エイプリルフールに本編へ投稿した話を移植したものです。
ナチュラルとかコーディネイターとか、色々と拗らせた人達が元気に戦争しているこの世界はコズミック・イラ。
これは、そんなC.E71年のある日の一幕である。
「ほーう、ここが……」
「ええ、月面捕虜収容所です」
月面で新たに開発された装備だとか、人員だとかを引き取るためにプトレマイオス基地にやってきたユージ。
偶々通りかかったそこに宇宙で捕虜としたZAFT兵の捕虜達がいると聞いたユージはなんとなく興味が湧き、見学を申し出る。
スケジュール的に余裕があったこと、そして佐官というそこそこの階級にあるためにあっさりと許可は下りた。が、しかし……。
「……なんだか、汚くないか?」
「お恥ずかしい限りです……連中の中でも声のデカい連中がボイコットを起こしておりましてね」
その部屋の中に人は居らず、あるのは散らかった机や椅子、その上にはばらまかれた何かの部品くらい。有り体にいって、汚部屋だ。
ユージの疑問に収容所の看守を務めるスキンヘッドの大尉は頭を掻くしかない。
捕虜といっても、そのままただ収監しておくだけでは金食い虫同然だ。だからこそ、捕虜収監施設では捕虜に何かしら生産をやらせることで利益を発生させ、支出による負担を抑えている。
勿論、造らせるのは軍用製品ではなく民間用の生活物資である。軍用、つまり敵兵士が使うものと知って物を造りたがる人間などいまい。
それでも、敵に命じられて何かをするのはごめんだとボイコットを決め込む人間は、当然だがいる。
今回の場合、問題になっているのは『声がデカい』、つまり他の人間に対して大きな影響力を持つ人間がボイコットをしてしまったために、その人物に引っ張られて行動する人間が増加してしまったということだ。
「そんなに厄介なのか?適当に懲罰室にぶち込むんじゃぁ……」
「外に出した瞬間に他の取り巻きと一緒に抵抗運動かますわ、挙げ句の果てに『ボスの姿が確認できなきゃ仕事はしない』と言い出すわ散々ですよ、まったく……」
ここで話は少し変わるが、ユージは「危うきに近寄らず」という人間……というわけではない。
意外と興味を持ったことに対してはリスクがあると分かっていても質問してみたりするし、戦場でもやたら部下が強いこともあってエース頼みの戦法を採ったりすることもしょっちゅうだ。
C.Eに誕生する前はガンダムが好きな一般小市民だったのだ、怖い物見たさに下手な行動を打ったりする時もある。
だから、看守の次の言葉にうなずくのもある意味では当然のことだった。
「ちょうど今、件のボスを説教中ですよ。見て行かれます?」
『なあ、カークライト。いい加減に観念してくれはしないか?このままだと……』
『ふんっ、このままだとなんだ?食事抜きか、それとも暴行か?どちらにせよ、我々は貴様らのような悪党には屈しない!』
警察の取り調べ室のような、殺風景な一室。部屋の中には机があり、それを挟み込むように配置された2つの椅子には連合軍の制服を着た男性と、囚人服を着せられた少女が座っていた。
少女は金髪碧眼の美しい容姿を歪ませ、兵士に対して挑発的な表情を見せている。
「彼女がフレヤ・カークライト。プラントではそこそこの名家生まれらしく、人の上に立つ姿が堂に入っていますね。しかも、赤服だそうです」
マジックミラー越しにその姿を見つめるユージに、スキンヘッド大尉が説明してくる。
なるほど、聞いていた通りの気の強そうな少女だ。
ZAFT兵としては珍しくもないが、自分達を正義と信じきっている辺りも事態を拗らせている一因となっているのは間違い無いだろう。
『お前はそれでもいいかもしれんが、他の連中に迷惑だっつってんだ。まじめに働いてる連中もお前に遠慮して動けなくなるし、そうなるとこの施設の運営だって難しくなる』
『だったら私達を解放したらどうだ?面倒な手間が無くなるぞ』
『そういう問題じゃなくてだなぁ』
『たとえ敗れて虜囚となろうとも、プラントの正義が有る限り私達は負けない!』
「ダメそうだな、これは」
「お恥ずかしい限りです……。しかも男性ならともかく、女性に対してこう、『強硬手段』に出ると戦後に響きますからね……」
如何にテロリスト扱いといえど、戦争が終わり、時間が経てばそういう問題が取り沙汰されて面倒な事態になる。
具体的に言うと、(自称)フェミニストだとかそういう連中が騒ぐ。他、騒ぎたい奴らが騒ぐ。
そういう未来の面倒事を防ごうとしている辺り、ここに務める人間は極めて真っ当だ。もしここに『ブルーコスモス』でもいればと考えるとぞっとする。
ユージがそんなことを考えていると、取り調べ室の中の事態が進展した。
『大体、ここで出される食事はまずいんだ!私に責任を求める前にそこを改善した方がいいんじゃないか?』
「そうなのか?」
「いや、そのようなことは。合成食材の多用こそしてますが健康バランスに配慮した献立で作ってますし、不満はほとんど出てきてませんよ。……彼女を除いては」
なるほど、名家の出ということは舌も相応に肥えているということか。それともただ悪口として引き合いに出しただけか?
───と、ここまでは極々自然な話の展開だったのだが。
次に彼女の発した言葉で、何かがおかしくなった。
『まあ、仕方ないだろうな。しょせんナチュラルは食事ですら我らに劣るということだ!』
「なんだぁ、てめぇ……?」
ユージは激怒した。
必ず、目の前の無知蒙昧たる小娘に鉄槌を振り下ろさねばならぬと決意した。
ユージは彼女の普段の食事情についてとんと知らぬ。幼少期に彼の母に連れられてプラントに住んでいたことはあったが、一般市民だった自分と現在のフレヤとでは事情が違っているかもしれない。
だが、彼は食文化を馬鹿にする者の気配には人一倍敏感だった。
数日後。
「なんだ、見ない顔だな?」
「だろうな。なにせ、ここに来たのは2回目だ」
フレヤは怪訝そうに、目の前に立つ男を見つめる。襟元の階級章を見る限り、目の前の男は中佐というそこそこの立場にあるようだ。
いつもと同じようにこの殺風景な部屋で退屈な戯言を聞き流すだけかと思っていたが、どうにも毛色が違うように感じられる。
「私は”第08機械化試験部隊”、そうだな、『ネズミの部隊』と言った方がわかりやすいか。そこの隊長をやっているユージ・ムラマツ中佐だ」
「ネズミ……”マウス隊”か!?貴様ら、よくも私の前に顔を見せられたものだな!」
「なんだ、随分な嫌われようだな?」
「当たり前だ、よくもヌケヌケと……!」
ZAFTからすれば目の前の男が率いる部隊は多くの同胞の命を奪っただけでなく、自分達の象徴とも言えるMSを勝手に使い出した、ここ最近のZAFTの苦戦の元凶と言える存在だ。
無論、ユージもそのことについては自覚している。自覚した上ですっとぼけた。
「まあ、ここに来たのは部隊の任務だとかそういうのではなく、純粋に君に感心したからなんだよ」
「なんだと?」
「先日、看守に対して堂々と抗弁していた君を見てね。ZAFTも中々粒ぞろいだな、と」
「……何を企んでいる?」
いきなりやってきて、自分に感心した、などと言い出す敵兵にフレヤが警戒心を抱くのは当然だった。
しかしユージはそれを意に介した様子も無く、言葉を紡ぐ。
「いやいや、本当に感心した、それだけだよ。それで1つ、君に対して賞与の1つでも与えないと気が済まなくてね。───おい」
ユージが指を鳴らしてしばらくすると、2人の男女が入り口から何かの器のような物を台座に乗せて運んでくる。
器と台座の間には電気コンロが挟まっており、器の中の何かを加熱しているらしく、器の蓋がゴトゴトと揺れている。
「そこで、こんな物を用意してみたんだ」
カパリ、とユージは蓋を取る。
そこには。
「……なんだ、それは」
「『おでん』、という東アジア共和国ジャパンエリアの料理さ」
ユージは箸を持つと、その器───土鍋の中から何かをつまみ上げる。
それは丸くて、飴色に透き通っていた。ついでに湯気を上げていた。
「ホックホク、かつ鰹だしがよーく染みこんだ大根だ。美味いぞ?」
そう言いながら、それをフレヤの口元に運ぼうとする。
フレヤにはその笑顔が、どこか圧が込められているように感じられた。
「は?いや、待て何を」
「なに、話に聞くところ君はここの食事に大いに不満があるそうじゃないか。そこでだ、君にいたく感心した私がポケットマネーで天然食材を取り寄せて、こうしておでんを振る舞おうとしているというわけだよ。───あーん」
「いやそんな得体の知れないもの食うワケが」
「───アイク、セシル」
『サー?』
ユージは表情を変えずにおでんを運んできた2人、アイザックとセシルに命じる。
「固定しろ」
『イエッサ!』
機敏な動きでフレヤの後ろに回り込んだ2人は、フレヤの顔を押さえつけ、口を開けた状態で固定しにかかる。
後ろでに縛られた状態のフレヤには抵抗する術はない。
「ふぁっ、ふぁなふぇ!?」
(は、離せ!?)
「大丈夫、何も変な物は入っていない。何かあったら訴えてくれても構わないぞ?」
「ふぉおふぃふふぉんふぁふぃふぁ……!」
(そういう問題じゃ……!)
じたじたと抵抗しようとするフレヤ。
縛られてる上に軍人2人に勝てるわけないだろ!
「大丈夫大丈夫、どっちにしろ君に出来るのはたった1つだけだ」
「ふぁふぃ?」
(なに?)
「味わえ。お前が正気でいる間に出来るのはそれだけだ」
あっつあつの大根が、フレヤの口元に運ばれ───。
「ふぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!ふぁ、ふぁふ、ふぁふふぃ!?」
口に突っ込まれた大根は熱々で、じゅわりと溶けるほどよい固さで、咀嚼する度ににじみ出る汁の中には旨みが詰まっていて。
「……美味い」
「だろう?ほら、次はちくわだ。魚のすり身を成形したものだが、これもプリプリとした食感がたまらないぞ?」
次いで口元に運ばれた筒状の何かを、思わず咀嚼するフレヤ。
たしかに、プリプリとした食感としっかりとした魚介系の味が実に舌に染みる。
なまじ食事にもケチをつけて反抗的に振る舞っていたフレヤは食事に手を付けず、水だけで日々を過ごしていた。
『空腹が最高のスパイス』という言葉もあり、フレヤは久方ぶりの『美食』を前に、言葉少なにそれらを胃に送り続けるだけの機械と化す。
「ほら、これはどうだ?」
「これは……卵か?」
「ジャパンエリアから厳格な管理態勢の基に運ばれてきた卵だ。ほら、君は卵は半熟派かな、それとも完熟?」
「……完熟」
「それはすばらしい、きっと気に入るよ」
「ああ、や、やめろ……それ以上は……」
思い出したかのように身じろぎをして抵抗の意思を示すが、もうその動きに力強さは無かった。
屈しようとしている……身体が。
「遠慮するな、さあ……舌を委ねて」
「ダメ、ダメよ、そんなの味わったら、もう戻れなくなっちゃう……」
「心配しなくていい。必要はないんだ。俺達は皆、
徐々にフレヤの口元に卵が近づく。それを見て、物欲しそうに唇をすりあわせるフレヤ。
もう一押しだ。ユージの口が三日月状に歪む。
「ほおら、これが欲しいんだろう?食べないなら私がいただくぞ?」
「そっ、それは!?」
「ははは、なんて冗談だよ。これを口に運ぶ権利があるのは、今、君だけなのだからな」
ブラフに引っかかったフレヤは悔しそうに、しかし遂に観念したかのように口を開け、受け入れ体勢が出来たことをアピール。
そんなに
望み通りにしてやる!
(く、悔しい……でも、口が開いちゃう!)
「くっ……殺せ!」
「そんなに無理をするな、久しぶりにまともに食事にありつけたんだろう?」
先ほどの一幕から10分後。
一通りの具材を食べ終えたフレヤは半ば
実のことを言うと、プラントではあまり食文化が発展していない。
研究されていないというワケではないのだが、元々は宇宙開発分野の研究者や労働者が集まる大規模生産施設であるプラントで食文化が発展する余地は少なく、プラントの家庭に並ぶのは大抵保存の利く合成食糧で出来た料理だ。
加えて、食糧生産を担うはずの”ユニウス・セブン”が破壊されたことも大きく響いている。
フレヤの実家はそこそこ裕福だったので合成食糧だけということはほとんどないのだが、それでも天然食材の割合は少ない方だった。
ハッキリ言ってしまうと、食事云々はフレヤの強がりだったのだ。
敵に捕虜とされた屈辱、敵陣の真っ只中にいる恐怖、そして敵から与えられる食事で生きることにプライドが反発し、頑なな態度を取ってしまっていただけなのである。
「まあ、地球の食事も悪いものじゃないわね……」
「その一言が聞きたかった」
ユージも何処か達成感のある笑顔を見せている。
そう、本当に些細なことで世界は平和になる。
腹一杯食べられる環境があれば、人はわざわざ戦争なんてしなくたっていいのだ。
「で、でもこんなので私が屈して大人しく捕虜をすると思ったら大間違いよ!おでんなんかに、私は負けない!」
「ほう、そうか」
それは何よりだ。
ユージはニタリと笑う。
それは先ほどのすがすがしさ溢れる物とは違う、狂気を孕んだ笑顔だった。
「実を言うと先のおでんは前菜、オードブルでね」
「え?」
「───いつから、おでんだけで終わると思っていた?」
「なん……ですって……」
冗談じゃない。フレヤは戦慄する。
おでんの時点で舌と胃がハッピー☆になってるところに更に何を出そうというのか。
「本命の前に、胃をある程度慣らしておく必要があった。下手をすると……おっと、ここから先は実物を見てのお楽しみだな」
「ちょっと待って、いったい何を」
「カシン、出番だ」
「
新たに入り口から現れたのは、長い黒髪のアジア系女性。
両手に構えた中華包丁と中華鍋がとても印象的な彼女は実に活き活きとした様子を見せている。
「随分と頑張っていたようだが……これで終わりだ。君も明日からは立派に更生してこれまでの罪を悔い改め、模範的虜囚となることだろう」
「任せてください隊長!『紅洲宴歳館 泰山』河南本店の娘の名にかけて、3日に1度は
カシンが部屋の外から1つの器を運び入れ、フレヤの眼前に置く。
生存本能が訴えかけていた。
というか既に紅いオーラを放っている気すらしてくる。
「止めろ、止めなさい、その蓋を開けないで!私のそばに近づけないでぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっっ!!!」
「大丈夫、怖いことなんて1つもありませんよ!とくとご覧あれ、これぞ天下無双の一品!」
パカッ。
「『泰山名物 獄楽麻婆豆腐』です!さぁ、冷めないうちに召し上がれ♪」
「いやいやいや待って、それ絶対に死んじゃう!食べたら死んじゃう!」
グツグツと煮込まれた真っ赤な液体、そしてそこに浮かぶ豆腐。
完全に殺しにかかってきている。胃を慣らすとかそういう問題じゃない、もはや劇物だ。
「ちょっと、やめ、や、待って!捕虜の虐待はコルシカ条約違反……!」
「ははは、大げさだな。これはただの料理だ、人が死ぬわけがないだろう?それに───ジュネーブもコルシカも無いんだよ」
「いやこんなの絶対おかしいよこんなの食べ物じゃないよいやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「アイク、セシル」
『世に麻婆のあらんことを……』
ジタバタともがくが、再びアイザックとセシルの2人によって抑えつけられてしまう。
逃げ場が無いと自覚したが、それでもフレヤはもがき続ける。
しかし、そんな彼女の努力を嘲笑うかのように、徐々にレンゲに救われた
「おっと、これだと火傷してしまいますかね。フーフーしてあげてもいいですよ?」
「ふぉうふぃふふぉんふぁいふぁふぁふぃ!」
(そういう問題じゃない!)
そうして、レンゲがたどり着き。
「貴方も
「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!!」
翌日。
「あ、あの、フレヤ?解放されたみたいでうれしいんだけど……その、大丈夫?」
「ハイ(^q^)」
「そ、そう……えっと、ボイコットは……」
「イイデス(^q^)」
「……」
「イクゾー(^q^)」
「いったい、何があったと言うの……?」
「(^q^)マーボオ……」
後に若干の正気を取り戻したフレヤの言から「下手に逆らうと麻婆豆腐で洗脳される」と捕虜の中で広まり、かくして捕虜収容所の治安は回復した。
ちなみに、フレヤは戦後に「自分達が荒らした地球環境、その煽りを受けた食文化を守る為」として『コズミック美食倶楽部』という組織を作るとか作らないとか。
ちゃんちゃん。
※今回の話を閲覧するにあたって、以下の注意事項をお読みください。
○キャラ崩壊が著しいです。
○この話は細かいことを考えながら見てはいけません。
○正史として捉えるかどうかもお任せします。
○この話はとても見られたものではないので見てはいけません。
○エイプリルフールだからといってやって良いことと悪いことがあります。