パトリックの野望 外伝・設定倉庫   作:UMA大佐

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番外編12「Thunder clap」後編

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フランスエリア ZAFT軍拠点

 

その場所では、つい先ほどまで『戦争』が行なわれていた。

『戦争』。2つ以上の勢力が、それぞれの目的を達するために、自分以外の勢力から資源(リソース)を奪い、そして奪われることで行なわれる、人類最大の政治活動。

ある者は愛国心のために。

ある者は金のために。

ある者は誇りのために。

様々な思いを持つ者達が時に協力し合い、時にぶつかり合い、時に勝利に喜び、時に敗北の涙を流す。それが戦争だ。

ならば、今この場で行なわれている行為は。

絶対に、『戦争』と呼んではいけないものだった。

 

「───クソっ! なんだってんだこいつは!?」

 

愛機である”陸戦型デュエル”に二本の短剣を構えさせ、目の前の蒼い”須佐之男”の振り下ろした実体剣を受け止めるエドワード・ハレルソン。その声色からはどうしようもない困惑と、得体の知れない存在に対する恐怖がハッキリと感じ取れた。

つい5分前のことである。基地司令の駆るものと思しき”アイアース”を撃破した直後に、この機体は現れた。

全身を蒼く染めたその機体はたしかに東アジア共和国が開発した主力MS”須佐之男”に違いなかったのだが、その右手に持っていたもの───もぎ取られた”テスター”の頭部が、蒼い“須佐之男”が警戒しなければいけない存在であることをひしひしと告げている。

エドワード、そして共にこの基地を強襲したレナ・イメリアの2人が応戦態勢を取ると同時に蒼い”須佐之男”も”テスター”の頭部を放り捨て、背中のウェポンラックから、やはり東アジア製の実体剣を手に取り、エドワード達に向かって斬りかかり、そうして現在の場面に至る。

 

<エド、離れなさい!>

 

レナの声を聞いたエドワードは咄嗟にスロットルを倒して蒼い”須佐之男”を押し返し、バックステップで距離を取る。次の瞬間、蒼い”須佐之男”に向けてレナの駆る”陸戦型バスター”の両肩の砲からビームが放たれた。

いずれ新型のGATシリーズに搭載される装備でもあるビーム砲『シュラーク』の威力は一般的なビームライフルを上回る。これが命中すれば、胴体がPS装甲製の”須佐之男”といえどひとたまりもない。

しかし”須佐之男”は驚異的な反応速度でしゃがむことでそれを回避、それどころか姿勢を低くしたまま、レナの方に向かって加速する。

 

<っ、この!?>

 

地面すれすれを這うように”須佐之男”は”陸戦型バスター”に迫る。その様子を例えるのなら、獲物に襲いかかる小型肉食獣が一番近いだろう。

その勢いのままに実体剣を切り上げる”須佐之男”。PS装甲の御陰でダメージは無いが、その衝撃によって”陸戦型バスター”はよろけてしまう。

 

「やらせるかよ!」

 

このままでは”須佐之男”が両腰に備えるビームサーベルによってレナが撃墜される。危機感を抱いたエドワードは”陸戦型デュエル”が両手にそれぞれ持つ短剣を牽制に投擲した。

レナが態勢を立て直すまでの隙を作れればいい。そういった考えで放たれたものであったが、意外なことに”須佐之男”はその攻撃を避け、エドワード達と距離を取る。

 

「レナ、無事か!?」

 

<ええ、”バスター”のおかげね>

 

エドワードの声がけに気丈に返事をするレナ。

とはいえ、危機から脱したというわけではない。むしろこれで、あの機体が”陸戦型バスター”のような重火力支援機では対応出来ない速度で襲い来るということが判明してしまったのだ。

あの敵を相手には、”陸戦型バスター”が肩に担いだ『シュラーク』は重石でしかない。そう考え、レナは決断する。

 

<エド、悪いんだけどサーベルを1本貸してちょうだい>

 

「いいけど、やれるのか? ありゃ”デュエル”でもかなり苦労するんだぜ?」

 

<そこは()でカバー、かしらね>

 

レナはそう言いながら”陸戦型バスター”と『シュラーク』の接続を解除し、機体の重量を軽くする。

そして”陸戦型デュエル”から受け取ったビームサーベルを起動し、蒼い”須佐之男”に向けて構えた。

 

<どちらにしろ、もうしばらくすれば本隊がこの基地に到着するわ。最悪それまで時間を稼ぐだけでいい>

 

「時間を稼ぐ、か……。こいつ(デュエル)に乗るようになってからは、大分懐かしい感覚だな」

 

エドワードも、ぼやきながらもビームサーベルを起動して”須佐之男”に向き直る。

これでも、”マウス隊(トップエース部隊)”としての自負があったのだ。そんな自分と、()()()には自分以上の実力者であるレナが2人揃って、時間稼ぎ。それも、たった1機を相手にしてだ。

世の中は広いものだ。エドワードは強敵との連戦を、冷や汗を掻きながら歓迎した。

 

「───やってやろうじゃねぇか。いきなり出てきてひっかき回してくれたツケは払ってもらうぜ」

 

<行くわよ!>

 

迫り来る2匹のネズミを、蒼い”須佐之男”は『八相の構え』を取りながら迎え撃つ。

その動きは巨大なロボットのものというよりも、人間がそのままMS大に巨大化したような滑らかさで行なわれる。それがエドワードとレナには、途方も無く不気味に感じられたのであった。

 

 

 

 

 

「うっ……いったい、何が……?」

 

エドワードとレナが正体不明の機体と戦い始めた頃、ジェス・リブルは薄暗い空間で目を覚ました。

視界はボンヤリとしている上に、頭には鈍い痛みが奔っている。ズキッ、という痛みに呻き声を挙げていると、段々と記憶が蘇ってきた。

 

「そうだ……あの、蒼いMS」

 

護衛役を買って出てくれた連合のMS部隊と共に制圧されたZAFT軍の拠点に向かっている時のことだった。突如として後方から出現したその機体はたちまちに連合MS部隊を蹴散らしたかと思うと、続けざまに自分にも襲いかかってきたのだ。

反応すらほとんど出来なかったジェスにはあずかり知らぬことではあったが、そのMSは瞬時にジェスの駆る”テスターヘッド”から頭部をもぎ取るついでに”テスターヘッド”を蹴りつけた。“テスターヘッド”が倒れ込んだ時の衝撃でジェスは頭を打ち付けて気絶し、そして今、目を覚ましたというのがこの場面に至るまでの経緯となる。

戦闘前に整備スタッフから頭部保護のためのヘッドギア装着を勧められたが、視界の邪魔になるからと断るんじゃなかった。

軽く後悔しながら機体の状態をジェスが確認すると、頭部が全損しているという表示が為された。仕方なしにサブのカメラを起動すると、自分と同じように行動不能にされたMSや、そのコクピットから脱出し、この後どうしようかと話し合っているパイロットの面々が見えた。

 

「……」

 

本来ならば、自分も機体から降りて彼らに無事を報告し、救助を待つべきなのだろう。

しかしジェスは、自分の中の野次馬根性が疼いているのを感じ取っていた。あの蒼いMSの『謎』を暴きたいとも、良いようにやられっぱなしでいたくないという意地もあった。

幸か不幸か、頭部以外に破損している場所は無い。そして自機の右腕には、ジャーナリストの魂とも言えるガンカメラが無事に残っている。

 

「───ごめん!」

 

ジェスは”テスターヘッド”を立ち上がらせ、そのまま機体を基地の方に向けた。

モニターの端には、いきなり立ち上がった”テスターヘッド”に驚くと同時に、立ち止まるよう制止を呼びかけるパイロット達が映っているが、ジェスは気にせずに機体を進ませる。

その先にあるモノの、『真実』を暴くために。

 

 

 

 

 

「こいつ……なんて奴だ!」

 

場面は再び、ZAFT軍拠点。

エドワードは、ギリリ、と歯を鳴らした。

先ほどからレナと共に連携して白兵戦を挑んでいるが、目の前の蒼い”須佐之男”はその攻撃の尽くを避け、反撃までしてくるのだ。信頼するレナと2人がかり、だというのに。

また、エドはここまでの戦闘でその動きの()()()にも気づいてきた。

───こんなもん、ナチュラルだコーディネイターだのレベルじゃねぇ!

MSが如何に優れた人型兵器であるとはいえ、どこまでいってもそれは、人間の使う機械だ。その基本動作はあらかじめプログラミングされたOSの中から選び取り、それを機体側に反映させるという形で成立している。

なのに目の前のこの得体のしれない機体は、スラスターを巧みに使ってこちらの背後を取ろうとしたり、空中で体をひねりながらハイキックをたたき込む、いわば延髄斬りのような芸当をやってのけてくるではないか。

以前、”テスター”も出来上がっていない時期にエドワードがアイザックに見せられたように、手動で複雑な操作をしているという可能性もあるが、それはコーディネイターでも苦労するような芸当だ。

あらかじめモーションを組んでいるとしても、やはりあのような普段は使わない動作を複数プログラム内に組み込み、咄嗟に選択しているということになる。どちらにせよ、常人からは激しく乖離していると言わざるを得ない。

なお、エドワードもレナも、けして全力では無い。

情報を得るために生け捕りを狙っているから、というのもあったが、不測の事態に備えて最後の最後まで余力を残しておくという戦い方が染みついているからだ。これは、MSのサポート態勢が整っていなかったころから戦い続けてきた”マウス隊”では共通のクセであったりする。

しかし、たとえ2人で全力を出し切ったとしても、目の前の機体を倒せるかどうかは分からなかった。

それだけの、底知れぬ力を、目の前の機体は秘めていた。

 

「なあ、レナ……こいつは」

 

<ええ。やる気が無い……じゃ、無いわね。何かを探っているような……?>

 

加えて、蒼い”須佐之男”はエドワード達が何度か隙を作った───勿論、ブラフ(誘い)も何割か混ざっているが───その時も、攻撃せず、距離を取ることを優先しているのだ。

まるで、エドワード達を観察するかのように。

 

「埒が開かねえ。レナ、作戦とも言えないものを思いついたんだが、聞いてくれるか?」

 

<言ってみなさい、採点してあげるわよ>

 

エドワードが話した作戦、それは作戦というには単純だったが、それ故にわかりやすく、速攻性があった。

 

<やってみる価値はあるかもね……>

 

「だろ? じゃ、いくぜ!」

 

エドワードは言うやいなや愛機のスラスターを吹かし、蒼い”須佐之男”に向かっていく。

ここまでの戦闘で、目の前の機体がエドワード達の()()を探ろうとしていることを確信したエドワードは、目の前の敵はこの突進を避けるのではなく、こちらを迎撃しようとするだろうと予想していた。

予想通り、蒼い”須佐之男”は実体剣を両手で構えて迎え撃つ姿勢を見せた。正にその時である。

”陸戦型バスター”がミサイルを放ったのだ。あろうことか蒼い”須佐之男”の方向、つまり仲間の”陸戦型デュエル”が突進する方向に向けてである。

異質極まる蒼い”須佐之男”も、仲間を巻き込んだ攻撃には動揺したのか、若干の硬直が発生した。

 

「いけるっ!」

 

エドワードはその勢いのまま蒼い”須佐之男”に斬りかかる……と見せかけてその脇を素通りし、その先に置かれていた()()()の元までたどり着いた。

直後、蒼い”須佐之男”の周りに真っ白な煙が立ちこめる。

そう、”陸戦型バスター”から放たれたのは仲間を巻き込んでの攻撃ではなく、”須佐之男”の視界を奪う煙幕弾だったのである。

レナはこの作戦が始まる前にエドワードとの連携を意識して、”陸戦型バスター”の両肩に存在するミサイルポッドの左側にこの煙幕弾を装填していた。

そのことを知っていたエドワードは自分ごと巻き込んだ射撃と見せかけた行動を取り、結果、”須佐之男”は煙に取り囲まれて視界を奪われる状況を作り出すことに成功したのである。

肝心の”須佐之男”は、煙の中から脱出しようと機体を横っ飛びに移動しようと試みようとした。

しかしその行動は、左側の横合いから煙を裂いて飛来した物体───エドワードが先の”アイアース”との戦闘で使用し、放り投げられたままとなっていた破砕球『ミョルニル』によって遮られる。

驚異的な反応速度を持つ”須佐之男”といえど、攻撃が見えなければ回避のしようがない。左腕の側面で受け止める形になった”須佐之男”はその勢いのままに吹き飛ばされ、施設内の建物に機体を打ち付けられた。

 

「いよっし、作戦成功だぜ!」

 

エドワードは先ほどの一撃から、確かな手応えを感じ取っていた。

確実にたたき込んだ。機体自体は無事だとしても、『ミョルニル』の直撃と建物への激突による二重の衝撃を受けてしまえば、如何なパイロットでも気絶は免れない。

後は拘束するなりコクピットをこじ開けてパイロットを無力化するなり好きに出来る。そう考えていたエドワードだったが、次の瞬間、目を見張ることとなる。

立ち上がったのだ。左腕がひしゃげ、動きも若干鈍くなったように見える状態で。

蒼い”須佐之男”は、立ち上がったのだ。そのツインアイを、()()()輝かせながら。

 

「……っ、なんなんだお前はぁ!」

 

ここまでくれば不気味とかそういう感情を超えて、恐怖を覚える。

恐怖のままにエドワードは『ミョルニル』を射出するが、あろうことか蒼い”須佐之男”は、無事な右掌でその硬球を受け止める。

高速回転しながら受け止められた硬球は、しかし確実にその勢いを弱めていく。

 

「は、はは……流石に笑っちまう、な?」

 

静止した硬球を放り捨て、遂に腰から、ここまで一度も使わなかったビームサーベルを抜き放った蒼い”須佐之男”。

通常のMSを容易に粉砕しうる『ミョルニル』の一撃を、あろうことかこの機体は片手で受け止め、更に戦闘を継続する意思を見せたのだ。

エドワード、そしてレナは、この時、この蒼いMSの形をした『恐怖』を前にして、死を覚悟した。

 

 

 

 

 

various data collected.(各種データ収集完了)

can't confirmation the 『factor』.(『因子』は確認出来ず)

necessity of battle continuation……nothing.(更なる戦闘継続の必要性……認められず)

shift to extermination stance for evidence destruction(情報抹消のため、殲滅態勢に移行します)

 

 

 

 

 

エドワードが瞬きをした瞬間、目の前から”須佐之男”は()()していた。

いや、スラスターの燐光がモニターの端に映っていたために、消失したのではない。───消えた、と錯覚するほどのスピードで移動したのだ。

 

<きゃあっ!?>

 

「レナ!?」

 

視線を移すと、ビームサーベルを振り下ろした体勢になっている蒼い”須佐之男”と、エドワードから借りたビームサーベルを保持していた右腕を溶断された“陸戦型バスター”の姿がそこにはあった。

”須佐之男”は間髪入れずに両脚で”陸戦型バスター”を蹴りつけ、その勢いのままに宙を駆ける。

完全に動作しなくなったと思しき左腕を揺らしながら動き回る様は、再びエドワードの正気を削り取っていった。

 

「くそ、くそ、くそ……!」

 

そのまま”須佐之男”は、”陸戦型デュエル”の周囲を飛んだり跳ねたりし始めた。

邪魔をする”陸戦型バスター”を無力化した今、いまや蒼い”須佐之男”にとって脅威になるのは”陸戦型デュエル”のみ。

探っているのだ。エドワードを確実に仕留めることの出来る、その時を。

エドワードはけして反応速度に優れたパイロットではないが、歴戦の兵士としての勝負勘を最大限発揮してその姿を追う。

しかし、それにも限界が訪れる。

エドワードが肉体的、精神的疲労によって集中力を切らした瞬間、ついにエドワードは完全に”須佐之男”の姿を見失った。

 

(あ、こりゃ死んだな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<後ろ、斜め上だ!>

 

「っ!」

 

不意に響いた男の声。聞いたことがあるような、無いようなその声は、たしかに方向を指示していた。

無我夢中だった。もはや死を受け入れて呆然としていたエドワードは、しかし無我夢中でありながらも体に染みついた動作を行ない、その言葉が示した方向に向かってビームサーベルを振った。

はたして、そこに蒼い“須佐之男”がいた。

背後から飛びかかり、注意の全く向いていない状況で、”陸戦型デュエル”の頭部から股部まで串刺しにしようとしていた”須佐之男”は、しかし再び驚異的な反応速度を発揮。

回避しきれずに右手首から先を切り裂かれ、遂に頭部のバルカン砲を除く全攻撃手段を失った”須佐之男”は、なおも戦闘の継続の意思を示し、

───しかし、まるで何処からか指示を受けたかのようにピタリと動きを止め、”陸戦型デュエル”に背を向けてこの場を急速に離脱していった。

後に残されたのは破壊されたZAFT軍拠点と、呆然とするエドワードとレナ。

そして、エドワードが串刺しにされようとしたその直前にこの場所にたどり着き、その手に持ったガンカメラでたしかに蒼い”須佐之男”の姿を捉えた、頭部の無い”テスターヘッド”を駆るジェス・リブルのみであった。

 

 

 

 

 

4/12

フランスエリア ZAFT基地攻略臨時司令部

 

「……今、なんと?」

 

<何度も言わせるな。今回の作戦に、蒼い”須佐之男”タイプなどは存在していない>

 

ジュールス少佐は、見事にZAFT基地をその手腕で攻略してみせたその男は、ポカンと口を空ける間抜けな姿を晒してしまっていた。

せっかくの祝勝ムードを盛大にぶち壊してくれた不埒者許すまじ。

怒りに震えながら、エドワードやレナといった目撃者から集めた情報を元に上層部に対して報告、情報収集並びに追撃の許可を取りたいという旨を伝えた結果、モニターに映っている軍帽を深く被った大佐格の男から返ってきた言葉がこれだ。間抜けな姿を晒したとしてもしょうが無いと言える。

 

「そ……そんな馬鹿な話があってたまりますか! 現に我が隊からは損害が生まれています! 目撃証言も多数存在しています!」

 

<知らんな……宇宙人共との戦闘で生まれた被害を誤認でもしているのではないかね? あるいは戦場で集団パニックにでも……>

 

「そんなもので誤魔化されると思うのですか!」

 

怒りに震え、思わず相手が上官であるにも関わらず声を荒げるジュールス。

しかしその剣幕は、通信先の男が軍帽をチラと挙げ、冷徹な視線を向けたことで遮られる。

 

<君は優秀な指揮官だ、と記憶しているがね。……これ以上は、()()()()()()()()()()()()()()

 

「っ……。……ですが、あの機体、あれは”須佐之男”です。このフランスの、ヨーロッパの地で、()()は」

 

<それ以上は、口にしないのが君のためだ。……最後に1つ、忠告しておこう>

 

今やこのヨーロッパという地は、『第2の世界の火薬庫』となっているのだよ。

男はそう言って、通信を終了してしまった。モニターから光が消え、部屋の中が薄暗くなる。

 

「……」

 

ジュールスは歯がみをしながら、苛立ちを紛らわすために床を思いっきり蹴りつけた。

『ヨーロッパの火薬庫』、と聞かされてしまえば嫌でも察する。

要するに、先の戦闘も、この広い大地で密かに繰り広げられる、各国のパワーゲームを構成する要素の1つでしかないのだ。

ユーラシア連邦の中で最も大きな発言力を持つ『ロシアエリア勢力』と、そんなロシアエリアが目障りな『旧EU派』が、水面下で権力闘争やいずれ来たる()()に向けての準備を行なっていることを知る人間はそれなりにいる。

ここで肝となるのが、()()()()()()()()()()1()()()()()()()、ということだ。

旧EU派だけでロシアを打倒しようとする派閥が主流だが、時折『他国からの介入介助も必要ならば目をつむる』という主張を持つ者達がいる。

先ほどの不自然な上官の態度も、彼があの蒼い”須佐之男”を製造した勢力と何かしらの密約を結んでいるというのであれば、歯車が噛み合うのだ。

あの蒼い”須佐之男”は、そうまでして守る価値があるらしかった。

 

「そんなことをやっている場合か……!」

 

たしかにいずれは必要になるのだとしても、彼らは優先順位を違えている。

今戦っているのは、何だ?───知れたこと、ZAFTだ。宇宙で好き勝手している植民地人共だ。

あのような、敵も味方も関係無く、謎と不気味さと被害だけを生み出していくMSが存在しているというのが、ジュールスにはたまらなく不愉快に思えた。

だが、収穫もあった。今回の出来事の裏には、蒼い”須佐之男”を製造し、『旧EU派』の一部と共謀している勢力が存在しているということだ。

そして、”須佐之男”を製造している勢力は1つだけ。

 

「いつかそのツケを払う日が来るぞ、東洋のサル共……!」

 

 

 

 

 

「あっ、いた。オーイ、ちょっと待ってくれ!」

 

戦闘が終了して、数時間が経過していた。

エドワードとレナが簡単に報告書を作成し、休める場所に向かっている最中、駆け寄ってくる男がいた。

その男は首からカメラを提げた、一見して報道関係者と分かる風体だった。

 

「ん、お前は……」

 

「っと、直接は初めましてだ……ですね。俺はジェス・リブル、フリーのジャーナリスト……です」

 

「ああっ、”テスターヘッド”の! さっきはマジで助かったぜ、サンキューな!」

 

目の前の男が自分達の命の恩人であることを理解したエドワードは手を差し出し、握手を求めた。ジェスは僅かに躊躇するが、しっかりとその手を握り返す。

 

「いや、あれは偶然、別の方向から見ていたから出来ただけで……」

 

「その()()に助けられたのが俺だぜ? 礼は素直に受け取っとけよ。それにさっきから話辛そうにしてるし、敬語は無しでいいぜ」

 

「そうか? じゃあ、ため口で」

 

2人の間に朗らかな空気が漂う。立場も場所も違えど、同じ時間に戦場を生き延びた者同士、遠慮の必要は無かった。

しかしエドワードも、そしてレナも疲労困憊。この後の任務に備えて休息を採る必要もある。

用事があるなら早く済ませてもらわなければ。レナは口を開いた。

 

「さっきのこと、私からも感謝するわジェス・リブル。でも私達もこの後色々予定があってね……用事があるなら、話してちょうだい」

 

「ああ、それは悪いことをしたな。スマン、用事ってのは、これを渡しに来たんだ」

 

そう言いながら、ジェスは懐からある物を取り出した。

それは、酒保で売っているような安物のタバコの箱だった。

 

「あー、俺達はタバコはやらないんだが……」

 

「あんた達も、()()()()のデータ、消されたんじゃないか?」

 

小声でジェスが話した内容に2人は眉をひそめた。

その通りだった。帰還してしばらく、機体から降りて簡単な報告を行なっている間に、それぞれの機体に搭載されている記録装置の中から、忽然とあの機体に関するデータは消え去っていたのだ。

おそらく整備士達の中に、あの蒼い”須佐之男”を保有する勢力の一員か、その息のかかった者が混じって、どさくさ紛れに消去したのだろう。

それだけ、あの機体が特殊だということなのだろうが……。

 

「俺の機体とガンカメラからもデータが抜かれたんだけどな?……その前に、こっそり小型データディスクの中にコピーしておいた物があるんだ」

 

と、いうことは。

試しにエドワードが箱を振ってみると、カラカラ、と絶対にタバコではない物が揺れる音がする。

 

「ひょっとしたら、何か役に立つかもしれない」

 

「……やるじゃねえか、ジェス。お手柄だぜ」

 

これで、自分達の手元には僅かでも手がかりが残されたというわけだ。

それを自分で独占せずにエドワード達にも渡してくれるあたり、このジェス・リブルという男は随分とまっすぐな精神の持ち主だということが窺い知れる。

 

「借り物の機体を壊されちまったし、少しでも仕返ししてやりたくてな。引き留めて悪かった」

 

「ありがとう、ジェス。今度はこんな軍事基地じゃなくて、平和な場所で会いたいわね」

 

「そうだな、俺もそう思うよ」

 

ジェスはそう言い残し、自分の機体を置いている方向に向かって去って行った。

何時か再会したら、酒でも奢ってやるか。そう思いながらエドワードは箱を懐にしまい込む。

 

「で、これどうする?」

 

「私達だけでどうにか出来るものじゃないわ。ひとまず遠距離通信で『セフィロト』に送りましょう。”マウス隊”のデータベースにしまい込まれれば、まだデータが存在することに気付かれてもどうしようもないもの」

 

後日、『セフィロト』のユージ・ムラマツから送られてきたメッセージには、こう書いてあった。

 

『現在調査中。だが、次からはたとえ見かけても探ろうとか、ましてや戦闘しようと思うな。全力で逃げろ。俺の予想が正しければ、()()はとびっきりの厄ネタだ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

某所にて

 

「……パイロットの死亡推定時刻、○○○○。硬球の直撃が直接の死亡原因と思われますが、連続しての瞬間的な高G負荷による内蔵破裂、血管破裂が複数確認出来ました。遅かれ早かれ、でしょう」

 

「”ブルー”本体も、両腕部が破損、胴体部にも僅かな異常が見られます。大規模な修理が必要となりますね」

 

「そう。……情報末梢は?」

 

「既に完了しているとの報告がされています」

 

「ならいいわ。スケジュールを組み直します。新しいテストパイロットの選定を始めてちょうだい」

 

「承りました」

 

「……パイロットも、機体でさえも換えが聞く。『システム』が無事ならば、何度だって……。ええ、そうよ、これは失敗。でも、失敗を繰り返すことにこそ意味がある。そうしなければ、『本物』は……。

これでは、何も守れない。何も、何も、何も……!」

 

 

 

 

to be continue……?




CEに紛れ込んだ『ブルー』の物語は、ひとまずここまで。
次の番外編更新では、予定通り『プライベート・アスハ』を投稿させていただきます。

誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。

P.S 
活動報告更新しました。とりとめもないことを書いているだけなので、興味があったら覗いていってください。
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