番外編「突撃!ZAFTのバーダー設計局」
連合軍でユージ・ムラマツ達がMSを開発・実験を行うように、当然ZAFTでも日夜、科学者達が戦争に勝利するために兵器の研究・試作が行われている。
これはそんな科学者達の中でも、怒りと憎悪の中にとらわれながらも賢明に、必死に生き抜こうとした者達の、魂を燃やす物語の1ページである!
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コロニー「マイウス・ワン」 バーダー設計局
一般的な学校の教室程度の広さの部屋、そこには30人を超す人間達がおり、それぞれのデスクに向かっていた。カタカタとキーボードが叩かれる音が響いているが、どこか張り詰めた空気がこの場を支配している。
彼らは今、プラント最高評議会に参加する議員の一人にして、実質ZAFTの最高指揮官ともいえるパトリック・ザラからの通達を待っていた。
彼らは先刻、「ある嘆願」と、それにふさわしい兵器の開発プランをパトリックに送っていた。今は、そのパトリックからの返事を待っているのだ。
「失礼します・・・・」
そんな部屋の中に、一人の男がしずしずと入ってくる。彼こそ、この設計局に所属する一員にして、パトリックへのメッセンジャーとしての役割を担った青年だった。
にわかに部屋がざわつき始める。いったい、我らの最高指揮官はどんな解答を我らに示したのか?誰もが耳を澄ませる中、メッセンジャーとなった男は、バーダー設計局局長、アードルフ・バーダーのデスクへと向かう。
アードルフは眼鏡を掛けた壮年の男性だ。口元に少しのひげを蓄えている彼も、書類に走らせていたペンを止めてメッセンジャーからの報告を待っている。
青年はアードルフのデスクの前に立つと、静かに話し始める。
「ザラ代表へ提出した開発プランですが、すべて却下されました。
陸戦用の『2人乗り自走砲台』は、『ナチュラルの真似事など、恥を知れ!』。
空から陸を援護するための『高高度爆撃機』は、『そんなことをしなくとも、バクゥやジンで蹂躙できる』。
海戦用の『無人魚雷突撃艇』も、『今、新型の”ゾノ”が作られている。そんなものに割く予算など存在しない』、だそうです」
それを聞いても、アードルフは眉一つ動かさない。
これは決して、この事態を予測していたからではない。ことごとく却下されているが、まだ、最後の一つが残っているからだ。
あれは自信作だ。「全て」却下されたというのは、流石に聞き間違いだろう。うん。
「”ザウート”から変形機構を取り除き、腕部もまるごと武装にして生産性と整備性を上げた”ザウート2”がある。流石にそれも却下されるわけがない」
それを聞き、青年は更に顔を曇らせる。
「室長・・・・”ザウート2”は・・・・」
意を決して、残酷な真実をアードルフに突きつける。
「”指もなければ足もない、これではただのMS、いや、戦車もどきではないか!”、と代表からは言われています。もはや少しの隙もありませんでした。全否定です」
それを聞いたアードルフは、しばし無言のまま固まる。そして、手を震わせながら、眼鏡を外す。
「今から言うメンバーだけ、残れ。オスカー、アーヴィング、ブライアン、マルコ。それ以外のメンバーは、悪いが退室してくれ」
それを聞いて、言われたとおりに室内の人間は動き始める。
この流れも実は既に3度目なのだ。
指名されたメンバー以外が退室し扉が閉まると、アードルフは吠えた。
「説明したのに!いかにこれらの兵器が重力戦線に必要であるかを!
現実を冷静に見れていないとはけしからん!その結果が、今の宇宙の情勢ではないか!」
口から飛び出るのは、自分達の意見をまともに捉えずにクソの役にも立たないプライドで行動するパトリックへの不満。そして今現在、ZAFT内を騒がせている「連合の新兵器」についてろくに対処もせず、地上への攻略に躍起になっている上司への批判だった。
この設計局は、連合の『第08機械化試験部隊』と似た、つまり鼻つまみもの達の集められる設計局だった。そして、今まで提出した開発プランはおよそ8割超が却下されている。
「何が代表だ、勝つ気など微塵もない潜在的敗北者ども!皆、話を聞こうともしない!現場の奴らもだ!それをいさめもしない他の議員も、どいつもこいつも、無知蒙昧なデカいクソガキだ!」
「局長、それはあまりもの侮辱です!」
残ったメンバーの一人、ブライアンが諫めるが、アードルフは止まらない。
「プライドだけが取り柄、ピエロにも劣る笑いものだ!」
「局長、落ち着いてください!」
「奴らはプラント市民の、いや、全コーディネーターの看板に泥を投げつけるクズだ!恥さらしだ!」
言葉の途中で、手に持っていたペンを自身のデスクに叩きつける。なお、これだけ騒いでも何のおとがめもないのは、職員が落ち着いて研究できる環境を整えるための防音壁が正常に機能しているからである。部屋の外に待機している職員には、通信機能をONにした端末から丸聞こえだったが。
アードルフの怒りはまだ収まらない。
「新人類とは名ばかり、遺伝子操作をして手に入れたのは、精々が少しばかり他人より優れた能力と釣り合わない誇り(笑)だけ!いつも頭でっかちどもは我々の努力を無にし続ける!私もやるべきだった!他の設計局を排除してでも意見を通しやすくするべきだった!自国内の政敵を大量粛正した、かのスターリンのように!」
アードルフは完全に錯乱している。そうでなければ、歴史上の国家指導者の名前を引き合いに出し始めたこの状況を説明できるものか。
「私は名門大学などは出ていないが、それでもZAFTの一つの設計局長にまで至ったぞ・・・・」
アードルフは椅子に座りながら、なおも言いつのる。
「外面至上主義者ども・・・・体面が全てと言わんばかりに、『MS』ばかり開発許可を出し続けた!我々の勝利を信じる、全ての人間への恐るべき裏切りだ!だが見てるがいい!その血で償う時が来る、MSにこだわり続けた自らの血に溺れるのだ!」
それを聞きながら、泣き出した新任女性研究員のメリーを、「泣かないで」と慰めるハルミ研究員。自分達の努力が否定されたこと。上司の怒りがあまりにも恐ろしく、しかし理解できてしまうこと。全てが悲しくてしょうがなかった。
完全に、お通夜ムードである。
「私の考えは上に届かない。こんな状態で、誰がこの戦争を勝利へ導けるというのだ。・・・・終わりだ。遠からぬうちにこの戦争には負ける」
だれもそれを、笑い飛ばすことなどできなかった。もし連合の将校などが、今のZAFTを見たらこう言うだろうことがわかっているからだ。『ZAFTに兵無し、ついでに資源も』と。
「だが私は最後まで戦い続けるぞ。このまま何の成果も出せずにZAFTを去るくらいなら、私はいっそ生身で宇宙に飛び出す」
そう言って、うつむく。
「皆、好きにしろ」
どう、好きにしろというのだ。皆、この戦争の現状を鑑みて『通常兵器』の有用さを周りに説き続けたばかりに、飛ばされてきた者ばかりだというのに。これ以上、どこに行けというのだ。
『僕たちの行方』は、どうなってしまうのだ?
悲しみで流れた涙は、いつか輝きに変わるのだろうか・・・・。
「皆、すまない・・・・少々以上に、取り乱してしまった」
ほんとだよ。室内に戻ってきたメンバーも含めアードルフ以外、全員そう思った。とはいえ、この醜態も既に3度目だ。
1度目は『MS適正の無い人員でも操れる、MSの技術を活かしたMA』が『ナチュラルの二番煎じ』と呼ばれて却下されたあげく、設計局の予算を減らされた時。
2度目は、『ジンでは対応できない、制空権奪取のための航空機開発』が軽量化して無理矢理飛ばせるようにした“ディン”によって阻まれたとき。
いずれの場合も、アードルフは激怒した。それでも研究員達からの信頼がそこそこ厚いのは、部下へのケアを怠らない点や開発計画進行の手際の良さなど、『それ以外』がほぼ理想的な上司だからだ。
そして今は、今後の方針を定めるための全体会議中である。
「しかし、実際どうするか・・・・現在ZAFTの大半は地上攻略に夢中、我々のように宇宙の問題に目を向ける者は極めて少数派だ」
「”アルテミス”も、現状引きこもるだけだから特に脅威にはなりませんしね・・・・かといって、月面攻略はグリマルディでの撤退が後を引いてるせいで、消極的ですし」
副局長を務めるアーヴィングが、現在ZAFTが宇宙にあまり注力しない理由について言い連ねる。
「その月面、プトレマイオス基地からそう遠くないエリアで謎の失踪が連続しているのだ!調査に出した部隊も同じ!現時点でたしか”ジン”11機、ローラシア級3隻が行方を暗ませているのだぞ、これでなぜ危機感を持たないんだやつらは・・・・」
「おそらく、連戦連勝ムードが収まって戦況が膠着したからじゃないですかね・・・・。『「新星」攻防戦』以来、目立った戦果はありませんから。戦争継続力に乏しいわけですから、中々ケリが着かないことに焦っているんでしょう」
同じく、オスカーが言う。
そう、ぶっちゃけ連合宇宙軍への対処が不十分な理由は、「余裕が無いから」。宇宙に戦力を向けるよりも、地上に戦力を集中させなければそもそも連合の物量に押し切られてしまうのが、ZAFTの悲しい現実だった。
いくら”ジン”と”メビウス”のキルレシオが開戦当初1:10ほどだったとしても、連合はやろうと思えば1:30くらいで押し切ることもできるのだ。今ZAFTが連合と互角に戦えているのは、連合内でも足踏みが揃っていないことも一因である。
「それをふまえて、我々が作るべきものはなんだろうか。皆も、意見を出してみて欲しい。実現できるかどうかは、ひとまず置いておこう」
アードルフの号令に、研究員達が意見を挙げ始める。
「安く量産できる」
「ふむ、妥当だな」
「整備性が高い」
「現場もそれを求めているだろう」
「MSより使いやすい」
「MSに乗れない人間も、ZAFTにはいるからな」
「MSの見た目」
「実際、それが前提なのが悲しいところだな」
「つまり、こうか」
室内のホワイトボードに、今まで挙げられた意見をまとめたモノを書き記していく。
「安価で、整備しやすい。加えてMSより使いやすく、かつMSとしての見た目を維持する・・・・」
アードルフは再び、マジックをたたきつけたくなる。できるんだったら苦労しねえよ!
しかし、グッと我慢。むかつく上司に相対した時もそうして我慢することで今の地位に就いたのだ。
「えっと、いいですか?」
手を挙げたのは、先ほど泣いていたメリー研究員。
「ふむ、なんだね?」
「新しく作るのもそうなんですけど、今あるものを改良、とか・・・・。できませんか?」
「うーん、なるほど。たしかに、そっちの方が元手は掛からないし、いいかもしれん」
そうなると、何を改良すべきか?
「我々が好きにできるといえば、精々”アジャイル”や”連結合体6輪装甲車”がいいところだしな・・・・」
今話題に上がったのは、ZAFTで採用されている数少ない『通常兵器』であり、このバーダー設計局で開発されたモノだった。。
”アジャイル”は、歩兵制圧やMS支援。
”連結合体6輪装甲車”は、主にプラント市街での治安維持や交通規制、地上戦の支援機として運用されている。
しかし、それらも結局、『かゆい所に手が届く』程度にしか認識されていないのが現状だった。
「いえ、そうじゃなくて・・・・”ジン”に、とか」
「”ジン”をいじるのか?まあ、先行配備された旧型などは都合してもらえるかもしれんが・・・・私から見ても”ジン”は既に完成した機体だ。下手にいじっても、粗悪品が生まれるだけだぞ」
「ですよね。AMBACの制御プログラムとか、今より複雑になったら前線の兵士が憤死しますよ」
マルコもまた、”ジン”の改良に難を示す。しかし、メリーは続ける。
「いえ、実はそうとも言い切れないんですよ。これを見てください」
そういってメリーは自身の端末を操作し、何かのデータを見せる。
「これは・・・・”ジン”の稼働データか?」
「はい。これを見るとわかると思うんですが、パイロットの人たちの半分は、ジンの性能を引き出せてないんですよ。連合の”メビウス”を撃破するのも、一定のルーチンがパイロット達の中でできあがっているからです。現に、少し動きが変わっただけの”メビウス”に対して攻撃を当てられていない状態が観測されています」
ちなみにこの「少し動きが変わっただけ」の中には、ユージがかつて率いた小隊も含まれている。
「それならAMBACの機能を多少制限してもあまり問題にはならず、むしろ操縦難度の低下や一機あたりのコストが削減できた分、戦力を増強しやすくなるのではないかと思うんです」
「言われてみれば確かに・・・・なぜ今まで気づかなかったのか」
「やはりレアケースであったことが原因かと」
「戦争とはな、そういう珍事、いわゆる『穴』を埋められた者が勝利するものだと私は考えている。とりあえず、実機とテストパイロットを都合してもらうのは決定として、今度はどこを削るかという話なんだが」
「それについても、考えています。加えて、ザラ代表への説得の材料にもなり得るかと」
「ふむ・・・・。有用な意見が多いのが嬉しくて、涙が出そうだ。聞かせてもらおう」
局員達のメリーへの注目が、深まる。そんな中でメリーが出した答えを聞いて、アードルフは少し考え込んだあと、一言だけ、メリーへ送る。
「君、天才?」
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バーダー設計局
今、室内のモニターには、一つの人型が映っている。先日行われた”ジン”の改良案の実験の様子だ。
見たところスムーズに宇宙空間を移動する”ジン”だが、よく見ると明らかにおかしいところが一つある。
脚部が、脚部じゃないのだ。
脚部のように見えるそれは、実は細長いポッド。ポッドの各所には小型スラスターが設置されており、加速・静止だけにとどまらず、細かな調整もできているようだ。
「やはり、君の推測は正しかったなメリー女史。”ジン・ブースター”・・・・。モーターの摩耗が激しく、コストがかさんでいた脚部を丸々取り外し、機能を制限したブースターポッドに取り替えるとは・・・・それでいて、そこまで動きが通常の”ジン”より低下したわけでもない。むしろ、性能が上がったかのようにも見える」
「見えるだけですよ。加速と静止は通常よりも上ですけど、小回りの低下はやはり否めません」
「活かせない小回りに何の価値があろうか。それに、新規設計の武装も十分機能しているではないか」
「そうですね。新兵でも命中させやすい”ディン”の散弾銃に、突撃が主な役割となるだろうことを踏まえて、バイタルパートを十分守れるだけのサイズの機動防盾を設置・・・・ハルミさん、ありがとうございます」
「いいのよ、『あれ』がなかったらそもそも発案しなかっただろうものだし。皆、盾をあまり使わないのよね」
”ジン・ブースター”の盾を設計したのは、メリーを慰めていたハルミ研究員。彼女もまた、防御機構の充実を訴えたら飛ばされてきた、悲しい経歴の人物である。(ZAFTの方針は基本、攻撃偏重)
「良好な性能、おまけに『腕、そして指が損なわれていないことから汎用性の低下はほとんど見られない』・・・・。これなら、宇宙での警備任務に限定して使うことも含めて、きっとザラ代表を説得できるはずだ!メリーくん、君は我々の救世主だよ!」
「えっと、そんな、言われるほどのことは・・・・」
「はっはっは、照れるな照れるな。しかし、なぜ君のような優秀な人物がここに配属されたのだ?」
機体の『無駄』を取り除き、最適化させる。その能力は十分、他の局でも活躍できるものだろう。そう言うと、メリーはどこか遠い目をしながら、語った。
「ほら、私って結構ぐいぐい行くタイプではないですよね・・・・?しどろもどろしてる内に、他の局には入る余地が無くなってたみたいで、なし崩しに・・・・」
「・・・・」
局員一同、上を向いた。そこには無機質な天井しかなかったが、仰がざるを得なかったのだ。
なお、後日。
この”ジン・ブースター”は『浮いた分の部品を、地上に回せる』というアードルフのアピールもあって正式に採用。主に新兵に割り当てられることとなり、宇宙での戦いが再び活発になるまでの間、パトロール任務や偵察任務などで活躍することとなる。
しかし、「それなら、宇宙軍の予算を減らして地上に当てても『今まで通りの』数はそろえられるな」という理屈によって、結果的に宇宙軍の総合的な戦力は特に変わらなかった。
更なる宇宙軍の予算削減を聞いたバーダー設計局では、再びデスクにペンをたたきつける音が響いたという。
怒りと憎悪(対象が連合であるとは言ってない)。
いやー、パトリック閣下は通常兵器縛りプレイでもやってるんですかね?
以下、オリ機体とオリキャラ紹介
ジン・ブースター
移動:7
索敵:D
限界:120%
耐久:50
運動:15
シールド装備
武装
ショットガン:45 命中65
タックル:60 命中50
宇宙世紀にも“ドラッツェ”がある。だから何も問題無いのは確定的に明らか。
宇宙専用の廉価版ジン。コストも通常ジンの8・9割程度!盾もあるから数値以上に耐える!これを量産して、突撃させまくっちゃえ!(パイロットは人間として運用してないから、問題ありませんよ?)
アードルフ・バーダー(38)
バーダー設計局局長。ZAFT内では珍しく通常兵器の有用性を訴える変わり者なコーディネーター。基本的にはホワイト上司をやっているが、MSに必要以上にこだわる他の人間に対して時々怒りを爆発させている。
本人は別にMS否定派ではなく、「MSにもできること、できないことがある。全てMSでこなそうというのは、馬鹿馬鹿しい」と考えているだけ。
この時期のZAFTには珍しく、客観的に物事を見れる人間。戦争の行く先が不安で頭皮が薄くなってきた。
モデルは、よくニコニコでキレている総統閣下。
メリー・スマス(16)
バーダー設計局に配属された新人。優秀な能力を持っているが、同期の「いけいけドンドン、ナチュラルムッコロ!」系の勢いに隠れてしまい、なし崩しにバーダー設計局に配属された。
待遇に不満はないが、時々局長が怖い。
モデルは、マエリベリー・ハーン。
他の登場人物の設定は今のところ特に考えてません。番外編がまた出たら、書くかも?
いつも通り、誤字・記述ミス指摘は随時受け付けております。