パトリックの野望 外伝・設定倉庫   作:UMA大佐

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長らくお待たせして申し訳ない気持ちと共に、更新です。


番外編13「プライベート・アスハ」後編

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アフリカ共同体 砂漠地帯

 

ヘクが呼びかけた直後、大きな爆発音が近くで響く。

おそらく、自分達の車を潰しにかかったのだろうとヘクは()()()を付けた。

狩りの途中で獲物に逃げられることほど興醒めする物もない。───手慣れている。

 

「テントから出ろ、狙い撃ちにされるぞ!」

 

果たして、ヘク達が武装してテントの外に出た瞬間にその言葉は現実となった。

銃弾の嵐がテントに向かって放たれ、買ったばかりのテントはたちまち穴だらけとなる。

 

「ちくしょう、いったいなんだってんだ!?」

 

悲鳴を挙げながらもワイドは姿勢を低くして敵のいると思しき方向へ銃を構える。

ガルドが信号弾発射筒を上に発射すると、周辺が一気に真昼のように照らし出された。敵の正体と位置を探るための照明弾である。

砂丘の影に隠れている者もいるだろうが、確認出来た限りではヘク達の倍ほどの人間に囲まれているらしかった。

この場所から逃げようにも、ヘクの想像通りに車は破壊されているために現実的な行動ではない。

 

「応戦しろ!俺はあの2人を探してくる。ホースキン、その間はお前が指揮を取れ」

 

「了解しました」

 

「2人はあっちか……援護を頼む!」

 

「ちょ……隊長!?」

 

言うや否やヘクは牽制射撃を行ないながら砂丘の陰から飛び出し、サースとファンフェルトがいると思しき方向へ走り出した。

思い切りのいい隊長の行動にワイドは面喰らうものの、命令通りに援護射撃を開始する。

 

「ぐあっ!?」

 

誰が撃ったものかは知れないが、援護射撃で1人は減らせたようだ。砂丘の上に立って銃を発射していた人影が倒れるのをワイドは捉えた。

しかし、その光景はワイドにとって微かな違和感を感じさせるものだった。

這いずったままで指揮を執るホースキンの元に近づき、話しかける。

 

「ホースキン、おかしくないか!?」

 

「何がだ!?」

 

「さっき()った奴だよ!あっさり過ぎる!」

 

先ほどまでは突然の襲撃で違和感が無かったが、事態が進行するにつれてワイドは冷静さを取り戻していた。

そうなると、軍人としてあの無防備な戦い方をする敵を見逃すわけにはいかなかった。

 

「奴ら、ひょっとすると……!」

 

 

 

 

 

「おおおおおおっ!このファンフェルト・リア・リンゼイが生きている内はけして仲間はやらせんぞ!」

 

「うわ、わぁ……!」

 

一方、用を足すためにキャンプから離れ、分断されてしまったファンフェルトとサースの2人は、案の定窮地に陥っていた。

彼らは現在、およそ5人ほどの敵に包囲されており、彼らのみでの包囲網脱出は極めて不可能に近かった。

念のためにと武器を持ってきていたことが功を奏して応戦は出来ているが、まさかこのタイミングで襲撃に遭うなどとは思ってもいなかった2人は冷静さを失いかけており、長くは保ちそうにない。

加えて、サースは「自分の我が儘のせいでファンフェルトまで危険な状況に巻き込んでしまった」という罪悪感もあり、半狂乱となりながら応戦していた。

 

「僕のせいだ……僕の!」

 

「落ち着くんだサース!これだけ銃声が響いていれば隊長達も気付いてくれる、助けが来るまで待つんだ!」

 

ファンフェルトがなんとか落ち着かせようと声を掛けるも効果は薄く、2人の動きは鈍くなっていくばかり。

敵は砂丘の陰に隠れて姿を見せず、時間と弾薬だけが消費されていく。もはやこれまでか、とサースを逃がすためにファンフェルトが陽動を掛けようとした、正にその時である。

 

「なん……ぎゃあっ!?」

 

「貴様、いったい……おぼっ!?」

 

突如として、敵のいると思しき方向から悲鳴が挙がり始めたではないか。

それを皮切りにファンフェルト達の方に放たれる銃撃の数は減少していき、ついに0となる。

まだキャンプの方からは銃声が聞こえるために警戒を解くことは出来ないが、ファンフェルトは恐る恐る砂丘の陰から顔を出した。

 

「───無事か!?」

 

『隊長!』

 

そこには、返り血にまみれたヘクが立っていた。

全身が血に染まってぃるのに何故返り血であると判断出来たかというと、ヘクの立ち姿が極めて健常であったこと、そして右手に持った軍用ナイフから血がしたたり落ちていたからである。

ヘクは再び2人を砂丘の陰に隠れるよう指示をして自身も隠れると、近接戦で邪魔になるために背負っていたライフルに弾を込めながら2人を怒鳴りつける。

 

「なんで離れてんだ!」

 

「ぼ、僕がトイレに行こうとして……」

 

「それくらいもっと近くで済ませろ!20メートル近く離れてやることか!」

 

「待ってくれ隊長!私がサースに余計に気を遣ってしまっただけなんだ!」

 

「お前ら……もういい!今はあいつらと合流することから───」

 

怒り心頭のヘク。しかし不意に銃声と怒号以外に、バンっ、という音が鳴ったことでその言葉は中断される。音が鳴ったのは、キャンプの方角からだった。

音に加えて、強烈な光が発せられたのも見えた。となれば、その正体はヘクには一つしか思いつかなかい。

 

「フラッシュバンか!?」

 

 

 

 

 

ヘク達が急いでキャンプに戻ると、果たしてそこには襲撃してきた男達の死体が転がっており、ガルドに組み伏せられた見知らぬ男の姿があった。襲撃者の一員らしく拘束から逃れようとするが、屈強なガルドに背中から組み伏せられてはどうしようもない。

ヘク達に気付いたワイドが近づく。

 

「ご無事で、隊長?」

 

「ああ。それより、さっきのフラッシュバンはお前らが?」

 

「はい。どうにも敵の動きが素人臭かったもんですから、一気に決めるべきだと思いまして」

 

「いい判断だ。おそらくこいつらは……」

 

うつ伏せの状態にされている男の髪を掴み、顔を無理矢理上げさせるヘク。

男は苦悶の声を漏らすが、ヘクには男に配慮する理由は無かった。それよりも、確かめなければならないことがあった。

 

「お前ら……『ブルーコスモス』だな?」

 

「ぐうっ……貴様ら、いったいなにも───」

 

「質問してんのはこっち。ホモ・サピエンスだから言葉は解するだろ?」

 

ヘクは銃を男の額に突きつけ、質問に対する答えを促す。

男は憎々しげにヘクを睨むが、やがて話し始めた。

 

「そうだ……」

 

「やっぱりな……街で噂になってたぜ、お前さん達」

 

ヘク達は街で商人のフリをしながら情報収集も行なっていた。

その中で「『ブルーコスモス』を自称する集団が街中でテロを起こしたり、酷い時には砂漠を旅する人間に襲いかかる」という情報を入手していた。

被害を被るのはZAFTが直接統治しているエリアが中心と聞いていたが、そこから少し離れたこの地域で遭遇するのは意外に思われたヘクだが、男が続けて発した言葉で得心した。

 

「テロなどではない!おぞましきコーディネイターから蒼き清浄なる世界を取り戻すための聖戦だ!」

 

「ほー、聖戦ね。通りがかりの旅人に銃持って襲いかかるのが?俺達じゃなかったら酷いことになってただろうな?」

 

「奴らを、地球の害敵を葬るために必要な犠牲だ!」

 

つまるところ、テロをするにも物資は必要で、こうして旅人など襲いやすい集団に目を付けて物資を強奪していたというわけだ。余りにも身勝手な理由にメンバーの半分は呆れを示し、半分は憤りを示す。

とは言え、ヘク達にとって有利に働く情報もあるにはあった。

この襲撃にZAFT、あるいは連合軍は直接的に関わっていない、ということだ。

何かしらの支援を受けている可能性はあるが、きちんとした訓練を受けた人間がこのような杜撰な襲撃を行なうとは考えづらく、突発的に行なわれたものだろう。

そうと分かれば、この場に長居することは時間の無駄でしかない。自分達の車は破壊されてしまったが、この男達が移動に使った車があるだろうから、それを使って移動すればいい。

 

「貴様らのような人間がこの聖戦において我々の足を引っ張り、やがて薄汚いコーディネイター共の跳梁跋扈を招くのだ!」

 

「ああ、はいはい分かったから」

 

「貴様らはそれを自覚し───」

 

「分かった、ってんだろうが」

 

ヘクは男の頭部に銃弾を2発撃ち込んだ。男は脳漿(内包物)をまき散らし、即死した。

それを実行したヘクを見たサースは、ヒッと声を漏らしてしまう。

ヘクは、男の命なんてまるで気にもしていなかったのだ。

先ほどまでの状況なら、皆生き残ることに必死で無我夢中だったから、命を奪ったことに対して気を配る余裕は無かった。しかしヘクは、戦闘が終了して平常時に近づきつつあったこの状況でも、ためらい無く人間を殺傷したのだ。

 

「さーてと……問題も解決したことだし、さっさとこの場所を離れんぞー」

 

「了解」

 

返事をした(平静を保った)のはホースキンだけだった。他のメンバーは皆、顔を顰めるなどしている。

そんな部下達に気付いたヘクは溜息を吐いて頭を掻くと、メンバーに向き合って話し始めた。

 

「君達が何にドン引きしてるのか、それくらいはオジサン分かるよ?でもさ……ちょっと、呑気過ぎるんじゃない?」

 

「と、言いますと?」

 

()()を生かしてたら、後々になって情報が漏れるかもしれないだろ?復讐にくるかもしれない。かといって連れて行く必要もメリットもない。───殺さない理由の方がないんだよ」

 

これが半ば無理矢理に戦わされている少年兵だったりしたなら、ヘクも多少は手心は加えたかもしれない。……本当に、多少だが。

しかし、先ほどまで生命活動を行なっていた肉塊には話し合う余地も無ければ害しかなかった。

 

「いい加減に気分の切り替えくらい上手くなりなよ。分かる?俺達の任務の失敗は国家規模の損失に繋がるし、俺達はそうなる可能性をできる限り取り除かないといけないの。分かったら動き出せよ」

 

『……了解』

 

言っていることは分かる。分かるが、それを受け止めるにはこのメンバーは若かった。年齢も、精神も。

よく見たら、平静を保っているように見えたホースキンでさえも僅かに緊張しているようだった。

 

「ほら、準備しようぜサース」

 

「ワイド……」

 

「……隊長の言ったことは、正論だよ」

 

いつもは不敵な態度のワイドも、些か疲れた様子を見せながら無事な荷物を回収しにテントの方まで向かっていく。

何か仕事をすることで考えを一度止めたかったサースも、それに付いていこうとした。

 

「危ないっ!」

 

「えっ───」

 

正にその時のことであった。

パアンっ!と音がなる直前に、サースは誰かに突き飛ばされた。慣れない砂の上でバランスを崩したサースはそのまま転んでしまう。

慌てて起き上がると、先ほどまで自分が立っていたところにはファンフェルトが立っていた。

ただし、その服は赤く、とても赤く滲んでいた。先ほども見たばかりの、血の赤だった。

 

「ファンフェルトっ!」

 

「クソがっ、なんでトドメを刺してない!?」

 

先ほどヘクが殺害したのとは別の男が、腕を上げて拳銃を向けていた。

事態に気付いたヘクとガルドが即座に射殺するが、問題なのは撃たれたファンフェルトの方であった。

 

「ファンフェルト、なんで、なんで僕を!?」

 

「ふっ、ふふふ……騎士として、仲間を守るのは当然のことだよサース」

 

「ああっ、くそ!喋るなファンフェルト!傷は浅いぞ!」

 

「そんな気休めは要らないよ、ワイド。左胸を撃たれた……私はもう、逝くのだな」

 

覚悟を決めたように、ファンフェルトは目を閉じる。

ヘクが何かを叫びながらファンフェルトの服を脱がして処置を施そうとするが、それは既に彼の耳に届いていなかった。

 

(父上……母上……リンゼイ家の再興も成し遂げないまま逝く私をお許しください……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「左肩撃たれただけだ、まったく致命傷じゃねえよ!ショックで気絶なんてしてる場合か、さっさと目を覚ませアホ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3/21

 

『ブルーコスモス』の襲撃から半日ほど時間が経った頃、ヘク達は小さな町にたどり着き、真っ先に病院に駆け込んだ。無論、被弾したファンフェルトの治療のためである。

幸いにもファンフェルトの傷は浅く、命に関わるようなことはなかった。しかし撃たれた場所が左肩なのでファンフェルトはしばらくの間左腕が不自由になり、サースはこのことを気に病むようになる。

これを受けて休息が必要と判断したヘクはこの町に1日滞在することを決定し、改めて計画の練り直しに奔走することとなった。

傷つく隊員、削れる時間、予想外のファクター。それらを全て整理し、最善の計画を練るのは難しいことだ。

だからだろうか。ヘクはこの日の夜も幼少期の夢を見ることになったのだが、それは今までのものとは少々毛色が異なっていた。

今までの夢がささやかな安らぎを与えてくれたのとは正反対に、その夢はヘクの精神を削っていく。

すなわち、悪夢であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『博士……どこだろう』

 

ある日、ヘクは数冊の本を持って研究所の廊下を歩いていた。

本はヴィアから借りたものであり、彼は読み終わったそれをヴィアに返すために探し回っていたのだった。

途中、何人かの研究員とすれ違うが、お互いに無視し合うことで余計なトラブルの発生は防げている。

彼らからしたら検体が勝手に出歩いていることは問題だが、研究主任の妻であり本人も重要な立場にあるヴィアが贔屓しているということもあり、強く言い出せないのだろう。ヘクとしても、彼らには全く興味が無いのだから話しかける理由が無い。

しかしヴィアの姿が中々見つからないため、いい加減に誰かに尋ねるべきだろうか、とヘクが考え初めていた時のことだった。

 

『もうやめて!これ以上研究を続けてどうなるというの!?』

 

『何を言う!これからなんだ、ようやく目処が立ったんだぞ!?』

 

遠く、僅かに開いた扉の向こうからヴィアと誰かが口論をしているのが聞こえた。

ようやくヴィアを見つけられたことよりも、彼女が誰と、どのようにして口論しているのかが気になったヘクは静かに部屋に近づき、扉の向こうを窺う。

そこにいたのはヴィアと、彼女の夫であるユーレン・ヒビキ。

ヘクを用いて行なわれた研究はあくまでサンプルデータの1つ、それをわざわざ研究主任であるユーレンが見に来るようなこともないため、ヘクとユーレンの接点はほとんどない。

だが、ヴィアが彼と口論しているというだけで、ヘクはユーレンを『不愉快な奴』と認識した。

 

『命は作るものじゃない、生まれ出る物よ!それを……』

 

『そうだとも!命は生まれ出る!そしてそれは、完璧でなければならないんだ!』

 

『自分の息子を実験台にしてまで、やらなければならないこと!?』

 

『私の子供だ!最高の技術で、最高のコーディネイターにしてやるんだ!それの何がいけない!?』

 

話の内容から察するに、どうやら2人は自分の子供の扱いについて揉めているようだった。

先日、ヴィアから双子を妊娠しているということを聞かされたことを思い返す。

その時のヴィアは心底嬉しそうで、慈愛に満ちた目をしていた。ヘクはそれを見て、彼女を祝福した。

───胸の中に、何かが突き刺さったような違和感を覚えながら。

 

『それは誰のため!?───貴方のためでしょう!』

 

『人類のために決まっている!私はほんの少し、その恩恵を直に受けるだけだ!』

 

『貴方は……貴方は変わってしまったわ。「親に捨てられるコーディネイターを無くしたい」と言っていた貴方は、もう……』

 

『お前がそれを言うのか!実際の総数は把握していなくとも、お前とてこの計画に自ら参加したのだろうに……今更になって、怖じけたのか!』

 

ヘクは、拳を握りしめていた。

強く、強く、強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く強く。

掌に爪が食い込む痛みが生まれるが、そうでなければ、ヘクは今頃部屋の中に突入してユーレンを八つ裂きにしていただろう。それが出来るだけの能力が、当時のヘクにも備わっていた。

それをしないのは、かろうじて働いている理性がブレーキを掛けているということ、そして何より、どれだけ不愉快であっても、ユーレンがヴィアの(愛する人)であるということが大きい。

 

『そういえば、最近は検体の内の1人に随分と執心らしいな。名前まで付けて可愛がっていると聞いたぞ』

 

『あの子は関係無い……いや、あの子だって研究の被害者よ!』

 

『ふん……人殺しのために生み出されたコーディネイター、その試験体。いくらでもいるだろうに』

 

『貴方……自分が何を言っているか分かっているの!?』

 

『分かっているとも。……必要な犠牲を必要な時に支払っているに過ぎん!』

 

それを聞いたヴィアは愕然とした表情で崩れ落ち、すすり泣き始める。

ユーレンはそれを見て僅かにハッとする───狂気に陥っていても妻への愛は残っていたらしい───が、即座に苦々しい表情を浮かべながら部屋の出口に向かう。

おそらく研究室に向かうのだと考えたヘクは即座に通路の、研究室に向かう道とは反対方向に向かって音を立てずに走り、曲がり角に隠れる。

部屋から出たユーレンはヘクの予想通り、ズカズカと乱暴に足音を立てながらヘクの反対方向に向かって歩いて行った。

 

『……』

 

この時のヘクに芽生えていたのは、2つの感情。

1つは、憎悪。ヴィアを悲しませるあの男の背中に飛びかかり、惨たらしく、残酷に殺してしまいたいというどす黒い感情。

そしてもう1つ。その名を、当時のヘクは知らなかった。

どうして。どうして。どうして。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どうして、僕ではなく、あんな奴が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その感情の名が『嫉妬』であるということをヘクが知ったのは、全てが終わって(取り返しが付かなくなって)からだった。

夢から目覚めたヘクの機嫌が最悪だったのは、言うまでも無いことだろう。

 

 

 

 

 

 

3/23

アフリカ共同体 タッシルの町

 

「この子、知らないか?」

 

「……知らないね。さっさとどっかいっちまいな」

 

「あっ、そう……」

 

その態度こそ、『知っている』ということの裏返しになるのだということが分からないのだろうか。ヘクは頭を掻きながら、カガリの映った写真を懐にしまった。

町を出発したヘク達は2日掛けて砂漠を南下し、ついにカガリが参加しているというレジスタンス『明けの砂漠』の本拠地であるとされるタッシルの町にたどり着いた。

しかし、町の住民は皆ヘク達に対し、敵対的とは言わずとも排他的な素振りを見せる。

それもそのはず、タッシルの町にとってカガリは『明けの砂漠』が活動するための武器・資金を都合してくれる女神のような存在。それを見慣れぬ集団が探しているとなれば警戒心を抱くのも無理のない話なのだ。

もっとも、腹芸という言葉の()も知らない発展途上国の一般国民が相手だ。こっそりヘク達が様子を窺っているとも知らずに、ヘク達が町を訪れたということを他者に伝えて回っているのが見える。

あとは、向こうからアクションを仕掛けてくるだろう。そう判断したヘクは町の片隅、日陰の多い地域で他の隊員達と合流し、休憩していた。

ガルドはヘクが()()()()()を下しているため、この場にはいない。

 

「間違い無いな、この町が『明けの砂漠』の本拠地だ」

 

「あんだけ露骨なオーラ出されたら分かりますよね。俺なんかさっきまで明るく話してたと思った子供が、お嬢様(カガリ)の名を出した途端に無口になったのを見て笑いそうになりましたよ」

 

「むう……何故このファンフェルト・リア・リンゼイが声を掛けているというのに答えてくれんのだ!───痛っ」

 

「ファンフェルト、無理しちゃダメだよ。治るまで時間が掛かるんだから」

 

大げさに身振りを交えて遺憾の意を示そうとするファンフェルトだが、サースはそれを制する。

命に別状は無いと言っても、左肩を弾丸が貫通しているのは普通に考えれば重傷だ。無理に動かして傷が悪化しては目も当てられない。

日常生活事態は右腕が無事ということと、ファンフェルトに負い目があるサースが補助を行なっていることでこなせているが、本来なら早急に入院しているべきなのだ。ファンフェルトは頷くと、大人しくなった。

 

「さて、と……お前ら、()()()()()()?」

 

「ええ」

 

「問題ありません」

 

「ファンフェルト、下がってて」

 

ヘクがそう言うと、隊員達は荷物を下ろして身軽になる。

備えるためだ。───何に?

 

「バレバレだから、さっさと出てきた方がいいんじゃねーの?」

 

ヘクがそう言うと、周囲の建物の陰から、何人かの男達が姿を現す。

全員がヘク達に敵対的視線を向けており、中には銃をちらつかせる者までいる。

『明けの砂漠』の構成員だ。自分達をカギ回っているヘク達に対処するため、姿を現したのだ。

 

「いやー、意外と早かったな。で、君達がカガリのとこまで連れてってくれるワケ?」

 

「黙れ!貴様ら、ZAFTの手先だろう!」

 

「いやいや、違うよ?第一、僕達がZAFTだったとしてこんなところ来る理由ないじゃん。なんならキサカさんのところでもいいよ?それで話は付く」

 

「何を馬鹿な……捕えろ!ZAFTの情報をたっぷりと吐かせて───」

 

そう言って、銃を持っていた男がヘク達に銃を向けたその時である。

 

「───間抜けが」

 

ギィンっ、と言う甲高い音が木霊した。男の拳銃が弾き飛ばされた音だ。

ヘク達とは別の場所で待機していたガルドが、男の拳銃を自身の発射した弾丸で弾いたのだ。

突然の事態に混乱する男。その動揺をヘク達は見逃さなかった。

即座に懐の銃を手に取り、近くの男達に迫ると体術で拘束するヘク達。

 

「なっ、放しやがれ!」

 

「お前らが素直にしてくれるならな!とりあえず、銃を捨てやがれ!」

 

人数で勝る『明けの砂漠』だが、ヘク達はきちんと士官学校や軍で教練を受けている。銃の撃ち方を教えられた程度の素人集団など物の数では無い。

そしてこのように超至近距離で味方が拘束されていれば、誤射の危険性がある以上拘束されていない男達も銃撃するワケにいかない。

斯くして、ヘク達と『明けの砂漠』の間に膠着状態が生まれたのだった。

 

「さっさとしろよ?俺達は別にお前らのことなんざどうだっていい、ただカガリに会わせろって言ってるだけなんだからな!」

 

「くっ、お前らのような卑怯者なんかに、誰が───」

 

「待てっ!」

 

この場所の空気が最大まで緊張したタイミングで、ある男が姿を現す。

その男こそ、ヘク達がカガリの次に求めていた人物。

 

「非礼は詫びる。カガリのところにも連れて行こう。だから頼む、イディを放してやってくれヘク」

 

「ようやく出てきたか、キサカ一佐。カガリの所にいく道中、あんたにはたっぷりと聞かせて貰いたいことがある」

 

「分かっている……全てを話そう」

 

 

 

 

 

こうして、ヘク達はカガリの護衛を務めているレドニル・キサカを通じて、カガリと合流することに成功する。

しかし、彼らはまだ気付いていない。

平穏が破られるのは、何時だって唐突なのだということも。

この日を境に、世界の情勢が大きく変わっていくということも。

3月23日。この日に発生した『三月禍戦(マッチ・ディザスター)』の影響を自分達も大いに受ける、ということも。

彼らはまだ、知らない……。




繰り返し、更新を長く怠ってしまったことをお詫びいたします。
それもこれも、ウマ娘に色んな意味で浮気していた自分の不徳であります……。

『プライベート・アスハ』の終章は今年中には更新するつもりでいますので、気長にお待ちください。
それでは、メリークリスマス!

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