パトリックの野望 外伝・設定倉庫   作:UMA大佐

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番外編3「アナザー・ハウリング」後編

「これは…!くっ!」

 

レグナは驚きを隠せないでいた。

ZAFTが送り込んできたという新兵器、それから放たれたと思われる一撃によって僚機が消し飛んだこと。そこから始まった戦いの中、驚きっぱなしだった。

近づいているうちに判明した、巨大な自走砲のような敵の足を止め、その隙にキャットゥス持ちの僚機がとどめ。それがレグナの考えていた戦いのチャートだった。

しかし、その判断が誤りであったことを嫌でも思い知らされる。敵に対して有利を得るためのジャンプだったはずが、どうだ。

逆に敵から放たれた対空ミサイルによって、自分も僚機も地面にたたき落とされてしまったではないか!

幸いミサイルの威力は低い物だったようで、一発だけ被弾した右足部の損害は大したものではない。MSの正面装甲の厚さに感謝したいところだったが、僚機の状況はよろしいものではなかった。

威力は低くとも、宙に浮かんでいる状態でミサイルが命中などしたら、どうあがいても体勢は崩れる。自分と違って複数回被弾してしまった僚機は墜落し、あおむけの体勢で倒れこんでしまった。あのままでは、敵の攻撃で消し飛ばされるのを待つ他にない。

 

「くそ…マリオとザイルはまだか!?」

 

 

 

 

 

「はっはー!見なさいよメリー、”ジン”がまるで虫みたいに落ちていくわよ!豪快痛快爽快!」

 

「スミレ、落ち着いて!お願い!敵はまだ3機残ってる、調子に乗らないで!」

 

「今から2機になる!」

 

”フェンリル”のコクピット内で、そんな会話が繰り広げられる。否、それはもはや会話ではなく、怒号の飛ばしあい。

スミレは現在、調子に乗っていた。それもそのはず、ここに至るまで彼女は、ずっとMSを満足に動かせないことへのコンプレックスを抱えていた。

それが、どうだ。自分の操る”フェンリル”、MSではない存在が”ジン”の小隊を追い込んでいる。こんなにうれしいことがあるだろうか?もはや、メリーの言葉を持ってしても制止は叶わないだろう。

今の彼女の頭には、目の前で倒れこんでいる”ジン”を撃破してから、さらに残りの2機も撃破するプランがくみ上げられていた。このままいけば、そのプラン通りに事は運ぶだろう。

()()()()()()()、だが。

突如、”フェンリル”に衝撃が襲い掛かる。”ジン”によるものではない。そちらへの警戒は怠ってなどいないのだから。では、どこから?レーダーを見たスミレは、そこでハッと息をのむ。

 

「接近する機体が2機…”バクゥ”!?今まで潜んでいたってわけ?」

 

レーダーには、確かにこちらに接近する2機の”バクゥ”の姿が確認できた。地上ではNジャマーが作用していることもあって、レーダーの有効距離は短い。電子戦用装備であったなら話は別だが、とにかく”バクゥ”はレーダーの有効距離外から急速接近しこちらに攻撃を放ってきたのだ。武装はそれぞれ、ミサイルポッドとレールガンを備えている。先ほどの攻撃はレールガンによるものだろう。

 

「”バクゥ”2機にも、敵性判定!…これは!?」

 

「さっきの攻撃で、履帯が損傷した!今修正プログラムを走らせているから、それまで持ちこたえて!」

 

「持ちこたえてって…!」

 

モニターに、キャットゥス装備の”ジン”が迫ってくるのが見える。接近して確実に仕留めようというのだろう。ミサイルで撃ち落とした”ジン”と”バクゥ”が、こちらへの包囲を始めている。

 

「やってくれたじゃない…だけど、まだまだいける!コンテナ分離、スモーク散布!」

 

スミレの操作通りに、”フェンリル”は牽引していた武装コンテナとの連結を解き、機体に備わったスモークディスチャージャーから煙幕弾を発射する。

”フェンリル”は真っ白な煙によって覆い隠された。煙幕の外側からは、何が起きているかを知ることはできないだろう。

 

 

 

 

 

「煙幕だと?こざかしい真似を…」

 

<どうしますか、隊長?>

 

「続行だアキラ。奴は履帯を損傷したようだ、満足に動けんはず。悪あがきに過ぎん」

 

<了解!このまま接近し、撃破します>

 

敵の姿が煙幕によって覆い隠されるも、それを悪あがきと断じて攻撃を続行させるようにレグナは指示した。

レグナは部下と通信を行いながら、敵の正体について考えを巡らせ始める。見た限りでは、巨大な自走砲のような姿をしていた。ZAFTの連中はこれまで、MSにこだわっていたはずだ。”ザウート”こそ存在するが、それでも人型への変形機構を備えていた点からも、奴らは人型ないし四肢を持っていることにアイデンティティを持っていた。

ZAFT開発陣の中で思想改革が行われたのか?それとも…。そこまで考えたところで、思考を強制的に中断させられる。煙幕に近づいた僚機に、弾幕が浴びせられたからだ。それをやったのが何者かは、考える必要はないだろう。攻撃を受けた僚機は、そのまま仰向けに倒れた。倒れた”ジン”が動き出す気配はない。

 

「アキラ!?くっ、近接防御火器まで備えていたのか…トニー、うかつに近づくな…!?」

 

敵のミサイル攻撃から体勢を立て直した僚機が敵に近づくのを諫めるが、その言葉を聞くものはいなくなった。

敵の大砲が発射され、不用意な”ジン”の胴体を一瞬で消し飛ばしたからだ。その衝撃波はすさまじく、煙幕も一瞬で霧散する。

その姿は、先ほどまでのものから大きく変わっていた。なんと言えばよいのか、戦車の車体の上にMSの胴体が生えたような、”ザウート”を彷彿とさせるフォーム。胴体からは両腕が生えており、その左手には、どこからか取り出した”ジン”のものと同型のマシンガンが握られている。アキラの乗っていた”ジン”をハチの巣にしたのはあれだろう。

自走砲のような形態の他にも、あのような姿を隠していたのだ。さらに驚くべきことに、あの機体は再び走行を始めた。履帯を損傷しているにも関わらずだ。

レグナは、自分たちがとんでもない怪物を敵に回してしまったということを、今更ながら理解した。

 

 

 

 

 

 

「よし、これで残るは隊長機の”ジン”と”バクゥ”が2機、合計3機よ!」

 

「変形システムは正常に稼働、左後方履帯損傷、なれど走行可能…図らずも、良好なデータが集まっていく…」

 

「気を付けないと、舌を噛むわよ!」

 

「え?きゃあっ!」

 

”バクゥ”からのミサイル攻撃をよけながらも、その手に持ったマシンガンで撃ち返す。当然、機内は大きく揺れ動くこととなり、スミレ達(主にメリー)が会話をしている余裕もなくなっていく。”フェンリル”の装甲は厚いとはいっても、いつかは限界が訪れる。早急に”バクゥ”に対処しなくては、撃破されるのは自分たちなのだ。

ちなみに、”フェンリル”が履帯を損傷したにも関わらず平然と走行している件。もちろん、これにもタネがある。

”フェンリル”には、左右にそれぞれ3つずつ、独立した履帯が備えられている。これもまた、『履帯の一部分を損傷しても、問題なく活動出来るようにする』という試みによって設計された機構である。

しかしこれはあまりにも異質な試みであり、また、機体構造の複雑化を招くとして開発スタッフ間でも議論の的になった。結果的にはスミレたちの利となったが、成果云々に関わらず、量産化の暁には撤廃されるだろうという予想がされている。この”フェンリル”は、あくまで『試験機』なのだ。

 

「マシンガンの弾がそろそろ切れる!調達するわ!」

 

「調達って、どこから?」

 

「そこら辺にあるでしょ!」

 

そういってスミレは、ある場所に近づいていく。

先ほど胴体を吹き飛ばした”ジン”の近くで、その”ジン”が持っていたマシンガンを”フェンリル”の空いている右腕に持たせる。

抜け目なく敵の残した武器を拾うスミレに、メリーは苦言を呈する。

 

「うわぁ…なんだかスミレ、ハイエナみたい……」

 

「なによそれぇ!使える物は使った方がいいでしょ!?」

 

そう言いながらも、手を動かすことはやめない。両手に構えさせたマシンガンを、接近してきた隊長機らしき”ジン”に連射する。盾を構えながら接近してきた機体を蜂の巣にすることは出来なかったが、足先に被弾したようで躓いてしまう。MSの中でもコクピットの次に重要といって良い脚部が損傷した以上は、あの機体の脅威度は大幅に低下したとみて良いだろう。

そう考えたスミレは、残った”バクゥ”に集中することにした。

 

「早いわね、やっぱり。焼夷弾を”バクゥ”の前方に予測砲撃、動きを止める!」

 

「了解……!」

 

大砲に、これまで発射されていた徹甲弾ではない、別の砲弾が装填される。

放たれた砲弾はレールガンを装備した”バクゥ”の移動方向に着弾し、火炎地獄を作り出す。減速も出来ずに突っ込んでしまい、機体を包む1200℃にも昇る機外温度に怯んだのかバクゥは横転し、装甲の薄い機体下部、つまり腹をさらしてしまう。

そしてもちろん、その隙を見逃すスミレではない。

 

「くたばれ駄犬!マシンガンのシャワーで洗浄してやるわ!」

 

2丁のマシンガンによる攻撃を弱点に受けてしまった“バクゥ”は、やはり爆散する。

しかし、”バクゥ”が爆散すると同時に、マシンガンの残弾がどちらも切れてしまった。マシンガンをその場に放棄した”フェンリル”は、再び爆走を始める。しかし何かを車体と地面の間に挟んでしまったのか、その進みは不意に止められてしまった。おそらく、敵MSの残骸か何かだろう。

その隙を突いて”バクゥ”からのミサイルが動けない”フェンリル”に襲いかかる。

 

「きゃあ…!」

 

「メリー!大丈夫!?」

 

「だ、大丈夫。”フェンリル”も、機能に支障は出ていないよ。でも、これ以上喰らったら……」

 

「ええい、いちばち!下部スラスター起動!」

 

その瞬間、”フェンリル”は『飛んだ』。

正確には、一瞬だけスラスターを点火したことで車体が挟んでいた何かとの干渉が無くなった際に、全開にしていたエンジンの勢いのまま、一瞬だけ滑空状態にだっただけなのだが。

ともかく、動けるようになった”フェンリル”は、そのまま砲口を”バクゥ”に向け始める。

しかし、当たらない。先ほどの攻撃で焼夷弾を見せてしまったことで、敵の警戒も最大まで上げてしまったようだ。こちらの発射タイミングに合わせて、大きく回避行動を取る。搭載されている三式散弾でも、命中させるのは難しいだろう。

そこで、スミレは気付いた。”バクゥ”がいつの間にか、()()に近づいているではないか。タイミングを見計らって、地面に落ちている”バクゥ”がそれに近づいた瞬間に起動する。

 

 

 

 

 

「落ち着け、落ち着け落ち着け落ち着け俺…!走ってれば当たらない、当たらないんだ」

 

”バクゥ”に搭乗していた若きパイロットは、半ば狂乱状態になりながらも戦闘を継続していた。

現時点で、彼と隊長機を残して部隊は全滅。隊長機も、脚部を損傷したせいであまり当てにはできない。それでも戦えている点は、評価すべき点といえるだろう。

どうして、こんなことになってしまったのか?

彼は、コーディネイターであるという事以外はごく普通の成人男性だった。IT系の企業にてその手腕を振るっていた彼だが、戦争が始まってから、彼の周りは一変してしまった。

家族を大西洋連邦に人質にされて、周りから後ろ指を指されながら戦う日々。それでも、同じような境遇の仲間達と共に戦い続けている内に、『暴走するZAFTとの戦争を終わらせ、かつての平穏を取り戻す』という目標が彼らに芽生えていた。

しかし、この状況はどうだ?仲間達は次々に訳のわからない敵によって殺され、今まさに、自分も殺されそうになっている。

 

「なにが、なにが優れた種だ!優れた種だっていうなら、地球にいる俺達のことを考えてくれたっていいだろうが!お前らが、出しゃばるから!」

 

我々がその煽りを受けているのだ。そう、続けようとした。

しかしそれはかなわない。突如、近くで衝撃が発生したからだ。”バクゥ”はその勢いに押されて、体勢を崩してしまう。

彼はそのまま、敵の大砲によって撃ち抜かれてしまう。

まだ、たくさん吐き出したい悪態があったにも関わらず。無慈悲にも彼の意識は、『狼』によって刈り取られていったのだった。

 

 

 

 

 

「不用意に敵の落としたものに近づいちゃダメよ?今みたいに、爆発するかもしれないんだから」

 

「それ、スミレが言う……?」

 

「どういう意味よ」

 

もちろん、爆発を引き起こしたのはスミレだ。爆発したのは、先ほど投棄した武装コンテナ。

あの装備には自爆装置が備えられており、使い切った後はトラップとして用いることさえ可能なのだ。その爆発に”バクゥ”は巻き込まれて体勢を崩し、そこを”フェンリル”が砲撃。結果は、先ほどの通りだ。

 

「まあ、これで”フェンリル”の性能は示せたんじゃない?”ジン”4機に、”バクゥ”2機!大戦果でしょ、これ?」

 

「確かにすごいけど、機体テストにはまだまだやることがあるの。任務は続くんだよ」

 

「うぇー…あれ?そういえばさっき倒した隊長機、とどめを刺して……!?」

 

突如、アラートがコクピットに響く。上方から、何かが飛来してきたのだ。飛来してきた何かは、そのまま”フェンリル”の胴体に蹴りによる攻撃を加える。

 

「まだ、動けたの……!?」

 

その正体は、レグナの操る”ジン”。彼は今に至るまで息を潜め、スミレたちが油断したところにスラスターを使って奇襲を仕掛けたのだ。ここまで接近されては、大砲はデッドウェイトになってしまう。

 

<ZAFTの化け物め、よくも部下を……!>

 

「通信?接触回線が開いた?」

 

<その声、まさか女子供が……!?>

 

「…!子供なものか!」

 

メリーの驚きを聞いた敵が発した驚いた声に、ついスミレは感情的になる。

女のくせに。能力至上主義のZAFT内でも、男尊女卑を彷彿とさせる風潮が多少は存在した。侮られたと感じたスミレは、通信越しに敵に噛みつく。

 

「女だからって、甘く見るんじゃ無いわよ連合軍!あんた達よりもずっと、覚悟は出来てる!」

 

<何が覚悟だ、あんなことをしておいて!貴様らが落としたNジャマー、あれのせいで何人死んだと思ってる!>

 

「……!」

 

スミレにも、心あたりはあった。

MS適正試験に落ちて、心を腐らせながら過ごしていた日々。暇つぶしに、テレビの報道では基本扱われない情報などが載っていたサイトを覗いたことがあった。

そこに載っていた、『オペレーション・ウロボロスによって発生した地上の死者は10億人にも及ぶ』という記述を見たとき、スミレは鼻で笑った。

たかが核エネルギーを遮断しただけで、それほど死者を出すものか、と。

プラントでも情報統制は行われていたが、何より彼女には知識が無かった。今や地上のエネルギー資源はほとんど失われ、原子力発電に頼る国がほとんどであったことを、彼女は知らなかった。

彼女は若かった、幼稚だった、そしてなにより、周りはそんなこと教えてくれなかった。

プラントという閉鎖的な空間で育った、彼女ら若年層からすれば、自分達が紛れもない正義であることを疑う余地などなかったのである。

だが、今目の前で”フェンリル”を殴りつける”ジン”、そのパイロットの言葉に虚飾は無いように考えた。

されど、”フェンリル”胴体に折りたたまれていたショベルアームを用いて、反撃する。そうしなければ、自分がやられるからだ。

 

「『血のバレンタイン』で、24万人死んだ!連合があんなことをするから、核なんて使うから!」

 

<ならば、それを俺の娘に言ってみろ!反コーディネイター感情が高まった民衆に袋だたきにされて死んでいった、俺の娘に!>

 

「それ、は……!」

 

殴打の間に、”フェンリル”の一撃が”ジン”が持っていたマシンガンの弾倉に当たり、マシンガン本体から外れる。だが、そんなことは問題ではなかった。

今、この男はなんと言った?『反コーディネイター感情が高まった民衆に殺された』?

それでは、まるで。

 

<貴様らが、まるでコーディネイターを代表したみたいに声明を出したせいで、多くの同胞が死んでいった!俺達、地球に住む全ての、4億にも及んでいたコーディネイター達に、言ってみろぉ!>

 

一発しか残っていないマシンガンを、復讐鬼は“フェンリル”のモノアイ部に突きつける。

 

<俺の家族を、返せぇ!>

 

「……!」

 

引き金が、引かれた。

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ……」

 

レグナは、敵が沈黙したのを確認してから、マシンガンに予備弾倉をセットする。

まだ、敵は残っている。この敵を運んできたシャトルが、近くに存在するはずなのだ。敵は、倒さねば。

やはり、ZAFTは許せない。聞いた限りでは、自分の娘とそう変わらない年頃の女子の声だった。二人乗っていた、と思う。

殺した自分がいうのは偽善かもしれないが、若い女子供を兵器に乗せて平然としているのが奴ら、ZAFTなのだ。到底、許せるものではない。

 

「早く、戦争を終わらせて、そしたら……」

 

墓参りに行こう。あの子の好きだった、赤いバラを手土産に。

そう考えたところで、何かに後ろから押されるような感触を覚えた。痛みは無かった。

だが、何どうしたことだろう?あの子の姿が見える。ボロボロにされる前の、笑顔が可愛いあの子が。

ああ、やめてくれ。そんな顔をしないでくれ。そんな、悲しい顔をしないでくれ。

これからは、お父さんが一緒だ。ずっと、守ってやるからな。

 

 

 

 

 

「……」

 

「…命中。動体反応、本機を除いて全て消失、だよ」

 

レグナの放った弾丸は、しかしコクピットに被害が及ぶほどのものではなかった。

『メインカメラへのダメージを防ぐための試作装置』として、メインカメラに取り付けられていたセーフティシャッター。貫通こそしてしまったが、それの作動が間に合ったおかげで、メインカメラの破壊は免れなかったものの、パイロットが負傷するようなダメージにはならなかったのだ。そのまま敵機が離れるのを待って、攻撃した。完全に、倒したと思っていたのだろう。

振り返ってみれば、”フェンリル”は中破したものの、死傷者無し、敵MS6機撃破と、大金星と言えるだろう。だが、スミレはうつむいたまま動かない。

 

「す、スミレ……」

 

「なにが、なにが正義の戦い…何が、ナチュラルから自由を勝ち取る…よ」

 

彼女は震えながら、なおも言い連ねていく。

 

「私よりずっと知ってるくせに、そういうことを考えられる頭があるくせに。挙げ句の果てに、敵のやったことは大きく取り上げて、自分達のやったことにはすまし顔?…ふざけんなっ!!!」

 

「……」

 

メリーは、聞いていることしかできない。あのパイロットの声を聞いて、自分も同じようなことを考えていたから。

自分達は、無自覚な内に殺戮者となっていた。それを突きつけられた少女に何か言える余裕など、なかったのだ。

 

「私達は、平和に過ごしたかっただけ…そう言ったら、相手の平和は脅かしても良いわけ!?地球のコーディネイターは見捨てて良いわけ!?違うでしょうが、ぐうっ…えぐっ…」

 

しばらく、少女の泣き声が機内に響く。

スミレは、なんだか無性に外に出たくなった。スイッチを押して、コクピットを開放する。

そこに飛び込んできた光景は、夕日。真っ赤な、夕日。

それはあまりにも壮大で、自分達がちっぽけに感じられる景色で。自分達が、途方も無く大きな存在を敵に回していることも、実感してしまって。その赤が、自分と同じコーディネイターの血で染まっているような。

 

「うぅ、あぁ……うあ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”っ!!!!!」

 

少女の慟哭は、夕焼けの中に溶けていった。

まるで、遠吠えのように。

 

 

 

 

 

 

 

兵器試験レポート 「モビルタンク『フェンリル』」

 

戦車とMSの長所を併せ持つ新兵器として開発された本機は、予期せぬ実戦において高い性能を示した。”ジン”4機と”バクゥ”2機、連合軍のMSとの戦いではなかったが、これらを本機単独で撃破せしめたことは、本機の高い基本性能の証明と、『モビルタンク』という兵器ジャンルへの信用を高める事に成功したものであると思われる。

しかし、高い性能を持つ本機ではあったが、様々な機構を試験的に導入したことを原因とした整備性の悪化、コストの増大、そして、本戦闘自体が『MSとの連携を本分とする』機体コンセプトから外れていたものでもあり、後日試験を再開。そこで得られたデータを元に、変形機構を初めとするいくつかの機能を取り除いた安価モデルが設計された。

通称”正式量産型フェンリル”と名付けられた安価モデルは、その後MSと合わせて生産を開始。

後方からMSを支援、あるいは敵拠点攻略への砲撃支援、珍しい例では、牽引していたコンテナにMSの予備弾薬や高性能レーダーなどを積載して前線拠点代わりなど、ZAFT地上軍全体の戦術の幅を広げることに成功している。

 

なお、最初に開発された機体は”プロト・フェンリル”として。

遭遇戦後に機体と人員の救助に現れたバルトフェルド隊にそのまま編入。緑色の機体色と、まるで狼の遠吠えにも聞こえる砲撃音。そして、何かを振り切ったような迷いのない戦いぶりから、「深緑の巨狼」と呼ばれ、連合内でも恐れられる存在になったことを、ここに追記する。

バーダー設計局局長並びに”フェンリル”開発責任者 アードルフ・バーダー




はい、ということで番外編が無事に終わりました。

量産型フェンリルは、
・変形機構の廃止(ほとんど戦車化)
・履帯の単純構造化
・セーフティシャッター廃止(近接戦を考慮しなくなったため)
などを行っています。これによって、コストはジンの3割増しくらいに抑えることに成功したとかなんとか。
ぶっちゃけると、前にバーダー設計局が設計してお蔵入りになった”ザウート2”の設計とか、”ザウート”のパーツの一部流用などをしているおかげもありますが。それでも、戦車形態の能力が目に見えて低下したなんてことは起きていません。

スミレさんはあの後、「戦いに参加してしまった、引き金を引いてしまった。ならば、もう戦うしかない。それで戦争が終わるなら」と、なんとか立ち直りました。
それでも、自分達の上司が何億もの人々を殺してしまったこと、同じコーディネイターと殺し合っているかもしれないこと、様々な苦悩が彼女を苛み続けるわけです。
果たして、遠吠えの後に幕を下ろしたデメジエール少佐と、これからも戦い続けなければならないことを嘆いて遠吠えたスミレ。
どちらが、幸せなんですかね……?

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