パトリックの野望 外伝・設定倉庫   作:UMA大佐

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番外編5「海神見参」前編

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”タラワ”級強襲揚陸艦 "フランシス”。

その船は、南東に向かっていた。

大西洋連邦領バージニア州「ノーフォーク海軍基地」から出港したこの艦は、『MS運用能力を有する強襲揚陸艦』として、血のバレンタイン以前から存在していた艦を改修することで誕生した、その第一号である。

MS運用能力といっても、艦の内部にMSを格納しておける程度の設備しか無いが、貴重な水上戦力である。その艦が、駆逐艦2隻と共に南東方向へと出港していた。

しかし、事情を知らぬ者からすればこれは不可解な航海である。その疑念は、現在の地球、特に大西洋の制海権をZAFTが支配していることに起因する。

連合軍では未だに有力な水中戦力が存在しておらず、シーレーンは水中戦型MS”グーン”にズタズタにされるのを、指を咥えて見ているしか出来なかった。一応、随行している駆逐艦には対潜装備が備えられているのがわかるが、そんなもので"グーン"に対抗できるのなら、連合海軍の誰も苦労などするワケがない。

そして大西洋を横断するという航路を取る以上、制海権を保持しているZAFTが気付かないワケがない。

ジブラルタル基地所属の潜水部隊が、この小艦隊を撃破するために動きだした。

だが、彼らはまだ気付いていない。いつも通り楽勝だったはずの艦隊撃破が、この日をもって難題となってしまったことに。

もはやZAFTに、陸も、空も、そして海も。

楽な戦場など無くなってしまったことに、誰も気付けなかった。

 

 

 

 

 

南大西洋 ”フランシス”

 

「やはり、赤道近くに近づくいてくると暖かくなるものだな。今日ほど研究員用白衣の通気性の良さに感謝した事は無い」

 

地球連合軍第5兵器開発室の室長、カラスマは外部デッキに立ってそう呟いていた。

彼だけではなく、第5開発室の研究員達の姿もそこには見られる。しかし、カラスマとは違ってその姿は死屍累々の一歩手前といった様相だが。皆、持ってきた折りたたみ椅子を斜めにして、そこに寝そべっている。

 

「室長は、よくそんなに動き回れますよね……。こちとらどったんばったん大忙し、なんとか実機が完成した”ポセイドン”の実戦テストの準備で疲れ切っているってのに」

 

「急遽行われることになった”ポセイドン”実戦テストの準備で、俺の体はボロボロだ……」

 

部下のアムとサクヤからの苦言を意にも介せず、カラスマは意気揚々と話し始める。

 

「我々が体に鞭打って”ポセイドン”の調整を進めてきたのは何故だ?ZAFTから制海権を奪回する、そのためだ。制海権を奪回できれば、ZAFTがこの地球で好きに出来る事など何もない。空は”スカイグラスパー”が、陸はMSと”リニアガン・タンク”が。そして海を”ポセイドン”が駆け回るのだ。この地球は我々の庭だということを、ZAFT共に知らしめてやる!」

 

「といっても、”ポセイドン”を開発したのは”マウス隊”の技術者ですけどね……。人の成果を横取りしたようで、あまり良い気分ではありませんよ」

 

「我々もそれなりに手を加えたから、共同開発だよ。わざわざ形式にとらわれることもあるまい」

 

「それはそうですが……」

 

サクヤが言い澱む。

元はと言えば”ポセイドン”は、自分の友人が隊長を務める部隊で設計されたものだ。かつて”ベアーテスター”で犯した失敗を鑑みて、最初から高い機動性を発揮できるように設計してあるのだという。先日、この機体の同系列機が『カオシュン攻防戦』で高い戦果を生み出したとも聞いた。”ポセイドン”を建造・調整したサクヤからすれば、この機体を以てしても”グーン”に勝利出来ないのであれば、もはや諦める他ないとすら思わせるほどの性能がある。

だからこそ、自分達の手柄となってしまうのが気に入らないのだろう。

 

「なら、こう考えろ。我々が”ポセイドン”の成功によって連合内でに地位を向上出来れば、”マウス隊”に便宜を図ってやりやすくなる。将来的には彼らの利益となるんだ」

 

「……そうですね。それに、あいつらが地上で満足に動けない分、俺達ががんばってやらないといけませんし」

 

「そういうことだ。それより、そろそろ中に引っ込むぞ」

 

「……やっぱり、来ますかね?」

 

アムが不安そうに問いかける。

この後『予定されている』テストに備えて、少しでも疲れを取るためにこうしてくつろいでいるが、今は完全に連合の勢力圏外、つまり敵陣だ。いつ襲撃されてもおかしくないのだが、それでもアムにとっては初の実戦である。未だに実感が湧いていないのだろう。

 

「来る。確実にな。空は”スカイグラスパー”に押さえ込まれ、陸でも先のカオシュンでの1戦で痛い目を見ている。そんな中で、のろまな海上艦隊を見つけてみろ。戦果を求めてやってくるだろうよ」

 

「大丈夫なんですよね?”ポセイドン”があれば、勝てますよね?」

 

「……実戦テストというものに、絶対はない。だが、”ポセイドン”の持つ力は、我々がよく知っているはずだ。あとは、信じるしかない」

 

「はい……」

 

結局、そういうことなのだ。どれだけ頑張っても、最後の最後に大きな失敗をすることもある。また、努力が通用しないことだってある。

未だに人類が津波に完全に対処出来ていないように、どれだけ安全面に注力しても自動車事故がなくならないように。

だから、今は信じるしかないのだ。

自分達が作り上げた『海神』を。

 

 

 

 

 

南大西洋 ”ボズゴロフ”級潜水空母 ”アゥエルシュテット”艦橋

 

「不服そうだな、ヴィンセント?」

 

「艦長……いえ、そんなことは」

 

「まあいい、お前の言いたいことはわかっている」

 

ZAFTの誇る”ボズゴロフ”級潜水空母の艦長を務めるトライヴ・ジシルートは、副艦長であるヴィンセント・ダラムにそう告げる。

彼らは今、大西洋上を航行する敵艦隊を発見し、これを撃破するために移動している最中だった。元々別の任務を(おこな)っていた彼らだったが、敵部隊の規模がそれほど大きくないこともあって、これを撃破することを決めたのだった。

 

「たしかに、『あれ』の試験は重要だ。ZAFTの将来を担うのだからな。だが、私はあの艦隊を見逃してはいけないと思っている。それこそ、『あれ』を危険に晒すことになろうとも」

 

「それほどの物が、あの艦隊の中に存在すると?」

 

「ああ。……二月前の一件を、覚えているか?」

 

二月前と言われ、トライヴは思い出す。たしか、連合の戦車もどきと戦った時ではなかったか?

 

「あの、戦車もどきのことですか?」

 

「そうだ。あの時は、敵が海上の戦力とも上手く連携することによって、結果として”グーン”を2機も失うことになってしまった。それでも、最初の出だしは良かったはずなんだ。のろまな敵機を、早々に2機も撃破してみせたのだから。それはつまり、連合の水中MS技術がたいしたものではないということの証明だ」

 

「でしたら、何故?」

 

トライヴは、言い淀んだ。

彼は基本、敵を客観的に見ることを心がける軍人である。だが、ZAFTにおいてそういう人物は少数派だ。

敵を高く評価するような発言をしてしまえば、若年層からの信用が減る可能性もある。そうなれば、命令に背いて独断行動するような者が現れる可能性もある。

馬鹿馬鹿しくなるかもしれないが、ZAFTとはそういう組織なのだ。能力や実績があれば、多少の勝手が許される。

 

「艦長?」

 

「……もし私が連合軍の艦長だったなら、絶対にあの戦車もどきをそのままにはしておかない、必ず改善する。そしてあれから2ヶ月が経つ。連合のMS技術の発展速度は異常だ、そろそろ何かを生み出してきていてもおかしくないと思うほどにな」

 

「つまり、あの艦隊には」

 

「おかしいと思わないか?連中も、”グーン”の力は知っている筈だ。にも関わらず、あのような小規模艦隊で堂々と大西洋を横切ろうとしている。たとえそれが罠だとしても、行って確かめねばならん。こと今更になって、連合をバカにする者もいるまい?」

 

知れるモノは知る。確かめられるモノは確かめる。

そして、潰せるモノは潰しておくに限る。

トライヴがそこまで言ったところで、オペレーターが敵艦隊の接近を告げる。この段階に至っては、既にあちらでも気付いている頃合いだろう。

 

「よし、”グーン”隊を出せ。我々はこれより、敵艦隊の撃破を目的として行動を開始する!各員、十分に注意して行動せよ!」

 

 

 

 

 

「ちっ、今回はたった3隻か」

 

”グーン”に乗って”アゥエルシュテット”から出撃した若いパイロットは、不満を漏らす。

年若いと言っても、彼はこの地球で制海権争いが始まった時期から”ジン・ワスプ”や”グーン”を駆って、連合軍ののろまな艦隊を狩り続けてきたベテランパイロットだ。

彼はジブラルタル基地を出港してからここに至るまで、不満を抱え続けていた。それは、トライヴ達が何度も話に挙げていた『あれ』のパイロットに、自分が選ばれなかったことも多いに関係している。

───なぜ自分ではなく、あのような民間人がパイロットなのだ。今までこの海でナチュラルを屠り続けてきたのは、自分なのだ。優れた能力を実際に示し続けてきた自分が乗るべきなのだ。

試作機のパイロットには優れた操縦能力だけでなく、観察眼と丁寧な記録能力が求められる。それは『試作機』という存在が、後々自軍の多くのパイロット達の未来を左右するからである。

このパイロットはたしかに腕は立つが、それ以外の要素ははっきり言って基準を満たしていない。もっとも、調子に乗るほどの能力はあるのだが……。

 

「まあいい、今回もナチュラル共を蹂躙してお終いだ。しかも海上艦隊なら、逃げ出したやつらの脱出艇を沈めるおまけもあることだし、それで我慢してやる」

 

彼の頭の中では、既に自分達が勝利し、敗残兵を蹂躙しているビジョンが思い描かれていた。

自分も含めて、4機も”グーン”がいるのだ。負けろという方が難しい。

そんなことを考えていると、連合の艦隊、その船底が見えてくる。もうすぐだ、もうすぐその脆い下っ腹に魚雷をたたき込んでやる。

舌なめずりをしながらロックオンしようとすると、敵艦隊から何かが潜水してくるのが見える。

それは、『人型』をしていた。以前に”アゥエルシュテット”が遭遇したという戦車もどきどころか、”グーン”よりも更にマッシブな体型を保っていた。

 

「なにっ!?」

 

その機体は、右手に持っている武器を”グーン”隊に向けている。

嫌な予感を得た若いパイロットは、慌てて回避行動を取らせた。僚機も同様に回避行動を取るが、部隊の中でもっとも若く、実戦経験の浅い者の”グーン”はそれから遅れてしまう。

高速で発射された魚雷が、取り残された”グーン”に命中する。

 

「スーパーキャビテーティング魚雷……!いや、それよりあれは!?」

 

なんとか回避に成功した僚機と共に、現れた敵を観察する。

その機体の四肢には水色のパーツが取り付けられており、右手には魚雷を発射しただろう銃が握られている。両肩の後部には、直立していた場合に腕と垂直になるように何かの装置が取り付けられている。おそらく、水中用の推進システムか何かだろう。加えて言うなら、更にその脇には棒状の何かが2本、取り付けられている。

全水の抵抗を受けないように、全体の装甲が丸めの形状だが、その頭部には緑色のツインアイが輝いていた。

間違いなくこいつは、連合の作り出した水中用MSだ。

 

「MSを真似て作った、ナチュラルの人形ごとき!お前ら、このまま包囲してすり潰すぞ!」

 

この時点で彼の頭が冷静でさえあれば。1人は敵母艦の撃破に向かわせて、孤立無援の状況に追い込むという戦法を採ることも出来たかもしれない。

だが、『旧人類』であるナチュラルのMS相手に圧勝できない、そんな()()を認められるほど彼の精神は熟していなかった。今までだってそうだったのだ、これからも……。

驕り高ぶった若きMSパイロット───マーレ・ストロードの、屈辱的人生の始まりの瞬間である。

 

 

 

 

 

「”グーン”を1機撃破。残りもこのままいくよ!」

 

潜水して早々に”グーン”を落としてみせた”ポセイドン”、そのコクピットで、ジェーン・ヒューストンが気勢を挙げる。彼女はかつて”ベアーテスター”を駆って”グーン”2機を撃破した凄腕のパイロットであり、そのことを評価されて”ポセイドン”のテストパイロットに選抜されたのだった。

もっとも、彼女にとって”ベアーテスター”での戦いには嫌な思い出しか残っていない。

のろまな機体、想定よりも威力の低い武装……。あの戦いの時は海上で待機していた駆逐艦との連携や対潜装備を施していた”スカイグラスパー”隊との連携によってくぐり抜けたが、もう二度とあの機体には乗りたくないと思ったものだ。

”ポセイドン”のテストパイロットだって、正直言ってあまり乗り気ではなかった。元は”ベアーテスター”を製造した部隊で設計した機体だと聞いてからは、なおさらだった。

しかしテストを重ねていく度に、『”ポセイドン”は”ベアーテスター”とは比べものにならない』という実感を得てきた。火力、装甲、そして機動性……。どれをとっても上等。

小規模艦隊にまんまとおびき寄せられた敵部隊は、”グーン”4機。今までだったら絶望的な戦力差だったが、ジェーンはこの状況を少しも不安に思っていない。

───『海神』の力を、見せてやる!

 

「まさか、”グーン”相手にこのセリフを使えるとは思ってなかったわ!この、ウスノロ!」

 

包囲して殲滅しようとしているのだろうが、3機でのそれは、この機体を相手にするには不十分と言わざるを得なかった。

”ポセイドン”の四肢に取り付けられた『スケイルシステム』は、表面に無数の鱗のような機器が取り付けられており、それらが振動することによって推力を生み出している。この技術は、従来のZAFTの水中MSとは全く異なる設計思想によって生み出されている。

それを用いれば、『このような機動』をすることも可能であった。

 

「動きが単調だよ!そこっ!」

 

<なっ、この動きは……!>

 

ジェーンにターゲットされた”グーン”のパイロットは、そこから先の言葉を紡げなかった。特異な機動をした”ポセイドン”の放った魚雷から逃れられず、その命を大海に散らすことになったからだ。

”ポセイドン”は、『真横にスライド移動』した。だがそれは、これまでの水中戦において全く見られたことの無い光景であり、それを目にした者に例外なく驚愕をもたらした。

この機動はスケイルシステムの振動動作を横に作用させることで行われる。そして、この動きを出来るMSは、現状”ポセイドン”だけである。最大速度では”グーン”もそれなりの数値を誇るが、この機体には小回りが効かないという弱点があった。

 

<なんで、あんな形状で水圧で潰れないんだ……!>

 

このZAFT兵の声は、ジェーンには当然届いていない。しかし、不可解だった。

───四肢はともかく、胴体にはコクピットを備えている以上、機体内部には空間が存在している。ならば、あのようなスリムな体型では水圧に潰されてしまうはずなのだ。

この疑問に対する解答は、実にシンプルだ。何ということはない、『多少は薄くても水圧に耐えうる硬度の装甲を使っている』、ただそれだけなのだ。

”ポセイドン”の四肢や頭部の装甲は、”テスター”タイプにも採用されているチタン・セラミック複合材だ。しかし、胴体部にだけは原型となった”デュエル”と同じくPS装甲材を使用している。

電圧を掛けることによって実弾兵器のほとんどを無効化してしまうPS装甲だが、その強度は無事”ポセイドン”にも活かされていた。具体的に言うと、コクピットという空間を水圧から守ることに成功していた。

さらに、水中では主兵装が両軍共に魚雷ということもあって、”ポセイドン”の防御力を高めることにも成功している。

 

「次だよ!」

 

ジェーンは魚雷を次々と撃ち放っていくが、“ポセイドンに対する警戒レベルが跳ね上がったのか、回避機動に徹し始めた”グーン”には当たらなくなってしまう。

そうこうしている内に、引き金を引いても魚雷が発射されなくなってしまう。───弾切れだ。

 

「弾切れ……装弾数は十分だと思っていたけれど、実戦投入するなら予備弾倉を開発してもらう必要がありそうね」

 

だが、ジェーンに動揺は見られない。

魚雷の弾が切れた?それがどうした。この”ポセイドン”が、魚雷を撃ち尽くしただけで戦闘継続不能になるとでも?

”ポセイドン”が弾切れを起こしたことを知ってか知らずか、”グーン”の内の1機が”ポセイドン”に向かってくる。”グーン”にはフォノンメーザー砲という兵器が搭載されており、これはこの場で必要な情報だけを述べると『水中でも使用できるビーム兵器に近似した兵器』だ。それを使って確実に撃破しようという魂胆なのだろう。

 

「簡単に近づいてくるアホがいるか!」

 

先ほどまで魚雷を発射していたハンドトーピードランチャーの銃身下部には、一発限りの奥の手が搭載されている。ジェーンはそれを使用した。

 

<な、なんだ!?>

 

そこから飛び出したのは、MS1機を余裕で包んでしまえるサイズの網。

この装備は『MS捕縛用網投射装置』であり、基礎設計を担当した”マウス隊”が『どうしても試したい』と言って開発された追加装備である。

勘の良い者なら気付くだろうが、この装備は”ポセイドン”のモチーフとなったゲッ○ーポセイドンに装備されている、フィンガーネットという武器を再現したものだ。現時点での技術力では原典のように手の中に内蔵させることは難しかったため、このように手持ち武器に付随させる形で一応の完成を見たのだった。

だが、機体腕部への内蔵に失敗した分、その性能は折り紙付きである。

 

「スイぃぃぃぃぃぃぃぃぃン、グっっっ!」

 

<うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?>

 

”グーン”を捕まえた”ポセイドン”は、”グーン”の勢いを利用して、自分を軸に回転を始めた。

そして、十分に勢いが付いたことを確認したジェーンは、その勢いのままにトーピードランチャーから網を切り放す。網に掴まった”グーン”は、そのままあらぬ方向へ飛んでいってしまった。

”グーン”に絡みついた網には小型の爆薬が内蔵されており、切り離されて一定時間が経つと自動的に爆発し、獲物を爆殺する仕組みになっている。

 

「そのまま海の藻屑になれ!ラスト!」

 

最後に残った”グーン”にはもはや戦意と呼べるような物はなく、こちらに背中を向けて逃走体勢を見せる。

 

「逃がすか、”ポセイドン”を見たやつを生かして……!」

 

”ポセイドン”の肩後部に取り付けられている細長い装備、ハイドロブースターが起動し、”グーン”に向かって進み始める。

ハイドロブースターを機動した”ポセイドン”は、ジリジリと”グーン”との距離を詰め始める。

”グーン”の方が水中での活動に適した形状である以上、その光景が生まれた理由はただ一つ。純粋に”ポセイドン”のハイドロブースターの性能がいいということだ。

 

「最高、最高よ”ポセイドン”!あんたとなら、あの『紅海の鯱』だって一ひねりよ!」

 

彼女、ジェーン・ヒューストンはかつて、マルコ・モラシム率いる水中MS部隊との戦闘で敗北している。彼女が水中MSの開発・テストパイロットに積極的に携わろうとする(”ベアーテスター”だけは貧乏くじだと思っている)のは、そのモラシム相手にリベンジを果たしてやりたい一念あっての物だ。

故に、彼女は容赦しない。この機体を完成させるために、いつかあの時の復讐を果たすために。

”ポセイドン”は手に持ったハンドトーピードランチャーを後腰部に取り付けると、ハイドロブースターの脇に取り付けられた2本の棒を手に取り、連結させる。すると、2本の棒は先端が三つ叉の、銛のような形になった。

『水中戦での近接武装には、何が最適か?』という論争の勝者は、こういう形に落ち着いたということだ。そこにたどり着くまでに多数の議論が為されたのだが、一番の理由は『コストパフォーマンスが良好だったから』、というものである。

水中型チェーンソーは、実は旧世紀には既に開発されている。その理論を応用して実際に造ってみた試作品は、たしかに威力は高かった。しかし、『チェーンが外れやすい』『3つのプランの内、もっともコストが高い』『取り回しが悪い』などの理由で、実戦採用は見送られた。

アーマーシュナイダーはその点、取り回しやコストパフォーマンスは良好であった。しかし、今度は『剛性が低い』という難点が浮かび上がってきた。1体1という条件であるならともかく、複数を相手にした時に連続での使用に耐えうるか?という問題が浮上してきたのだった。万が一の備えとしては十分な装備なのだが、それでもたった1機の試作機に装備させるには不安が残った。

よって、『高価な精密機器を多用しない』『ある程度の剛性を保てる』といった理由で、現段階では銛、『MS用試作近接武器 トライデント』が採用されることになったのだった。

 

<来るな、来るなぁぁぁぁぁぁぁぁ!>

 

「これで!」

 

”グーン”に追いついた”ポセイドン”は、手に持ったトライデントを突き出す。

想定通りの性能を示したトライデントは”グーン”を貫き、その動きを止めた。ジェーンはトライデントを引き抜かせ、動かなくなった”グーン”を下方向に向かって蹴りつける。

ゆっくりと沈んでいった”グーン”は、やがて気泡をまき散らしながら爆発した。

”ポセイドン”のツインアイが、煌めく。まるでそれは、『海神』の怒りに触れた者に罰を下した後のような光景だった。

 

 

 

 

 

「くそ、くそぉ……!こんな、バカなことがあるか!」

 

網に絡まったまま遠くに飛ばされたマーレ・ストロードは、なんとか網を振りほどいて脱出することに成功していた。しかし、網の爆発に少し機体が巻き込まれてしまい、もう戦闘を継続出来るほどの余裕は無くなっていた。

しかし、彼はそれでも戦場へ向かおうとする。それは味方を救おうとかいうものではなく、ナチュラルの造った人形にいいようにしてやられたという屈辱からくる、怒りに起因するものだった。

 

<帰投しろ、ストロード>

 

その彼に声を掛けたのは、”アゥエルシュテット”のトライヴだった。

いつの間に、母艦へと近づいてしまっていたのか。だが、マーレは言い返す。

 

「くっ、艦長!あいつは危険だ!”グーン”複数を相手に……」

 

マーレはなんとか理由をつけて、戦場へ向かおうとする。

とにかく、あのMSが気に入らなかった。冷たい海の底に沈めてやらなければ気が済まなかった。

 

<こちらがモニターする限りでは、既に機体ダメージは限界だ。戻れ。それに、『あれ』が出撃した>

 

「『あれ』……まさか!?」

 

<『実戦テストの相手にはちょうどいい、試作機は持ち帰る』といってな。控えめな人間だと思っていたが、存外、熱くなるところもあったのだな。それとも『あれ』でなければ対処できない、と考えたのか……。ともかく、君は一度戻りたまえ>

 

それを聞いて、マーレはさらに苛立つ。

 

「くそ、ふざけるな……!テストパイロットなどに、テストパイロットなどにぃ……!」

 

そうは思うが、今のこの機体では犬死にとなってしまうだろうことを理解するだけの時間は得られたようで、素直に帰投していく。

 

「この借りは、必ず返すぞ……!」

 

 

 

 

 

「接近する機体?これは……”グーン”、いや、もっと大きい!」

 

『ついに連合も水中用MSを開発したのか……。だが、まだ実験段階と見た』

 

「装備は心許ない……でも、やらなければ私も、母艦も沈められる!」

 

『今落としておけば、まだZAFTの水中での優位を保てる。この”プロト・ゾノ”のテストにも付き合ってもらうぞ、新型……!』

 

本来であれば、この両者の間に戦いは無かった。それが実現したのは、『この世界だったから』なのだろうか?

2人のパイロットは、どちらも激戦を予感していた。

ジェーン・ヒューストン VS コートニー・ヒエロニムス、開戦。




というわけで、後書きタイム!
機体解説と、各種ステータスの公開だけですけどね。

ポセイドンガンダム
移動:8
索敵:B
限界:170%
耐久:230
運動:28
PS装甲

武装
魚雷:130 命中 70
ストロングミサイル:250 命中 45
トライデント:120 命中 80
アーマーシュナイダー:75 命中 60

デュエルガンダムをベースに開発された連合軍の水中戦型MS。コクピットを水圧から守ると同時に、防御力を高めるために胴体にのみPS装甲を採用している。
武装はオーソドックスなハンドトーピードランチャーと、ハイドロブースターに内蔵された対艦魚雷『ストロングミサイル』、そしてトライデントを基本兵装としている。アーマーシュナイダーは選択式。
”グーン”複数機を圧倒し、”グーン”と互角以上に戦える性能を示したことで、連合で少数生産された。後にフォビドゥンガンダム系列機が登場するまでの連合海軍を支え続けた名機であり、後の水中戦型MSに大きな影響を及ぼしている。
また、胴体にのみPS装甲を採用するというアイデアは後の「TP装甲」のアイデアを生み出すなど、この世界の連合軍MS開発史を語る上で外せない存在となっている。

プロト・ゾノ
移動:7
索敵:B
限界:175%
耐久:250
運動:20

武装
フォノンメーザー砲:160 命中 60
魚雷:100 命中 60
クロー:100 命中 75

ゾノの試作機。制式機よりも耐久力が高い(制式機はまたいつか)が、これは『試作機を確実に持ち帰る』ため。テストパイロットには、正史でカオスガンダムのテストパイロットを努めたコートニー・ヒエロニムスが抜擢された。
本来はカオシュン宇宙港陥落と同時に発表されたゾノだったが、この世界では連合軍がMSを投入してきたことでカオシュン攻略に失敗したため、今一度性能の見直しを受ける必要があるとして、プラント内で試作された本機が実戦でテストされることになった。
“グーン”とは違って地上での活動も視野に入れた水陸両用型MSであり、実は地上での戦闘力もある程度のものがある。特に、そのクローアームから繰り出される攻撃は強烈。

グーン
移動:7
索敵:C
限界:140%
耐久:100
運動:15

武装
魚雷:60 命中 60
フォノンメーザー砲:80 命中 45



ジェーン・ヒューストン(Cランク)
指揮 5 魅力 8
射撃 9 格闘 10
耐久 8 反応 9

得意分野 ・魅力

コートニー・ヒエロニムス(Dランク)
指揮 6 魅力 7
射撃 10 格闘 9
耐久 6 反応 8
空間認識能力

得意分野 ・反応

マーレ・ストロード(Cランク)
指揮 3 魅力 4
射撃 10 格闘 10
耐久 5 反応 5

得意分野 ・射撃 ・格闘

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