ヨーロッパ。この地域は開戦から現在に至るまで、最たる激戦区で有り続けたと言ってもよいだろう。ZAFTの地上における2大拠点の内1つであるジブラルタル基地が存在するからだ。
文字通りジブラルタル海峡に建設されたこの基地はアフリカ大陸、ヨーロッパ、そして大西洋と様々な地域へのアクセスが可能な拠点であり、連合地上軍にとってはともすればオセアニアのカーペンタリア基地よりも頭を悩ませていた。
当然、連合軍───特に首都の目と鼻の先に基地を築かれてしまったユーラシア連邦───は休戦期間中を除いて積極的攻勢を仕掛け続けていたものの、両軍共にアルプスやピレネーといった山脈の数々によって動きを制限され、膠着状態が続いていたのである。
特に連合軍は開戦当初の機甲戦力が”リニアガン・タンク”を主としており、その地形故に勢いを付けて行動することが出来なかったのだが、新たな主力戦車”ノイエ・ラーテ”の配備と、MSの運用態勢が整ったことを受けて大規模反攻作戦を実行に移す。
かつての栄光ある戦いから験を担ぎ『リ・オーヴァーロード作戦』と名付けられたこの一連の行動によって連合軍は中央・西ヨーロッパ各地を次々と奪還。確実にジブラルタル基地へと歩みを進めていた。
この記録は、その『リ・オーヴァーロード作戦』中に起きたある戦闘を記したものである。
4/11
フランスエリア 北西部
<敵襲、敵襲ーーーーーーーーっ!>
フランス北西部に広がる、なだらかな地域。かつてフランスという国が存在していたころにその農業生産の多くを担った土地に築かれたZAFT基地の敷地内には、敵襲を告げるサイレン音が鳴り響いていた。
倉庫の中に駐機されていた”ジン・オーカー”や”ゲイツA型”が
この基地が攻撃を仕掛けられるのはこれが初めてではない。攻撃される度に連合軍を追い返してきたのだ。
これはけして連合軍側の戦略が甘いのではなく、基地を指揮するヴィクター司令官の指揮が堅実であったこと、そして連合軍が戦力の多数をフランスエリアとスペインエリアの、かつての国境線を越えるために振り分けていることが原因だった。
ヴィクターは三度目になる連合軍からの攻撃から、何かを感じ取っていた。
「最初は順当に数的有利を活かした攻撃だった。二度目は航空部隊を中核とした波状攻撃……しかし前回の攻撃から3日ほどで三度目の攻撃に移れるとはな」
寡兵が基本であるZAFTからすれば羨ましい速度のスパンだが、この短期間でこの基地を落としきる一手を持ってきたのだろうと思えば、ヴィクターはどうしても不安をならざるを得なかった。
夜間の奇襲ということもあり、何か奇想天外な一手を用意してきたのではないか?
「索敵、怠るなよ。どんな小さな動きも見逃すな!」
<性懲りも無く攻めてくるとはな! お前達、奴らに今度こそ我々の力を教えてやれ! ZAFTのために!>
≪了解、ZAFTのために!≫
ZAFT側は既にMS部隊の展開を終えた。
この基地はヨーロッパの最前線、兵士の士気・練度共にZAFTの中では良質だった。遊撃を担当する”バクゥ”は固まって行動することを避け、2足歩行型のMSは”ジン・オーカー”が背中に背負ってきた、移動設置式簡易防壁を地面に設置する。
これは地上でのMS戦闘、特に防衛線を経験したことのあるパイロット達からの要望を受けて開発された装備であり、旧式化が進んだ”ジン・オーカー”に運搬させるなどして前線に展開、安全地帯を手早く作り出すことが可能となっている。
一兵の損失が連合軍の何倍も影響するZAFTにとって、それを減らせる可能性のある装備の開発を怠る理由は無かった。
<既にその名はエリアとしてしか記されていなくとも、ここは我らの母国!>
≪
<同胞達よ、今度こそ奴らをこのフランスの大地から暗黒の
≪
対する連合軍側も、その士気は十分に高い。
ただでさえロシア派閥と旧EU派閥で水面下で火花を散らしているというのに、そこに唐突に現れた
加えてこの基地の攻略作戦には、フランスエリア出身の兵士達が多く参加しており、士気が上がらない理由が無かった。
そして戦場を駆けるのは、ユーラシア連邦が独自に開発することに成功した量産型MS”へロス”。”ノイエ・ラーテ”という新戦力はあれど、ユーラシア連邦上層部は大西洋連邦にMS開発技術で後れを取ったままでいるつもりはなかったのだ。
アクタイオン・インダストリーやロムテクニカ社、ザスタバ社といった複数の企業の協力を経て開発されたこの機体は、ストライカーシステムを擁する”ダガー”ほどの汎用性はないものの、MSとしての完成度は他の量産型MSと比べてなんら劣っていない。
ZAFT製のMSよりも角張ったモノアイ式頭部と、頭部と同じく角張った装甲はスリムな”ストライクダガー”よりも強固な印象を与え、実際に防御力では同機を上回る。
武装もロムテクニカ社製の『RBWタイプ7001ビームダガー』やザスタバ社製のビーム・マシンガン『ザスタバ・スティグマト』等を備えており、特に『ザスタバ・スティグマト』は1発発射するごとにエネルギーが充填されていた薬莢型パワーセルを排出するという贅沢な仕様となっている。
未だ数が揃わずに大西洋連邦から供与された”ストライクダガー”や“テスター”を使っている部隊もある中で”へロス”が配備されることを、兵士達は上層部から期待の現れであると確信していた。
実態としては期待半分、データ取得目的半分といったところだったが。
<”ノイエ・ラーテ”を忘れてもらっちゃ困るな!>
その後ろには、土煙を上げながら大地を疾走する”ノイエ・ラーテ”の姿もあった。
旧式化した”リニアガン・タンク”のパーツを多く流用可能なこの主力戦車は生産性の良さも相まって、今や地上のどこにいってもお目に掛かることが可能で、ZAFTの兵士はもはや辟易していた。その上、展開した防護壁を数発で破壊してしまうのだからたまらない。
こうして、両陣営の主戦力が戦場に出そろった。
榴弾が空を斬り、弾丸やビームが飛び交い、機獣が大地を疾走する。無慈悲に爆発に吹き飛ばされる者もいれば、砲弾の雨あられをかいくぐって敵部隊に食らいつく者もいる。
この世界では、否、どの世界でもあり得る、ごくありふれた地獄のような光景。しかし、普段と違うところもあった。連合軍側は、積極的攻勢に出ようとしていないのである。
そのことに気づけたZAFT兵は多数いたが、その違和感が何に繋がっているのかを具体的に説明出来る者はいなかった。彼らはあくまで前線で戦う兵士であって、
しかし、その情報はたしかに後方の基地のヴィクターの元に届いていた。
「敵部隊のこの動き方、そして兵士達の違和感……間違い無く奴らはMS部隊を基地から引き離そうとしている。ということは、本丸への強襲が狙いか?」
たしかに本隊を突破することが叶わないならば、考慮するべき戦法かもしれない。
だが、この戦法を実際に行なうにあたり大きな問題が存在している。それは、強襲を完璧に成功させられるだけの戦力を用意出来なければ、戦力の無駄遣いになってしまうことだ。
強襲を行なうとすれば迅速かつ隠密での行動が求められるために大戦力を用意することは出来ない。かといって戦力を絞りすぎても成功確率は下がるばかり。
『個』の力が求められるという点では、むしろZAFTの用いる戦法だった。それを本当に連合軍が採用するだろうか?
「MS隊にはあまり敵に付き合わず、基地から離れすぎないよう───」
「対空センサーに感あり! これは……連合の
「っ、まさか本当に来るとはな……航空部隊は何をやっていた!」
「護衛に阻まれ、突破されてしまったようです」
”インフェストゥスⅡ”は原型機と比べれば完成度がかなり向上した航空戦闘機だが、それでも”スカイグラスパー”を始めとする連合の航空部隊を圧倒するには及ばない。加えて、先日行なわれた防空戦で航空戦力を消耗していたということも大いに影響していた。
どちらにせよ、強襲してきたMSは基地のMSで対処するしかない。幸い、自分の機体も含めそれなりの戦力は保持している。
「私の機体を動かす用意をしておけ! 再度、前線のMS部隊には基地から離れるなと通達せよ!」
「はい! ……待ってください、航空隊より新たな報告!」
その報告は、連合軍が似つかわしくない強襲戦法を断行したことに対するヴィクターの疑念に、答えをもたらすのに十二分な物だった。
「”第08機械化試験部隊”のエンブレムを確認したとのことです! 敵は、『切り裂きエド』と『乱れ桜』です!」
<いやっふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ! 中々スリリングなアトラクションだったなぁ!>
「あら、随分余裕ねエド? 私達の仕事はむしろここからなんだけど?」
<おいおい、余裕に見えるかぁ?>
レナはやれやれと呆れるが、この男はそういえば航空訓練生のころからこんな調子だったということを思い出した。
軽口を叩きながらも、エドワードの駆る”陸戦型デュエル”は丁寧に自分に向かってくるミサイルの迎撃をきっちり頭部バルカン砲でこなしている。
お調子者の素振りを見せながらも、頭の中では冷静に物事を判断している。それでいて”スピアヘッド”の主翼でMSの胴体を切り裂くなどという驚愕の一手が打てるのがエドワード・ハレルソン、『切り裂きエド』という男だ。
もっとも、『切り裂きエド』と呼ばれ、自称するようになった件の事件は本人が二日酔いのために起きたトラブルだったということには頭を抱えたが。
<お客さん、軽口は結構だがそろそろ敵の防空圏に入ることを忘れるなよ!? こっからは降りてくれ!>
SFSのパイロットを担当する兵士から、悲鳴のような勧告が飛び出た。
”陸戦型デュエル”と”陸戦型バスター”の2機を乗せて空を飛ぶのは、東アジア共和国がZAFTのSFS”グゥル”を参考にして開発したSFS”筋斗雲”だ。もっとも、開発したとは言うが原型の”グゥル”の時点でSFSとして必要な要素は満たされていたために、改良型を開発したといったほうが正しいが。
複数で連結することで重MSを運搬可能、乗せているMSへのバッテリー供給機能が追加されるなど追加された機能は多いが、もっとも目に付くのはコクピットの増設だ。
SFSはMSを急速で前線に運ぶのに優秀なツールだが、兵士の多くがナチュラルである連合軍ではパイロットの負担が大きい。それを分担軽減するための措置であった。勿論、無人運用も可能である。
<おう、助かったわ! 帰ったら酒保で何か奢るぜ!>
「あなた、この間たまたま高級な酒が入荷したって時に奢らされてすねてなかった?」
<うっ>
<そりゃいいや! 『切り裂きエド』様からたっぷり奢ってもらうとするよ。……生還のための祈りは要るか?>
SFSのパイロットからの言葉を、エドワードは笑い飛ばした。
<いんや、要らないな。───それよりか、戦果を挙げてくることを祈ってくれよ>
生還するのは当然だ。それを為した上で活躍出来るからこそ『エース』なのだから。
<そうだな、そうするわ! そんじゃお2人さん、戦果を期待してるぜ!>
「期待に応えてみせるわ。いくわよ、エド!」
<ダイナミックエントリーだ、おらぁっ!>
そして、2機の巨人は”筋斗雲”から飛び降りた。
当然、基地の防空設備から放たれた対空砲火が両機に襲いかかるが……。
「ぬるいわね。やはり先の攻撃での影響が響いているのかしら?」
<”インフェストゥスⅡ”の攻撃も大分柔かったしな>
事前に行なわれていた2度の攻撃で、基地の戦力も消耗していたらしく、抵抗は少なく感じられた。それでも大抵の兵士は身震いしてしまうほどの弾幕だが、”マウス隊”として常に最前線で戦い続けてきた2人からすれば、大したものではなかった。
地面に降り立った”陸戦型デュエル”は、なんとライフル類の武器を持っていなかった。ビームライフルが無いにしても、何かしらの実弾武器は持てただろうにも関わらずである。
しかし、『切り裂きエド』を知っている者は口を揃えてこう言う。「奴にはそんなものよりも剣を持たせておいた方が強い」と。
<おらおら、そんなんじゃ俺の斬艦刀は折れねえぞ!?>
エドワードの”陸戦型デュエル”は彼に併せて接近戦に強く調整された機体であり、その中でも目を引くのは、エドワードがもっとも愛用する武装である試作斬艦刀二型『バルザイ』は刀身の幅が広い
耐久性に問題のあった一式斬艦刀に対してこの装備は、刀身に対ビームラミネートコーティングを施すことで、シールドのように扱うことが可能となっている。
エドワードはこの装備を盾のように構えながら切り込むことが常套戦術であり、単純な力押し故に対策を立てても突破されることが多いことから、ZAFTパイロット達を悩ませている。
一定の距離を進んだ後、”陸戦型デュエル”はスラスターを吹かしてジャンプし、敵部隊の上方に躍り出る。一見して空中で敵から狙い撃ちされるような迂闊な行動だが、これにもきちんと意味はある。
「そこっ!」
飛び上がった”陸戦型デュエル”に気を取られた隙を突き、レナの駆る”陸戦型バスター”の砲撃が襲いかかる。
”陸戦型バスター”の主兵装は肩越しに砲身が突き出た125mm2連装高エネルギー長射程ビーム砲 『シュラーク』であり、突然の奇襲かつ予備戦力として留められていたMS程度は一撃で破壊出来る威力を持つ。
その他、右手に持つバズーカ『トーデスブロック』も、PS装甲機以外は全てのMSを破壊可能な威力を持っている。
続けざまに放たれる砲撃に気を取られれば、今度は上空から襲いかかる斬艦刀によって、数少ない”ゲイツ”が両断される。
「戦場では常に複数の方向に気を配る。……高い授業料になったわね?」
蹂躙。まさにその言葉が相応しかった。エドワードとレナ、両名の高い個人スキルと機体特性ごとの役割分担が完璧に嵌まっている瞬間である。
宇宙と地上に分かたれようと、その威光に陰りは無かった。
”マウス隊”、地上にて戦えり。
「すげぇ……これが、MSの視点からの戦場かよ……!」
ジェス・リブルはMSのコクピットから圧巻された声を漏らした。
先の第2次ビクトリア攻防戦において、ジェス・リブルは
『この光景は、この光景の
思い立ったが吉日、ジェスは自分が取りうるあらゆるコネクションを総動員して、自分にMSを提供してくれる存在を探し求めた。巨人が走り回る戦場に立つのに、生身の身体はあまりにも貧弱だと思ったからだ。
勿論、一朝一夕で解決することではなかった。勢いだけの新人ジャーナリストにMSなんていう高価な代物を貸すような人物なんてそうそう現れなかった。
『───いい目をしているわね』
1人の
マティアスと名乗ったその男は、男性でありながら女性のような口調で話すという変わったところはあったが、ジェスの無謀な試みに理解を示し、支援を約束してくれたただ1人の人物だった。
ジェスが今こうしてMSに乗っていられるのも、マティアスがジャンク屋に働きかけてMSを調達、連合軍からも撮影・従軍に必要な許可を取ってくれたからである。
なぜ、一介の新人ジャーナリストにここまでしてくれるのか。そう聞くと、彼はこう返答した。
『初めてあった時にも言ったでしょう? その目、真実を見たいって目が気に入ったのよ。それが納得出来ないなら、未来の敏腕ジャーナリストへの先行投資だと思いなさいな』
正直、何が彼の興味を引きつけたかにはピンとこなかったが、それなりには期待を寄せてくれているのだということは分かった。
受けた恩は、働きで返すしかあるまい。
<おい、”テスターヘッド”のカメラマンさんよ! 戦線が上がった、俺達も行く! 来るなら好きにしな!>
ジェスの乗る機体は、頭部の破損した”ジン”に”テスター”の頭部を付け、OSもナチュラル用の物を積んだパッチワーク品だ。”テスターヘッド”呼ばわりはそういう意味である。
性能は良くないが、基本的には非戦闘員だし、連合軍からも少しは気に掛けてくれているのか、いつでもMS隊がカバーに入れる位置に置かせてもらった。
「勿論行くけど、何があったんだ!?」
<本命の強襲が成功した! 敵司令部と前線との連携が途絶えて、今が攻め時なんだよ!>
ジェスの近くに配置されていたMS隊の隊長が駆る“へロス”が前進し、僚機もそれに追従する。
戦場カメラマンとしての表示はMSに施しているが、それでもたった1人で戦場を駆けるだけの勇気は無かったジェスは、大人しく彼らに付いていくことを決めたのだった。
<やってくれたな、ネズミ共!>
「うおっ!?」
敵基地で大立ち回りを演じていたエドワードだったが、それは不意に横合いから射かけられたビームによって中断させられた。
これまでの直感に従ってビームの飛来した方向に剣を振ると、耐ビームの刀身とビームサーベルが激突する。
現時点のZAFTでビームサーベルが装備されている機体は少なく、それを装備しているというだけで手練れの証明となっていた。
「”アイアース”タイプ……ボスのお出ましか!」
<もはや基地の陥落は時間の問題だ……その前に、貴様の首は貰っていく!>
ビームサーベルと盾を構える”アイアース”を操るのは、この基地の司令であり、同時に歴戦のMSパイロットでもあるヴィクター。彼はこの基地の維持が不可能であると判断すると、基地内の兵士に撤退を命じ、自分は
<エド!>
「レナ、こいつは俺がやる! あんたは他のMSを頼む!」
エドワードは、ヴィクターとの一騎打ちに持ち込むことにした。
ヴィクターは人望も厚く、撤退命令を受けても共に最後まで戦おうという部下が一定数存在していた。レナに頼んだのは、部下達とこの強敵が連携して襲ってくることを避けるためである。
<任せたわよ!>
「任され……た!」
次にエドワードが選択したのは、なんと愛用の斬艦刀、『バルザイ』を投げ捨てることであった。代わりに、両腰にマウントしていた2本の短剣を掴み取る。
『ロイガー&ツァール』、”マウス隊”で開発された二刀一対の実体剣であり、これも刀身に耐ビームコ-ティングが施されている。
動きが大ぶりになる『バルザイ』よりも、こちらの方が適していると判断したのだ。
<ほう、PS装甲の”アイアース”に実体剣か……>
それを見たヴィクターは、しかし警戒を露わにする。
装甲の合わせ目を攻撃することで敵機の防御を無視する『
<相手にとって不足無し……!>
「いくぜぇ!」
”陸戦型デュエル”が”アイアース”に斬りかかる。
両手にそれぞれ構えた短剣による連撃が敵を打ち倒さんと繰り出されるが、ヴィクターはそれらの攻撃を、時に盾でいなし、時に右手から伸びるビームサーベルで反撃を行なうことで防ぐ。
手数では劣っているが、MSによる近接戦の基本を押さえたベテランの技巧。しかし、ヴィクターが相手取っているのもまた、連合軍MSパイロットの中でもトップクラスの近接戦能力を持つエドワード・ハレルソンなのだ。
次第にエドの勢いに押し込まれつつあること、そして僚機の数が確実に減っていることを理解したヴィクターは、エドワードに
<”アイアース”にはぁっ!>
「やべっ!?」
”アイアース”の原型機となったのは連合から一度奪取された”イージス”、そしてその改良コピー機である”ズィージス”。そして”イージス”の系統機は、腹部にビーム砲が内蔵されているのだ。
盾で短剣による攻撃を防いだ時にバックステップをした”アイアース”は腹部ビーム砲を発射した。至近距離での不意打ち気味の一撃だったが、エドワードはこれを回避した。
それくらいはやるだろうと思っていたヴィクターは、続けざまに背部8連装ミサイルポッドからミサイルを発射、”陸戦型デュエル”が爆風に包まれる。
エドワード相手に近接戦はやはり危険であると判断したヴィクターは、エドワードと距離を取り、右腰のバインダーに懸架していたライフルでの射撃戦に切り替えることを選んだ。先の攻撃はその時間を作り出すために行なったものである。
しかし、その目論見は煙の中から飛来してきた2本の短剣によって実現しなかった。
<なにっ……!?>
冷静に考えれば、投擲された実体剣程度は”アイアース”には何の問題にもならない。そのまま装甲で受け止めてライフルに持ち替えれば済む話であった。
しかし、ヴィクターは反応した。
攻撃を防ぐために盾を構えると、今度は黒々とした質量が爆炎を裂いて飛来する。
高速で飛来したそれは、回転する棘の付いた鉄球だった。それはあろうことか着弾した”アイアース”の盾を粉砕し、”アイアース”本体をも吹き飛ばしてしまう。
鉄球にはワイヤーが繋がっており、辿った先に立っていたのはやはり”陸戦型デュエル”。
破砕球『ミョルニル』。”陸戦型デュエル”が後腰部に懸架していた武器であり、先日届いたばかりの新装備である。
左手に持つ『ミョルニル』の持ち手を放り投げ、”陸戦型デュエル”はビームサーベルを手に持って体勢の崩れた”アイアース”に迫る。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」
<くっ……!>
両者の影が、交差する。
”陸戦型デュエル”はその左肩が粒子で焼かれ、傷痕が付けられた。。
そして”アイアース”は、胴体を斜めに切り裂かれていた。
<見事だ……!>
最後に、名前も知らない敵パイロットの賞賛を、エドワードは聞いた気がした。直後、”アイアース”が爆散する。
レナを相手に戦っていたMS達はそれを見ると、投降し始めた。
それが、ヴィクターの最後の命令だったために。
<お疲れさま、エド>
「ふぅ、う~。かなり強かったぜ」
ライバル視している『黄昏の魔弾』、ミゲル・アイマンの鮮烈な戦い方とはまた違う、熟練の戦い方だった。自分が負けていたとしてもおかしくなかった、とエドワードは思い返す。
とはいえ、自分は勝利したのだ。ならば、今はそれ以上を望むまい。
<これで、酒保での驕りは確実ね>
「げっ、忘れてたかったのに……」
レナのからかいに苦笑していると、ふと、奇妙なことに気がついた。
急速にこちらに向かってくる反応があるのだ。しかも、その反応の近くに存在していたMSの反応が片っ端から消えていく。
「待て、何かおかしいぞ」
<えっ? ……コマンダー! IFFに応答の無いMSの反応が近づいている!>
事態の異常性に気付いたレナも、コマンダー、つまり司令部に問い合わせを掛ける。
しかし、帰ってきた答えは求めていた情報の内、最低限の物しか寄越さなかった。
<こちらコマンダー! 詳細不明、こちらでも確認中!>
<応答せよ! こちら地球連合軍”第25機械化混成大隊”司令部、所属不明機に告ぐ、直ちに応答せよ!>
通信先からもたらされたのは、『正体不明』、ただそれだけの情報であった。
これにより、エドワードとレナは先ほど下げた警戒レベルを一気に最大まで引き上げることとなる。
「ちくしょう、いったい何のお出ましだってんだ!?」
<迎撃態勢! ───来るわよっ!>
そして、『それ』は現れた。
「大隊長、敵基地より降伏信号が発振されました」
少々時間は遡り、ここはZAFT基地攻略臨時司令部。
輸送機や輸送車両、戦車などが集まったその場所に築かれた仮設司令部にて、ジュールス少佐は手を胸に当ててホッと息を吐く。
「ついに攻略出来たか。手強い司令官だった……“マウス隊”が駆けつけ無ければもっと苦戦していたやもしれん」
現在の”マウス隊”地上派遣グループは、試作された武装の試験を行ないながら各地を転戦する遊撃部隊のような役割になっていた。今回の作戦も、近場にやってきていた彼らにジュールスが声を掛けて引っ張ってくることで実行に移されたのである。
「まずは、戦場で散っていった兵士達に哀悼の意を……。そして。
───功績獲得を祝して乾杯といきたいところだな!」
ジュールスという軍人がどういう人物なのかが込められた言葉であった。
人間として、軍人としての基本的モラルを遵守しつつ、「作戦が成功した後の自分への栄光」への憧れを隠そうともしない図太さを併せ持つ人物。
ZAFT? まあたしかにムカつくにはムカつくが、戦闘終了したらきちんと捕虜として扱ってやるとも!『捕虜にも誠実な軍人』の名声も欲しいしな!
このように、俗物ではあるがそのことを醜く取り繕うとはしないし、部下達への応対も極めて真っ当。ついでに、グレーの髪を短く切りそろえるなど身だしなみ、ルックスもそれなり。
良くも悪くも、人間臭い人物であり、人望もそれなりにある司令官だった。
だから。
「ん? ……これはなんだ?」
「どうした?」
「ああ、司令官。奇妙な反応がありまして……」
これは面白く無い、とあからさまにジュールスは顔を顰めた。
せっかく理想的に物事が進み、後は凱旋するだけだというタイミングで謎の存在の出現など面白い筈も無い。
「MSのようですが、IFFに応答ありません。しかも、ZAFT軍基地に向かっているようです……はぁ!?」
「何があった!?」
驚愕の声を挙げるオペレーターに、ジュールスも声を大きくしてしまう。
そして続いて耳に飛び込んできた情報は、驚愕のものであった。
「あ、アンノウンは敵基地に直進しながら、進路上のMSを次々と撃破しているんです! ───
「なんだと!?」
戦況を把握するためのマップを見ると、次々に反応が消えていく敵MSの反応と、撃墜はされていないものの動きを止める味方MSの反応が、どんどんと増えていく。
意味不明な状況に、ジュールスはぷるぷると震え、そして叫んだ。
「おま、お前ぇ! ───俺達の戦争を無茶苦茶にするなぁ!」
時間は戻り、アンノウンはその姿をエドワード達の前に晒した。
「あれは……」
<蒼い……”須佐之男”?>
その姿は、所々細かい差異はあれど、東アジア共和国の開発したMSの”須佐之男”に違いなかった。
強烈な違和感を感じさせる原因は2つ。
1つは、その全身が『蒼』に染まっていたこと。
そして。
───その右手に、ちぎり取ったであろう”テスター”の頭部を掴んでいたことである。
「こいつは、いったい───!?」
Confimation now․․․
reaction level․․․OK
decision level․․․OK
battle level․․․OK
complete
Plant system type『grief』․․․ active
『戦争』が、『蒼』に塗りつぶされていくというお話。
近日、後編を上げます。
今回、「第三回オリジナル兵器リクエスト」から一つ、アイデアを採用させていただきました!
「taniyan」様の「東アジア製SFS」です!
素敵なアイデア、ありがとうございます!
誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。