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コロニー「マイウス・ワン」 バーダー設計局
「それでは、『第14回、地上戦線の戦力向上を目的とする新兵器考案会議』を、始めます」
「タイトルが長い。もっとコンパクトに」
「では、『いつもの』で」
「ぶっちゃけすぎではないかね!?」
アードルフ・バーダーの悲鳴が部屋中に響く。
ここ、バーダー設計局では。否、ZAFTに属する全ての兵器開発者は、ある問題について日夜紛糾していた。
理由は言わずもがな、連合軍の地上戦力が強化され始めたからだ。特に、MS。連合軍がついに独自のMSを開発し、地上戦線に投入してきた。それが一番の理由だ。鹵獲に成功した敵MSのパーツから得られた情報からは、少なくとも”ジン”よりは上の性能なのだということがわかっている。これらが既存の戦力と連携を行うことによって大きく敵の戦術が発展し、多彩な方法でこちらの攻勢を押しとどめているのだ。
なんとか、この状況を打開しうる新戦力を。それが、ZAFT各設計局で共通している認識だった。
「前線の兵士達からも、敵と戦った後の色々な報告が聞こえてきますよ。
『真っ赤なMSが、斧を振り上げながらこっちに迫ってくる姿が脳裏から消えない。撃っても撃っても倒れないし、なんなんだあいつ』。
『どこからともなく現れた白いMSが、的確に自分がいた基地の航空戦力を撃破して去って行った。そのことを深く考える余裕はなかった。直後始まった爆撃から逃れるのに必死だったからだ』。
『敵の仕掛けた地雷をよけながら進んでいたら、いつの間にか、小隊ごと敵に完全包囲されていた。自分がそのとき乗っていたのは”バクゥ”だったのだが、あんなに”バクゥ”だけを狙い撃ちにした戦法があるとは思わなかった。絶対殺すという執念を感じた』
……などの報告が挙げられています」
「なんだか、連合軍というよりは極一部を相手にしたことへの報告内容だったような気もするが……」
「おそらく、連合が宣伝するエースパイロット『切り裂きエド』『乱れ桜』『月下の狂犬』を相手にした兵の報告ですね。それらしきパーソナルマークが確認されているそうです」
副局長のアーヴィングの言う通り、それらの報告は敵エースと相対し、生還した者からの報告だった。そのうちの何割かはPTSDを発症しているらしき様子まで見受けられた。
無理も無い。彼らはこれまで、敵を『見下ろす』ことしか文字通りしてこなかったのだから。それなのに、敵がいきなり『同じ目線』に立ち始めたものだから。つまり、情報の更新が遅れているのだ。
『いつまでも、敵もやられっぱなしではない』。ただそれだけなのだが……。
「ふん、単純だが有効な戦略だ。一部のエースパイロットにこちらの目を引きつけさせ、その隙に『本命』を揃える。宣伝に違わぬ能力をやつらが示すおかげで、否が応でもやつらへの対応へ労力を費やさねばならん」
「他の局の人達は、躍起になって『敵エースの撃破』を目的として研究・開発していますからな……。完全に、敵に踊らされています」
マルコ研究員が言うように、バーダー設計局以外の局は、『
例外と言えば、”ディン”を開発したハインライン設計局くらい。彼らは今、急激に成長し始めた敵航空戦力への対処に追われていた。空を抑えられては、戦線を満足に機能させることもできない。敵の新航空戦力とは”スカイグラスパー”のことであり、量産・配備のペースを見る限りではあれが敵の主戦力であると見て間違いないだろう。現在、”スカイグラスパー”は世界各地に配備が進められ、”スピアヘッド”はもはや基地の防衛などの二次戦力扱いをされている。
「なまじ能力があると、片っ端から解決しようとして、結果的におっつかなくなる。今は耐えて、じっくりと質の向上に努めるべき時だ。なぜ、誰もそれをわからんのだ…!」
「落ち着いてください、局長。また騒ぎ始めるなら、私は転属願いを出しますよ。……ああ、泣かないでメリー。言葉の綾、それくらいの意思があるってだけだから」
「……君も図太くなったね、ハルミ君」
頼れる先輩が転属しようとしていると聞き、若手のメリー研究員が涙目になる。ハルミも、本気で言ったわけではないようだ。すぐになだめにかかる。
「ていうか、3日後には『新兵器開発プラン報告会』でしたよね。大丈夫なんです、ウチ?」
「そうだったそうだった……また話が脱線するところだった」
オスカーの指摘に、アードルフが我に返る。
実は、彼らは三日後に予定されている『新兵器開発プラン報告会』にむけての会議を行っていたのだ。ここで彼らは、何かしらの打開案をZAFTの実質的トップであるパトリック・ザラへ見せる必要があるのだ。進捗が芳しくないのは、14回にまで及ぶ会議回数をみればわかるだろう。
「だけど、どうします?純粋なMS技術だけなら、他の局の方が上です。かといって戦車とかを出そうものなら、局の解体すらあり得ますよ?上層部のMS信仰は、皆さんご存じでしょ?」
「うーむ……だが実際問題として、MS以外の新戦力を投入するというのは、文字通り以上の意味があるのだがな」
「文字通り以上、ですか?」
「うむ」
そういって、アードルフは自身のパソコンを操作して、部屋に取り付けられたスクリーンに、何かを映し出す。
「これは……ZAFT構成員の、年齢パーセンテージですか?」
「その通りだ。見ればわかると思うが、ZAFTを構成する上でもっとも多い世代は2、30代、次点で40代の人間だ。その比率、およそ30%。だが、彼らが実戦に立つことは少ない。なぜだかわかるかね?」
「えっと、一般論で言うなら、多大な負荷が掛かるMSの操縦には、30代までの若者が適しているから。40代以上の方々には、負担が大きすぎることからでは?」
「その通りだメリー君。だがな、MS以外、例えば戦車などの兵器であれば。MSほどの負担が掛かることもなく、問題なく戦うことが出来る。30%の中から最前線で戦える人間が増えるなら、それは下手な質的向上を目指すよりも有意義なことだ。私はそう思うのだよ。若者の中でも、MSの適正検査から漏れてしまった人間はいるしな。プラントのためにと立ち上がってくれたのに、MSに乗れないというだけで腐ってしまう。私はそんな若者を救いたいのだ」
アードルフの言うとおり、ZAFTには健康な若者でありながらもMSに乗れない人間が何人もいた。通常兵器の開発は、くすぶる彼らを救うことにもつながる。アードルフの言うことに何か心あたりがあったのか、メリーがうつむく。
「ですが、今のZAFTは『敵のMSを上回るMS』を求めています。ニーズに合わせるべきなのでは……」
「そのMS技術が、他から劣っていると言っただろう。話を聞いていなかったのか?」
「採用されない通常兵器造っても、なんにもならないでしょう!?」
「俺だってそれにキレてんだ!我慢しろ」
「我慢して何になるんですか!」
「ちくわ大明神」
「先輩がアドバイスしてやってんのに、なんだその態度は!」
「ちょっと待て、なんか変なのいなかったか!?」
もう、滅茶苦茶である。アードルフが場を収めるために声を上げようとした時、メリーが声を上げる。
「あの!発言、いいですか……!」
普段はおとなしい彼女のアクティブな姿に、その場の全員が驚きを隠せない。何かが、彼女を突き動かしたのだろうか?
だが、全員が落ち着いて彼女の話を聞こうとしている。彼女は以前にも、”ジン・ブースター”を考案した実績がある。今まで誰も着眼しなかった”ジン”の問題を指摘して見せた彼女に、期待しているのだ。
今度は、何を見せてくれるのか?
「その、ですね……。別に、MSだとか、通常兵器…戦車とかの分類にこだわる必要は、無いんじゃないかなって思うんです」
「……?何が言いたい?」
アードルフの問いかけにメリーは、彼の目をしっかりと見返しながら、彼女の答えを告げる。
「私達で、造っちゃいましょう。MSでもない、かといって通常兵器でもない。
その言葉を聞いて、部屋全体が静まりかえる。
何か、自分は変なことを言ってしまったのか?いや、やっぱり突拍子もないことを言っている。やってしまった。次の瞬間には、怒声が浴びせられるのだ。きっと。
「メリー君……」
「は、はい……」
眼鏡を一度外して、眼鏡拭きで磨く。それを装着し直したアードルフは、口を開く。
「やっぱり君は天才だ」
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コロニー「マイウス・ワン」 代表室
「貴様、ふざけているのか!こりもせずに戦車など設計しおって!」
「お願いします、代表!」
日は過ぎて、三日後。『新兵器開発プラン報告会』の場において、アードルフはパトリックに対して頭を下げていた。他の局ではMSの強化案だったり新装備だったりを提案している中、バーダー設計局が提出した物だけは毛色が違いすぎていた。
「戦車に腕をくっつけて、“ジン”の装備が使えるようにした!?何が
「代表、どうか!せめて一機だけ、試作機の製造とテストだけでも、許可をお願いします!」
「ならん、こんな物に割く予算などない!」
「……!」
アードルフはなんと、床にひざまずき、頭を床に付ける。いわゆる、土下座の姿勢だ。
周りに他の設計局の局長がいることも気にしないこの行為に、流石のパトリックも意表を突かれる。
「何を……」
「我らバーダー設計局とて、ZAFTの勝利を、そしてプラントの独立を願う者!この思いは本物で、本気です!もし満足いく結果が得られないようでしたら、局を解体してくださっても構いません!どうか、お願いいたします!」
周りの人間は、
そして、10秒ほどした後に。
「……わかった」
「!」
「ただし、一機だけ。それで満足いく結果が得られなければ……貴様が言い出したことだ、わかっているな?」
「もちろんです!代表の寛大な決断に、一層の努力と結果でお答えすることを誓います!」
「だ、代表!正気ですか、こんなものをお認めになるなど……」
「彼の目は本気だ。本気で、勝ちに行こうとしている者の目だ。それくらいはわかる」
それを聞き、あとは誰も発言する者は居なくなる。
代表がそう言うなら、という雰囲気を醸し出したままではあったが、会議は無事に終了した。
「アードルフ・バーダー……この私に、あれほどの熱をぶつけてくるとはな」
そう言いながら、手元にある資料を眺める。そこには、バーダー設計局の提出した、曰く『今までの兵器体系に存在しない、新たなる戦力』と称した、モビルタンクのデータが記されていた。この兵器がどのような結果を生み出すかはわからないが、その兵器に付けられた名前を見て、パトリックは独りごちる。
「『フェンリル』……神々をも殺す、鋼鉄の狼か」
時をほぼ同じくしてメリーは、ある人物の家を訪ねていた。現在は、玄関に立ってチャイムを鳴らしたところである。
「スミレ、いる?」
返事は、ない。試しにドアノブをひねると、ドアはすんなりと開いた。
そのまま、家の中に入っていく。かつて、何度かお邪魔したこともある家だ。彼女にしては珍しく、遠慮がない動きでリビングに向かう。
果たして、そこに彼女はいた。ZAFTの緑色の制服は脱ぎ捨てられ、半裸状態でソファーに寝っ転がっている。目が堅く閉じられているので、どうやら熟睡しているようだ。
「もう……起きてスミレ。私、メリーよ」
「んぅ……何よ、メリー」
体を揺すると、億劫そうに目を開けてメリーを見つめる彼女は、スミレ・ヒラサカ。ZAFTに所属する兵士であり、メリーの友人だ。
「あなたに、お願いがあってきたの。私が今、バーダー設計局っていうところで働いているのは知ってる?」
「……ああ、そういえばそんな名前だったっけ」
「あなたに、そこで造られる兵器のテストパイロットをお願いしたいの」
それを聞いたスミレはうつむき、しばらくして肩をふるわせる。
「ふっ、ふふふふ。私が?新兵器のテストパイロットぉ?」
「そうよ。名前は「ふざけんじゃないわよ!」……!」
激昂。スミレは、目の前の友人に怒りを吐き出す。
「何よそれ、MSを満足に動かせない私に、新兵器のテストパイロット?どんなポンコツを回してくれるっていうのよ!」
そう、彼女は『MSへの適正がない』と言われて、後方に配置されてしまった若者、その一人だ。部屋の中は散らかっているが、元々そうだったわけではない。軍事アカデミーで優秀な成績を、それこそ『赤服』に選ばれてもいいような成績を残した彼女は、しかしMSの適性が欠けているせいで、後方、つまり市内警備などの職に回されてしまった人物だった。そのころから、家の中が荒れ始めたのだ。彼女の精神を表すかのように。
「スミレ、私を信じて。今造っているのは、MSにこなせない役割をこなすための機体よ。開発許可も降りたから、あとは造って、テストするだけ。あなたが適任なの」
「MSを動かせるやつに頼めば良いじゃない!そっちの方が上手くやるわよきっと!」
「……!分からず屋!MSを動かせない人たちでも、地球で一生懸命戦っている!あなたはそれでいいの?MSを動かせない、『それでも』っていう人たちに!『MSに乗れなくても、戦える』ってところを見せるには、あなたが適任!いや、あなただから出来ること!なのにあなたは、ここで燻っているだけ!プラントのために戦って、早く戦争を終わらせるんだって言ってたじゃない!あれは嘘!?」
「あれは……だって!あのときはまだ、わかってなかったし……」
「……連合軍は、地上に独自のMSを投入してきたわ。私達の造っているあれが認められれば、いずれ戦うことになる。お願い、戦って。あなたに、私は賭けたいの」
沈黙が、部屋の中を支配する。スミレは、再起のチャンスと聞いて心が揺れ動いているようだ。
「……少し、考えさせて」
「わかった。でも、時間はあまりないよ。また明日、ここに来る。そのときに答えを聞かせて」
何らかの資料を、テーブルの上に置いて出て行くメリー。玄関のドアが開閉する音が聞こえてから、スミレはその資料を手に取って読み始めた。
「……なによこれ、だっさ。戦車に手をくっつけて、MSよりすごい大砲をくっつけました?って感じ」
完成予想図を見て、スミレはバカにしたように感想を独りごちる。
たとえこの機体が強くても、MSのような華々しい扱いを受けることはないだろう。
「……だけど、なのに。なんでかしらね、この震えは」
その資料を握る手が震える。
ああ、これは。歓喜の震えだ。戦えることへの、歓喜の震えだ。
「どうせMSに乗れないなら、いや、乗れなくても。私なりに、戦って見せろってこと?メリー……」
その声に応える者は、いない。
そして、スミレは決断した。
「やってやる、やってやるわよ……。昔の自分に、嘘なんてつきたくないし、何より…私はこのまま、蚊帳の外で終わったりしたくない!」
神々をも殺す狼は、一人の少女の心に再び火を灯した。
だが。
その先に、大きな絶望が待っていることを、彼女はまだ知らない。
ちょっと駆け足気味だけど、書きたいことは収まった感じです。
さて、もう皆さんお気づきかと思いますが。
今回の話は、「ガンダムイグルー」の第2話、「遠吠えは落日に染まった」のパロディストーリーです。
ZAFTの中でも、MSを動かせない人って絶対いるよな。そう考えたら書かざるをえないものに、自分の中ではなっていました。今回初登場のスミレは、そういった人々の代表です。若さもあり、基本的な能力も高い。だけど、MSに乗れない。
情熱が消えかけてしまっていた彼女に、”フェンリル”は何をもたらすのでしょうか?また、”フェンリル”は、原典存在からどのように変化するのでしょうか?
それらを描くのは、次回になります。
一応、スミレのキャラ紹介。
スミレ・ヒラサカ(Cランク)
指揮 7 魅力 9
射撃 10 格闘 4
耐久 8 反応 7
得意分野
・射撃
ZAFTに所属する女性兵士。緑服を着ているが、本来なら赤服を与えられてもおかしくない。しかし彼女はMSを操縦する才能に欠けていたため、そうはならなかった。
アカデミーを卒業後はプラント市内の警備任務に就いていたが、平和極まりない現職場に前線で勇ましく戦いたい彼女ではなじめず、自暴自棄になり、段々と生活スタイルも崩れてしまっていった。
彼女自身はナチュラルに対して差別意識はほとんどなく、ZAFTで戦おうとしたのは「少しでも早く戦争を終わらせる助けになりたい」というシンプルな理由から。
メリーとは、幼少期からの親友。普段はおとなしめなメリーと快活なスミレとで、上手くバランスがとれていたのかもしれない。
なお、彼女たちはアスラン達より一歳上の世代であり、けして赤服をアスラン達に奪われたなんて因縁はないので、あしからず。
外見モデルは「東方project」の宇佐見蓮子。
誤字。記述ミス指摘は随時受け付けております。