつての判断を後悔した。しかし、それも既に後の祭り。

妹や母親に会いに行こうとした事もあったが、そもそも父が許してくれなかったし、秘密に行こうとしてもそれが父にバレた時が恐ろしくてたまらない。

次第にネイアムは、許嫁だとか婚約者だとか、そもそも男女間の関係というものに対して猜疑心を持つようになった。強制的に結婚させられた両親とその子供に起きた悲劇を考慮すれば、それが心理的外傷(トラウマ)となるのは当然のことだろう。

───だから、父親が自分の許嫁についての話を切り出した時、彼は父親の正気を疑ってしまった。望まない結婚をした挙げ句にプライドも家庭も(後者はそもそも半壊状態だったが)滅茶苦茶になってしまったというのに、何故息子に同じ轍を踏ませようとするのか?

弁護するとすれば、これを決定したのはネイアムの父親ではなく、プラント理事会によるものだったということだろうか。第二世代以降のコーディネイターに発生した生物的欠陥、つまり出生率低下を危ぶんだプラント理事会がそれを解決するために導入した婚姻制度によってネイアムともう一人、当時ネイアムは名も知らなかった女性の婚約が確定したのだった。

当然ネイアムは反発したが、息子が最高評議会の定めた制度に逆らいなどすれば、今度こそ立ち直れなくなるであろう父親からのプレッシャーを前には黙らざるを得なかった。

そして訪れた、『許嫁』との顔合わせの当日。陰鬱な気持ちで相手の家に赴いたネイアムは。

 

『……リーシャ・グリマ、です』

 

現れた少女に、恋した。

自分よりわずかに低い身長、つり上がってはいるが刺々しさを感じさせない目つき、母親や妹と同じブロンドの長髪。

何もかもが、少年を惹き付けた。

少女の気を引きたくて()()とやったし、少女を虐める子供に対してなりふり構わず突っ込んで暴れたこともある。

現在のように少女に世話を焼かれるような関係になったのがいつ頃だったかは忘れたが、それでも出会った頃よりも関係が進んでいるという事実があり、ネイアムはそれが嬉しかった。

妹や母親との別離によって生まれた心の隙間を埋めたがっていたというのもあるのだろうが、とにかくネイアムはリーシャ・グリマという少女との関わりを持とうとしていた。

まあ、要するに。

ネイアム・ウィルコックスは、物の見事に、一目惚れしたのだった、という話でしかないのだが。

 

 

 

 

 

3/3

宇宙空間

 

「ああ、くそ!やりづらいったらありゃしねぇ!」

 

ネイアムは新たに出現した敵性MS、黒い”ジャガーテスター”と戦闘していたが、この敵は先の”テスター”タイプよりも更に手強かった。

アサルトライフルと背部に懸架したグレネードランチャーを使い分け、その高機動力を以てこちらの得意な距離に持ち込ませない。加えて、本来の”ジャガーテスター”よりも性能が若干向上しているようで、友軍が収集した戦闘データ以上の動きを見せている。

その中でも特にネイアムの癪に障ったのは、かつて地上で遭遇し、自分達の務めていた基地を滅茶苦茶にしていった『乱れ桜』によく似た機動をしていることだった。

敵ながら見事な戦闘力を見せつけた存在に興味を持ったネイアムは、入院中に何度か“マウス隊”を初めとする、連合のMSの戦闘データや動画を視聴していた。

特に自分やリーシャにトラウマを植え付けたパイロット、『月下の狂犬』、『切り裂きエド』、そして『乱れ桜』の動きは、本当にこれがナチュラルのものなのかを疑った。故にネイアム達にとって、それによく似た動きをするこの”ジャガーテスター”は、あらゆる意味で脅威である。

だが本人が搭乗しているにしては、時折違和感を感じる動きをしているのが気に掛かる。資料で見た『乱れ桜』の動きは、敵に反撃する暇を与えずに一方的に攻める『超攻撃的機動』と言うべきもの。

必要とあらば射撃型の機体で接近することも厭わない彼女の動きに比べ、この敵は距離を離して戦うことに拘っているようにネイアムは思えた。

何かを探っているのか、とネイアムが思案した時、それまで頑なに接近戦を拒んでいた”ジャガーテスター”が、急にこちらに向かって接近してきたのだ。

 

「今度は何をやろうってんだ、この野郎!だが……近づいてくれるってんなら願ったり叶ったり、叩っ切る!」

 

残弾がわずかとなったマシンピストルを投げ捨て、レーザー重斬刀を引き抜く”ポリデュクス”。そして”ジャガーテスター”と同様に、敵との距離を詰める。

”ジャガーテスター”はライフルを乱射しながら突っ込んでくるが、その程度の攻撃では”ポリデュクス”のシールドの表面を削るくらいしか出来ない。

───貰った!

ネイアムがそう確信した時、”ジャガーテスター”は左腕部に取り付けていたコンテナのような装備の外装を外した。

ネイアムは()()を見るまで、左腕部には少し変わった盾を付けていると考えていたが、大いに的外れな予想をしていたことを思い知らされた。

 

「───ドリルぅっ!?」

 

コンテナの中から現れたのは、先端が尖った、掘削用の工具。

”ジャガーテスター”は回転するそれを思い切り振りかぶり、こちらに向かって突き刺そうとしてくるのだ!

レーザー重斬刀とドリルが衝突する。しかしドリルはレーザー重斬刀で切断されず、逆に押し返そうとしてくる。ご丁寧に耐ビームコーティング済みか!

理解の及ばない光景にネイアムが一瞬呆然とすると、”ジャガーテスター”はその隙をついて”ポリデュクス”の腹部に蹴りを放ち、”ポリデュクス”を吹き飛ばす。

 

「うおおおおおおっ!?」

 

ネイアムにとって最大の不幸だったのは、この衝撃で主武装たるレーザー重斬刀を手放してしまったことだ。

放られたレーザー重斬刀に向けて”ジャガーテスター”はグレネードランチャーを撃ち込み、破壊してしまう。

ネイアムは、自分が絶対絶命の窮地に追い込まれたことを悟った。だが、それよりも気に掛かることが一つあった。

 

「ちくしょう、リーシャ!無事なら返事をしてくれ、このままだと二人ともやられるぞ!」

 

 

 

 

 

<リーシャ!おい、リーシャ!?>

 

ネイアムからの通信音声は確かに”カストール”のコクピット内に響いていたが、それに気を払う暇は、今のリーシャに存在しなかった。

彼女の視界には、斧を構えて迫り来る漆黒の”イーグルテスター”が映っており、そちらに対処するので精一杯だったのだ。

 

「く、来るなっ!こっちに来るなぁ!」

 

必死になってビームライフルを発射するが、”イーグルテスター”が前方に構えた斧に弾かれるだけに終わる。おそらく、耐ビームコーティングが施されているのだろう。

リーシャからすればその姿は、強力なはずのビームライフルを物ともせずに向かってくる漆黒の機体であり、それはかつてのトラウマを彷彿とさせるものであった。

かつて率いていた小隊の”ジン”全機で発射したマシンガンの弾を弾きながら接近してきて、僚機を一撃で沈めた怪物。更に追い打ちで胸部ビーム砲を発射し、また1機撃破された。

ネイアムがパニック状態に陥って単独で撤退するという問題が発生したが、そうでなくとも自分が撤退の指示を出していただろう。

それほどに恐ろしかったのだ、目の前の機体と色以外同じMSが。

元々リーシャの精神強度はけして高くはなく、ZAFTに入隊した理由もネイアムが危なっかしくて見ていられないという、戦争に参加するには些か弱いものであった。

入院中だって、何度退役しようかと悩んだだろうか。リーシャは悩んで、悩んで、悩み抜いた。

結局留まることを選んだのは、やはりネイアムが留まることを決めたからというのもある。しかし彼女はこうも考えてしまった。

 

『既に自分の指揮で2人死んだ、これで自分だけ逃げるなどしていいはずがない』

 

端から見れば、彼女が負うべき責任などはほとんど無い。むしろ、既に何度か”イーグルテスター”との交戦記録を持っていたにも関わらずその周知を遅らせた司令部にこそ問題があったと言える。リーシャならば”イーグルテスター”の情報を持ってさえいれば、当時の状況での撃破が困難を極めることに気付いて、早々に撤退を決断出来ただろう。

しかし責任感の強い彼女は「それでも責任を負うべき」と考えてしまった。そうして転属した基地では『乱れ桜』からの強襲を受け、今度は疫病神扱いをされる始末。

彼女の精神が折れなかったのは偏に、共に生き残り続けたネイアムの存在あってこそだ。

そして今、ようやくかさぶたになってきた心理的外傷(トラウマ)をほじくり返すように現れた漆黒の2機に対し。

 

「来るな、来ないで、お願い……!やめてよぉ!」

 

───リーシャ・グリマは、優秀な兵士からただの臆病な少女へと変じる他無かった。

 

 

 

 

 

<いやだよぉ……、助けてよネイアムっ!>

 

その声を聞いた瞬間、ネイアムの思考からあらゆるものが削ぎ落とされた。

いきなり襲いかかってきた連中の正体だとか、主武装が失われたとか、母艦は無事かとか、それら全て。

最愛の人(リーシャ)を救う、ただそれだけに思考が集中した時。

ネイアムは体の奥底で、何かが弾けるような感覚を覚えた。その途端、視界が先ほどよりも遙かに澄み渡り、自身にグレネードランチャーを発射した”ジャガーテスター”の動きもスローモーションになって見えた。

加速したネイアムの思考はそれに対し、迎え撃つように前進することを決めた。命中する瞬間に機体をわずかに逸らし、すれすれで回避する。その動きは先ほどまでのものが遊びか何かだったのではないかと思わせるほど洗練されており、”ジャガーテスター”のパイロットを驚愕させた。

ネイアムはすかさず”ジャガーテスター”に接近し、体重を乗せた蹴りを命中させた。速さと重さを掛け合わせた蹴りは”ジャガーテスター”の細身な機体を吹き飛ばし、その動きが封じられる。

 

「……っ!」

 

無茶な機動をしたことで急激に増したGに体を圧迫されながらも、ネイアムは機体を”カストール”の方向へと向けた。

高速で意識の外から迫ってきた”ポリデュクス”に対して”イーグルテスター”は反応出来ず、左肩でのタックルで吹き飛ばされる。その隙に”ポリデュクス”は”カストール”の腕を掴み、敵から距離を取った。

 

「リーシャ」

 

<ひっ、あっ、うあ>

 

「リーシャ、大丈夫だ。俺がいる。絶対に大丈夫だ。信じろ」

 

<……ネ、イアム?>

 

普段よりも張り詰めた、それでも優しげなネイアムの声を聞き、リーシャはわずかに平静さを取り戻した。

息は荒いがしっかりと目を見つめ返してくるリーシャに、ネイアムは語りかける。

 

「いいかリーシャ、俺が盾を構えて突っ込むから、お前は援護してくれ。出来るな?」

 

<それは……いや、ダメ!剣も無いのに突っ込んだりなんか……!>

 

「出来る。武器があるか無いかじゃない、俺とお前だから出来るんだ。絶対出来る!」

 

ネイアムが言い切ったことにより、リーシャはハッと何かに気付いた表情を浮かべ、微かに微笑む。

リーシャは、昔からネイアムが『絶対出来る』と言ったことは全て達成してきたということを思い出していた。

 

<……ふん、お前がそこまで言い切るということは、何か勝算があるということなんだろうな>

 

「そういうこと。……で、答えは?」

 

<やるとも。そもそも……2機揃った『ディオスクレス』が、あのような輩に負けるものか!>

 

「同感だ。……準備はいいな、お姫様?」

 

<いつでもどうぞ、私の王子様>

 

体勢を立て直して迫ってくる”イーグルテスター”と”ジャガーテスター”を見据え、”ポリデュクス”は盾を構える。

それに対し”カストール”は、ライフルを両手で構えることで返答する。

 

『GO!』

 

その一声をきっかけに、”ポリデュクス”は突撃を開始した。”カストール”はそれをビームライフルで援護する。

それに対し敵MS達は、先頭を進む”イーグルテスター”は胸部からビーム砲を発射しながら両手に斧を携え、”ポリデュクス”を切り裂こうとする。”ジャガーテスター”はそれを援護しようとするが、”カストール”からの援護射撃によって妨害され、思うように行動出来ないでいた。

単なる高機動MSの域を出ない”ジャガーテスター”に対し、”カストール”は狙撃戦も最初から視野に入れて開発されている。本来の役割に専念出来る”カストール”は、敵にとって恐ろしい狙撃手と変貌するのだ。

それは”ポリデュクス”も同じで、近接戦に専念することが出来れば無類の強さを発揮することが出来る。しかし現在は主武装たるレーザー重斬刀を失っているので、このままでは”イーグルテスター”の斧に切り裂かれるだけに終わる。そう思われた。

絶対絶命の窮地、しかしネイアムは獰猛な笑みを浮かべながら突き進む。

 

「おらぁ!」

 

なんとネイアムは頼みの綱の盾を”ジャガーテスター”に投げつけ、その動きを止めた。

唯一残った武装を捨てて、何をしようというのか。

 

「”ポリデュクス”はなぁ……剣を振るだけじゃないんだぜ!?」

 

なんと”ポリデュクス”はボクシングスタイルで両手を構え、”イーグルテスター”の両手に交互にパンチを放つ。斧を持った両手が弾かれ、”イーグルテスター”は無防備な胴体を晒す。

咄嗟に胸部からビームを放とうとした”イーグルテスター”だったが、その前に”ポリデュクス”は行動を終えていた。

 

「これでも、喰らえやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

”ポリデュクス”右腕の側面に取り付けられていた装置がスライドして拳の前面に移動し、”イーグルテスター”の胴体にたたき込まれる。

その瞬間、装置から超高圧電流が流された。しばらくガクガクと体を揺らした後、”イーグルテスター”は完全に機能を停止した。

試作型MS用近接兵装『ゼウス・フィスト』。”ポリデュクス”の名の元となった伝説の英雄が剣とボクシングの名人であったこと、そして雷神ゼウスの血を引いていたことから着想を経て搭載された試作装備。

その効果は至って単純で、装置が発する電流によって敵MSの内部機械をショートさせ、無力化するというものだった。

あくまで試作装備であるために様々な問題を抱えており、例えば最大出力で使用した場合は装備している腕に多大な負担を掛ける、片手を空ける必要があるなど、非常に使いづらい。

しかし命中した場合の効果は絶大で、このように敵をほぼ完全に無力化することが出来る。

ネイアムはそれを確認した後、動かなくなった”イーグルテスター”の右腕を”ポリデュクス”の左手で掴み、今度は”ジャガーテスター”に向かっていく。

 

「そぉら、大事なお仲間だ、しっかり受け止めろ!」

 

そうして”ポリデュクス”は、動かなくなった”イーグルテスター”を”ジャガーテスター”に向けて投げつけた。

咄嗟にそれを受け止めてしまう”ジャガーテスター”。───高機動MSにあるまじき隙を見せたそれを、リーシャは見逃さない。

 

<───ファイア!>

 

放たれたビームは”ジャガーテスター”を”イーグルテスター”ごと射貫き、2機のMSに穴を空ける。

その直後、宇宙に2つの爆発が生まれた。かつてトラウマを刻み込んだ2機のMS、その爆発を見てリーシャは笑顔を浮かべ、直後わずかに顰める。

かつて敗北した機体に勝利を収めた。たしかにトラウマはかなり払拭されたが、それでも人殺しをしたことに変わりは無いのだ。晴れやかな気持ちになどなっていいはずが無い。

ネイアムは婚約者の複雑な心境をある程度察していたが、あえて無視して声を掛ける。

 

「やったな、リーシャ」

 

<……ああ>

 

複雑そうな表情を崩さないリーシャを見てネイアムは、仕方ない、と言わんばかりにため息をつき、”ポリデュクス”の左手で”カストール”の右腕を掴む。

 

「今日は、今日()生き残れた。今はそれで良いじゃねえか。───帰ろうぜ」

 

<……うん>

 

そうして、双子の神の名を持つ2機のMSは母艦へと向かい始めた。

いつの間にか所属不明の”ローラシア”級は姿を消していたが、今の彼らはそのことに気を払う余裕など無かった。

今日も生き延びた。誰も死ななかった。それでいい。

今は、それだけでいいのだ。

 

 

 

 

 

「……P01、P02を失うことになるとはな。ZAFTも大した機体を生み出したものだ」

 

「どうします?せっかくの成功体を失ったなんて報告を聞いたら彼ら、カンカンに怒りますよ?」

 

「いや、それはない。───何人死のうが、最終的に勝つならそれでいいと考えるのが()()だ。我らに責任を追及する暇があるなら、更なる性能向上のための試行錯誤でもするだろうさ」

 

「そんなものですか」

 

「そんなものだ。さてと、そろそろ頃合いか。この艦は放棄、何一つ痕跡を残さずに撤収するぞ」

 

『了解』

 

「……全ては我ら、()()()()()()()()の勝利のために」

 

 

 

 

 

『ディオスクレス』試験総括 

記述者 アードルフ・バーダー 

 

旧式のMSとなった”シグ-”を原型として、近接戦と狙撃戦、それぞれに特化させた2機のMSを作り出すこの計画は、()()()()()()()()()()成功を収めた。

2機のMSはそれぞれ従来の機体を上回る機動力を発揮し、これからのMS開発にもデータが活かされることとなるだろうことは間違い無い。

そして2機のパイロットは機体コンセプトの有用性をも証明した。

”カストール”の援護射撃と共に”ポリデュクス”が切り込み、敵部隊を撃滅する。それがこの2機に求められた機能。……表向きは。

これらの機体が製造された真の目的、『ディオスクレス・プラン』。その内容を要約すると、こうだ。

 

○ZAFTは戦争が長期化したことで『戦力の慢性的不足』に直面した。

○これの解決を試みたものの元々の人口の少なさ、そして既に親プラント国を参戦させるという鬼札を切ってしまっていたこともあり、正道の方法での解決は難しかった。

○そこで『兵士の数はそのままで部隊数を水増しすることは出来ないか』という考えが浮上し、『3・4機で1つの小隊とする従来の方式から転じて、2機で1つの小隊として運用することを常態化出来ないか?』という、悪い意味で驚くべき試行が行なわれることとなった。

○『ディオスクレス・プラン』とは、その実証計画である。

 

2機で1組の部隊とすること、それ自体は例が無いわけではない。

かつて地上には多数の国家とそれぞれの軍隊が存在したが、どの国家の空軍でも戦闘機を運用する際には2機1組のエレメント(分隊)を組むのが定番だった。

もちろん実際の最小戦闘単位はエレメントを2個束ねた、合計4機の小隊で組むのが当たり前であった。

しかし『ディオスクレス・プラン』の発案者はこれを、「2機で1部隊を構成するのは前例がある」と解釈し、これを常態化すれば部隊の数を水増しして幅広く部隊を展開出来るのではないかと考えた。

ZAFTの名誉のために弁護するなら、この考えに対して軍部の中でも否定的な意見が多かった。

当然だ、それは「人手が足りない」という問題を何一つ解決する物ではなく、また穴の多い論理に基づいていたのだから。

しかし現在のZAFTはMSを投入した連合軍相手に苦戦を強いられており、少しでも戦局を打開する鍵となるならばと計画の試行が許可された。

言うなれば『ディオスクレス』の2機は、『2騎当千』という非現実的な理論を検証することが目的でもあったのだ。

不慮の遭遇戦で得られたデータを根拠に提唱者は『ディオスクレス・プラン』の有用性をアピールしたが、「パイロットの能力によって結果が左右され過ぎる」との反論に圧殺される。

しかしこのデータが有用であったのは間違い無いため、あるMSの開発に活かされることとなった。

コードネーム、『正義(ジャスティス)』。そして『自由(フリーダム)』。

『ディオスクレス』の輝きを受け継ぐこととなるこの2機が、ZAFTを照らすセントエルモの火となるかどうか。

それは定かではない。




『ディオスクレス・プラン』。それは、英雄を求めた誰かの幻影。
しょうもない理由で作られた割には性能が良かった、というのはどこかで聞いたことがあるような、無いような。

本文でやたらとキャラクターの心理描写が入ってるのは、私こと作者が「パトリックの野望」本編では書きづらいプラント側の事情を描写したいと思ってるからです。
今回のテーマは、「批判されることの多いプラントの婚姻制度でも、幸せになった人間はいるのではないか」というもの。
結婚相手を誰かに決められたことで幸せをつかめた人もいますよ、きっと。
幸せを手放させられた人もいるけどな!

以下、オリジナル機体のステータスを掲載。時間が経ったらステータスまとめの方に移植予定。

シグ-・カストール
移動:8
索敵:B
限界:160%(リーシャ搭乗時210%)
耐久:150
運動:34

武装
ロングビームライフル:175 命中 80 間接攻撃可能
マシンピストル:70 命中 50
ナイフ:80 命中 40

シグ-・ポリデュクス
移動:8
索敵:C
限界:170%(ネイアム搭乗時220%)
耐久:160
運動:36
シールド装備

武装
マシンピストル:70 命中 50
レーザー重斬刀:180 命中 70
スパークナックル:150 命中 35

テスター・ダガー
移動:6
索敵:D
限界:170%
耐久:90
運動:22
シールド装備

武装
マシンガン:70 命中 50
アーマーシュナイダー:80 命中 50

ブラックイーグル
移動:6
索敵:D
限界:170%
耐久:240
運動:25

武装
ビーム砲:120 命中 55
斧:135 命中 60

ブラックジャガー
移動:8
索敵:C
限界:180%
耐久:110
運動:35

武装
グレネードランチャー:120 命中 60
アサルトライフル:75 命中 45
ドリル:150 命中 40

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